佐藤正午の「身の上話」を読んだ! | とんとん・にっき

佐藤正午の「身の上話」を読んだ!

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佐藤正午の「身の上話」を読みました。奥付を見ると、驚いたことに2009年7月25日初版第1刷発行、2010年1月25日6刷発行、とあります。正確には2月19日現在、7刷3万5千部に達しているという。本が売れないと言われているなかで、また小説がつまらない、面白くないと言われているなかで、つまり、この本はけっこう売れている本なのです。


本の表紙には、おかっぱ頭で、リュックを背負った女性の後ろ姿が描かれています。この女性が主人公の古川ミチルです。アハハ、本の裏表紙にはその古川ミチルの正面が描かれていました。そこそこかわいい娘です、たぶん。いまどきの娘ですね、これは。本の帯には「読み出したら止められない!」とあります。たしかに、読めば読むほど引き込まれていきます。で、帯の裏にはこうあります。「人生にも必ず岐路はあるのか、ところどころで、判断・選択はできるのか。それとも、人との出会いが人生を決めるのか。」と。


物語を語っているのは、ミチルの夫である「私」です。最初はどうしてこの男が、妻であるミチルの物語を語っているのか、よくわかりません。が、そのうち、だんだんとわかってきます。都会から、つまり東京からでしょうが、新幹線でおよそ1時間行ったところの地方都市で、ミチルは23歳になるまで親元で暮らしていました。市内に3つの店舗を構える老舗書店の、アーケード商店街にある本店に勤務していました。2歳年上のつきあっている男がいました。同じ商店街の宝石・時計店の息子でした。もし彼がその気になれば、ミチルはあっさりプロポーズを受けて、若奥さんにおさまっていたでしょう。結局、二人は結ばれませんでした。ただそれだけの話です。


が、しかし、ここからこの物語はグイグイと始まるのです。書店に東京から営業にやってくる妻子持ちの男に恋をして、駆け落ち同然の勢いでミチルは東京にやってきます。着の身着のまま、背中に小さなリュックを背負って。その直前、書店員たちに買ってきてほしいと頼まれて渡されたお金で、1等賞金2億円のサマージャンボ宝くじを買います。ここから少し細かい話になります。


3人から預かってきた総額は1万3千円、立石さんと沢田主任から渡されていたのはそれぞれ5千円ずつ、初山さんからは3千円、合計1万3千円になります。宝くじは1枚300円なので、立石さんと沢田主任が16枚ずつでお釣りは200円、初山さんはぴったり10枚、つまり3人分合わせると宝くじは42枚しか買う必要はないのです。ミチルが買ったのは43枚の宝くじと釣り銭の100円玉が1枚、宝くじが1枚余計でした。


ということから始まり、次々に事態は急変します。そうです、2億円が当たってしまったのです。「お客さん、おめでとうございます。高額当選ですよ」と窓口の女性に言われます。銀行の支店でもらった小冊子、「【その日】から読む本」の第一部第1章には、以下のように書いてあります。


もうすぐあなたは、現金、もしくは小切手で、当せん金を受け取られることでしょう。当せん金を受け取ったら、まず最初にやらなければいけないこと――それは、当せん金をとりあえず安全な場所に置くことです。


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