酒とドラマの日々。 -2ページ目

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02Oct
- どうしても読まずにいられない　朝井リョウ「どうしても生きてる」
  どうしても生きてる (幻冬舎単行本)Amazon（アマゾン）1,426円↑若い頃にこんなんがあったらな…朝井リョウさんのこちら、中々の毒がありましたわ。遠慮なく毒を吐き続ける朝井さんの小説が好きです。1話目は、バツイチの大企業OLが主人公。彼女は、自殺した人のSNSアカウントを突き止めることがやめられない。自分の人生に何も無いことに疲れ、電車に飛び込みそうになったとき、マッチングアプリで知り合った年下の彼氏から、スマホにメッセージが届く。それは、最近探り当てた、ある自殺者の最後のSNSにそっくりだった。…こんなメッセージをくれた彼に会いたい！強い衝動で、自殺の淵から立ち上がる主人公。全話、闇だらけ、マウンティングだらけ。生活をやりこなす事に疲れたアラサー、アラフォーだらけ。朝井リョウここにあり！！　…細かい生活描写と心理描写が延々と続きます。朝井さんの小説でいつも驚くのは、女性の生理現象がきっちり書き込まれているところ。その単純さに健全さを感じ、自分に無いものを持ってるからこそ男性を「エロい」と感じる女性。きっちりしている冷静な男性が、性欲に負けているさまを見たくてお付き合いを始めたと、夫との馴れ初めを思い返す妻。なかなかここまで、女性の性的な心理を書ける男性作家さんて、いなかったと思う。他者に興味をもち、その心理を紐解いていけば、異性のもつ生理現象をもこんな風に書き下ろせるのだなと、改めて気付かされました。欲望のもつ後ろ暗さ、倒錯、征服欲を、男女の両面から書けるのは、朝井さんの凄い強み。私がつい楽しみに読んでしまうのは、日本人男女の弱さが描き込まれているからなんだろう。弱いところってチャーミングに見えますよね。あるいは、弱い人たちを見て、心理的にマウンティングを取りたいのか、自分？作中に、太宰治をdisる女性の登場人物が出てきたけど、朝井リョウさんの作品こそ、令和版の太宰みたい。イジワル婆さんみたいな朝井さんの小説が大好きだけど、いつか、「…愛ってこういうことだったのか」みたいな、朝井さんの壮大な恋愛小説も読んでみたい。そのときを楽しみにしてる。
01Oct
- 「人生の扉を開く最強のマジック」全米が泣いたかどうか知らないけど私は泣きました
  スタンフォードの脳外科医が教わった人生の扉を開く最強のマジックAmazon（アマゾン）1,683円ひとりでも多くの人に、読んでもらいたい。1968年カリフォルニア州ランカスター。手品が好きな手先の器用な少年ジムは、街の手品ショップで、ルースという初老の女性と出会う。ジムの父親はアル中で無職でDV癖があった。母親はそんな夫に支配され、鬱病でたびたび自殺未遂していた。兄は賢かったがゲイである事に悩み、引きこもりだった(のちにHIVで亡くなった)。姉は早く結婚し家を出たが、免疫不全と肥満が原因で早逝した。ジムは虐待されてきた子供で、いつも何かに怯え、怒り、父親が暴れない事と母親が自殺未遂しない事を願って、日々を過ごしていた。店にいたルースは、ジムの事情は何一つ知らなかったが、彼にある提案をする。「これから6週間、毎日ここに来たら、願いが何でも叶うマジックを教えてあげる。」この人怪しい…と思いながらも、虐待されネグレクトもされていたジムは、誕生日とクリスマスがいっぺんに来たみたいな気持ちになり、いそいそとルースの元に通うのだった。長い導入で申し訳ない。こんな出だしで始まるこの長い物語は、全米イチと言われるスタンフォード大学の脳外科医である作者の実話です。この物語には、人が本を読む目的の全部が詰まってる。不幸な生まれの少年がアメリカンドリームを達成し、しかもそれは同時代を生きる個人の実話で、人生を物質的な成功に導く秘密が赤裸々に語られたかと思うと、バブルが弾け全てをなくし、やがて、人生は本当の幸せを探す旅だったという深い気づきが訪れる。冒頭のルースのマジックは、「本当の幸せ」を生み出す為に、誰もが使える魔法だった。被虐待児だった作者が、子供の頃に感じた深い悲しみ。子供が望むような愛し方が出来ない大人がいる。人生を上手く生きられない障害(敢えて言うと)から、依存症や病気になる親は普通にいる。子供は生育環境を自分で選べない。いわゆる親ガチャ。だけど子供は、その環境にいるのは自分のせいと思いながら成長し、虐待する親には、いびつだけど自分への愛がある事も分かっている。だから尚更、深く傷つく。…ここで私は号泣しました。問題を抱えた親を持つ子供の気持ちを、こんなに的確に表した文章を読んだのは初めてかも。ルースに生きる魔法を教わった作者は、家族と離れ、医学部に進み、最難関の脳医学科に進み、医者として大成功する。医療系スタートアップ会社に出資・経営し、何十億万長者になる。様々な会社経営に関わるも、ある日テックバブルが弾けて無一文になり、更に負債も抱え、離婚し家族もなくし、ゼロベースどころかマイナスに戻ってしまう。…で、作者は、彼がずっと座右の銘にしていたルースの教えを全くやっていなかった事に気づき、故郷を再訪する。そして、ルースの教えのある一つのステップを、自分が全く理解していなかった事に気付く。ここに最大の人生の魔法があったようだ(焦らしプレイ…)。で、それをやりだしたら、ジムはある地域医療センターを立ち上げる仕事に呼ばれ、最終的にスタンフォード大学の脳神経外科の教授になり、人の利他性と脳神経の関係を解き明かす研究機関を立ち上げ、講演に呼んだダライラマに見込まれ、今やダライラマ財団の理事長も勤めている。そ、その魔法って何よ？これはネタばれしたところで、意味がない。魔法の様で、自己啓発本やらスピリチュアルセミナーやら誰かの座右の銘やら古今東西の伝承話やらに、幾らでも書いてあるような、ありきたりのこと。でも、それをこんなにも深く腹落ちさせてくれたのは、この本が初めてかもしれない。悲惨な子供時代から、人を助けたいと医者になり、その志と反比例するように傲慢になり、全てをなくしたとき。手元に奇跡的に残った会社資産を、作者は全て寄付してしまいます。自分には医者が出来るし、医者をやればいい、と。そこから彼は、本当の幸せを探す旅に出る。銀河鉄道に乗ったジョバンニとカンパネルラも、本当の幸せを探す旅に出てましたね。何だろう、今のコロナ禍はもちろん、あらゆる不安や恐れ、劣等感や優越感、攻撃性や無関心。そういうマイナスな感情に、対抗できる、ただ一つのこと。自分自身も問題を抱えていたルースは、なぜ赤の他人の自分(作者)に、人生の魔法を教えたのだろう？いくらたくさん持っていても、何も与えない大人が大半なのに。作者がルースの魔法を実践してきて、最後にその答えに行き着く。涙…平たく言うと、「愛」なんですけども。　その具体性、何を愛と呼ぶのか、どう言う状態を愛と呼ぶのか。そこが深く納得できる。得難い読書体験でした。酢いも甘いも噛み分けた大人に、特にオススメです。
30Sep
- アベンジャーズになったBTS “My Universe”
  My UniverseAmazon（アマゾン）250円Coldplay x BTSのコラボ曲、My UniverseのオフィシャルMVにドギモ抜かれました。BTSのMVって、いつも映画の様に作り込まれてますけど、とうとうアベンジャーズクラスの大作がブチ込まれてきた。近未来の宇宙。3組のアーティストが、3つの惑星で、ホログラムを使い、ある音楽を奏でる。それがMy universe、というコンセプト。Coldplay、BTS、そしてSuperNovaという宇宙人のバンド。色んなメタファーが詰まった世界観なんですけど、まずこの「音楽が禁止されたディストピア」て言う背景が、コロナで苦しみつつも、大国同士が反目し合っている今の地球そのもの。「音楽が禁止された世界」でホログラムによる共演と言うのは、コロナでライブができず、ひたすらデジタル作品を作り込んでいた世界中のアーティストを表しているし。そして、このディストピアを背景にしても隠し切れないBTSのキラキラ感。ホログラムでも、みずみずしいナマ感がある。Coldplayもさすがの貫禄だし、クリス・マーティンも相当ルックスの良いアーティストだけど、BTSが全然負けていない。そして宇宙人バンドのSUPERNOVA。一つ一つの造形がしっかりと作り込まれていて、それぞれの性格まで伝わってきそうな見事なキャラクターデザインだった。このままSF映画が作れるでしょう、これは…ていうかぜひ作ってください。BTSのファンダムは、国も人種も年代も性別も超えているので、宇宙規模の世界観がはまりすぎていて、「バンタンの到達した場所」として、すごくしっくりきました。今までのMVの中で1番ハマっていたようにも思います。 BTSについては、音楽、ダンス、キャラクター、そして国境を越えるスケール感の全てが私のツボにはまっていて。ハイ、私みたいな人たちが今世界中に溢れ返っています。しかも今回のMVの監督がデイヴ・マイヤーズというグラミー賞もとっている超大物。Justin Bieberやリアーナ、ケイティ・ペリー、Kendrick Lamar、トラヴィス・スコット、Ariana Grande、ビリー・アイリッシュ…といった方々のMVを手掛けた監督さんです。この方が世の中に出たきっかけというのは、ガス・ヴァン・サント監督との出会いだったそうな。ここでも出て来たガス・ヴァン・サント。ジミンちゃんで映画撮りたいって言ってた、こちらはガチの大物映画監督さんですね。BTSが兵役に行く前に、この世界観で、ぜひSF超大作を1本とっていただきたい。もし仮にラブい展開があったとしても、心を平静にして受け止められる気がする、お相手が宇宙人なら。SF × BTSと言うコンセプトを考えた方、素晴らしい企画力だわマジ脱帽。
- 「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」ブロマンスの大傑作
  ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド (字幕版)Amazon（アマゾン）1,500円↑めっちゃ便利だわ。ブラピとレオ様W主演、タランティーノ監督の、シャロン・テート事件を題材にした2019年の話題作です。シャロン・テート事件とは何ぞや。ハリウッドの人気女優で、映画監督ロマン・ポランスキーの妻だったシャロンが、狂信的カルト集団チャールズ・マンソンの仲間達に、お腹の子共々惨殺されるという、1969年に起きた殺人事件。本作は、この事件当日をラスト・シーンに、架空のハリウッド・スターとそのスタントマンの日常が描かれていきます。上映時間が161分もあって、ハリウッドでは大絶賛も、日本ではネットの感想が賛否に分かれたようす。私は飛行機の中で観たんですけど、めちゃくちゃ良かった！1度のフライトでラストまで見切れず、2回目でコンプリートしました。…確かに長尺でした。しかし、長尺さを感じさせない面白さでした。当時のハリウッド周りのファッションや風俗を背景に、落ち目の西部劇スターをレオ様が、そのスタントマンをブラピが、ノリノリに演じてます。この2人の日常生活とお仕事風景が、豊富なディテールで、じっくりタップリ描かれて行く。ブラピがレオ様を毎朝起こし、撮影所まで送り迎えし、レオ様の情緒不安定なメンタルをケアし、現場ではレオ様のスタントをやる。ハリウッドがガチでブロマンス作ると、このクオリティ…最高かよ。アロハシャツ、ジーンズ、ちょいロン毛、ティアドロップ型サングラス。これらが世界一似合って、スタントマンとしても男としても軸がブレず、心身共にカッコいいブラピ(の役)。飼い犬にドッグフードをやるシーンが、何でこんなに面白いのか。このブラピを観るだけで、この映画を観る価値がある…！デティールにキャラクター性を写し出すタランティーノの演出が、神業で冴え渡ってました。一方、レオ様演じるリック・ダルトン。レオ様が西部劇の悪役を、劇中劇で何度か演じるんですけど…これが上手い！！面白い！！器用過ぎる！！「"演技が上手い"という演技」を、レオ様が見せてくれるんですけど、めちゃくちゃ説得力あってブッたまげました。こんな演技が出来る俳優さん、どれだけいるんだろうか。このレオ様だけでも、この映画を観る価値がある。ブラピの役と対照的に、レオ様の役は、ハリウッドスターならではの焦燥感とか、自意識過剰な感じとか、自信がありそうで無さそうでありそうな面倒くさい感じとか、とても人間臭いキャラクターでした。そういう面倒くさくて小心者の男を演じさせたら、レオ様はなんでこんなに上手いのか。しかもチャーミング。長時間ウジウジめそめそされても、大笑いして観ていられる。そして、くだんのシャロン・テートを演じたマーゴット・ロビーの生き生きとした表情、仕草、可愛らしさ！リアルエンジェル。これもタランティーノ監督の演出力なんだろうなぁ。そこにヒッピーのカルト集団が絡んでいくんですが、ブラピを誘惑し(失敗する)ヒッピーの女の子も、とても良かった。ミドルティーンの役でしたが、その女優さんの実年齢は20代半ば。見えない！この娘も凄くチャーミングで、ブラピ(の役)が法律を犯すんじゃないかとハラハラしました…この娘のヒッチハイクシーンだけでも、この映画を観る価値あり。(何度目)そして問題のラスト・シークエンス。タランティーノならではの、めちゃくちゃな暴力場面が延々と続きます。結構グロかった…やられる方に女の子もいるし…ブラピ(と犬)がめちゃくちゃ強いんですけど、レオ様の驚く演技とか、ヒッピーの女の子がふらふらしながら銃をぶっ放す演技とかに、目を奪われました。ひどい暴力場面なんで、雑な演技しても成立しそうなんですけど、2人の演技がめちゃくちゃ丁寧なんですよ…これぞプロフェッショナル。このシーン観るだけでも(以下割愛)。長々書きましたが、とにかくハリウッド映画が好きな方は観て！！全シーンが目と耳に楽しい。暴力場面も細かい演出に刺激されっぱなしでした。タランティーノは幸せだろうなぁこんな映画が録れて。レオ様はやっぱりステキだった。ブロマンス万歳。
29Sep
- 「パラサイト　半地下の家族」格差を視覚化した映画
  『パラサイト半地下の家族』カンヌ映画祭パルム・ドール、アカデミー作品賞、監督賞を総なめした、韓国の格差社会をブラックに描いた、ポン・ジュノ監督の話題作です。噂に違わず面白かったけど、ネタバレ禁止というほどのストーリーの意外性はなかったかな。半地下という格安・劣悪住居に住む家族と、丘の上の豪邸に住む勝ち組家族の対比。埋まらない溝。「あの奥さんはお金持ちなのに、いい人。」「お金持ちだから、いい人なんだよ」。…こういう台詞が、冴え渡っていました。本作では妹ジェシカを演じた女優さんが凄く印象的でした。久しぶりにメディアで観た、きれいな一重の伝統的な韓国美人。一方、お金持ちの奥さん役の方は、ぱっちり二重の現代的なルックス。…なるほど…ここでも格差を見せてるのかな…ポン監督も言ってたけど、テーマは是枝監督の「万引き家族」と似てました。「万引き家族」は、安藤サクラさんの演技が凄かったのと、寄せ集め家族のネタが効いていました。でもそれゆえ「万引き家族」は、現実への切り込み方がファンタジックに見えたのかもしれない。「パラサイト」に漂う切迫感は、開き直ってコメディにしないと、見ていられない類のものでした。…3年前、カナダで知り合った韓国人の女の子との会話が忘れられない。「韓国は社会がまだ安定していなくて、競争も厳しい。40歳すぎたら、経営陣以外は企業が雇ってくれなくなる。海外に行ったり、独立する道を探さなくてはならない。結婚しても、暮らしが楽にならない。」当時彼女は、老後が安定して見える日本が羨ましいと言った。しかしコロナと共に、世界中で今までとは違う社会が、始まってしまった。みんなが地上に住む社会がいい。
28Sep
- 村田ファンキー沙耶香さんの「丸の内魔法少女ミラクリーナ」を読む
  丸の内魔法少女ミラクリーナAmazon（アマゾン）690〜5,810円あちこちの自治体が緊急事態宣言を出し、そしていよいよ、全面解除されますね。ウイルスは闘うものではなく共存するものという方向に、各国が舵を切った。2020年初頭から始まったこのディストピア感、現実のものとは思えない。いや、でもこれが現実。第二次世界大戦中のアウシュビッツ収容所から生き延びた人たちに共通してた事は何だろうと、精神科医ヴィクトール・フランクル氏が、生還者たちに、なぜ自分が生き延びられたと思うかインタビューしたところ、「自分が人生に何を求めるかではなく、人生が自分に何を求めているのかを考えた」…という答えが得られたそうです。ぜひ皆さん、この言葉を合言葉に、現実を乗り越えましょう。こういった発想の転換に、村田沙耶香さんの小説は、めちゃくちゃ効きます。…ていうか、むしろ、彼女の描く世界線が現実に近くなってきて、かつてないほどスンナリ読めました。明日、こんな世界になってても驚かない。表題作「丸の内魔法少女ミラクリーナ」。描いているのは、フンワリした題名から遠く隔たる、ロックで反社会的な世界観。やり切れない現実をサバイブするため、小学生の時から自分を魔法少女と思い込むフリをして生きてきた主人公。…彼女が、この仕掛けを友達の彼氏に横取りされた時のヤサグレた描写に、大笑いしました。活字で大笑いさせられるって何。村田沙耶香さんの筆力がすごい。魔法少女ミラクリーナは、現実世界に対して強烈な否を突き付ける、妄想世界からのジャンヌ・ダルクのよう。マジカッコいいっす。世界が何を私に求めるか、煎じ詰めればこういう姿になるのかもしれない。三作目の「無性教室」という短編が1番すきでした。社会に出るまで、性を隠さねばならない世界。高校生活を無性で過ごす子供たち。無性であっても、自然に恋をする。男女のいずれにも属さないセナに、強く惹かれる少女、ユート。保健室で抱き合う2人の描写は、「性愛」以外の何物でも無く。生殖でもなく承認欲求でもない、純粋な性愛が生まれた場面を文字で書く…感動しました。その他「秘密の花園」「変容」という短編も、いずれも2021年のコロナにまみれた今だからこそ、読み応えがあるお話でした。この世界は生きづらい。まるでアウシュビッツ収容所のように、誰にとっても生きづらい。そんな世界で、自分が世界に何を求めるか追求して生きて行くのは、すぐにゲームオーバーしてしまう。でも、この世界が自分に何を求めるのか？という視点に立った時。サバイブしていく方法を考えることは、決して詰まらない事では無い。むしろ、こんなにもクリエイティブ。村田沙耶香さんの描く世界は、そこを鮮やかに反転して見せてくれるので、めちゃくちゃ面白いし、ディストピアをも生き延びられる勇気が湧いてきます。
28Feb
- THIS IS YOUR LIFE.
  This is your life.Do what you love,and do it often.If you don't like somethig,change it.If you don't like your job,quit.If you don't have enough time,stop watching TV.If you are looking for the love of your life,stop;They will be waiting for you when you start doing things you love.Stop over analyzing,life is simple.All emotions are beautiful.When you eat, appreciate every last bite.Open your mind,arms, and heart to new things and people, we are united in our differences.Ask the next person you see what their passion is, and shere your inspiring dream with them.Travel often; getting lost will help you find yourself.Some opportunities only come once, seize them.Life is about people you meet, and the things you create with themSo go out and start creating.Life is short.Live your dream and share your passion.これはあなたの人生です。あなたが愛することをやりましょう、何度もやりましょう。何か気にいらないことがあったら、自分で変えましょう。もし好きではない仕事をしているなら、止めましょう。十分な時間が無いなら、テレビを見るのを止めましょう。もし、人生をかけて愛する人を探しているのなら、止めましょう。あなたが自分の愛することを始めた時に、あなたの前に現れるでしょう。分析しすぎるのは止めましょう、人生はシンプルです。全ての感情は美しい。食事をするときは、一口一口を味わいましょう。あなたの精神を、腕を、心を、新しい物事や人々に対して開きましょう。私たちは、お互いの違いによって結びついています。隣の人に、情熱を傾けていることを尋ねましょう、そしてそれを聞いて閃いた夢を、彼らとシェアしましょう。何度も旅をしましょう。道に迷うことは、自分自身を知るきっかけになります。いくつかのチャンスは、一度しか来ません。しっかり掴みましょう。人生とは、あなたが出会った人々のことであり、あなたが彼らと創り上げた物のことです。さあ、外に出て、創造することを始めましょう。人生は短い。あなたの夢を生き、あなたの情熱をシェアしましょう。これは、HOLSTEEという米国のベンチャー系デザイン会社の企業理念です。とても有名なので、知っている方も多いかと。私も、ふとしたことから知りましたが、読めば読むほど、深く共感しています。まあ、仕事は簡単にやめちゃいかんけれども、お仕事を好きになるってとても大事、という意味だと捉えてます。愛すること、夢を生きること、それを隣人とシェアすること。余計なものに気をとられている時間って、実は全然無いんですよね。人生は短く、チャンスの多くは、一度しか来ないものですから。「酒とドラマの日々」、長らくご愛読頂き、ありがとうございました。今日でこのブログは終わりです。フィクションに対する愛、お酒に対する愛・・・皆さんと、少しでもシェア出来ていたなら、こんな幸せなことはありません。
31Jan
- 赤川次郎「セーラー服と機関銃」を読みました。
  セーラー服と機関銃 (角川文庫)Amazon（アマゾン）535円ただいまBack To Basic 祭りが絶賛開催中です。1978年刊行の赤川次郎さん初期の名作、「セーラー服と機関銃」。さすがにこれは、薬師丸ひろ子さんの映画が何度も放映されてますし、長澤まさみさんのTVドラマリメイクもあり、あらすじは超有名ですわね。父と二人暮らしの高校二年生、星泉。ヤ◯ザ組織の目高組では、親分が老衰する。泉の父は、親分の唯一の血縁者だった。しかしその父は、海外出張帰り、空港で車の事故にあい、突然他界する。結果、目高組の後継者は、星泉ただ一人となる。泉が親分就任するやいなや、他の組から「例のブツのありかを教えろ」と、矢継ぎ早の攻勢に逢う。どうやら父は、麻薬の運び屋をやっていて、突然の死により、薬の行方がわからなくなっているらしい…とてもシンプルな筋ですが、父から遺言を貰って泉の面倒をみるマユミの替え玉トリックとか、国内品より海外品を嗜好してた父の性格を利用した麻薬の隠し場所とか、随所に小技が効いています。あくまでノリは軽妙ミステリで、ヤ◯ザの世界が舞台ですし、バタバタ人が死にます。や、ミステリですし、エンタテインメントだから、その辺の展開は大胆です。結局、泉は、父は麻薬の運び屋ではなく空港でカバンにブツを入れられ、偶然事故死しただけという真相に辿り着く。父も麻薬を入れられたことを知らぬまま死に、残された泉も当然知らない。しかし、泉は目高組の親分に就任している。ハタから見たら、泉親子は当然、麻薬をネコババしたんだろ？と付け狙われる訳です。んで、あの有名な場面、泉が敵対する組に乗り込み、机におかれたヘロインの瓶に機関銃をぶっ放すクライマックスに行き着く訳です。これ、薬を巡る攻防で殺されてきた舎弟達の、仇討ちな訳ですな。原作ではその後「カ、イ、カ、ン…」とは言わなかったが。今作の映画版は、まごうことなき相米慎二が監督してますね。原作を読めば読む程、映画の有名場面が蘇り、筋は一緒なんだけども、映画ならではの解釈が見事な作品だったんだなあ、と。赤川さんの原作もシンプルかつよく出来たエンタテインメントなんですが、星泉というフィクショナルな主人公の魅力は、映画の方が圧巻かな。薬師丸さんの存在と、相米慎二監督の世界観で、軽いエンタメからもう一歩深い、生きてることの残酷さみたいな所に踏み込んでた気がする。とはいえ、赤川次郎さんの原作あってのこと。特に最後の場面が印象的。ここがこの小説の最大の魅力な気がする。全てが終わり組を解散した泉。最後の舎弟、佐久間がヤ◯ザのケンカを仲裁し、刺殺される。警察から遺体の確認に来て欲しいと言われるが、「そんな人知らない」と断る泉。が、自宅の郵便受けに、佐久間が再就職した会社の名刺を残していたことに気付く。泉は警察に、身元確認に行くと連絡する…泉の心情を説明する描写は、佐久間が刺殺されたことを聞き、「東京を離れると言ったのに！どこかで新しい仕事を始めると言ったのに！馬鹿！ ……涙で視界が滲んだ。」と、これだけです。あとは彼女の行動と受け答えの描写だけ。でも彼女の気持ちが凄く良く分かる。こういう所が赤川節の魅力だなあと。映画のこの辺は、ちょっとクドクドしかったかな？しかし1978年て、まだまだ猥雑な時代だったのね。世の中には危ないことも多く、大人は守ってくれない。でも女子校生が逞しく生きるさまには、リアリティがある。赤川さんの描くヒロインて、基本、巻き込まれ型なんだけど、受け身っぷりに主体性があって、魅力的。原田知世さんより、薬師丸さんの個性の方が、相性が良い感じがしました^ ^
25Jan
- 赤川次郎「ふたり」を読みました。
  ふたり（新潮文庫）Amazon（アマゾン）528円すっかり祭りが始まっております。赤川次郎さんの「ふたり」、石田ひかりさんと中島朋子さんの映画版ともども、青春物として名作の呼び声高い作品ですね。私も中学生くらいの時、読んだ記憶があったようななかったような。で、再読した訳ですよ。誰ですか～、赤川次郎の作品は軽いって言い出したのは。この作品、物凄く重い…。衝撃的。いやホントに。重さを伝えるためあらすじをば。ある日、出来の良い姉が事故死し、妹の元に声だけの存在となって出現する。妹の相談相手となり、自身の思い残しの後始末をする姉。妹はやがて、姉が死んだ年に追い付く。一方、娘を失った母は精神を病み、父は単身赴任をきっかけに浮気、家族は崩壊していく。修羅場の中、妹は父に激昂する。なだめる姉。姉をでていけと罵倒する妹。気づけば、姉の声は妹の中から消えていた。妹は鏡の中の自分を観て、姉と見間違える。それは自分が成長し、姉のような一人の女性になった姿だった。…どうすか？重いっすよね…？80年代後半って、こういう時代だったのかな？今や、こんなシリアスな不倫話、凄く珍しい気がする。何がシリアスって、不倫に家族が真正面から巻き込まれてるところがですよ。それも、普通の父親の不倫で。赤川さんは何が描きたかったんだろ？としばし考えました。恐らく、この話の通底にあるのは、姉の死をきっかけに、本気で生き出した家族の姿なんじゃないかと。母は悲しみから逃れられない。人間だもの。父は家族を第一に考え、自分の心に素直に従った挙句、別の女性を愛してしまう。妹は修羅場の夜、本気で嗚咽する父の姿を目の当たりにする。生きてる限り、人の心は動いて行ってしまう。どうしようもなく。死者は時間が止まっているけれども。そこを赤川さんは、冷静に淡々と描く。ここがホントに怖い。妹が、生きている時間を重ね、姉を追い越す。生きていれば良い事がある、それは確か。でも、辛い事や悲しい事も、漏れなく起こる。それをひっくるめて生きるって事。そこんところを、赤川さんはきっちり平等に描いている。怖いけれども、リアリティある話ですよ。妹の成長で姉の存在が消えるというラストなら、例えば妹の甘酸っぱい恋愛話とかで終わらす事も出来たはず。そこを両親の大人の修羅場で結ぶとは。赤川次郎さんの「ふたり」、かなりなハードボイルド、ビター風味な青春小説でした。結論的に言うと、相当面白かったです‼
24Jan
- 赤川次郎「早春物語」を読みました。
  早春物語 (角川文庫緑 595-8)Amazon（アマゾン）381〜3,149円1980年代、毎年夏に、薬師丸ひろこさんと原田知世さん、それぞれの主演作を二本立てにした角川映画が封切られてましたね。原作はいつも、角川書店から出版される、人気作家のミステリで、赤川次郎さんの作品がほとんどだったかと。当時わたくし小学生で、赤川作品は三毛猫ホームズは読んでたかな？当時の若者には大人気なエンタテインメントでした。映画も小説も。で、「早春物語」。これ、主人公の沖野瞳17歳が、会社役員の梶川を、白昼の会社ロビーで刺すシーンから始まります。で、彼女の行動のホワイダニットが語られていく。ミステリのセオリーに沿った展開で、赤川さんて、意外にしっかりしたミステリ作家だったんだ、と感心した次第(←限りなく失礼)。更に言うと、この沖野瞳という主人公のキャラクターそのものが、読者を翻弄するトリックになっていて、今読んでも新鮮でした。そういう作品って、余り読んだ事が無いなあと。映画では原田知世さんが瞳役を演じてましたけど、映画版のストーリーを読むと、小説とはかなりベクトルが違う印象。しかしこの赤川原作の新鮮さはどうだろう。監督相米慎二あたりで映画化していたら、もの凄く斬新な青春映画が出来たのでは。…というのもですね、この沖野瞳という主人公が語られていくにつれ、白昼、中年男を刺すようなキャラクターに思えないんですよ。陸上をやっていて、軽やかで、飄々として、ちょっとボーイッシュで、受け答えもウィットに富んでいて、つまり思い詰めるようなタイプとは真反対。その子が、自宅にかかってきた梶川の電話をきっかけに、彼と知り合い、頻発に会うようになり、体の関係を結び、色々あった末、最終的には彼を刺す訳です。このストーリー展開に、爽やかJKを主人公に据える訳です。読者は物語のラストを知ってる訳ですから、どうやって納得させてくれるの赤川さん？ってなもんです。それがしっかりきっちり、一人称の内面吐露という手法ではなく、ミステリの流儀で彼女の心の動きが語られていく訳です。最終章、また冒頭の会社ロビーの場面に戻ります。そこからラスト迄の下り、たった8ページ足らずの分量ですが、赤川次郎という作家の凄さが凝縮されてて、見事な着地でした。最初から最後まで、きっちりミステリでした。にもかかわらず、アイドル映画の原作として機能したのは、赤川さんの描く沖野瞳という主人公が、もの凄くイキイキとして、魅力的だからなんですよね。こりゃアイドルに演じさせたくなるわ。で、その主人公の性格造形そのものが、この「早春物語」というミステリにとって、必然なんですよ。そういう構造のお話です。赤川次郎さん、物凄く斬新なことやってたんだな、さすがだな‼ (←際限なく失礼)と、痛感した次第。これ、赤川次郎ベストセレクションという角川文庫のシリーズなんですが、またしても祭りが始まりそうな予感です。
12Jan
- 歌野晶午「ずっとあなたが好きでした」を読みました。
  ずっとあなたが好きでした (文春文庫)Amazon（アマゾン）100〜4,487円2014年刊行、トリッキーなミステリに定評のある歌野晶午さんの恋愛連作集です。敢えて恋愛短編集としなかったのは、訳がありまして…いきなりネタばれしそうになりましたが。「その女アレックス」と違って、この作品は、ネタばれによってかなり色褪せするかな、と。ていうのも、唯一、たった一つのトリックでかなり引っ張ります。ちょっと長過ぎかと… わたくし途中で耐え切れず、ネタばれの章を先読みしちゃいました。あぁ、なるほど… 心安らかに読了出来ました。めでたし、めでたし。まあ、読んで損は無いですが、乾くるみ「イニシエーションラブ」や、連城三紀彦さんの「美女」(←凄いタイトル)、乙一さんの別名義の恋愛ミステリ「吉祥寺の朝比奈くん」ほどのインパクトは無し。ああ言っちゃったよ。ただ一箇所、深く共感したのが、「別れの刃」という章で、大学の演劇サークルに入った主人公が、一回り歳上の女優志願の先輩に、演技の練習のため二股を掛けられてた事が分かって…の下り。主人公は相手の女性をなじります。自分から交際を持ち掛けておいて、二股かけてたのか？…と。彼女は言う、あなただって、体だけは貞節を保っていたかもしれないけど、私自身や、私の心情を、本気で理解しようとしてた？肉欲の解消で付き合ってたという側面もあったでしょ？男女の関係を神格化するのは欺瞞だよ。…と。もちろん、だからと言って、男女の関係＝肉欲の解消、と即物的に言い換える事は出来ませんが。男女の関係を神格化するのは欺瞞、というフレーズは、とてもストレートでわたくし大層共感致しました。しかし、そんな言葉は、なかなかリアルでは賛同されないんでしょうね…で、この連作集の男性主人公の造形について。だんだんキャラがブレて来る所は、目をつぶるとして。こういう人がラブストーリーの主人公になるんだろうな(ミステリの主人公ではなく)、という、歌野晶午さんのやや皮肉めいたメッセージを感じました.…連城三紀彦さんも、あるミステリで、主人公に「自分は女にだらしない」と自覚させながら罠に嵌らせてましたし。ミステリ作家の描くラブストーリーって、捻くれててなかなかオツなものです。
05Jan
- 連城三紀彦「小さな異邦人」を読みました。
  小さな異邦人 (文春文庫)Amazon（アマゾン）897円2013年秋に逝去された連城三紀彦さんの、2014年刊行、最後の短編集です。「このミステリーがすごい！」第四位に選ばれていましたね。いやあ…さすがのクオリティです。読み進むにつれ、これからもドンドン量産して行きそうな勢いを感じましたが、これが晩年の短編集なんですよね。驚きました。どれも粒揃いで、連城節満載でした。もの凄く昭和っぽくもあり、時代も場所も特定できないような感じでもあり、ホント連城さんって、不思議な作家さんだなぁと。はっきり言って、米澤さんの「満願」より、読み応えがありました… いや、米澤さんの作品も、かなり凄いレベルなんですよ。しかし連城さんの、強引・陶酔の世界をギリギリかすめながらも、きっちり冷静さを保っている本格ミステリの世界は、唯一無二だなぁと。個性が強烈なんですよね。一歩間違えると火サスの世界なんですが(実際、沢山映像化された)。表題作「小さな異邦人」は、大家族における誘拐をテーマに描いた掌編で、トリッキーながらも本格ミステリの世界にきちんと収まっている。ただし倫理観は逸脱している（笑）。でもこれは、教養小説じゃなくてミステリだから！更に言うと、「人の感情は常識では図れない」という全ての連城作品に通底するテーマが、今作でもしっかり描かれているんですよね。しかもキャラがしっかりしてるので、モラルに反した行動を起こしても、リアリティがある。非常識が人間くささの味に変わると言うか。…褒め過ぎ？今作でもヒロインの彼女は、読者をキレイに騙してくれます（笑）。「私の叔父さん」と言い、連城さんはこういう、清潔感がありながら蠱惑的な女の子を描くのがとても巧い。男性によっては、なかなか手強い女性像ですが、多分、女好きの男性が行き着くところ、このタイプなんでしょうな（笑）「無人駅」にいたっては、ミステリの帰結を、主要人物の「女にだらしない」という属性を使っての着地に持って行ってたからなぁ。それが嫌らしくなく、むしろ切ないんですよね。とにかく全編、主要登場人物達の誰もがずっと嘘を吐いていて、騙し騙され、結末が二転三転していきます。そして最後のオチで、全てのパズルのピースがこれ以上ないくらい、ピタッとはまる(…様な気がする)。連城作品を読むといつも思うのが、どうやったらこんな小説が書けるの？って事。全然先が読めません。才能って、やはり唯一無二なんだなぁと改めて感じました。
04Jan
- 宮部みゆき「取り残されて」を読みました。
  とり残されて (文春文庫)Amazon（アマゾン）1〜3,833円宮部みゆきさんの、1992年、「火車」と同年に刊行された短編集です。テーマは…「人の気持ちは時空を超える」ですかな？本格ミステリとSFの合いの子みたいな作品集です。古い作品集だったんであまり期待してなかったんですけど、油の乗り切った宮部節が堪能でき、どれも粒揃いの良品で、かなり面白かったです。しかしいつも思うんですけど、宮部さんて、ほんとバランスの取れた作家さんですよね。かと言って、宮部節としか言いようがない個性もある。私は彼女の最高傑作(ていうか日本ミステリ界の金字塔)は、「模倣犯」だと思うんですけど、あれは日本における悪意の在り方を、露悪的にならずトコトンまで突き詰められた、かなり稀なミステリだと思うんですよね。作者がいい人のまま究極の悪意を描いている。コレって迫力不足になりがちな所、逆に犯人のピースに凄みを与えている。それが出来たのが宮部さんの筆力であり、だからこの作品が唯一無二で面白いんだな、と。で、短編となるとガラリと味を変えてくるんですよね。いい人の中のバランス感覚の崩れを、いい人のバランス感覚を持ったまま書いている。だから短編は「巧い！」んですよね。どれも面白かったんですけど、「いつも二人で」が、宮部作品らしい強気で賢いヒロイン(幽霊)が出てきて、ヒロインの属性を生かしつつも意外な結末に帰結して、技があるなあと。連城作品もそうですけど、わたくし、主要登場人物が嘘をつくミステリが大好物なんです。やっぱり面白い。だって人は皆、嘘をつくじゃないですか。そもそもフィクション自体が虚構の産物だし。主要人物が読者にも分からないようにシレッと嘘を吐いてた事が分かると、途端にその人物にリアリティが生まれる。読者を騙そうとしての嘘だと覚めますが、その登場人物のキャラや舞台設定と噛み合っている嘘だと、ホント強力。そこんとこが宮部節で堪能できる、かなりレベルの高い作品でした (相変わらず上からですみません)。
- 箱根駅伝を観ました。
  あけましておめでとうございます(^^)今年も精力的に酒とドラマの日々を送って行きたいと思います^ ^今年は久しぶりに日本で正月を過ごしたんで、楽しみにしてました。箱根駅伝 ‼面白かったですね～（＾∇＾）コレ観ながら思った、勝てば官軍は真実なりと。…とはいえ、そうは言っても、青学原監督のチーム指導術かつ「ワクワク大作戦」は、2015年の今に相応しいな！と感心しました。例えば。中継車に乗って、各大学の監督が、決められた時間、走ってる選手に声をかけられますよね。青学と競り合ってた何某大学の監督の言葉を、アナウンサーが「"ここで青学に負けてどうする！"とハッパをかけていました。」と中継してました。対して青学の原監督は、「区間新‼ 区間新‼ (を狙えるぞ)」でしたね。四区の一年生が、後で、「(区間新を)"とってやろう"と思いました。」って言ってましたが、これ、凄い前向きな言葉使いだなあ、と。「負けてどうする？！」はプチ脅迫ですよね。つい言いがちです。対して「区間新を狙えるよ！」は、ニンジンぶら下げてますよね。そら走るわ。そもそも走るのが好きな子ほど。何かを成し遂げようとする時に、絶対に必要なのは、自分からとりに行く積極性。流れに任せてたんでは、勝利は手に入らない。それがスポーツ。そこを原監督は、中継車での声がけという究極に短い時間でも、きっちり鼓舞してたんだな、と。原監督の「ワクワク大作戦」を聞いた時、多くのライバル校が、脱力したと思うんですよ。真面目に競技してた子らも、ハァ⁉ って感じだったかもしれません。陸上競技は辛いから、楽しくしないと選手が集まらない、と原監督は言ってましたが。それ、冷徹な事実だと思うんですよ。世の中には、陸上より楽しそうな事が沢山ある。そこを現代っ子の最先端、青学生を長年相手にしてきた原監督は、痛感してたんでしょうね。そこで敢えてのワクワク大作戦。何のこっちゃ？ですが、前日に一年生起用を決めたり、苦しい五区を走らせる選手に、「国民的ヒーローになれるぞ」と口説いたり。辛い事も、楽しんで積極的にやる姿勢が身に付いたら、スポーツ選手として自立した。って事なんでしょうね。いや～青学の選手はホント、面白かったですね～レース運びももちろんですが、四区の一年生が追い抜くとき相手の選手をガン見してたり。これ、相手をよく見ろ、って言われてるんでしょうが、選手の中でも断トツ長時間、上から下まで凝視してておかしかった。素直だなあ。五区の新・山の神は、ぴょんぴょん跳ねて山を登って行ったし。アレは勝てんわ…という訳で、記録は破られる為にあるし、チームは生き物である、と。勝てば官軍も真実ですが、何故か其処には、必ず勝った理由がある。昔、脚本の先生が、箱根駅伝にはドラマがあるから見たらいい、って仰っていましたが。ホントだなぁ。と、改めて実感した次第です。
30Dec
- ブライアン・オーサー「チーム・ブライアン」を読みました。
  チーム・ブライアン/ブライアン・オーサー￥1,512Amazon.co.jp2014年の、羽生結弦くんのソチ五輪フィギュア男子シングル金メダルは、ほんと感動しましたよね。羽生くんについては、いつの間にか物凄く勝負強くなったな、という印象を持った方も多かったのでは。五輪シーズン突入するときには、遥か彼方にいたパトリック・チャンを、完全に射程距離に入れてましたね。この羽生くんとパトリック・チャンの関係性って、浅田真央ちゃんとキム・ヨナのそれと似ているなと。浅田真央ちゃんは、ずっとキム・ヨナとライバル視されてましたが、常にキム・ヨナの先を行ってましたよね。それがいつの間にか、バンクーバー五輪の少し前から、真央ちゃんが明らかにキム・ヨナに勝てなくなってきた。というより、キム・ヨナが負けなくなってきた。そしてオリンピックで金メダルを獲得したのは、やはりキム・ヨナでした。このフィギュア界の下剋上ドラマをプロデュースしてきたのが、キム・ヨナのバンクーバー五輪までのコーチで、現在は羽生くんとスペインのフェルナンデスのコーチをしている、ブライアン・オーサーである。ということは、ちょっとフィギュア好きのヒトならば、誰もが知っていることでしょう。で、読みましたよ「チーム・ブライアン」。もの凄く読み応えがありました。そして、日本人は、スポーツで勝つこと、特に五輪みたいな大舞台で勝つことについて、まだまだ精神論で戦略を立てているのではないかと、考えさせられました。ブライアン・オーサーの優れたコーチング技術は、キム・ヨナと羽生という二つの金メダルでお墨付きでありますが、何より凄いのは、この２つの金メダルが決して奇跡ではなく、誰もが納得する事実にまで持っていったこと。オーサーのコーチング理論の確かさを証明していると思います。そして、羽生くんのスゴイところは、ライバルの一人で先にチーム・ブライアン入りしていたフェルナンデスの四回転ジャンプが、どんどん安定してきたことを見抜き、自ら門戸を叩いていったところ。羽生くんは、本気で「勝ちたい」と思ったから、色んな軋轢もあったでしょうに、自ら行動を起こしたんでしょうね。で、オーサーの優れたコーチング技術を知れば知るほど、思い返すのは、やはり浅田真央ちゃんのことですよね。私も多くの日本人と同様、真央ちゃんのことはずっと応援してきたし、このブログでも何回か真央ちゃんについて熱く語ってしまったくらい好きですよ。好きなんですけど、真央ちゃんのフィギュア人生に足りなかったものは何？と、思わずにはいられない。彼女があれだけやりきって、それでも未だ現役続行を、「ハーフ・ハーフ」と言ってしまう。そんな所に、彼女自身、「足りなかったもの」に気付いているんじゃないかな、と思ってしまう。余計なお世話なんですけどね。浅田真央になくて、キム・ヨナにあったもの。やはりそれは、「勝ちたい」という気持ちの強さだったんじゃないかな。羽生くんは、ライバルのフェルナンデスの技術の向上を目の当たりにして、自ら敵陣に出向いた。彼は、本気で勝ちたかったんだよね。事実、「勝つ」フィギュアをモノにしている。真央ちゃんの人間性とか、優しさとか、人の良さとか、人気を得る事には、彼女のそういう美点は、とても寄与していると思う。日本人はみんな真央ちゃんを真剣に応援した。・・・でも、勝負というフィールドではどうだろう？もう一人、テニスの錦織圭くんも、見事な躍進をした日本人選手ですが。彼も、マイケル・チャンというコーチに師事して脱皮したと言われています。彼自身、コーチを受けて変わったことは、「勝ちたい。勝てる。」と真剣に思うようになったことだと言っている。「勝ちたい」と思うのは当たり前なんだけど、本気で強く思っているのか？そこをチャンコーチに繰り返しモチベーティングされて、そのアグレッシブな気持ちを起点にするようになったから、彼の全ての行動、メンタル、勝負のときの体の動きが変わってきたんだと思う。キム・ヨナについては、完全にヒールの女王みたいになってしまったけれど。バンクーバーでキム・ヨナは金メダル、真央ちゃんは銀メダル。ソチでは、キム・ヨナは金メダルみたいな銀メダルで、真央ちゃんは惨敗（もちろん感動的な演技だったけれど）。キム・ヨナはソチの後の記者会見で浅田真央に「私達みたいに長年比べられてきた選手はいない。本当にお疲れ様と言いたい」とメッセージを投げた。一方で真央ちゃんは、自身の去就を「ハーフ・ハーフ」と言った。鮮やかにフィギュア人生をかけぬけて行ったキム・ヨナと、なかなか決心が付けられない真央ちゃん・・・・コーチング・スタッフや、日本フィギュアスケート連盟や、スポンサーや、彼女の周囲には、色んな人達がいると思う。皆真剣に、真央ちゃんのことを考えているに違いない。そして真央ちゃんも、彼らへの気持ちと、アスリートとしての強い思いを、きっと持っていると思う。それでも。それでも、チーム・真央には、根本的に足りないものがあったんじゃないかな。本気でやりきったら、あるいは本気で悔しかったら、おのずと真央ちゃんの行動は、決まってきたんじゃないかな。ホントに余計なお世話なんですがね。でもこれ、日本人としては、真剣に考えるべき事例だと思うんですよ。もうひとつ。国際舞台で活躍する日本人男子を導いてくれるのは、外国人男性なんだね。オーサーといい、チャンといい。そもそも、「勝つ」ためのモチベーティングが、日本人には決定的に、足りないんじゃないかな。「勝つ」ために犠牲にすることって、すごく大きい。キム・ヨナは韓国を背負って立たなければならなかったし、羽生くんは東日本大震災をきっかけに、使命感が生まれた。逃げ出すことも出来た。でも彼らは、プレッシャーと闘うことに決めた。闘うからには勝つことに照準を定めた。照準を定めたら、一人では闘えないことに気付いた。だから、プライドも不安も情も何もかも捨てて、一緒に闘ってくれる最高の環境を求めた。彼らを我儘だとか言うのは簡単。羽生くんはともかくキム・ヨナは、ほんと全世界のヒールの女王みたいな扱いだったと思う。でもキム・ヨナは意に介さなかった。勝つことが全てで、他のことは犠牲にすると決めたから（多分）。で、実際そうやって行動した訳です。オーサーも書いていたけど、キム・ヨナはこの後の人生、何をやっても成功すると思う。その強い意志があれば。勝負の世界は厳しい。ツキや情や奇跡に頼っていても、勝てない。「勝つ」ための技術を、オーサーは教え込んでいる訳です。それは安易なハウ・ツーとは違う。生き方の問題。瞬間瞬間の判断の積み重ね。アスリート人生は短いし、それと同様に、やっぱり人生って短いと思うんですよ。そこでやれること、やれる時間て、実は物凄く限られている。ビジネスもそうですよね。瞬間瞬間の判断で、４年後くらいに出る結果に、物凄く大きな差がついている。オーサーの採点競技を知り尽くした、優れたコミュニケーション術で、一見、当たりの柔らかい、感動的な著書になっていますが、中身は物凄く怖い。相当、厳しいことが書かれています。しかし、その辺に乱造されているテキトーなビジネス本を１０冊読むくらいなら、「チーム・ブライアン」を熟読した方が、何倍も得られるものが大きいと思います！！
23Dec
- 「その女アレックス」を読みました。
  その女アレックス (文春文庫)/ピエールルメートル￥929Amazon.co.jp史上初、ミステリ系ランキングの６冠に輝いた、ピエール・ルメートル作「その女アレックス」。帯の宣伝文句は「あなたの予想は全て裏切られる」ですよ。いやいやいやいや～。期待値高め過ぎでしょ。と思いきや。高まった期待値を軽々超えていく面白さでした。以下、この本のレビューでは禁句とされている「ネタばれ」行きます。まだ読んでないとゆうミステリ好きの皆さん、読み終わったらSEE　YOU　AGAIN！以下ネタばれ。↓↓↓ネタばれだぞう～。↓↓↓（＾＾）↓↓↓もういいかな？さて、「その女アレックス」とは、アレックスという契約看護師をやっている３０歳の美しい女性が、突然何者かに誘拐・監禁され、「お前の死ぬところを見ていたい」という犯人から、なぶり殺しにされそう・・・になるシークエンスから始まります。犯人は誰？被害者のアレックスとは何者？警察と一緒に、読者は考える訳ですね当然。しかし警察と一緒で、謎が解けぬまま、まさかのアレックス自力脱出。ここまでの下りで、爽快感はハンパない訳です。しかし分からぬ、なぜにアレックスはこんな目に遭うのか？本人はうっすら分かっている風であるが・・・んで、読者と警察がぼやっとしている間に、アレックスは、誘拐・監禁で途中下車させられてたある計画に、行動を戻していく訳です。その行動のおぞましさたるや。その行動とは、ターゲットの男を誘惑し、ベッドイン直前のいい～ところで、男の頭を近くの什器で殴り、ぼこぼこに殴り、最終的に、喉に硫酸を流しこんで、顔の下半分を溶けさせて殺していくのです。それも一人ではなく次々と。男だけでなく女性も殺す。無差別殺人かどうかも読者にはよく分からない。アレックスがただ冷静に、予定をこなすように迷いなく殺人をしていくのをただただ茫然と活字で追う訳です。警察と一緒に。で、最終的に、アレックスは自殺します。ホテルの一室で、さまざまな仕掛けを施しながら。なぜアレックスは、シリアルキラーになったのか？そこのところの謎が、最後の最後に解けたとき、警察はアレックス殺人容疑で、ある男を逮捕します。アレックスは自殺だと分かっていながら、彼女の自作自演に付き合う訳です。このラストが、この小説の斬新さなんだと思います。というのもですね、私としては、アレックスの過去話が明らかになるにつれ、アレックスよお前もか状態で、ちょっと醒めてきてしまったんですね。アレックスは、義兄に性的虐待され、母親からはネグレクトされて育ってきた子だった訳です。この手の「子供のころ性的虐待をされたりされそうになったりで、それがきっかけで人を殺すようになった彼女ないし彼氏」という設定、いっときものすご～く流行りましたよね。流行りというには不謹慎な設定ですが、実際「永遠の仔」だったり「ドラゴンタトゥーの女」だったり、「白夜行」だったり、姉妹編にはいとまがない。で、たぶん女性には多いと思うけど、私も「それをミステリのWhy　done　it？にするなよ・・・」と思う派だったんです。でもね、「その女アレックス」を読んで。彼女は復讐をする訳です、自分を痛めつけてきた兄、兄に斡旋されて自分を凌辱した人々、周囲のネグレクトしてきた大人たちに。で、自分を殺した犯人に兄をしたてあげて、自殺する訳です。・・・で、散々読者と頭の行動を共にしてきた警察は、アレックスの狂言＝フィクションを、採用する訳ですよ。アレックスがわざと殺人犯にしたてあげた兄を、ウソと分かっていながら逮捕する。それは現実の警察組織にはありえないことで。フィクションのなかの、読者と寄り添ってきた警察だからこそ、成り立つ訳で。作者は高らかに宣言する訳ですな、「これはフィクションです、故にフィクションの中での論理を採択します」と。更に言うと、これを読む前は、「血縁から性的虐待されてきた娘」という設定が、ドラマチックかつ被害者は万人から同情され、犯人は満場一致のクソ野郎という絶対悪を安易に生みだすお手軽設定にしか思えなかったんです、正直言うと。しかし「アレックス」を読んでいて思った、「血縁から性的虐待されてきた娘」という設定は、この世の女性嫌悪、男尊女卑全てを包括するメタファーなんだと。結局、女性蔑視をしている大人というのは、自分の血縁の娘それ自体を直接的に差別していなくても、「誰かの娘」を差別している訳ですよね。それはつまり、自分の血縁の娘を間接的に差別していることと等しい。更に平たく言うと、自分の娘を虐待していることに等しい。とう意味で、「アレックス」は、全ての女性を代表している「女性」のメタファーであり、全ての「被害者」のメタファーでもある。更に凄いのは、この「被害者」は、生きることをあきらめない訳です。「復讐」、それも自分の忸怩たる思いを昇華するために生きようとする。それが最終的に、加害者を「殺人犯」に仕立て上げるために自ら死ぬ、という行為に結実する。それ自体はミステリの真骨頂というか、「お話」な訳です。が、「アレックス」の作者は、その「お話」の落とし前として、「お話」の中の警察に被害者の味方をさせ、加害者をきっちり逮捕させる訳ですよ。そこまでやるからこそ、この設定を敢えて使う意味があると思いました。なもんで、このラストは、極めて真っ当というか、この設定でミステリを描き進めるに実に誠実な決着だな、と感心しました。読み終わったあと、不思議と「まだ読んでいたかった・・・」という気を起させる小説です。アレックスの内面描写が極めて表層的なので、最後まで読者はストレートに彼女の感情を「読む」ことが出来ないんですね。それもまた、この作品を深くしているな、と。いやいやいや～盛大にネタばれしてしまいましたが、物凄く面白い小説ですよこれは。コレから読む方が羨ましいですよね、既読の皆さん！
14Dec
- 米澤穂信「満願」を読みました。
  満願/米澤穂信￥1,728Amazon.co.jp米澤さん、やりましたね。今年の「このミス　宝島社」「週刊文春ミステリーベスト１０」「ミステリが読みたい！早川書房」の３冠獲得されたのが、この作品です。「満願」は６編からなる短編集。新潮社の「儚い羊たちの祝宴」を読ませて頂いたことありますが、なかなか筆力ある作家さんです（上からですみません）。時代物まで描ける筆力、トリック、人間性の描写、メジャー性、いずれも中の上の安定感（これまた上から・・・）という印象。正直、「満願」が３冠・・・？と言う気もしましたが、バランスもよく粒ぞろいの６編だったので、ミステリ好きをがっかりさせることはまず無い、というクオリティが評価されたのかと（懲りずに上から）。表題作の「満願」は、確かによく出来ておる。「Why　done　it？」のミステリ構造ですが、Whyが最後に思いもよらぬ方向にひっくり返される面白さがあります。ワタクシ的には、１作目の「夜警」が面白かった。これも「Why　done　it？」なんですが、登場人物の「人間性」にフォーカスを当て、斬新な「why？」を作っていると思います。こういう「why？」って余り読んだことがないという印象。「万灯」は、バングラディッシュが舞台の商社マンのお話。これ、たぶん私、雑誌掲載時に読んだことがあったかな。舞台設定の面白さとトリックの作り方が現代的。すごく面白かった。「柘榴」はちょっと凡庸かな？しかし筆力の高さはよく伝わって来る作品でした。「死人宿」はトリックがやや強引かな・・・。「関守」、コレは面白かった！伊豆・箱根に行くのが怖い！ありそう！という訳でこのミス１位は期待を裏切らないことこの上ないです。納得のブランド力。ワタクシ的には、「このミス」に連城作品が２作もランクインしてた上に、オールタイムベスト・ミステリ短編１位が「戻り川心中」だったことに、禿同！！つうかなぜ今まで読んで無かったんだ！！そこのお若いの、今すぐ連城作品をお読みなされ、出来れば新刊で、なぜならこのままでは絶版になってしまうからすぐ反応して！・・・という万感の思いでいっぱいです。
07Dec
- 連城三紀彦「夜よ鼠たちのために」を読みました。
  夜よ鼠たちのために (宝島社文庫)Amazon（アマゾン）68〜2,781円連城さんの1986年刊行、割りと初期の短編集が、今年、宝島文庫より復刊されました。連城祭りなんでもちろん読んでみる。いやこれ…面白かったわ…特に一編目の、「ふたつの顔」がものごっつい面白かった。連城さんにしてはシンプルな筋。なんですけれども、ラストまでに繰り返されるどんでん返し。ほんと凄い。あらすじを纏めるのも大変なんですけど。著名な画家の男が、自宅でシャワーを浴びている。と、電話が鳴る。相手は警察で、「新宿のホテルで、あなたの奥さんと思われる死体が見つかった。確認に来て欲しい」と。画家は困惑する。「本当に妻ですか？」なぜなら、ついさっき、画家は自宅で妻を撲殺し、庭に埋めた所だった。シャワーを浴びてたのは、身体についた血や土を洗い流していたのだ…この話の帰結がまさかこんな所に着地するとは。ってラストです。海外の暗黒ミステリを読んでいるかのような独特な文体。主人公が画家って言うのもポイント。このクオリティで一話目…。で、表題作の「夜よ鼠たちのために」ですが、超絶技巧過ぎてこんがらがりました。こんがらがりながらも、ああこういう事か…と納得したと同時にどんでん返し。そうかそういう事か…と改めて納得したと思ったら更にどんでん返し。わたくしの単純な頭には難易度高過ぎました。しかしよくこんな話思いつくよなあ。この二編以外も相当クオリティ高くもちろん面白かったんですが、どれもわずか40～50ページ足らずの短編なんですよ。それなのに、ラストまでに繰り返されるどんでん返し。それも無理矢理じゃなく、連城さんの文体マジックなのか、読まされちゃうんですよ… これ、試しに同じ筋を違う人が違う文体で、トリビュート的に書いてみたら、もの凄いグロテスクな小説になるよーな気がする。まあそんな酔狂な事は誰もしないが。とにかく楽しませて貰った一冊でした。ホントに凄く面白いので、たくさんの方に読んで貰いたいです。んで連城さんの読者会やって語り尽くしたい。それくらい面白いです。読めば読むほど、連城作品へのLOVEが溢れ、未読作品への思慕にぞもの狂をしけれな状態です。まだ未読作品が手元にふたつある！やった‼
30Nov
- 連城三紀彦「恋文・私の叔父さん」を読みました。
  恋文・私の叔父さん (新潮文庫)Amazon（アマゾン）1〜3,800円連城三紀彦祭り開催中につき、いろいろ読ませて頂いておりますが。連城さんの作品は、圧倒的に短編が面白いな‼中でも、どちらも映像化されている新潮文庫の「恋文・私の叔父さん」は、ホント出色の出来(上からですみません)。いずれもジャンルとしては恋愛小説なんでしょうな。だがしかし、連城さんの作品は、恋愛を語りながら、必ずサスペンス的仕掛けがあるというか、それも本編のテーマと一体化したトリックなんですよ。そこが凄い面白い。「恋文」は、かつて映画化もされ連ドラ化もされた、直木賞受賞の有名作ですね。あらすじはですね。小学生の息子がいる共働きの夫婦。旦那は一つ年下の美術教師。妻は編集者。ある日、旦那が、仕事も辞め忽然と行方不明になる。一通の置き手紙を息子が見つける。それは旦那のかつての恋人から旦那にあてた手紙だった。彼女は末期癌で身よりがいない、貴方が良ければ、一緒に暮らしたい…と書かれてあった。旦那は独身と偽り、彼女を看取りたいという。呆れながらも、一度言い出したら聞かない子供みたいな旦那だから、渋々許す妻。やがて旦那は、本当に彼女と籍を入れたいから、離婚して欲しいと妻に言う…これだけ読むと、ナルシストなアホ亭主に翻弄される妻と息子、って感じなんですが、連城さんの文章を読むと、この旦那がもの凄くいい男に見えて来るんですよ。妻の方も、この男だから、元恋人は連絡して来たんだな、とヒシヒシと思う。そして自分も、こんなすっとこどっこいな旦那に頼らずとも生きて行ける自立した状態だけれども、死期迫った元恋人の為に仕事も家族も捨てて、スーパーのレジ打ちやって病院に通う旦那を、切り捨てられない。だから旦那が離婚してくれ、と言ってきた時、なんてバカな事をと思いながら、旦那もそうだよな、俺バカだよな…と言いながらも、きっとこの男は、そうして欲しいんだろうなと思ってしまう。さて妻はどうするか。この夫婦のお話は、かなりな現実離れっぷりですが、私は凄く共感しました。ホントに大事なものって何？自分はどうしたい？誰かに恨まれても世間からバカにされても、愛情で行動するって事は、こういう事なのでは無いかと。夫婦ともに。かなり面白い小説でした。後味も良いです。「私の叔父さん」の方は、短編集の最後に入っていて、高橋克典さん主演で映画化もされてますね。あらすじは単純。叔父と姪の恋愛話です。が、これも一捻りあります。叔父と姪は当然ながら結ばれす、姪の方は別の人と結婚する。やがて娘一人置いて、事故死してしまう。この一人娘が、年頃になり、未婚のまま妊娠してしまう。更にあろうことか、父親は、その叔父(彼女にとっては大叔父)と言う。全く身に覚えのない叔父。とりあえず彼女のいる郷里に向かう…これ、なんて事ないメロドラマなんですけど、連城さんの文章で読むと、伏線の張り方とプロットの流れ方がすばらし過ぎて、気付いたら泣かされてました。ホントに凄いよく出来た小説だわ。私が一番ささったのは、この叔父が姪の子供に対し、ある決断をするんだけど、そのきっかけが、過去の姪とのやりとりなんですよ。姪が叔父の事を好きだという。恋していると。一生かけて本気だと。叔父は二十歳ソコソコで一生とか言うな、と姪をたしなめる。これからホントの恋をするよ、と。しかし実は叔父は姪に惹かれていた。でもホントの自分の男の気持ちより、世間体や常識を取る訳だね、当たり前だけど。で、それから20年近くたち。自分も50才近くなり、あの姪も家族を残して事故死し。今になって思う、自分は今だ20年前の姪の事が忘れられないし、その証拠に彼女の死も完全に受け入れられない。一生は長いと、若かりし自分は言ったけれども、この年になって思う、人生は短い、と。あの時、一生は長いと大人ぶって姪をたしなめた自分こそ、何も分かっていなかったのでは、と。このお話の帰結も、かなりなファンタジーですが、連城さんの書きたかった事はもの凄くよく分かる。小説の中でしか存在しないリアルな虚構。この二編以外も、かなり面白かったです。連城さんはかなりなロマンチストだなあ。しかし決して甘くないです。ラストも苦い。しかしそうなる帰結に筋が通っているんですよ。登場人物が複雑な状況で、なぜそういう行動を取るか？…の動機の部分がしっかり描き込まれ、更にそれが予想もつかない所に着地するから、意外性が半端ない。なぜこんな小説が書けるんだろう。いろいろな小説やドラマを嗜んで来ましたが、連城さんの作品て、ホント凄いわ…私好みの面白さが凝縮されている。今読んでも十分新鮮だと思うんだがなぁ。まだまだ祭りは続きます。多作な方だったのが救い(^^)
24Nov
- 「連城三紀彦レジェンド・傑作ミステリー集」
  連城三紀彦レジェンド傑作ミステリー集 (講談社文庫)Amazon（アマゾン）1〜3,455円連城三紀彦さんとは、1948年生まれで2013年逝去された、ミステリーや恋愛小説を数多く執筆された作家さんです。お名前は知ってましたが、作品は未読。作家さんにファンが多い通好みの作家さん、というイメージ。男女のドロドロを描いているという印象も強い。それが今回、綾辻行人、伊坂幸太郎、小野不由美、米澤穂信という、ミステリー会のそうそうたる作家さんたちが.マイベスト連城作品を持ち寄って選集を作ったという。連城三紀彦さん本人よりも、選者の作家さんの名前に惹かれて手に取ったのですが。連城さんの作品…おも…おも…おも…おもしろい ‼選者さん達の作品よりめちゃくちゃ面白い。ミステリーの腑に落ちる爽快感と、物語の情感が、何とも言えない一体感で融合していて、完成度が半端ない。物語の動線となる伏線を論理に破綻なく張り巡らし、読者に違和感を抱かせず、物語の世界観に閉じ込める流麗かつ正確な文体。いよいよクライマックスが来たかと思いきや、二転三転あらたな波が起きる翻弄感。あらゆる伏線の意味が、一度目と全く違った意味で腑に落ちてくる気持ち良さ。その流れが、論理が正確であればあるほど、何とも言えない切なさで彩られて小説になっている訳ですよ。技巧的であればあるほど、人間の業が浮かび上がってくると言いますか。ものすごくよく出来ている。よく出来たものは、人を感動させる。フィクションを愛する人は、どこかで現実だけでは満足できず、人の手の入ったものを偏愛してしまう癖があると思うのです。そういうフィクション愛好家さんにとって、抗えない魅力があると思う、連城さんの作品は。いわゆる伏線があって回収して…の大衆小説のセオリーに極めて忠実に作られており、そういう意味では、連城さんの作品は、今の最先端の芸術小説とは真逆のベクトルなんですが。そこがエンタテインメントとしてこの上なく魅力的で、逆に新鮮ささえ感じました。私が小説とかドラマとか、創作物に求めるものがかなりの濃度で詰まっていて、すこぶる面白かった。そして連城三紀彦祭りの火ぶたが切って落とされておりますワタクシの活字愛好生活のど真ん中に。