ゴジラ-1.0(マイナスワン)(2023)

 

※ネタバレなし

【シリーズ最大のヒット作】


長きにわたり、日本の怪獣映画史における金字塔として君臨し続け、数々のヒット作を生み出してきた「ゴジラ」シリーズ。その最新作はシリーズにおいて始めて、制作時期から時代をさかのぼり、終戦直後の混迷の日本を舞台とした異色作。しかし、本作はシリーズにおける特殊な立ち位置にありながら、アカデミー賞「視覚効果賞」受賞という快挙を成し遂げ、シリーズ最大のヒット作となりました。その成功の最大の要因は、上述した特殊な時代設定にあります。

【時代設定の意義】


近年のゴジラシリーズ、平成VSシリーズ、ミレニアムシリーズは、戦争の悲劇を象徴するゴジラを通して、戦争の記憶を「現代の」人々へ継承するという側面が大きいものでした。

映画という媒体を通して、戦争の悲劇を伝えるのは、意義深いことです。

ただ、従来型の「現代」から「過去」を振り返るタイプのストーリーテリングは、怪獣映画としては、テンポをそいでしまう側面もあります。ゴジラが象徴する「戦争の時代」、映画の舞台となってきた「現代」そこには「時間的な隔たり」があり、登場人物がゴジラの意義を理解するには、一度、意識を過去へ向けて、想いを馳せるというワンクッションが生じます。怪獣映画としてみた時、近年のゴジラシリーズが冗長性を持ってしまうのはそのような事情も要因です。

本作は「過去の戦争」を語るため、「視点を過去に置く」という画期的な方法でテンポを守ることを実現します。終戦直後を舞台とする本作において、ゴジラは「戦争の象徴」、主人公の敷島は「戦争の帰還兵」。敷島が戦争の「当事者」であるからこそ、ゴジラとの繋がりは「直接的」なものとなり、そこに、彼らを隔てる「時間的な隔たり」は存在しません。より「直接的」に反戦のメッセージを伝えることに成功しています。

観客は、帰還兵の敷島の視点を通じてゴジラを見ることで、より「当事者」としての「近い」目線で戦争の悲劇と向き合うことになります。そして、そのように直接的な作劇だからこそ、俳優陣の演技はダイレクトに観客の心を揺さぶり、反戦のメッセージは多くの観客に幅広く響くのです。

【アメリカ市場でのヒット要因】


本作はアメリカでも大ヒットを記録しました。その理由は、本作が「帰還兵の苦悩」というアメリカ社会において関心の高い題材を扱ったからだと言えます。帰還兵の抱える心の傷はアメリカにおいては社会問題として大勢が注目するものです。映画でも頻繁に扱われる題材です。

つまり、ストーリーは、アメリカ人にとってなじみ深いものです。しかし、日本的な、生物的リアリティを考慮しないダイナミックなゴジラのデザインは見慣れないものです。「なじみ深いストーリー」と「見慣れないデザイン」。「既知」と「未知」の1:1の黄金比こそアメリカ市場でのヒットの要因と言えます。

つまり、見慣れすぎたものはヒットしませんが、あまりにも新しすぎてもヒットしないということです。知ってること、知らないことが半々で初めて人の興味が惹かれる。「見慣れたミステリー」と「見慣れないポケモンデザイン」を配合して世界的にヒットさせた「名探偵ピカチュウ」と近い手法です。

「シン・ゴジラ」が日本で大ヒットを記録しつつも、アメリカ市場である程度のヒットに留まったことも、同じ理屈で説明がつきます。「シン・ゴジラ」が題材とした「日本社会の手続きの煩雑さ」は現代日本を生きる人にこそ理解できること。異なる文化圏を生きる人には、必要とされる前提知識のハードルが高く、そこに生物としての常識を超越したゴジラの存在が重なり、理解がますます難しいものとなってしまいます。「シン・ゴジラ」は確かに名作ではありましたが、上述した事情から世界市場で戦うには難しい内容であったと言えます。

【総括】

そして本作の特筆すべき点は、一切の前提知識が必要ないということです。長きに渡るシリーズの作品としては珍しいことです。そして、この一作のみでも、観客は様々な感情を抱くことでしょう。時代を遡るという、思いがけない方法を用いながらシリーズの根幹たる反戦のメッセージを浮き彫りにし、幅広い観客にリーチする。ゴジラの新作として、理想的な1作と言えるでしょう。