1日は朝から昼になり夜になる。その間もグラデーションがあって、様々な顔を見せるんだね。人との出会いも、はじまりから終わりまで。変化に富んでいるよね。いい時も悪い時も。共に過ごせる時が、みんな幸せだよ。




大学2年の夏、沖縄へ行った。

旅行だけど、普通の旅行じゃない。

単位のかかったテストを放棄して、逃げるように沖縄へ行ったんだ。

coccoが好きで

coccoが一度は沖縄へおいでと呼びかけていた。

米軍基地があり、悲しい歴史があり、そして、海のきれいな沖縄。

夜道をトボトボ歩いていたんだ。

真っ暗な中を歩いた。

公園へ行った。

野宿しようと思った。

夜空を見上げると、さそり座が尻尾まで全部みえた。

あれがオリオンを殺したさそりかと思った。

沖縄の夜空は星がいっぱいで

満天の夜空をみていたら、悩み事なんてちっぽけに見えた。

あのときは人生に悩んでいて

進路に悩んでいて

大学をやめようと思っていた。

星は、夜空に静かに輝いていた。

あのとき、願い事はしたのかな?

幸せになりたいと、思っていたよね。

20年以上、前の若い自分。

星は見ていた。

今も見ているはず。

時空を超えて、輝く星は

子どもが3人もいて、幸せになった私を喜んでくれてるだろう。


お盆に親戚と会って、余計な一言を言っちゃったかなと思う。言葉が足りないのは許せる。でも、いらない言葉は本当にいらない。余白みたいなものが必要なんだね。必要なものは本当に必要なもの最低限に。そして、余白を




昔々、あるところにイシキとムイシキがいた。

イシキは全盛期を迎えていた。

すべてを言語化し、この世のあらゆるものをデータにした。

イシキの究極はAIだった。

イシキは神になろうとしていた。

一方、ムイシキは別次元にいた。

イシキが頑張っている姿を見ながら、ムイシキは潮目が変わる瞬間を待っていた。

イシキは言った。

「俺は今、全盛期だ。これからAIがさらに進化する。俺は神になる」

ムイシキは言った。

「イシキ。君の世界はどんどん貧しくなっている。夏の匂いをどれだけ感じた? 虫の声を最近、聞いたか? そこに何を感じた? スクリーンばかり見ているんじゃないのか?」

イシキは言い返した。

「それは昭和の世界だ。今はそんな時代ではない。クリーンで効率的でコンパクトなワンタッチの世界だ。情緒など必要ない」

ムイシキは、ため息をつくと言った。

「君の姿を見せてあげよう」

ムイシキはイシキの姿を見せた。

イシキは光るスクリーンばかり見ていた。

流れる雲、そよぐ風、季節の移り変わり

雨上がりのアスファルトから立ち昇る匂い

カラカラに乾いた喉に染み込む水の爽やかさ

春を知らせるような沈丁花の香り

それらを無視している姿が見えた。

世界はスクリーンに入っていた。

スクリーンのまわりはエアコンが効いて快適で、そこには立ち昇る匂いなど無かった。

イシキは怒った。

「スクリーンばかり見ていて何が悪い」

ムイシキは言った。

「君は大切なものを失っている。世界はデータだけでは無い。データにならないものにこそ、豊かさがあるんだ」

イシキは笑った。

「どんな豊かさだ? そんなものがあるなら、教えて欲しいものだ」

ムイシキはイシキに幼い頃の姿を見せた。

スマホもパソコンも知らない子供時代。

イシキは世界を体で感じていた。

感じることで世界と交流していた。

表面の奥にまた世界があった。

それは何重にも厚みのある世界で、深まれば深まるほど純粋さを増した。

イシキはスクリーンは表面しかあらわしていないことを悟った。

イシキは言った。

「世界はこんなにも深かったんだな。世界を貧しくさせてしまった」

ムイシキは言った。

「スクリーンを見るのを少し休んだほうがいい。胸の奥を感じるんだ。そこに扉がある」

「扉?」

「そこに別次元の世界がある。データであらわされて荒廃した世界より豊かな世界がそこにある」

イシキは胸の奥の扉を開いて、ムイシキの世界を見た。

イシキは言った。

「言葉にならない世界は、豊かだな」

ムイシキは「おかえり」と言った。

「そこは、ふるさとのようなところだよ。ずっと、辺境をさまよっていたんだ」

イシキは豊かさを取り戻した。




考えると頭が爆発しそうになる時がある。ストレスが凄い時。そんな時は、胸の奥を感じる。そこにある思いを。思いは言葉にならない。言葉にあえてしない。ただ、感じる。胸の奥にある思いから世界を見るように。ストレスの奥にある怒りや悲しみや虚しさを超えて、わかりあえる何かがそこにある




死ぬ前に飲みたいのは、仕事終わりの水かな。工場での仕事終わりに水を飲む。4時間くらい残業して、たくさん汗をかいて、疲れ切って、カラカラに乾いた喉をうるおす浄水器の水。こんなに美味しい飲み物は他に無い。生き返るような味がする。仕事はとっても疲れるけど、あの瞬間は格別





言葉を伝える時、相手はその内容に興味がないかもしれない。言葉をただ伝えるんじゃなくて、相手に伝わるように届けるのが大事なんだ。届ける相手の姿が見えてる? 相手を深く理解することは難しいけど、わかる部分が増えたら、共有できる部分も増える。伝えることと理解することは車の両輪のようだね



文章を書く時、ずっと出発点を間違っていたと思う。自分のために書いて。数字を追いかけて。でも、届ける人のことを考えてなかったよね。言葉よりも伝わるのは"思い" そこに"思い"があるかな? ウケなくても、思いがあれば、誰かの心に静かに残る文章になると思うよ




1人では生きられないという言葉がキライで、1人でも生きられる強さが欲しいと思った。でも、人間は1人で生きられるほど強くないんだね。人との関わりは毒にも薬にもなるけど、その起伏が、人生のドラマを創る。1人じゃドラマはできないんよ。結末のわからないドラマを誰かと一緒に生きていこうよ





言葉と思いは、あんぱんのパンとあんこみたい。言葉が整っていても、思いが無ければ、あんこの無いパンなんだ。あんぱんを食べたい人はパンとあんこのハーモニーを楽しみにしてる。あたたかい思いの詰まった言葉は、あんこの美味しいあんぱんみたいだよ