昔々、あるところにタベンとシゼンがいた。
タベンは、おしゃべりで、言葉で世界を支配できると思った。
シゼンは、無口で、本当に必要なときだけ少し話した。
タベンは、世界を制覇しつつあった。
誰もが洪水のような言葉に呑まれ、言葉と共に暮らした。
タベンは、いい気になっていた。
シゼンは、そんなタベンを静かに見ていた。
言葉が頂点に達したかに見えたとき、言葉が上手く回らなくなっていった。
タベンは、さらに言葉を使い、崩壊を抑えようとしたが、もうコントロール不能になった。
言葉は力を失い、誰も言葉を信用しなくなった。
シゼンはタベンに言った。
……言葉の生まれる以前に、力の根源はある。
タベンは、言葉に頼るのをやめた。
シゼンのように無口になり、心を感じるようにした。
心の奥の奥に、言葉にならない何かがあった。
それは、言葉にしてはいけないものだった。
それをつかんだとき、タベンは再び、力を取り戻した。
しかし、前より、おしゃべりでは無くなった。
言葉の力を失ってしまうから。
タベンは、シゼンに言った。
……言葉は、力の半分。もう半分は、言葉にならないもの。その両方で、本物の力になる。
シゼンは、静かにうなずいた。
世界に言葉があふれることは無くなった。
光と闇があるように
静と動があるように
有ると無いとは、2つそろってバランスがとれるものだから。