宮崎駿監督「君たちはどう生きるか」の個人的な感想です。


以下、ネタバレあります



↓ 



主人公の父は再婚した。


再婚相手は、亡くなった母の妹。


新しい母のお腹には、赤ちゃんがいる。


うとましく思われているのを感じる主人公。


新しい母は優しく、そんなことは言わないけれど…


父は社長で家は裕福。


田舎に転校して、目立つ存在の主人公はイジメられる。


格差。


嫉妬。


争い。


血と金の世界。


それが生。


アオサギと共に行った世界は、死の世界。


そこには、亡くなった母が若い姿でいた。


この世に生まれる卵を鳥たちから守っている。


鳥たちは、おかしな存在。


人を食べようとする。


死の世界の支配者は、狂人と言われた父の兄弟。


積み木をつみあげ、世界のバランスを保っていた。


そのバランスが崩れようとしている。


死の世界は、夢のよう。


おかしな鳥たちがいて、おばあちゃんも若返り、変な世界。


力の無いものは、食べられる。


力あるものが、力の無いものを助けていく。


虚栄に満ちた生の世界。


力が支配する死の世界。


主人公は、積み木をつみあげ、世界のバランスをとる者に成ることを拒否した。


世界は崩壊していく。


主人公は、生の世界へ戻る。


金と欲が渦まく、偽りの命。


そこで友を探し、生きていくと。


君たちはどう生きるか?


あなたなら、なんと答えるだろうか?


生の世界も、死の世界も、おそらく、ゴールではない。


生と死を繰り返すのは輪廻。


その先にあるものは、涅槃寂静。


カオスの中で、友と共に生きていく。


そこに、答えがあるから。

ASD(自閉スペクトラム症)のアスは、お菓子工場で働いている。

夢の中の神様とのホットライン。

神様はなんでもお見通しだから、アスは子供が母親に身をゆだねるように素直になる。

アスは、安心して、心が広がっていく。

神様は言った。

「来たものを素直に受け取って、素直に返してください。余計なことは考えなくていいです。それが最短だから」

神様とのお話は、物語のようだ。

言葉の奥に無意識が働いている。

その日は、朝から体調が悪かった。

アスは春が近づくと調子を崩す。

暖かくなったり、寒くなったり、気温の変化に頭がついていかない。

家庭の悩み事も抱えていた。

キャパを超えて、こんがらがる頭。

タイラに注意された時、もう限界だと思った。

「タイラさん、調子悪いんで、帰らせてください」

タイラは、こいつ、帰るのか、という顔をした。

「たしかに、調子悪そうですね。倒れられると困るから、早退してください」

アスは、もう少しやってから帰ることにした。

タイラは言った。

「アスさん、いいですよ、帰ってください。調子悪いのにフラフラやられても困ります」

タイラは、アスの顔をまじまじと見た。

「うん、顔色は悪い」

アスは早退した。

次の日、アスは元気になって、タイラに挨拶した。

元気そうなアスの顔を見て、タイラはパッと笑顔になった。

「タイラさん、昨日はありがとうございました。お陰様で元気になりました」

「そう、良かったですね。でも、俺の経験だと、その元気の良さは、昨日の調子悪さはただの寝不足じゃないですか」

タイラは怪しんだ。

「そんなくらいで帰るんですね。俺ならそれくらいで帰らないですよ」

タイラは心配した分、腹が立ってしまった。

タイラはアスを無視しようと思った。

アスは、タイラが話しかけてくれないので寂しく思った。

アスは、タイラに注意された。

アスは、嬉しくて、ニヤニヤしてしまう。

それを見たタイラは激怒した。

「なんで注意してるのに、ニヤニヤしてるんですか! 舐めてるのか!」

タイラは、会社をクビになってもいいから、アスを殴りたいと思った。

アスは一生懸命、あやまる。

「ニヤニヤして、すみませんでした!」

タイラは言う。

「話しかけられて、嬉しかったんですよね! 今も、ニヤニヤしてるじゃないですか!」

アスは、タイラが怒ってるのか、冗談を言っているのかわからなかったが、とりあえず、一生懸命、あやまった。

タイラは、話しかけてくれなくなった。

いつも2人でロッカーまで歩くのに、タイラは一人でさっさと行ってしまった。

アスは、悲しかった。

これなら叱られたほうがマシだ。

無視が一番つらい。

ロッカーですれ違わないように、アスは、時間をかけて、ゆっくり歩いた。

クリーニングされた制服の中から、自分の制服を選んでいる時、タイラとすれ違った。

アスは見ないようにした。

タイラは、なんだこいつ、と思った。

先入れ先出しとは、古いものから順番に使い、なるべく使用期限を切らせないようにすること。

アスは、基本中の基本の先入れ先出しを間違えてしまった。

タイラはアスに注意する。

「俺はもうアスさんのことキライになりかけてるから。こんなことも言いたくないんだけど、でも、言わないといけないから言うしかない」

アスは神妙な表情で聞いていた。

タイラはアスのマスクをとる。

「ニヤニヤしてるし。口を見なくても目を見たらわかるよ」

タイラが柔らかくなっていた。

アスは言った。

「話しかけられて嬉しいです。昨日は無視されて、ホントにつらかったです」

タイラは、アスに可哀想なことをしたと思った。

トイレ交代に行く時、アスはタイラに言った。

「トイレ交代に行ってきます」

タイラは言った。

「もっと大きな声で!」

「トイレ交代、行ってきます!」

アスはニヤニヤしていた。

「俺のこと、ホントに好きなんだな」

アスは「怒ってない?」と聞いた。

「もう怒ってないよ」とタイラは言った。

仕事が終わり、2人でくだらない話をしながら、ロッカーまで歩いた。

#ASD 
昔々、あるところに3人の天使がいた。

ヨロコビ、カナシミ、ヨクボウの3人の天使は、ユウシャにくっついていた。

ユウシャは、魔王と戦う英雄だった。

戦いは強いのだが、女心がわからなかった。

ユウシャは、おつきあいしていた姫にフラレた。

傷心のユウシャ。

ヨロコビが、見かねてキラキラビームを出した。

しかし、ユウシャの落ち込みがひどくてビームが効かなかった。

カナシミは、ユウシャを反省させた。

ユウシャは、頭の中で過去の失敗ばかりがグルグル回った。

ヨクボウは、欲望を持たせた。

ユウシャは、願いが叶わなくて、空っぽの心に暗闇が入り込んできた。

3人の天使は困った。

ユウシャは、光に閉ざされた暗闇の迷宮にいるようだった。

その時、アイが加勢した。

アイは言う。

……ユウシャに愛を与えよー💖

ユウシャの心がゆっくり目覚めた。

……そうだ。俺は自分のことばかり。姫の気持ちをまったく考えていなかった。姫のことが見えていなかったんだ。

反省がアップデートを開始した。

欲望が姫を【大事にする】気持ちをインストールした。

ヨロコビは言う。

……よーし、今度こそ、キラキラビーム🌟

ユウシャの心は、冬のお布団のような心地よさで包まれた。

暗闇の迷宮に光が差した。

明るくなって見えたのは、姫の姿だった。

ユウシャは、姫に言う。

「姫、今までごめん。貴女のために生きていくことを忘れていた。これから俺は、貴女の願いを叶えるために生きる」

ユウシャは、姫のために美しい花を探した。

秘境にしか咲かない希少な花。

ユウシャは、ボロボロになって花を持ってきた。

姫は言う。

「花で私の心は動かない。でも、そんなにしてまで持ってきてくれた貴方の気持ちは嬉しい」

ユウシャと姫は仲直りした。

ヨロコビとカナシミとヨクボウとアイは、一緒に喜んだ。

これは、幸せなコラボ。

4人の天使は、ユウシャの中でスクエアを描いた。
昔々、あるところにヨロコビとカナシミがいた。

ヨロコビとカナシミは、天使だった。

2人は、ユウシャにくっついていた。

ある日、ユウシャは、魔王に負けてしまった。

村人たちを助けられなかった。

カナシミは言う。

……よーし、反省させて、輝かせるぞ。

ユウシャは悲しんだ。

いつもなら、悲しみを喜ぶのに、今回は喜べなかった。

……村人たちを助けられなかった。俺が、弱いせいで。

ユウシャの頭の中で、反省がグルグルめぐって出口を見つけられなかった。

その時、ヨクボウが加勢した。

ヨクボウは言う。

……ユウシャがつらそうだから、手伝ってあげようか。

ユウシャは、欲望を持った。

ユウシャの欲望は【新しい景色】を見ることだった。

……今回は負けてしまった。村人たち、ごめんよ。でも、次は負けない。今度こそ、新しい景色を見るんだ。

迷子になっていた反省がサーバーとつながってアップデートが始まった。

ユウシャは、パワーアップした。

ヨロコビは言う。

……今回は特別、キラキラビームだよ🌟

ユウシャは朝日のように希望に満ちて輝いた。

ユウシャは、魔王に再び挑戦して、勝った。

感謝する村人たち。

カナシミとヨクボウとヨロコビは、一緒に喜んだ。

これは、幸せなコラボ。

3人の天使は、ユウシャの中でトライアングルを描いた。
昔々、あるところにヨロコビとカナシミがいた。

ヨロコビは、みんなを楽しませた。

カナシミは、みんなを悲しませた。

2人は会う。

ヨロコビは、幸せそうな天使だった。

カナシミは、気の毒な、しかし、それでも天使だった。

カナシミはヨロコビに元気なく言う。

……なんだか、つらいことばかり。どうして君はそんなに楽しそうなの?

ヨロコビは、当たり前のような顔をして言う。

……だって、みんな輝いていているからさ。くすんでいたって、僕はがんばって、輝かせるんだ。

カナシミも、みんなを輝かせようとした。

……よーし、どんどん、どん底へ落として、反省させるんだ。反省こそが、幸せへの道だからね。

カナシミは、考え方が、少し、おかしかった。

珍しいユウシャがいた。

ユウシャは、カナシミにどん底へ落とされるたびに喜んだ。

……ラッキー、また、失敗した。これで反省できるぞ。みんな勘違いしてるけど、反省はアップデートなんだ。これでまた攻略が進むぞ。

一方、ヨロコビもユウシャに近づいた。

……よーし、輝かせてやれ。

ユウシャは、逆境に負けず、反省して向上し、輝きを増して、どんどん自己ベスト記録を更新していった。

カナシミは、ヨロコビと一緒に喜んだ。

これは、幸せなコラボ。

こういうケースは、わりとレアである。
ASD(自閉スペクトラム症)のアスは、お菓子工場で働いている。

アスは、生産終了後、ポンプから配管をとって、片付ける作業を習った。

「わかりました?」

タイラに聞かれた時、アスは「はい」と答えた。

しかし、実際にやってみると、やり方が全然、違う。

手順やポイントを間違え、ポンプまわりをチョコだらけにした。

タイラは、がっかりして、注意する。

「こんなやり方を教えましたか? 自己流をやるなら、習った基本がしっかりできるようになってからにしてください」

アスは、自信なさげに言う。

「はい、わかりました。教えられたとおりにやります」

タイラは思う。

……やります、やります、と言って、全然、やらないじゃないか。口だけだ。

「掃除は、誰が、するんですか? 自分でやらないで、人にさせますよね? そういうところですよ」

タイラは、仕事が終わってから、アスが汚したポンプまわりを一生懸命、掃除する。

アスは、無言で掃除してくれるタイラを見て、感謝を言わなくてはと思った。

「タイラさん、ありがとうございます。次から、汚さないように、教えられたように、ちゃんと、しますから」

タイラの胸にアスの心が響いた。

「アスさん、まず、言われたことを言われたようにやってください。話をしっかり聞くんですよ」

響かないように見えるアスにも、少しずつ響いているんだとタイラは思った。

アスは夢の中で神様に会った。

神様はどうにかして、アスを一人前にしようと、伝わらない、理解が遅い、でも、真面目なアスに仕事のコツを試行錯誤して教えようとした。

神様も困っていた。

なんで、こんなに当たり前のことができないんだろう。

神様は言う。

「仕事の流れをイメージしてください」

アスは、神様の気持ちに応えなくてはと思った。

生産終了後の後片付け。

普通の人が25分で終わるところ、アスは、40分かかっていた。

タイラは面白くない。

「アスさんは、ゆっくりやって、人にみんなやらせて。楽でいいですよね」

アスは、叱られながら、早くしようと一生懸命、片付けた。

タイラは、アスの仕事が雑で、あちこちに不備を見つけた。

「急いで適当な仕事をするのは無しですよ。きれいにして、そして、時間を縮めていくんです」

アスは、急げばいいのか、きれいにすればいいのかわからず、パニックになった。

神様の言葉を思い出した。

仕事の流れをイメージする…

生産中、最後の片付けの流れをイメージした。

ここをこうして、次にこうして、その次は……

だんだん、片付けのスピードが速くなり、時間が短縮できてきた。

ついに、みんなと同じように25分でできた。

アスは、喜ぶ。

「タイラさん、25分でできました」

タイラは満足しない。

「時間はいいから、きれいにするようにしてください。きれいに、ですよ」

アスは、元気よく言う。

「はい」

満面の笑顔で。

タイラは、アスが仕事に満足していて危ないと思った。

「すぐ調子に乗るんだから。これくらいじゃ、まだまだですよ」

タイラは思った。

……だんだん、使えるようになってきた。

アスとタイラが2人で並んで歩く姿は、楽しそうで、仲が良さそうに見えるのだった。
ASD(自閉スペクトラム症)のアスは、お菓子工場で働いている。

夢の中で神様に会った。

神様は関西弁。語尾の「やん」という響きが可愛くて、アスは心を奪われる。

神様は言う。

「怒りは、溜め込んだ想いを伝えているから、何を伝えたいのかしっかり聞いてください」

神様の声は、アスの体の奥の魂にまでよく響く。

工場で、先輩のタイラは、今日も注意する。

「アスさん、俺の言う事を半分も聞いてないでしょう。そのくせ、自分勝手なことはするし。言われた事を言われたようにしてください」

アスは、硬直した姿勢で、一生懸命、言う。

「はい、わかりました。やります」

アスはタンクから油をくんだ。

タンクに残った油は、最後に仮取りしなければいけない。

アスは、残った油が5キロくらいだから、3つのミキサーに分けて入れてしまおうと思った。

なぜ、相談しないのか?

なぜ、自分勝手な判断をするのか?

アスは、暴走した。

何かに囚われたように。

「わからないことがあれば、相談してくださいね」

タイラは注意していたのに。

次の日、アスはタイラに油はどうしたのか聞かれた。

アスは、その声の響きに、まずいことをしたと思いながら答える。

「3つに分けて、ミキサーに入れました」

タイラは、がっくりとうなだれた。

「アスさん、配合指示書って、知ってます? 油の量はちゃんと決められているんですよ。なぜ、適当なことをするんですか? 本当ならライン長に言って、全部、抜かないといけないくらいのことですよ」

アスは一生懸命、繰り返す。

「すみませんでした」

ただ、謝ればいいと思っているようだった。

その場をしのげればいい。

会社や生産への影響は考えていなかった。

タイラはストレスで胃が痛くなった。

「暴走はしないでください。わからなかったら、聞いてください。何度、言ったらわかるんですか」

タイラは、ストレスが凄すぎて、体調が悪くなり、会社を早退した。

病院へ行ったら、医師から胃に穴が空きかけていると言われた。


機械が動いているときは、手を出さない。


労働災害防止のための鉄則。

タイラから、機械は止めてから、作業するように注意されていた。

作業終了間近、機械が動いているのに、アスは、手を出していた。

タイラは怒る。

「アスさん、手を出したらダメでしょう。指が無くなりますよ。今までも機械を止めてなかったんですか」

アスは必死に言う。

「機械は止めて、作業していました」

タイラは思った。

……こいつ、ウソついてる。今まで、機械を止めないで、作業を繰り返していたんだ。

タイラが問い詰めると、アスは白状した。

「機械を止めないで、作業していました」

タイラは、壁をドンと叩き、目に炎が宿ったように怒った。

「事故が起きたら、俺らのせいになるんですよ。面倒くさい決まりが増えるんですよ。そしたら、みんなここをアスさんにやってもらいますからね」

アスはタイラの怒りが伝えるものをしっかり聞こうとした。

溜め込んだストレス。

事故が起きたら、アスの指が失くなってしまうかもしれないことへの心配。

話しても話しても、ちゃんと聞いてくれない悲しみ。

アスは何度も頭を下げた。

心を振り絞るように謝った。

「すみませんでした。ちゃんと機械を止めて、作業します」

アスの胸から出たエネルギーが、タイラに届いた。

タイラは思った。

……心が動いてきた。

タイラは、ふっと笑った。

「そんなに怒ってないですよ。だけど、気をつけてくださいね」

アスはタイラを慰めるように言った。

「俺のせいでタイラさん、胃腸炎になりかけて。怒鳴られるより、心の痛みのほうがずっとつらいよね」

タイラの目は赤くなった。

アスの優しさに泣きそうになったから。

タイラは否定するように言った。

「俺のはただの寝不足だから。アスさんからのストレスは1割ぐらい」

「俺、さっき、本気で怒ったと思った?」

アスはホッとしたように話す。

「いやぁ、今回はマジでやばいことしたと思った」

雨が降って、2人の地面は、しっかりと固まる。
ASD(自閉スペクトラム症)のアスは、お菓子工場で働いている。

アスは夢の中で神様に会った。

神様は、不思議な方だ。

なんでも知っていて、迷いなく言葉を選び、心がとろけるような優しさとユーモアがある。

神様は言う。

「相手が伝えたいことを最後までしっかり聞くんですよ」

アスは、人の話を途中から聞いていない。

頭でさえぎって、自分勝手な判断をしている。

神様は、なんでもお見通しなんだ。

夢の中であらわれて、消えていく。

アスは成長したら、神様と現実でも会えるのかな、と思った。

工場での仕事は、ミスばかり。

先輩のタイラは今日も注意する。

「アスさん、掃除が汚いですよ。あれじゃ、菌が出ます。食中毒を起こしたらどうするんですか? 製品回収になったら、責任とれるんですか?」

アスは、話をしっかり聞こうとした。

掃除は責任をもって…汚れが無いかよく確認して…

また、注意される。

「言ったこと、できてないじゃないですか。さっき教えたばかりですよ」

タイラは思う。

……アスはいつも、まわりとの見えない交流を断ち切っている。

……普通は、まわりを感じて、人のことを気にかけながら、空気を共有するのに、アスには、心の中に他人がいない。

……これは何か特性を持っている。

アスがまたミスした。

もう我慢できなくなって、タイラは問い詰めた。

「なんでできないんですか、話をちゃんと聞いてるんですか」

アスは、どうしたらよいかわからず、涙目になった。

「私には障害があるんです。自閉症です。だから、いろんなことがわからないし、うまくできないんです」

カミングアウトした。

アスは、重荷から開放された気がした。

タイラは、微笑む。

「やっぱり、そうだったんですか。前にも同じような人がいたからわかりますよ」

タイラは思った。

……よく打ち明けてくれた。勇気がいっただろう。

「なんで、もっとはやく言ってくれなかったんですか? アスさんは、ここの一員ですよ。そういうことは、早めに言ってもらったほうが助かります」

アスは、タイラが伝えることをしっかり聞いていた。

すると、言葉だけでなく、心も伝わってきた。

タイラの優しさ、怒りだと思っていたのは、悲しみでもあったこと。

タイラは、怒ってばかりで怖いと思った。

でも、それは、アスに仕事をしっかりして欲しい願いであること。

言葉の裏に隠されたタイラの心。

しっかり聞くことで、アスに伝わってきた。

タイラは、しょうがないな、という顔をして言った。

「できないことも多いと思うけど、できることはしてください。できないなら、できない。そう言ってくださいね」

アスは、張り切って答えた。

「やります。頑張ります」

アスは、感謝を伝えようと思った。

「ご指導、ありがとうございます」

タイラは、意外に思った。

「なんかいつもと違う。新入社員みたいだ」

アスは笑顔になる。

「え? 新入社員みたいって何? どんな感じ?」

タイラは面倒くさそうに言う。

「うるさいな、もう、このおっさん」

気持ちが通じあう、柔らかい空気が流れた。
お菓子工場で働くアスは、40歳。

もうベテランの年齢なのに、新入社員のような仕事しかしていない。

アスは、ASD(自閉スペクトラム症)で人とのコミュニケーションが苦手。

その特性のために、いつも苦労して、そして、まわりに迷惑をかけていた。

今の工場に入って半年。

アスは、今日もミスをして叱られる。

先輩のタイラは、真剣な顔をして注意する。

「アスさん、俺よりずっと年上なのに、これは無いですよ。10歳も年下にこんなに言われて恥ずかしくないんですか」

アスは「はい」と返事はするが、どこかうわの空。

鋭いタイラは、話を聞いていないと見抜いて、さらに、強く注意する。

「なんでこんなことしたんですか? なぜ? 教えたばかりなのに」

アスは、説明できない。

目はうつろで、口は回らず、小動物のように小刻みにおかしな動きをする。

悩むアスは、神様と人生相談をしていた。

神様は言う。

「人の話を心で素直に感じてください。頭でっかちにならないで。そして、心から出た言葉を伝えてください」

相談者は神様なんだろうか?

アスにはわからない。

神様は、コミュニケーションの上達を目指して、一緒に、頑張ろうと言ってくれた。

人生相談と工場での仕事が同じ時期にはじまった。

この時から、アスの人生は回りはじめる。

アスは前へ進もうとした。

また、仕事でミスをする。

チョコレートを床にこぼしてしまった。

とろける茶色の油と砂糖とカカオマスが床を無情に汚す。

アスは一生懸命、掃除をする。

モップで何度も何度も床をふく。

もう時間がない。

次の仕事に間に合わない。

その時、仕事の手を止めて、タイラが掃除を手伝ってくれた。

「アスさん、しっかりしてくださいよ」

時間が無いのに、無言で掃除をしてくれた。

アスはタイラに感謝した。

心から伝えようと思った。

「あ、ありがとうございました」

タイラは、胸に響くものを何も感じなかった。

……言葉だけで、心が動いてないな

タイラは、アスを変えたいと思った。

心が動かないアスをまともにしてやりたいと思った。

なぜだろう?

アスは一生懸命だった。

手も足も汚くなりながら、一生懸命、仕事をしていた。

目は必死で生命力を使い尽くすような勢いだった。

タイラは思う。

……こいつ、不器用なんだよな。でも、やる気だけはあるみたいだ。

タイラは、いくら教えても仕事ができるようにならないアスにうんざりしていた。

……こんな奴、見捨てればいい。

そう思うとき、アスの笑顔を見る。

40歳のおっさんなのに、子供のような顔で笑う。

「タイラさんのこと、好きです」

……おっさんから好きだと言われるんだよ。

アスの子供のように輝く目は、荒んだタイラの心にしみるのだった。
シリウスから地球に転生したスナオは、エジプトに生まれた。

トートに特別待遇されているスナオは、同僚から目の敵にされていた。

ある日、スナオが食事をしていると、急に胸が苦しくなり倒れた。

医務室に運ばれると、トートが駆けつけてきた。

トートは、スナオの様子を見ると、顔をしかめる。

……これは強い呪いだ。私でも治せない。

スナオは、何も食べられなくなり、弱っていった。

トートはスナオを励ます。

「病気に負けない強い気持ちをもつんだ。心は奇跡を起こすから」

スナオは、息が苦しそうにうなづいた。

トートは、いくつか魔法をかけてみたがスナオを治癒できなかった。

死が確定され、スナオに迫るのを見た。

トートは寝ているスナオの手をつないだ。

「私の心がわかるか? 少し見せてあげよう」

スナオの脳内に映像が浮かんだ。

太陽は空を金色に照らし、鳥が光を漕ぐように羽ばたいていた。ナイル川はゆるやかに流れ、金色の小麦が一面に輝いていた。

そこにトートがいて、あたたかい光がスナオの胸に届いた。

スナオは胸から広がる喜びが、魂まで癒やされるのを感じた。

トートはスナオに優しく言った。

「心は、胸で感じるものだ。頭には文字しか無い。言葉にならない心を言葉にならないまま感じるんだ」

スナオは、心がわかった気がした。

「もう少し、はやく、あなたと出会いたかったです」

スナオは苦しそうにトートに言った。

「遅すぎることは無い。わかることは、変化だから。その変化は、やがて君を変える。しかし、今回はもう…」

スナオは死んだ。

スナオは最期に「ありがとう」とトートに言った。

トートは、スナオの心臓を計り、名簿にスナオの名前を記入した。

死者を悼み、魂が天に昇るまでトートはずっと見ていた。