佐藤正午の「ジャンプ」を読んだ! | とんとん・にっき

佐藤正午の「ジャンプ」を読んだ!


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「東京物語散歩」という朝日新聞の記事に、佐藤正午の蒲田を舞台にした作品がある、ということが載っていたので、切り抜いておいたのですが、いま見あたりません。と、このブログに書いたのは、佐藤正午の「小説の読み書き」を読む!を書いたときでした。たしか「ジャンプ」について書いてあったと記憶していたので、ブックオフへ行ったときに「ジャンプ」を見つけたので、なにはともあれ購入しておきました。で、読む順番が回ってきたので読み始め、一気に読み終わりました。なにしろ読んでいるものをグイグイ引っ張っていく力がこの作品にはあります。いや、著者の佐藤正午にはあります。


佐藤正午の作品は、小説の評論集のような「小説の読み書き」の他に、最新の小説「5」、そして最初のエッセイ「ありのすさび」を読み、このブログにも書きました。さて、蒲田の街が出てくるという佐藤正午の「ジャンプ」ですが、2000年の作品です。そうそう、最初に書いた朝日新聞の切り抜いておいた「東京物語散歩」という記事、なんと「小説の読み書き」の間に挟まっていました。「佐藤正午『ジャンプ』京浜蒲田駅前通り」という記事を参考にこのブログを書いています。「文と写真:東邦大付属高教諭・堀越正光」という署名があります。ネットで調べたら2005年5月に「東京探見 現役高校教師が案内する東京文学散歩」(宝島社)という本が出ているようです。


京急蒲田駅の東口を出て歩道橋を渡り、踏切を超えたすぐのところを右折すると、道は「京浜蒲田駅前通り」の商店街につながります。ある日の夜遅く、一人の女性が泥酔状態の男性を介抱しながら、この道を自宅マンションへと向かって行きました。男性の名前は三谷純之輔で、翌日からの札幌と仙台への出張に備えて、ガールフレンドの南雲みはるのマンションに泊めてもらう予定でした。自分の住む会社の独身寮よりも羽田空港へは便利が良いからです。なにしろ彼女のマンションは京急蒲田の駅から歩いて7、8分の距離です。


この日、彼は南雲みはると中華街で御飯を食べ、その後、彼女のよく知っているカクテル・バーで強い「アブサンスキー」というカクテルを飲み、べろべろになってしまいました。抱え込まれるように京急蒲田のマンションに着きますが、彼は毎朝リンゴを食べるという習慣があります。翌朝の分のリンゴを買い忘れたので、みはるはマンションの前で彼を置いて一人でコンビニへリンゴを買いに出かけました。「リンゴを買って5分で戻ってくるわ」と彼女は片手をあげて笑顔を見せました。そして、そのまま失踪してしまいます。


その後三谷は、みはるの姉天笠みゆきと共に彼女の行方を尋ね歩きます。みはるがリンゴを買いに行ったと思われるコンビニへ行くと、重要な手がかりが得られました。突然具合が悪くなった女性客に付き添って救急車で病院に向かったという情報です。突然具合が悪くなった女性客は、上山悦子という法学部の学生でした。上山悦子が入院したのは東邦大学の付属病院。その病院でも新たな情報が得られました。工藤というコンビニのアルバイトの店員からも情報が得られました。南雲みはるの足取りはおぼろげならら見えてきますが、しかし、みはるへは辿り着きません。


本の帯には「日本全国で一年間に、自分の意志で姿を消してしまう人間は七万人」と書かれています。そして「自分で自分の人生を選び取ったという実感はありますか?」と問いかけています。「失踪をテーマに、現代女性の“意志”を描く」、「恋愛小説の名手、待望の文芸ミステリー」とあります。


カフカの「城」や「審判」等々、主人公のヨーゼフ・Kはいつまで経っても核心には至りません。なんて、むかし読んだ本なので詳しいことはほとんど覚えていませんが、佐藤正午の「ジャンプ」も、行けども行けども失踪した南雲みはるには至りません。結局は、壁にぶちあたり、ますます謎めいてきます。彼女の失踪は何らかの事件に巻き込まれたものなのか、それとも彼女の意志によるものなのか?探す意欲も遠のいてきた5年後に、南雲みはるは偶然にも三谷の前に現れます。結局は三谷の「片思い」だったのか?京浜蒲田駅前通りを舞台に、引き込まれるように読んでしまう作品です。


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