ロミと妖精たちの物語144 Ⅳ-30 聖なる山の頂きに④ | 「ロミと妖精たちの物語」

「ロミと妖精たちの物語」

17才の誕生日の朝、事故で瀕死の重傷を負いサイボーグとなってし
まったロミ、妖精と共にさ迷える魂を救済し活動した40年の時を経て
聖少女ロミは人間としてよみがえり、砂漠の海からアンドロメダ銀河
まで、ロミと妖精たちは時空をも超えてゆく。

 

 

トーマスの母マーガレットと、元ロンドン塔ヨーマンズキャプテンのオーツ大佐、そしてフィニアンの娘カレンとアンの二人の妖精、イギリスとアイルランドの4人の優しき勇者、そして愛の精霊が引率してアタッカーは出発した。

 

TSウイルスの病魔に罹患したために取り替えっ子をされて、それから60年もの長い間、氷のピラミッドで冬眠或いは仮死状態を余儀なくされていたアイルランドの妖精一族の子供たちを乗せた超音速ジェット機が出発すると、見送っていた愛の妖精ファンションは、涙を流してロミの胸に額を埋めた。

 

 

「泣かないでファンション、あなたもハンプトンコートのお城は知っているでしょ、あのお城の中にイギリスのメアリー王女が再興てくれた学校があるの、そこであの子たちは開かれた新しい教育を受けながら育っていくのよ」

 

「だから安心して、あなたには新しい世界が待っているし」

ロミは小さなファンションの身体を優しく包み、愛のエンパシーを与えた。

 

しばらくロミの胸で泣いていたファンションは、笑顔を取り戻してロミを見上げた。

「ありがとうロミ、そうよね、私が取り替えっ子してしまった宇宙人ザ・ワンの子供たちは、もうスライゴーの妖精村で後継者として成人しているでしょうから」

 

「今さらあの子たちを妖精村に返してしまったら、きっと大変な騒ぎになってしまうもの、私のしたこと神様もお許しくださるわね」

 

ロミはもう一度、ファンションの愛らしい顔を見ると、その額にキスをして、優しく包んだ。

「ファンション、私たちと一緒に、ニューヨークへ来てくれる?」

「ええ、お願いします」 

アイルランドの愛の妖精ファンションは愛らしい表情を取り戻し、ロミの手を取りフィニアンの手に抱かれ、マリアとフレッドと一緒に、子供たちを乗せたアタッカーの消えた空を見上げた。

 

 

 

 

かつてアイルランドの森で、気まぐれシーオークの妖精として、自由気ままに愛され生きてきたファンションは、この60年間にわたる南極大陸での労苦もこれで終わるのではなく、むしろ不幸に見舞われた可哀そうな人々の魂との交流で、今こそ自分も本当の愛を見つけることが出来るのかもしれないと、誰に言葉を掛けるでもなく天空に広がる光の帯、精霊たちに愛されるオーロラの広がる空を見上げた。

 

―ー私はほんとうに女王様の言うとおり、愛の妖精になれるのかしら。

 

そしていよいよニューヨークへ向かう準備が進められ、この氷の塔で生まれ育ったマリアが、すでに誰もいない、あれほど魂の慟哭が聞こえていた巨大な塔に、今は静かなたたずまいとなった氷の城の門に錠を下ろして、万里生が操縦するフェアリー・シップの座席に付いた。

 

「ロミ、外はマイナス42度、極寒のこの大陸なのに、なんだか春の気配が感じられますな」

なぜか、あの陽気なフィニアンも哀愁にくれたような声で言った。

 

ロミは、フィニアンの小さな身体を引き寄せ、少しだけだが禿げ上がりそうな彼の額にそっと口づけをして彼を驚かせ、マリアとファンションの間に座り、愛する二人の肩を抱き寄せた。

 

そして小型宇宙船を護ってくれている精霊たちにも聞こえるように、大きく声を上げた。

 

「さあ、ニューヨークでは何が待っているのかしら、万里生、フレッド、錨を上げてちょうだい」

 

 

次項Ⅳ-31へ続く