ひとりでも多くの人に、読んでもらいたい。
1968年カリフォルニア州ランカスター。
手品が好きな手先の器用な少年ジムは、街の手品ショップで、ルースという初老の女性と出会う。
ジムの父親はアル中で無職でDV癖があった。
母親はそんな夫に支配され、鬱病でたびたび自殺未遂していた。
兄は賢かったがゲイである事に悩み、引きこもりだった(のちにHIVで亡くなった)。
姉は早く結婚し家を出たが、免疫不全と肥満が原因で早逝した。
ジムは虐待されてきた子供で、いつも何かに怯え、怒り、父親が暴れない事と母親が自殺未遂しない事を願って、日々を過ごしていた。
店にいたルースは、ジムの事情は何一つ知らなかったが、彼にある提案をする。
「これから6週間、毎日ここに来たら、願いが何でも叶うマジックを教えてあげる。」
この人怪しい…と思いながらも、虐待されネグレクトもされていたジムは、誕生日とクリスマスがいっぺんに来たみたいな気持ちになり、いそいそとルースの元に通うのだった。
長い導入で申し訳ない。
こんな出だしで始まるこの長い物語は、全米イチと言われるスタンフォード大学の脳外科医である作者の実話です。
この物語には、人が本を読む目的の全部が詰まってる。
不幸な生まれの少年がアメリカンドリームを達成し、しかもそれは同時代を生きる個人の実話で、人生を物質的な成功に導く秘密が赤裸々に語られたかと思うと、バブルが弾け全てをなくし、やがて、人生は本当の幸せを探す旅だったという深い気づきが訪れる。
冒頭のルースのマジックは、「本当の幸せ」を生み出す為に、誰もが使える魔法だった。
被虐待児だった作者が、子供の頃に感じた深い悲しみ。
子供が望むような愛し方が出来ない大人がいる。
人生を上手く生きられない障害(敢えて言うと)から、依存症や病気になる親は普通にいる。
子供は生育環境を自分で選べない。
いわゆる親ガチャ。
だけど子供は、その環境にいるのは自分のせいと思いながら成長し、虐待する親には、いびつだけど自分への愛がある事も分かっている。
だから尚更、深く傷つく。
…ここで私は号泣しました。
問題を抱えた親を持つ子供の気持ちを、こんなに的確に表した文章を読んだのは初めてかも。
ルースに生きる魔法を教わった作者は、家族と離れ、医学部に進み、最難関の脳医学科に進み、医者として大成功する。
医療系スタートアップ会社に出資・経営し、何十億万長者になる。
様々な会社経営に関わるも、ある日テックバブルが弾けて無一文になり、更に負債も抱え、離婚し家族もなくし、ゼロベースどころかマイナスに戻ってしまう。
…で、作者は、彼がずっと座右の銘にしていたルースの教えを全くやっていなかった事に気づき、故郷を再訪する。
そして、ルースの教えのある一つのステップを、自分が全く理解していなかった事に気付く。
ここに最大の人生の魔法があったようだ(焦らしプレイ…)。
で、それをやりだしたら、ジムはある地域医療センターを立ち上げる仕事に呼ばれ、最終的にスタンフォード大学の脳神経外科の教授になり、人の利他性と脳神経の関係を解き明かす研究機関を立ち上げ、講演に呼んだダライラマに見込まれ、今やダライラマ財団の理事長も勤めている。
そ、その魔法って何よ?
これはネタばれしたところで、意味がない。
魔法の様で、自己啓発本やらスピリチュアルセミナーやら誰かの座右の銘やら古今東西の伝承話やらに、幾らでも書いてあるような、ありきたりのこと。
でも、それをこんなにも深く腹落ちさせてくれたのは、この本が初めてかもしれない。
悲惨な子供時代から、人を助けたいと医者になり、その志と反比例するように傲慢になり、全てをなくしたとき。
手元に奇跡的に残った会社資産を、作者は全て寄付してしまいます。
自分には医者が出来るし、医者をやればいい、と。
そこから彼は、本当の幸せを探す旅に出る。
銀河鉄道に乗ったジョバンニとカンパネルラも、本当の幸せを探す旅に出てましたね。
何だろう、今のコロナ禍はもちろん、あらゆる不安や恐れ、劣等感や優越感、攻撃性や無関心。
そういうマイナスな感情に、対抗できる、ただ一つのこと。
自分自身も問題を抱えていたルースは、なぜ赤の他人の自分(作者)に、人生の魔法を教えたのだろう?
いくらたくさん持っていても、何も与えない大人が大半なのに。
作者がルースの魔法を実践してきて、
最後にその答えに行き着く。
涙…
平たく言うと、「愛」なんですけども。
その具体性、
何を愛と呼ぶのか、
どう言う状態を愛と呼ぶのか。
そこが深く納得できる。
得難い読書体験でした。
酢いも甘いも噛み分けた大人に、特にオススメです。
