栄光と驀走王
今回も新東宝作品から「栄光と驀走王」(56年)である。「一寸法師」と同じ内川清一郎監督、館岡謙之助脚本だが、メインキャストにかぶりはない。
主演は田崎潤で当時42歳。 基本助演の人なのだが、この当時数本の田崎主演作が存在する。ただ本作に限っては何故田崎主演?という気がするのである。弟役が高島忠夫なのだが当時25歳。年齢設定は不明だが、まあ年の差兄弟というのもあるので、そこは良いとしても田崎は別に若く見えるわけでもないので親子役でも違和感なさそうなのである。田崎の恋人役が筑紫あけみで当時22歳、高島の相手役となるのが新東宝スターレット同期の久保菜穂子(当時23歳)なので、田崎が浮いて見えるのである。
その概要だが、警視庁交通違反係の警官野上修三(田崎)は白バイでの走りがとにかく早く、その姿に惚れ込んだモーター会社の社長伊藤(高田稔)からオートレースの選手になれと勧められたが言下に断った。修三の弟俊介(高島)は、ジャズ作曲家を夢みている。ある日、彼はアルバイト先のキャバレー・ジョーカーで、上京してきたばかりのダンサー鷹子(久保)がバンドマスター安田の毒牙にかかろうとしているのを救ったことから、クビにされた。俊介は彼女を修三の恋人よし子(筑紫)の部屋に泊めて貰うが、その鷹子の発案で、翌日から二人は盛り場の流し芸人になった。鷹子の歌に目をつけたジョー力ーの井筒(細川俊夫)は、甘言で彼女を誘い、俊介は捨てられた。ヤケ酒をあおる弟の姿に心を痛めた修三は、オートレース選手に転向し、ピアノを買ってやった。もと同僚だった四方田(丹波哲郎)を破った俊介は、次の選手権レースでチャンピオンの黒木(泉田洋志)と顔を合わせることになったが、井筒の奸策に陥り、倉庫に監禁されてしまう。だが発走間際に鷹子に救い出され、死力をつくして優勝した瞬間、もんどり打ってオートバイの下敷きとなってしまい…というよいな話だ。
40代(にしか見えない)でオートレーサーに転向というのは、かなり厳しいはずなので、それを考えてももっと若い役者の方が良かったのではと思ってしまうのだ。
泉田洋志は役者でありながら殺陣師も兼ねていた。そのきっかけとなったのが本作の監督でもある内川だったらしい。正確には不明だが、芸名を今清水基二から本作の辺りで改名したようである。
また本作にはダンサー役で前田通子も出演しているが、まだ扱いは大きくない。この三か月後に公開される「女真珠王の復讐」(56年)で、日本映画初と言われるオールヌードを披露し(後ろ姿のみ)、一躍有名となるのである。
唄祭り 江戸っ子金さん捕物帖
もう一つ、55年の新東宝作品から「唄祭り 江戸っ子金さん捕物帖」である。
タイトルでわかると思うが、名奉行遠山の金さんが主役で、演じるのは若山富三郎である。新東宝時代の若山といえば「人形佐七シリーズ」が有名だが、遠山金四郎も演じていたのである。本作の他にも「謎の紫頭巾」シリーズ(57年)というのがあり、これも中身は遠山の金さんもので若山が主演である。若山は当時26歳。前年の54年に新東宝にスカウトされたのだが、車での送り迎え付きという破格の待遇であったという。
遠山の金さんと言えば、町人に化けて刺青を見せびらかしての大立ち廻りが印象に深いが、本作では町人には化けるが刺青を見せたりすることはない。つまりはお白洲での「この桜吹雪が目に入らねえのかい」みたいなやり取りもないのだ。
初春の江戸で市村座の舞台「児雷也」の開幕中、市川長十郎(中村時十郎)が何者かに短銃で狙撃される。大騒ぎにまぎれ、スリのおとぼけ銀次(川田晴久)が、頭巾の黒瀬甚内(高松錦之助)から抜き取った財布の中には、三人の名前を書いた紙片が入っていた。あくる日、南町奉行遠山金四郎(若山)の呼び出しを受けた銀次が、十手をあずかり、御用聞きとして不可思議な殺人事件の探査に乗り出した折、娘軽業春駒太夫一座の掛小屋で、市村座と同じ手口の殺人が繰り返された。というような話である。
春駒大夫を演じるのは美空ひばりで、その復讐物語なのだが、緊迫した場面で突然ミュージカル的に歌い出したり、喜劇系の役者も多く出ているのが特徴である。クレジっト上では、美空ひばりはピンでのトリで、若山は当然トップだが、嵯峨美智子、川田と並んでいる。
嵯峨は金四郎の婚約者千草役で、山茶花究が与力・笹山役、他に柳家金語楼、久保幸江、堺駿二、阿部九州男、香川良介、荒木忍、北原隆などである。
川田はひばりが「師匠」と呼ぶ人物で、戦前に「あきれたぼういず」を坊屋三郎、益田喜頓、芝利英と結成し人気を呼んでいたが、川田を除く三人が吉本から新興キネマに移籍。川田の代わりに「あきれたぼういず」に加わったのが山茶花究なのである。ある意味因縁の相手だが今回共に遠山に近しい役での共演となっている。一方の川田はダイナ・ブラザーズを弟子にあたる小島宏之、鹿島利之(密夫)、灘康次と結成。本作には全員で出演している。川田は本作の2年後である57年に50歳の若さで亡くなっており、小島がダイナブラザーズの名を引き継ぎ、鹿島はダイナ・ショア、灘はモダンカンカンをそれぞれ結成した。
久保幸江は当時の人気歌手で、「トンコ節」などのヒットがあり松竹で「初恋トンコ娘」(51年)といった映画も作られている。本作でも共演している金語楼、川田も出演している。当時の人気投票でひばりを抑えて一位になったこともあるという。
北原隆は日活ニューフェイスの1期生出身で、宍戸錠は同期である。本作の3カ月ほど前に公開された「たけくらべ」でひばりと共演し、本作でもいつもひばりのそばにいる小姓を演じている。代表作であろう「特別機動捜査隊」では森田刑事を長く演じた。
一寸法師
今回も55年の新東宝作品だが、喜劇ではなく怪奇ミステリー「一寸法師」である。知っている人も多いと思うが、原作は江戸川乱歩の小説だ。一寸法師とは本作に登場する小人の男を指している。「小人(こびと)」は差別用語というイメージがある人もいると思うが、「小人」自体は差別用語ではないようだ。逆を表す巨人は球団名を表すくらいに全然差別用語じゃないし。ただ小人の古い表現である矮人などは差別用語になるようだ。昔「おそ松くんチューブチョコ」などを発売していた「コビト」という製菓会社があったが、現在は存在しない。名前の問題ではなく普通に吸収合併され、消えたとのこと。
さて「一寸法師」だが、大蔵時代の作品のイメージだったが、前述のとおり55年なので大蔵前なのである。主演も出ずっぱりな宇津井健かと思いきや、クレジットのトップは二本柳寛である。本作では二本柳が探偵・旗竜作を演じており、宇津井演じる小林章三はライター(のような)ことをやっているようだ。乱歩で探偵といえば明智小五郎で、実際原作も明智なのだが、本作では何故か旗竜作なのである。助手である小林(少年)の名前は使っているのに事情でもあるのだろうか。旗竜作もどこかで聞いた気がすると思ったら、特撮ドラマ「ナショナルキッド」(61年)の主人公の名前と同じである。これは偶然というわけではなかろう。
宇津井演じる小林は、旗との対比もあってか若干単純であまり優秀ではない。犯人と疑われる百合枝夫人(三浦光子)に気があり、すぐにかばおうとするところがある。三浦は当時38歳で、個人的にはあまり馴染みのない女優なのだが、それもそのはずで、62年頃に引退し69年に52歳で亡くなっているのだ。46年に米軍中尉と結婚し渡米。戦後の国際結婚の第1号と称されたりしている。まもなく離婚し帰国するが、相手は重婚だったらしい。
百合枝の夫・山野役は三島雅夫で丸顔のほぼスキンヘッドが特徴だが、当時はまだ頭髪が結構あったようだ。その娘・三千子役が安西郷子だが、本作では気の強い娘として描かれている。ネタバレになるが、小間使い(要するにお手伝いさん)の小松も彼女が二役で演じている。こちらも実は山野の妾の娘で、被害者と思われていた三千子が化けていた。小松と三千子が口論になり、三千子が小松を殺害してしまうのである。三千子は交際していた運転手の蕗谷(国方傳)と家を出たところ、刑務所帰りのストーカー水島(丹波哲郎)に付けられて刺殺されてしまう。本作で安西郷子は二度死ぬのだ。
国方傳は字面だけ見ると高齢な人を想像してしまうが、当時23歳の若手である。俳優座養成所2期生で、小沢昭一、菅原謙次、井上昭文などが同期。国方傳(クニカタツタエ)は芸名だが、本名は道三重道という一風変わったものである。他に天知茂は旗の助手役、細川俊夫は検事役、江畑絢子、池内淳子はどこに出ているかは確認できなかった。池内は最後にクレジットされているが、その他大勢の最後でトリという意味ではない。
一寸法師役は和久井勉。銀座でサンドイッチマンをやっていたという。この後「女吸血鬼」(59年)にも出演している。余談だが、「特別機動捜査隊」の298話「女の館」にも小人の人が出演しており、クレジット上は桃井正彦となっていた。しかし、改めて見ると和久井と細長い感じの顔がよく似ており同一人物かも?と思ってしまった。「特捜隊」は中井義プロヂューサー初め、役者にも新東宝出身者が多く出演していたので不思議はないと思う。確証はないけれども。
森繫のデマカセ紳士
前回と同じく新東宝で55年に公開された作品から「森繁のデマカセ紳士」を取り上げてみる。
タイトルにあるとおり、もちろん主演は森繫久彌である。55~56年の新東宝では「森繁の~」という作品が4本ほど存在する。主演作には必ず付いていたというわけではない。たとえば、本作の半月ほど前に公開された「わが名はペテン師」の主演も森繁である。実はこの「わが名はペテン師」と「森繁のデマカセ紳士」の原作は同じで、人気のラジオ番組「わが名はペテン師」の映画化ということのようだ。というわけで、この二作の原作者(小野田勇、キノトール)を始めとした監督(渡邊邦男)などの主要スタッフはほぼ同じである。しかし、主演者は森繁以外はほぼ異なっているようだ。「ようだ」としたのは、実はこの「わが名はペテン師」の原版は存在しないらしいので、新東宝のデータベースではその改題主尺版「森繁のペテン王」からキャストなどは採録されているという。まあ縮尺版でカットされてしまう役者はいるだろうが、基本的に増えることはないはずである。
さて「デマカセ紳士」だが稀代のペテン師・堀川新兵衛(森繁)は元ストリッパー・浪江(江畑絢子)と一儲けを企らみ、彼女を女子プロレスラーに仕立て上げ、まんまと10万円を手にする。さらに、堀川は彼女を天才舞踏家として売り込むことに成功。各劇場から出演依頼が殺到するのだが……。というような話である。本作のヒロインである江畑絢子は新東宝スターレットの3期生。この年デビューしたばかりなので、メインヒロインとなるのは初ではないかと思われる。ただ、彼女はこの後主要キャストではあるがメインヒロインであることはあまりなかったせいか知名度もそこまで高くない気がする。女優引退後の彼女が世間に注目されたのが丹波哲郎の隠し子騒動である。江畑は新東宝時代に先輩役者であった丹波と愛人関係にあり、後に彼の子を産んでいるのである。関係性は続いていたようだが、その事は丹波夫人や息子の義隆も知っていた。丹波の葬儀にも江畑は息子(森正樹)と共に弔問に訪れている。その際、義隆は気を使って席を外したという。
話を戻すともう一人のヒロイン役が紫千鶴である。(東宝)が付いていたので東宝の女優さんなのだろうが、詳細はわからない。新東宝への出演も本作と「森繁の新婚旅行」(56年)の二本だけのようである。「新婚旅行」ではメインヒロインだったようだが、それが最後の映画出演となったようである。おそらく、その辺りで引退したのだと思われるが、彼女も前回の美雪節子同様役2年という短い女優生活であった。
他の出演者だが、高田稔、阿部九州男、坊屋三郎、江川宇礼雄、花岡菊子、若杉須美子(嘉津子)、荒川さつき、和田孝、鮎川浩、天知茂などだが、天知などは冒頭すぐに登場し森繁と会話するが出番はそれだけ。鮎川や和田も同様だが、鮎川はどの新東宝作品を見ても必ず出演しているイメージ。天知夫人となる森悠子の名もあるが、どこに出ているかは不明。
東京女子プロレスリング協会がプロレスシーンに登場しているが、セカンド(多分セコンドだろう)役の小沢路子が、小太りの女性をダイナマイト・ローズと紹介していた。実際のリングネームかと思ったら、ある映画サイトではダイナイマイトロース役=鍛冶田文子としていたので架空のリングネームのようだ。ちなみに鍛冶田文子の名はクレジットされていない。
のんき裁判 その2
前回に引き続き、新東宝オールスター映画「のんき裁判」(55年)である。
花柳小菊の「悩殺罪」の裁判からだが、証人として角梨枝子、島崎雪子、南風洋子、関千恵子がズラズラ登場。弁護人は坊屋三郎である。裁判長は大河内傳次郎、検事は田中春男だが、ここに堺駿二がもう一人の検事として加わる。
この裁判が終了すると、場面は夜に切り替わる。静かな法廷の中に酔っ払いが乱入しくる。彼は自分は榎本健一であると名乗るのだが、三人の守衛たちは、この酔っ払いのオジサンが大スターエノケンだとは信じようとしない。そこへ、ここの給仕だという若い娘も「オジサンの弁護してあげるよ」などと言い出す。キャスト表などを見ると守衛役は横山運平、冬木京三、永井柳太郎の三人、給仕の娘は美雪節子という人のようだ。冬木は何回か前に紹介した日活「トップ屋取材帖」では、麻薬組織のボスをやっていた。
美雪節子は初めて聞いた名だったが、どうやらSKDの出身で「美雪さゆり」から改名して新東宝からデビューした女優のようだ。デビュー作である「君ゆえに」では、中山昭二、安西郷子に次ぐ三番手クレジットで(新スター)の但し書きが付いていたようだ。他作品でも割合上位にクレジットされているので、あまり知られている存在ではないのが不思議だったが、その名が見られるのは54~55年の2年間のみなのである。また芸名を変えたとかいう可能性もあるが、早期に引退してしまった可能性の方が強そうである。
この場面ではもう一人、記者役で上原謙が登場する。彼がこのオジサンを「榎本さん」と呼んだことで本物のエノケンだったことがわかる。カツラと眼鏡を取ると誰もが知るエノケンの姿になり、一曲披露するのだった。
最後に被告として満を持して登場するのが森繁久彌である。裁判長は藤田進、検事は田崎潤の大声コンビに戻り、弁護士として登場するのは柳家金語楼である。藤田と田崎に散々「ハゲ」といじられ、退廷させられるのだが、そこで森繁が自己弁護を開始する。その半生を紙芝居形式(映像的には回想)で語り出すのである。ロシアから始まり、中国やモンゴルなどを渡り歩き、その国っぽく聞こえるデタラメな言葉を披露する。回想の中での相手役は筑紫あけみで、新東宝スターレットの2期生である。長い森繁の語りが終わった後、大河内裁判長が再登場。判決は「全員、新東宝への終身刑を命じる」というもので、そのままフィナーレへとなだれ込む。そこで、香川京子などは初めて姿を見せる。
ところで、本作には「改題縮尺版」が存在する。改題縮尺版とは読んで字のごとく旧作タイトルを改題して、本編を数十分カットした短縮版のことである。さも新作であるかのように見せかけるのだ。他社でもあるのだが、やはり大蔵時代の新東宝作品が多かったようである。この「のんき裁判」も約6年後に「森繁・高島・小林の色男三人野郎」(60年)と改題され、オリジナル91分が63分に短縮されたものが公開されている。もちろん、その中を見たことはないが、タイトルから第1の裁判である高島忠夫・小林桂樹が被告の部分と最後の森繁が被告の部分を繋いだものであろう。ただそれだけだと10分ほど足りないので、他の部分からも使っていると思われる。この改題短縮版は柳家金語楼ものが特に多いように思う。「あきれた娘たち」(49年)が「金語楼の子宝騒動」(57年)へ、「青春デカメロン」(50年)が「爆笑交狂楽」(57年)へ、「おやおや人生」(51年)が「金語楼の豚馬社長」(57年)へ等の例がある。
のんき裁判
今回も大蔵就任前の新東宝作品から「のんき裁判」(55年)を取り上げてみたい。
「のんき裁判」というタイトルからは、本作が新東宝創立八周年記念のオールスターキャスト作品だとは予想できないであろう。翌56年には大蔵貢が社長に就任するので、それ以前でのオールスターキャストは本作が最後かもしれない。
脚本は監督も務める早撮りの渡辺邦男と「月光仮面」等でお馴染みの川内康範で、役名は基本的に役者本人の名前である。内容は「のんき裁判所」を舞台に5つの裁判が開かれる。それぞれに裁判長、検事、被告、弁護士、証人が登場する、オムニバス形式の構成となっている。出演者クレジットは左から右にスライドしていく形式で、トップクレジットとなっているのは大河内傳次郎、続いて藤田進となっている。
そもそも新東宝の結成に動いた十人のスターが「十人の旗の会」である。そのメンバーだったのが大河内であり藤田である。同じくメンバーだった長谷川一夫や山田五十鈴らは比較的短期間で新東宝を離れたようだが、先の二人と花井蘭子はまだ在籍していたようだ。
第1の裁判が「ハート窃盗罪」。裁判長が藤田で検事が田崎潤という大声軍人キャラコンビとでも言うのだろうか。弁護士が笠置シヅ子で、被告が小林桂樹と高島忠夫である。二人が女性にモテ過ぎるといったような罪状なのだが、高島はともかく小林は若い頃からもそういうキャラじゃないだろうと思ってしまった。何故かオネエ言葉を使ったりするし。それぞれの被害者(証人)が長谷川裕見子であり、安西郷子である。安西は当時21歳で、今回の出演者の中では一際可愛らしく見える。このパートでは舞妓の一人として池内淳子が、藤田の娘役で久保菜穂子が登場している。久保のメガネ少女というのも珍しい。
第2の裁判は「恐妻罪」で、被告は丹下キヨ子である。要するに彼女は怖いという罪だ。本件では裁判長は大河内、検事は田中春男に交替している。弁護士は暁テル子だ。
第3の裁判は「時代逆行罪」で、被告は若山富三郎、三浦光子、花井蘭子だが、撮影のため行けないという。ならばと大河内と田中が出張裁判をするため撮影所を訪れる。そこでは、三浦監督のもと若山出演の時代劇(清水次郎長もの)が撮影されていた。花井は出番待ちのようだ。助監督は江川宇礼雄と天知茂で、次郎長役の鳥羽陽之助が現れないので、若い天知が呼びに行かされるのである。この時点では、スターレット同期の高島や久保と大きな差があることがわかる。江川も「ウルトラQ」の一の谷博士の印象しかなかったので、最初は誰だかわからなかった。
話を戻すと鳥羽の代わりに現れたのが、なんと大河内裁判長で得意の殺陣を披露する。そういえば、大河内の時代劇以外の姿というのも初めて見た気がする。検事役の田中春男は「次郎長シリーズ」の常連だ。娘の宇治みさ子も高島や天知と同期だが、渡辺邦男を追う形で東映に移籍。しかし、渡辺が新東宝に復帰したので彼女も戻ってくることになる。
「時代逆行罪」を否定するため、三浦監督は宇津井健と花柳小菊を登場させる。常に生真面目な宇津井とずっと甘い声の花柳のラヴロマンスが展開するが、今度はこの花柳の演技に「悩殺罪」が適用されるのだった。花柳小菊についてよく知らなかったのだが、神楽坂の芸者になるべく半玉となったところスカウトされ、35年に14歳で日活多摩川に入社している。芸名はその時の名をそのまま使っている。戦後も各社に出演しており、新東宝作品への出演は多くはない。56年からは東映の専属となっている。夫は中村竹弥だ。
場面はのんき裁判所に戻り、今度は「悩殺罪」の裁判が開かれる。長くなったので、次回に続く。
名探偵アジャパー氏
前回の伴淳三郎繋がりだが、時代はかなり遡って「名探偵アジャパー氏」(53年)である。昭和20年代の作品とかは、めったに取り上げないのだが、この作品古い割には出演者をほぼ認知できるということもあり、触れてみることにした。
「アジャパー」と言えば、伴淳三郎が生んだギャグ?だが、当時はちょっと流行るとすぐ映画化されるような時代で、本作に先駆けて「アジャパー天国」が公開されている。
いずれも新東宝の作品だが、新東宝といえば、大蔵貢が社長に就任してからの事を取り上げられることが多い。資料も大蔵新東宝としてのものが多く、それ以前(47~55年)の新東宝作品は意外と知られていない気がする。
基本自社の役者で賄う大蔵以前の本作は喜劇人オールスター(に近い)ものとなっている。主演の伴淳以外には、柳家金語楼、古川禄波、横山エンタツ、益田キートン(当時はカタカナ表記)、清川虹子、メインではないがトニー谷といった面々が出演している。彼等がギャグ合戦を繰り広げるのかと言えばそうでもなく、金語楼やロッパなどは役柄に徹してノーギャグである。つまり、彼等である必要はないと言えばない。
ストーリーだが、凶悪な死刑囚であるダバオの狼(本名は権田なんちゃら)が刑務所から脱獄する。それは自分を裏切った山並(金語楼)に復讐するためだった。狼は整形医科の大家荘田博士(ロッパ)を誘拐、自分の顔を変形させる。荘田の娘(関千恵子)は私立探偵阿地彌八(伴淳)に捜索を依頼、一方荘田の妻(宮川玲子)は女探偵工藤(清川)に捜索を依頼する。阿地は助手の五味(キートン)と一緒に大活躍の途中、山並の娘洋子(星美智子)に恋してしまう。変形した狼の顔貌は阿地と瓜二つ(伴淳の二役)、おかげで阿地は狼を装い、彼らの巣窟から荘田博士を救出するが、逆に狼は探偵を装って山並邸へ乗りこむ。というような展開。伴淳の二役と終盤の結構長い追跡場面が見どころということになるのだろう。伴淳・キートン組と清川・エンタツ組の探偵対決もあるが、ギャグの部分は大体このメンバーで担っている。
伴淳は当時45歳だが、まあ前回見た60歳の伴淳とさほど変わらない。狼を演じている時の情婦が野上千鶴子だが、彼女は東宝の第1期ニューフェイス。つまり三船敏郎や久我美子の同期。当時の東宝は大規模ストライキの最中で、野上や堀雄二は新東宝誕生時に東宝から移籍したようである。
娘役である星美智子、関千恵子は自分らの世代には共に母親役のイメージ。星は当時27歳で(東映)が付いているので、東映の女優なわけだが、それはこの53年からで、それまではフリー状態で新東宝作品にも出演していたようだ。2013年まで出演記録がある。関は当時24歳で細身に大きな耳が特徴といえるだろう。女優活動は70年代中盤までのようだ。共に亡くなったという報告はなく健在ならば、それぞれ99歳96歳ということになる。また「奥田輝雄とシックスレモンズ」の一員としてフランキー堺が登場し、ドラムを叩いたり歌ったりしている。もちろん、個人として有名になる前である。
大倉時代の新東宝作品でもお馴染みの面々ももちろん登場。鮎川浩、今清水基二(泉田洋志)、小高まさる、国創典に加え、天知茂やその妻である森悠子の名もクレジットされているが、どこに出ているかはわからなかった(森の顔は知らないけれども)。
喜劇泥棒学校
今回は、ひさびさに大映作品から「喜劇泥棒学校」(68年)である。実は17年ほど前に本ブログでも取り上げたことがあるのだが、全く覚えていなかった。恐らく未見で書いたと思うが、今回は全編ではないが要所を目にすることができたので改めて。
「喜劇〇〇」というタイトルは松竹か東宝のイメージが強い。実際、戦後に限ってだが大映で「喜劇」で始まる作品は本作と「喜劇おひかえなすって」の2作品しか見当たらない。そういう意味ではかなりレアな作品だと言える。しかも主演は喜劇のイメージがない田宮二郎なのである。
そのストーリーだが、多門晃(田宮)は、昼間は大学講師だが、夜になると部下五人を率いて現金を盗む怪盗なのである。ある日、一仕事終えた後の逃走計画に狂いが生じ、多門は通り掛かった花屋の小型トラックに無理矢理乗り込み難を逃れる。運転していたのは牧子(梓英子)という若い娘だったが、彼女の父は警視庁の鬼刑事福田(伴淳三郎)だったのである。多門を怪しいと睨んだ牧子だったが、やがて愛し合うようになり、結婚することになってしまう。結婚前に暴力団である田抜組から三千万円を盗んだ多門一味は、結婚式を迎える。バンドとして式に現れた部下の五人を見た福田刑事は愕然とする。多門以外の五人は警視庁のブラックストに載っていたからだ。多門こそ姿なき怪盗だと見破った福田だったが、そこへ田抜組が現れ多門と牧子を拉致するのだった。
というような話だが、田宮自身はいつも通りで、特にコメディな演技をするわけではない。伴淳三郎が喜劇の顔的な存在であるが、本作ではどちらかというとシリアス多めな感じなのである。田抜組の組長を演じるのが藤岡琢也。トレードマークであるヒゲがないので、違和感を感じてしまう。多門の五人の部下だが、一人は大映の若手俳優だった青山良彦で、残る四人はドンキーカルテット(小野ヤスシ、ジャイアント吉田、猪熊虎五郎、祝勝)の面々である。
ドンキーカルテットは知ってる人も多いかもだが、元々はドリフターズのメンバーである。64年当時、新リーダーとなったいかりや長介のワンマンぶりに辟易したメンバー(小野、吉田、猪熊、飯塚文雄)がドリフを脱退し、結成されたのがドンキーカルテットなのである。後に祝勝が加わって五人組となったが、グループ名は4人でもチャンバラトリオ同様に変わらなかった。まもなく飯塚が抜けたので、カルテットに戻ったのだが。
実質、いかりやと加藤茶の二人になってしまったドリフだが、加藤が残ったのが大きく、ほぼ見た眼だけで高木ブー、荒井注を率いれ、やがて仲本工事が参加し、お馴染みの五人組が誕生するのである。ドリフの人気がどんどん上昇していく中、ドンキー・カルテットは70年に解散している。ドンキーが他に出演している映画があるかどうかは不明だが、いずれにしろ見たことがないので貴重な映像であることは確かだろう。他の出演者だが、春川ますみ、大信田礼子、千波丈太郎、田武謙三、牧伸二などである。
脚本は池田一朗(隆慶一郎)で監督は弓削太郎。出演者に喜劇系の人が多いというだけで、喜劇感はあまり感じなかった。ソフト化はされていないようである。
トップ屋取材帖 迫り来る危機
今回は日活のシリーズものからその第1弾である「トップ屋取材帖 迫り来る危機」(59年)を取り上げる。60分に満たないSP作品である。「トップ屋」とは要するにフリーの記者ということになるのだが、やっていることは探偵というか、それを通り越して潜入捜査官みたいなことなのである。
主役の黒木を演じるのは水島道太郎で、当時47歳だ。戦前からのスターで大都映画を中心に活躍していた。ギリギリ主役も張っていた頃だが、河津清三郎よりはシブい二枚目で主役感はある気がする。娘の小林夕岐子は父とはあまり縁のなかった東宝で女優となっている。
黒木の助手がカメラマン志望の猪股ユリで当時19歳の葵真木子が演じている。葵は日活第三期ニューフェイスで小林旭、二谷英明、筑波久子などが同期となる。57年頃から60年代前半にまあまあ活躍していたようである。シリーズレギュラーなのはこの二人だけなのだが、葵はそれほど活躍するわけではなさそうである。本作でも出番は最初の方と最後の方だけだし。
本作の内容だが、黒木が横浜で旧知のクラブ“サンブレロ”のマダム・お蝶(白木マリ、後に万理)と再会するうち、麻薬密輸事件に巻き込まれ、組織に潜入する話である。最後にはお蝶が組織の影のボスと二人で関西に逃げようとするのを羽田空港で逮捕させるまでを描いている。白木マリは当時22歳。近藤玲子バレエ団の一員として映画出演した際に監督の井上梅次からスカウトされ日活入りした経歴を持つ。白木と言えば、必殺シリーズにおいて中村主水(藤田まこと)の女房りつ役でお馴染みだが、本作の時点から雰囲気が変わっていない。つまり22歳という感じではないのだ。
組織の人間で目立っているのは高品格、土方弘という日活アクションでは常連の役者。高品は当時40歳だが、自分が見た中ではかなり若い部類で、気のせいか身長が少し高く見える。高品格という芸名は「品格が高い」のしゃれみたいもので、「格」は「いたる」と読ませるつもりだったようだ。しかし、みんな「かく」と読むし語呂もいいので「たかしなかく」を正式な芸名にしたという。ボス役は冬木京三で水島との工事現場での追跡格闘シーンはロングショットも多用されているので、まあ吹き替えということだろう。共に若いとは言えないし。で前述の影のボスというのを演じたのは星虎二という人で、白木みのるをイメージしてもらえば、わかりやすいと思う。冒頭に当時の新宿駅前が映るが、そこで新聞や雑誌を売っている少年(小さいほう)は佐藤正三郎で、後にドラマ「わんぱく砦」で主役を演じることになる。ノンクレジットだが、クラブの客役で赤木圭一郎が出演しているようだ。
本作の翌月(6月)には、第2作「トップ屋取材帖 拳銃街一丁目」が公開されている。こちらは未見なので資料からの情報となるが、水島道太郎、葵真木子の他、書き忘れていたが「週刊実話」の編集長役の西村晃は引き続きの登場である。今回のゲストヒロインは南風洋子で、個人的には岸田今日子に似ていると感じる女優だ。彼女の亡き父親の子分である山田禅二、富田仲次郎、野呂圭介らと結託して殺人を犯すと言う話のようだ。
この後、このシリーズは59年内は中断となるのだが、おそらく「事件記者」シリーズがスタートしたからである。NHK人気ドラマの日活版で、原作は島田一男なのだが、実は「トップ屋取材帖」も原作は島田の小説なのである。同じ記者が題材ということもあってか、とりあえず控えたということかもしれない。
サラリーマン物語シリーズ
前回日活の「サラリーマン物語」の第1作「新入社員第1課」について触れたので、シリーズの2作目以降についても触れてみたい。最初に言っておくと全て未見である。
シリーズ第2弾は「サラリーマン物語 敵は幾万ありとても」(62年)である。1作目で主演だった山田吾一だが、今回は主演扱いではない。やはり主役という感じではないと思ったのか、前作ではトリ(クレジットの名前が最後)扱いだった桂小金治が本作ではトップクレジットに昇格した。正直小金治も主役っぽいとは思えんが、落語家としては真打ちでもないし。ただ、日活はスター扱いで獲得したという事情もあるのでここでは主役としたのだろう。吾一は三番手になり、二番手となったのが逗子とんぼに代わり大泉滉である。今回も三人は新入社員役なのだが、大泉は当時37歳であった。まあ年齢不詳ではあるけれども。15歳の頃「風の又三郎」(40年)で銀幕デビュー。祖父がロシア人ということなので、大泉はクオーターということになるのだろうか。松尾嘉代は今回からメインヒロインに昇格。専務秘書という役柄である。ちなみに、第1作との間に繋がりはなく、今回は商社(極東物産)が舞台となる。他の出演者だが、小桜京子、大滝秀治、八代康二、由利徹、三國一朗、森川信、柳家小さんなど。社員役の高島史旭(後の竜崎勝)は今回はクレジットありで、小金治の弟子である桂小かんはノンクレジット(客引き役)。
第3作は「サラリーマン物語 勝って来るぞと勇ましく」(63年)である。毎回、監督も脚本も違うのだが、本作での主役は小沢昭一であり、新入社員というわけでもない。松尾嘉代と山田吾一が出演しているので、それでシリーズ感を出している気がする。今回の舞台はアサヒガム株式会社で、社長役が清川虹子、その娘が松尾嘉代だ。彼女は営業部長で、そこに子会社から出向してくるのが小沢演じいる犬飼なのである。社長の父親(左卜全)はコンツェルンの会長で、犬飼を出向させたのも会長なのである。アサヒガムのライバル会社はキリンガム。ビールではなくあくまでもガムである。犬飼は当初スパイではと疑われるが、裏切り者は専務(天草四郎)だったのである。他の出演者は森川信、南利明、久里千春、菅井一郎など。森川信もここまで3作全て出演しているが、次作には出演していない。天草四郎とは、大胆不敵な芸名と思うかもしれないが、彼の本名は天草紫郎というらしい。つまり、ほぼ本名なのだ。
第4作は「サラリーマン物語 大器晩成」(63年)で、これが最終作となる。原作は第1作と同じ川野京輔で、小金治が主演扱いでカムバックしている。今回の舞台は関東発火器というライターの会社である。本作では新入社員という設定ではなく話の中心となる営業部トリオを演じるのが小金治、山田吾一、そして野呂圭介である。チョイ役も多い大部屋役者である野呂がクレジットでも五番手にくるような役をやるのは珍しいと思われる。調べたわけではないが、唯一無二かもしれない。この人は役者としてよりも「どっきりカメラの人」として世間に知られるようになったと言えると思うが、日活からもう一人参戦していたのが司会役の宍戸錠であった。これは日活も同番組の制作に関わっていたかららしい。野呂はずっと37年生まれとしていたが、実は宍戸と同じ33年生まれだったことを、つい9年ほど前に明かしている。90を超えた現在も健在のようである。
話を戻すと松尾嘉代は社長(小川虎之助)の娘役(実は娘ではなく営業部員のテスト係)。他の出演者はEHエリック、天草四郎、杉江弘、木室郁子、久里千春、トニー谷など。藤竜也が空港の係員役でチラッと登場する。