佐藤正午の「永遠の1/2」を読んだ! | とんとん・にっき

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やっぱり池上冬樹でした。僕が最初に佐藤正午の「小説の読み書き」を読んだ時に、以下のように書きました。


切り抜いておいた2007年2月18日の朝日新聞「読書」欄、「物語の森 どこに連れれれていく?」と題された池上冬樹の書評です。取り上げられているのは、佐藤正午の「5」という作品です。池上冬樹という作家のことは、どういう作品を書く作家なのか、僕はほとんどなにも知りません。名前だけは読書欄で何回か見たことがありますが。いや~、それにしても「同業者」に対してここまで言うのかと、驚きました。なにが驚いたかというと、以下、絶賛している「書評」の出だしの一文を掲げます。


小説を読みながら何度もため息をついた。ゆったりとした語りなのに、文章は張りつめていて、軽い昴奮を覚えてしまうからだ。佐藤正午が抜群の語り部であり、賞に恵まれないものの文壇で五指に入る「小説巧者」であると僕は断定するけれど、それでもあらためて新作に出会うと、五指ではなくベスト3、いやそれ以上ではないかと思ったりする。


さて、時は9年半後、同じ池上冬樹の文章です。


朝日新聞2016年10月30日の読書欄、「池上冬樹が薦める文庫この新刊!」というコーナーがあり、直接的には僕はこれを読んですぐに「永遠の1/2」を購入しました。もちろんこの本は佐藤正午のデビュー作で、ブックオフでも行って単行本を購入し、そのうち読もうとは思っていました。


「池上冬樹が薦める文庫この新刊!」は、以下のようにあります。

類まれな小説巧者の1983年のデビュー作。「失業したとたんにツキがまわってきた」という名書き出しから始まる青春小説の古典だ。後のほれぼれするほどの名作たち(「Y」「アンダーリポート」「身の上話」)と比べるとやや冗舌ではあるものの、軽みと青春の輝きはいまもなお新鮮。(文芸評論家)


本のカバー裏には、以下のようにあります。


失業したとたんにツキがまわってきた。婚約相手との関係を年末のたった二時間で清算できたし、趣味の競輪は負け知らずで懐の心配もない。おまけに、色白で脚の長い女をモノにしたのだから、ついてるとしか言いようがない。27歳の年が明け、田村宏の生活はツキを頼りに何もかもうまくいくかに思われた。ところがその頃から街でたびたび人違いに遭い、厄介な男にからまれ、ついには不可解な事件に巻き込まれてします。自分とうり二つの男がこの街にいる――。現代作家の中でも群を抜く小説の名手、佐藤正午の不朽のデビュー作。新装文庫限定「あとがき」収録。


文庫本には末尾に普通は「解説」が入るのが定番ですが、この本で面白いのは、解説の引き受け手がみつからないということで、佐藤正午が自分で読んで、解説ならぬ「あとがき」を書いていることです。佐藤はデビュー作とは、要は小説家がアマチュア時代に書いた小説のこと、その小説が人目に触れ、本になるとデビュー作と呼ばれ、書いた人は小説家と呼ばれるようになる。ほんとうは「永遠の1/2」は読みたくないと言いながら、なんとか読み返して、「あるとして一点、どうにかこうにかあげられるのは、僕は、彼の文章力だと思う」と、自分で挙げています。


「永遠の1/2」において発揮されている文章力というのは、粘りとか、根気とかの言葉に置き換えられるものである。比喩を用いれば、無遅刻無欠勤、みたいな文章である。無遅刻無欠勤から連想されるのは、真面目、地道、丈夫なからだ、そして凡庸といった言葉だろうが、事実、そういった要素がこの作者の文章にはそなわっているのではないか、というのが僕の感想である。で、その真面目さや地道さや凡庸さは、世間一般ではたぶんバカにされがちだとしても、デビュー作を書いてしまった新人の向かうさき、山あり谷ありの小説家家業においては、ぜひとも欠かせない条件、とまでは言わないにしても、あっても絶対に邪魔にはならない資質ではないか、というのが僕の意見である。(で?)、あとはとくにない。


佐藤正午の本、今までだいたい読んできました。この面白さを伝えるのはなかなか難しい。「ザラにない小説を読むことで人はたぶん、小説というものを見直し、もう一冊、別の小説を読みたくなります。なるはずです」、と吉田修一の「横道世之介」の項で佐藤は述べています。


佐藤正午の本、購入はしたが、まだ読んでいないのが下の2冊です。(と、前にも書きましたが)

「書くインタビュー」(小学館文庫:2015年6月10日初版)は購入時、パソコンが突然壊れて、1冊目の半分ぐらい読んだかな?その後読むのがストップ。

もうひとつは、分厚い古い本ですが、「正午派」(小学館:2009年11月30日初版)、帯には完全保存版とあります。佐藤正午の初期のエッセイ集です。


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佐藤正午:

1955年長崎県生まれ。1983年本作で第7回すばる文学賞を受賞。2015年「鳩の撃退法」で第6回山田風太郎賞を受賞。そのほか長編小説に「Y」「ジャンプ」「5」「アンダーリポート」「身の上話」など、短編小説に「事の次第」「カップルズ」「きみは誤解している」「ダンスホール」など、エッセイ集に「ありのすさび」「小説の読み書き」「書くインタビュー」「小説家の四季」などがある。


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