ロミと妖精たちの物語148 Ⅳ-34 聖なる山の頂きに⑧ | 「ロミと妖精たちの物語」

「ロミと妖精たちの物語」

17才の誕生日の朝、事故で瀕死の重傷を負いサイボーグとなってし
まったロミ、妖精と共にさ迷える魂を救済し活動した40年の時を経て
聖少女ロミは人間としてよみがえり、砂漠の海からアンドロメダ銀河
まで、ロミと妖精たちは時空をも超えてゆく。

 

 

およそ500年前のその日、コンキスタドール(侵略者)ピサロの死後、増々強大になっていったスペインの統治者の陰謀によって、インカの英雄ユパンキは、時の皇帝トゥパック・アマルと共にクスコの城で捕らえられ、暗黒の牢獄に閉じ込められてしまった。

 

そしてインカの人々は、キリストの神こそが太陽神であると唱えた大男、鋼鉄の鎧をまとったコンキスタドールのミイラが埋葬された墳丘の十字架の前にひれ伏した。

 

インカの最後の皇帝であるトゥパック・アマルは、庶民の前で無残な方法で処刑されてしまった。その惨い処刑を見たユパンキは憎悪に燃え上がり、処刑台の前で自らの心臓をえぐり取り、突然起こった日蝕の闇の中に降り立った太陽神に捧げた。

 

そして日蝕が明けた眩い丘の上で、圧政者と嘆き悲しむインカの人々の前から、彼は忽然と姿を消してしまった。

 

当時ヨーロッパから侵略者とともに持ち込まれた、チフスやジフテリア天然痘などの病原菌に冒されて、すでに弱体化していたインカ帝国は滅びゆく運命の大河に逆らうことも出来ず、スペインの圧政下にその文明も後退してゆき、弱き耕作民だけが生き残ったのであった。

 

英雄ユパンキは、ピサロの侵入からインカ帝国の滅亡までを語り終えるとフレッドに言った。

「このあいだの夏至の夜、わたしが眠っていたマチュピチュの太陽神殿にフレッド、あなたは神の使者と共に現れました、そしてわたしを現世に覚醒させると、あの神の使者はこう言った」

 

――やがてここにメシアが訪れるだろう、ユパンキ、お前は次の冬至の日までに、神の国へ行くことの出来なかったあの滅びゆく、最後の時代のインカの人々の魂を集めておくように。

 

ユパンキの話しに、フレッドは呆然として、ロミに顔を向けて言った。

「ロミ、たしかに去年の12月、わたしはトニー・マックスと共に、クスコにある宇宙線エンパシー発電所を立て直した後、あの聖なる山、マチュピチュへ行きました」

 

「それって、あのときなの?サイボーグから人間に戻れた私の、3か月遅れの誕生パーティーの日に、あなたとトニーは、マチュピチュから帰ってきたのだったわね」 (*第1部最終章)

 

 

 

 

ロミはあらためてユパンキに顔を向けると、目を閉じて心眼を開いた。

――ユパンキさん、あなたは亡霊なの?それとも悲しき魂たちを護ってくれるドラゴンなの。

 

「ロミ様、あなたの言葉の意味はよく理解できませんが、あの方は確かにそう仰ったのです」

ユパンキは、長く実体を現していることが難しいのだろうか、少しずつ影が揺らめき始めた。

ロミは思念の翼を広げ、ユパンキの身体を包んだ。

 

――それで、悲しき魂の人々は山にいるのかしら。

 

――いえ、まだクスコからマチュピチュへ流れ下る、ウルバンバ河の畔に彷徨っています。

 

――南半球の冬至まで、もう2ヶ月も無いわ、何かあなたに良い考えがあるの?

 

――眠りから覚めたわたしは、太陽神の神殿で祈りを捧げ、神の言葉を頂きました。

――それは、やがて神の船を操るものが現れる、北の都ニューヨークに行き、復活祭の巡礼で黄金色のトーガを纏い、黒い喪服で舞い歌い人々に神託を与える聖少女に、その願いを伝えよと。

 

ユパンキは、ロミ、マリア、ファンションの一人ひとりに頭(こうべ)を垂れて、祈りを捧げた。

――出来れば、神の船をこの場にお呼びいただき、わたしたちと共に祈り、その船の理を使いマチュピチュの岩の鍵を回し、封印の縛めを解いて神殿の扉を開けて頂きたいのです。

――そしてその結界に悲しき魂たちを冬至までに集め連れてくる、神の舟となってほしいのです。

 

 

ロミは黄金色の心眼を閉じ、琥珀色の目を開けると、背後の仲間たちに振り返った。

「フィニアン、フェアリーシップは今何処にいるのかしら」

 

「ロミ、どういう訳かもう此処に来ていますよ」

フィニアンは呆れたように、天に向かって指をさした。

 

見上げると、結界の遥か上空の高みに、フェアリーシップが小さく浮かんでいた。

ロミは再び思念の翼を広げ、遥か高みのフェアリーシップにエンパシーを送ると、操船していた万里生(まりお)から返事が届いた。

 

――ロミ姉さん、その人の言う神の船とは、ザ・ワンの小型宇宙線のことです、フェアリーシップはあの時代にも、神の使者として活躍していたのです。

 

――そうなのね、万里生、気づかれないようにこの結界に下りてこられる?

 

――大丈夫ですよロミ姉さん、全て準備は出来ている。

 

ロミは目を開き、思念の翼の中で消え入りそうな愛のドラゴン、ユパンキに思念を送った。

――ユパンキさん、あなたの思いは受け止めました。

 

ロミは下りてくるフェアリーシップを見守り、そして、遥か南の空に浮かぶ幻影を見据えた。

――さあユパンキさん、一緒に行きましょう、あの聖なる山の頂きへ。

 

 

次項Ⅳ-35へ続く