喜劇泥棒学校
今回は、ひさびさに大映作品から「喜劇泥棒学校」(68年)である。実は17年ほど前に本ブログでも取り上げたことがあるのだが、全く覚えていなかった。恐らく未見で書いたと思うが、今回は全編ではないが要所を目にすることができたので改めて。
「喜劇〇〇」というタイトルは松竹か東宝のイメージが強い。実際、戦後に限ってだが大映で「喜劇」で始まる作品は本作と「喜劇おひかえなすって」の2作品しか見当たらない。そういう意味ではかなりレアな作品だと言える。しかも主演は喜劇のイメージがない田宮二郎なのである。
そのストーリーだが、多門晃(田宮)は、昼間は大学講師だが、夜になると部下五人を率いて現金を盗む怪盗なのである。ある日、一仕事終えた後の逃走計画に狂いが生じ、多門は通り掛かった花屋の小型トラックに無理矢理乗り込み難を逃れる。運転していたのは牧子(梓英子)という若い娘だったが、彼女の父は警視庁の鬼刑事福田(伴淳三郎)だったのである。多門を怪しいと睨んだ牧子だったが、やがて愛し合うようになり、結婚することになってしまう。結婚前に暴力団である田抜組から三千万円を盗んだ多門一味は、結婚式を迎える。バンドとして式に現れた部下の五人を見た福田刑事は愕然とする。多門以外の五人は警視庁のブラックストに載っていたからだ。多門こそ姿なき怪盗だと見破った福田だったが、そこへ田抜組が現れ多門と牧子を拉致するのだった。
というような話だが、田宮自身はいつも通りで、特にコメディな演技をするわけではない。伴淳三郎が喜劇の顔的な存在であるが、本作ではどちらかというとシリアス多めな感じなのである。田抜組の組長を演じるのが藤岡琢也。トレードマークであるヒゲがないので、違和感を感じてしまう。多門の五人の部下だが、一人は大映の若手俳優だった青山良彦で、残る四人はドンキーカルテット(小野ヤスシ、ジャイアント吉田、猪熊虎五郎、祝勝)の面々である。
ドンキーカルテットは知ってる人も多いかもだが、元々はドリフターズのメンバーである。64年当時、新リーダーとなったいかりや長介のワンマンぶりに辟易したメンバー(小野、吉田、猪熊、飯塚文雄)がドリフを脱退し、結成されたのがドンキーカルテットなのである。後に祝勝が加わって五人組となったが、グループ名は4人でもチャンバラトリオ同様に変わらなかった。まもなく飯塚が抜けたので、カルテットに戻ったのだが。
実質、いかりやと加藤茶の二人になってしまったドリフだが、加藤が残ったのが大きく、ほぼ見た眼だけで高木ブー、荒井注を率いれ、やがて仲本工事が参加し、お馴染みの五人組が誕生するのである。ドリフの人気がどんどん上昇していく中、ドンキー・カルテットは70年に解散している。ドンキーが他に出演している映画があるかどうかは不明だが、いずれにしろ見たことがないので貴重な映像であることは確かだろう。他の出演者だが、春川ますみ、大信田礼子、千波丈太郎、田武謙三、牧伸二などである。
脚本は池田一朗(隆慶一郎)で監督は弓削太郎。出演者に喜劇系の人が多いというだけで、喜劇感はあまり感じなかった。ソフト化はされていないようである。
トップ屋取材帖 迫り来る危機
今回は日活のシリーズものからその第1弾である「トップ屋取材帖 迫り来る危機」(59年)を取り上げる。60分に満たないSP作品である。「トップ屋」とは要するにフリーの記者ということになるのだが、やっていることは探偵というか、それを通り越して潜入捜査官みたいなことなのである。
主役の黒木を演じるのは水島道太郎で、当時47歳だ。戦前からのスターで大都映画を中心に活躍していた。ギリギリ主役も張っていた頃だが、河津清三郎よりはシブい二枚目で主役感はある気がする。娘の小林夕岐子は父とはあまり縁のなかった東宝で女優となっている。
黒木の助手がカメラマン志望の猪股ユリで当時19歳の葵真木子が演じている。葵は日活第三期ニューフェイスで小林旭、二谷英明、筑波久子などが同期となる。57年頃から60年代前半にまあまあ活躍していたようである。シリーズレギュラーなのはこの二人だけなのだが、葵はそれほど活躍するわけではなさそうである。本作でも出番は最初の方と最後の方だけだし。
本作の内容だが、黒木が横浜で旧知のクラブ“サンブレロ”のマダム・お蝶(白木マリ、後に万理)と再会するうち、麻薬密輸事件に巻き込まれ、組織に潜入する話である。最後にはお蝶が組織の影のボスと二人で関西に逃げようとするのを羽田空港で逮捕させるまでを描いている。白木マリは当時22歳。近藤玲子バレエ団の一員として映画出演した際に監督の井上梅次からスカウトされ日活入りした経歴を持つ。白木と言えば、必殺シリーズにおいて中村主水(藤田まこと)の女房りつ役でお馴染みだが、本作の時点から雰囲気が変わっていない。つまり22歳という感じではないのだ。
組織の人間で目立っているのは高品格、土方弘という日活アクションでは常連の役者。高品は当時40歳だが、自分が見た中ではかなり若い部類で、気のせいか身長が少し高く見える。高品格という芸名は「品格が高い」のしゃれみたいもので、「格」は「いたる」と読ませるつもりだったようだ。しかし、みんな「かく」と読むし語呂もいいので「たかしなかく」を正式な芸名にしたという。ボス役は冬木京三で水島との工事現場での追跡格闘シーンはロングショットも多用されているので、まあ吹き替えということだろう。共に若いとは言えないし。で前述の影のボスというのを演じたのは星虎二という人で、白木みのるをイメージしてもらえば、わかりやすいと思う。冒頭に当時の新宿駅前が映るが、そこで新聞や雑誌を売っている少年(小さいほう)は佐藤正三郎で、後にドラマ「わんぱく砦」で主役を演じることになる。ノンクレジットだが、クラブの客役で赤木圭一郎が出演しているようだ。
本作の翌月(6月)には、第2作「トップ屋取材帖 拳銃街一丁目」が公開されている。こちらは未見なので資料からの情報となるが、水島道太郎、葵真木子の他、書き忘れていたが「週刊実話」の編集長役の西村晃は引き続きの登場である。今回のゲストヒロインは南風洋子で、個人的には岸田今日子に似ていると感じる女優だ。彼女の亡き父親の子分である山田禅二、富田仲次郎、野呂圭介らと結託して殺人を犯すと言う話のようだ。
この後、このシリーズは59年内は中断となるのだが、おそらく「事件記者」シリーズがスタートしたからである。NHK人気ドラマの日活版で、原作は島田一男なのだが、実は「トップ屋取材帖」も原作は島田の小説なのである。同じ記者が題材ということもあってか、とりあえず控えたということかもしれない。
サラリーマン物語シリーズ
前回日活の「サラリーマン物語」の第1作「新入社員第1課」について触れたので、シリーズの2作目以降についても触れてみたい。最初に言っておくと全て未見である。
シリーズ第2弾は「サラリーマン物語 敵は幾万ありとても」(62年)である。1作目で主演だった山田吾一だが、今回は主演扱いではない。やはり主役という感じではないと思ったのか、前作ではトリ(クレジットの名前が最後)扱いだった桂小金治が本作ではトップクレジットに昇格した。正直小金治も主役っぽいとは思えんが、落語家としては真打ちでもないし。ただ、日活はスター扱いで獲得したという事情もあるのでここでは主役としたのだろう。吾一は三番手になり、二番手となったのが逗子とんぼに代わり大泉滉である。今回も三人は新入社員役なのだが、大泉は当時37歳であった。まあ年齢不詳ではあるけれども。15歳の頃「風の又三郎」(40年)で銀幕デビュー。祖父がロシア人ということなので、大泉はクオーターということになるのだろうか。松尾嘉代は今回からメインヒロインに昇格。専務秘書という役柄である。ちなみに、第1作との間に繋がりはなく、今回は商社(極東物産)が舞台となる。他の出演者だが、小桜京子、大滝秀治、八代康二、由利徹、三國一朗、森川信、柳家小さんなど。社員役の高島史旭(後の竜崎勝)は今回はクレジットありで、小金治の弟子である桂小かんはノンクレジット(客引き役)。
第3作は「サラリーマン物語 勝って来るぞと勇ましく」(63年)である。毎回、監督も脚本も違うのだが、本作での主役は小沢昭一であり、新入社員というわけでもない。松尾嘉代と山田吾一が出演しているので、それでシリーズ感を出している気がする。今回の舞台はアサヒガム株式会社で、社長役が清川虹子、その娘が松尾嘉代だ。彼女は営業部長で、そこに子会社から出向してくるのが小沢演じいる犬飼なのである。社長の父親(左卜全)はコンツェルンの会長で、犬飼を出向させたのも会長なのである。アサヒガムのライバル会社はキリンガム。ビールではなくあくまでもガムである。犬飼は当初スパイではと疑われるが、裏切り者は専務(天草四郎)だったのである。他の出演者は森川信、南利明、久里千春、菅井一郎など。森川信もここまで3作全て出演しているが、次作には出演していない。天草四郎とは、大胆不敵な芸名と思うかもしれないが、彼の本名は天草紫郎というらしい。つまり、ほぼ本名なのだ。
第4作は「サラリーマン物語 大器晩成」(63年)で、これが最終作となる。原作は第1作と同じ川野京輔で、小金治が主演扱いでカムバックしている。今回の舞台は関東発火器というライターの会社である。本作では新入社員という設定ではなく話の中心となる営業部トリオを演じるのが小金治、山田吾一、そして野呂圭介である。チョイ役も多い大部屋役者である野呂がクレジットでも五番手にくるような役をやるのは珍しいと思われる。調べたわけではないが、唯一無二かもしれない。この人は役者としてよりも「どっきりカメラの人」として世間に知られるようになったと言えると思うが、日活からもう一人参戦していたのが司会役の宍戸錠であった。これは日活も同番組の制作に関わっていたかららしい。野呂はずっと37年生まれとしていたが、実は宍戸と同じ33年生まれだったことを、つい9年ほど前に明かしている。90を超えた現在も健在のようである。
話を戻すと松尾嘉代は社長(小川虎之助)の娘役(実は娘ではなく営業部員のテスト係)。他の出演者はEHエリック、天草四郎、杉江弘、木室郁子、久里千春、トニー谷など。藤竜也が空港の係員役でチラッと登場する。
サラリーマン物語 新入社員第一課
サラリーマンものと言えば東宝のイメージが強いが、日活にも存在する。それが「サラリーマン物語 新入社員第一課」(62年)である。大学を卒業した塩原(山田吾一)、堀川(桂小金治)、沖野(逗子とんぼ)の三人は製薬会社である太洋化学に入社し、揃って販売課に配属される。同様に配属された美代子(清水まゆみ)に堀川と沖野は一目惚れするが、塩原は並行して内定をもらっていた生活科学研究所の社長(由利徹)の娘・道子(松尾嘉代)が忘れられない。そこで、彼は研究所が製造する新洗剤を自社製品と共に問屋に紹介するのだが、新洗剤が好評で売れ行きが伸びてしまうのだった。
というようなストーリーだが、日活の役者ではない山田吾一が主演である。これは当時、NHKドラマ「事件記者」の映画版を日活でシリーズ化しており、岩見記者役で人気のあった山田を主役に添えたということだろう。新卒の新入社員役なら20代前半が多いだろうが、山田は当時29歳。だが、桂小金治(36)や逗子とんぼ(33)は30を超えていたし見た目もフレッシュマンという感じではない。
小金治は名前の通り元々落語家だったが、映画監督の川島雄三の誘いを受け映画出演したのをきっかけに俳優に転身する。これは年間契約を結んだため落語の時間が取れなくなったためだった。名前を返上しようとするが、師匠の小文治から「その必要はない」と言われ、そのまま桂小金治を名乗っていたのである。日活には61年から所属していた。日活の大部屋役者・桂小かんは俳優としての弟子である。彼も元は落語家だったらしい。
逗子とんぼは三木鶏郎門下のコメディアンだが、当時はそれなりに売れっ子だったようだ。ただ、自分が子供の頃にこの人を見た記憶はない。名前だけは知っているという感じだったが、今回初めてその顔を認識した。本作の出演者クレジットは名前だけでなく、その顔写真付きという親切設計なので顔と名前をすぐに一致させることができる。
クレジット順で言えば、二番手は清水まゆみだが、三番手は青山恭二であった。当時「機動捜査班シリーズ」の主役であったが、こういう作品にも出ていたのである。社長(森川信)の息子・良太郎という役だが、彼も美代子に気があった。取り引き先の社長令嬢との見合いに気が乗っていなかったが、実は美代子がその相手だった。彼女は名を変えて良太郎を調査していたのである。
主役の塩原と結ばれるのは前述の道子なのである。しかし、本作での松尾嘉代の扱いは低くクレジット的にも10番手とかである。当時19歳で、ふつうに可愛いしれきっとした所属女優であったが、三人娘(吉永、和泉、松原)ほどの扱いは受けていなかったようだ。もっとも、このシリーズの次作以降はメインヒロイン扱いになるようである。
他の出演者だが、長門勇、若水ヤエ子、谷村昌彦、杉狂児、千代侑子、大滝秀治など。竜崎勝(当時・高島史旭)はノンクレジット出演している。
監督は井田探だが、この人の作品には本作も含め井田武(後にいだたけ志)という役者がよく出演している。血縁関係はないが実は同じ村で近所の出身だそうで、その縁で出演させていたらしい。ただ、辞める時に挨拶もなかったそうで、今はどうしているかも知らない、と15年ほど前に井田探はインタビューで語っていた。
海底から来た女
今回は川地民夫繋がりで「海底から来た女」(59年)である。このタイトルだとSFチックな感じがするが、原作は石原慎太郎の「鱶女(ふかおんな)」だったりする。こっちだとホラーな感じがしてしまう。
ここで川地演じる敏夫はちょっと屈折した内気な少年である。父はいないが裕福な家庭のようで、海岸沿いに別荘を持ち、ヨットも所持している。本作も別荘を訪れていた夏の出来事である。
敏夫の兄・克彦(水谷貞雄)は敏夫とは正反対な今で言う陽キャな人間で、その別荘に多くの友人を呼び、パーティーを開いていたりする。そういう雰囲気が苦手な敏夫は一人抜け出してヨットに乗ったりしていた。
そんな中で敏夫はヨットで寝そべっていたビキニスタイルの少女と出会う。少女と書いたがかなり大人な雰囲気をもつ。演じるのは筑波久子で、本作ではトップクレジットは彼女である(川地はその並び)。筑波は公開時はぎりぎり19歳(37年生まれとする資料もあるがここでは39年生まれを採用)で、日活ニューフェイスの3期生。二谷英明や小林旭が同期だ。デビューした57年の「肉体の反抗」で見せた体を張った演技が話題となり、ヒット作となったので、「肉体の悪夢」「燃える肉体」などが制作される。彼女が主演の「肉体シリーズ」は日活初期のドル箱シリーズだったのである。まあ本作もその流れに乗っている作品だとも言える。
もっとも彼女からすれば、「肉体派女優」と言われることは本意ではなく、見た目に反して身体も弱かったので、精神的にも肉体的にも病んでいったのである。そして、翌60年には日活を離れることになる。
話を戻すと、敏夫がその少女と出会った辺りから、近隣の漁港では魚が食い荒らされたり、若い漁師が行方不明になるなどの事件が相次いでいた。やがて兄・克彦も遺体となって発見される。その漁港では数年前にも同様の事件があり、そこには髪の長い少女の存在があったという。彼女の正体は鱶の精霊だと漁師たちは言い、彼女を殺そうとするのだった。敏夫が駆け付けた時には既に終わっていた。「あんたたちは人殺しだ」と敏夫は叫ぶが、漁師たちは大量の血を指さし「それは人間の血じゃない。鱶の姿になって沈んでいった」と言うのだった。鱶への変身シーンがあるわけではない。これが東宝だったら、「鱶人間第1号」というようなタイトルで特撮映画になったかもしれない。
数日後、帰ろうとする敏夫に近隣に住む小説家の堤(内田良平)は、彼女が鱶に変身する所を目撃していたことを告げるが「君は君の見たことだけを信じればいい、彼女は君のためだけに存在したんだ」と言うのだった。このセリフにより、本作はファンタジー作品だったような気分になるのである。
原作の石原慎太郎は脚本にも参加。もう一人の蔵原弓弧とは監督である蔵原惟繕のことだろう。
他の出演者だが、克彦の友人たちとして武藤章生、杉幸彦、葵真木子、江端朱実、須藤隆、杉山俊夫などで、武藤が何故かクレジット4番手、杉山はこれが映画デビューのようである。漁師たちに草薙幸二郎、浜村純、横山運平、山田禅二、榎木兵衛などである。克彦役の水谷貞雄だが、当時は劇団民藝の研修生だったようで、62年に正式に入団。映画出演はほとんどなく、テレビ出演も多くはないので知らなかったのだが、2019年上演の『新・正午浅草』永井荷風役で読売演劇大賞優秀男優賞受賞とある。昨年亡くなるまで民藝に在籍していたようだ。91歳であった。
すべてが狂ってる
前回の「何もかも狂ってやがる」(62年)とほぼ同じ意味のタイトルの作品が、同じ日活でその2年前に存在していた。それが「すべてが狂ってる」(60年)である。当時はこういったタイトルの映画が多い。61年にも「太陽は狂ってる」という作品がある。
こちらも主役の若者たちは高校生設定だが役者陣は「何もかも~」のようなリアル10代ではなく、川地民夫(当時22歳)を中心とした日活若手俳優陣である。知らない名前も多くそうじゃない人もいるかも。リーダー役が時照明、他に林茂朗、石丘伸吾、藤井昭雄、福田文子、花柳礼奈などで、「何もかも~」で主人公の友人を演じた坂下文夫も不良グループの一員である。
監督は鈴木清順で、本作は松竹ヌーヴェルバーグの影響を受けていると言われている。不良少年が破滅に向かって突き進むという構図がありがちだった気もする。
ヒロインの敏美を演じるのは禰津良子という新人である。モデル出身らしいが、年齢とか出演経緯とか一切不明である。実際、本作が映画デビューだったようである。ちゃんと棒読みではない演技をしており、期待の新人だったと思われる。何しろ女優としての活動期間は60~61年にかけての丁度1年くらいだったようで、そこで忽然と姿を消してしまったのである。60年以上前に1年だけ活動していた女優について調べるのはさすがに困難であった。表記は当初は「禰津」だったと思われるが、読めない人続出だろうと思われるので、ある時期から「祢津」になったと思われるがどっちにしろ読みづらい。ちなみに「やづ」ではなく「ねづ」である。ただ、資料によっては「弥津(彌津)」も混じったりしており、正解がどれなのか確定は出しにくい(祢津、禰津だとは思う)。基本、ヒロイン格だったが、最後の映画出演と思われる「ノサップの銃」(61年)では、クレジットも15~16番手になっていた。
本作には、もう一人(新人)つきで出演しているのが吉永小百合である。もちろん、不良少女などではなく出番も2カットくらい。でもクレジットは3番手だ。その兄を演じるのが「その壁を砕け」で真犯人役だった沢井杏介である。
川地民夫が演じるのは不良グループ一員である杉田次郎(二郎ではない)。その母親(未亡人)が奈良岡朋子なのだが、芦田伸介演じる会社重役の金銭的支援を受けている。要するに「愛人」ということになるが、次郎はそのことに嫌悪感を抱いており、それが彼を不良化させていたのである。ラストは車を猛スピードで走らせ、事故死するという予想できる結末が待っている。
他の出演者だが、中川姿子、宮城千賀子、初井言枝、穂積隆信、上野山功一、柳瀬志郎など。
あと、ジャズ喫茶で歌う歌手として坂本九、ダニー飯田とパラダイスキングがいたりする。パラキンには石川進の姿もある。
何もかも狂ってやがる
今回も日活作品で、ジャンルはよくわからんが「何もかも狂ってやがる」(62年)である。監督は若杉光夫なので青春映画ということになろうか。
トップクレジットは吉行和子だが、その横に寺田誠(新人)の名が並んでいる。主役の高校生・細田淳を演じるのが寺田なのだが、ニューフェイスでもスター候補というわけでもなく、実際に当時17歳の子役であった。他の高校生役の少年(少女)たちもほぼ無名で、やはり10代後半に見える感じだ。
大人たちも信欣三、大森義夫、佐野浅夫、梅野泰靖、武藤章生、高野由美、宮崎準、宮阪将嘉、大滝秀治といった顔ぶれであり、スター不在と言えるだろう。前回の「その壁を叩け」に出ているメンバーも多いが、吉行、信、大森、佐野、梅野、大滝らは当時は民藝の所属であった。そして主演の寺田も当時は劇団民藝俳優教室に在籍していたのである。民藝だらけと思ったら制作は民藝映画社であった。
寺田誠は44年生まれで、父は歌舞伎役者の嵐芳三郎(5代目)という家柄から6歳の時に前進座で初舞台を踏み、歌舞伎の子役として活動していたのである。ちなみに兄は嵐芳夫(後に6代目芳三郎)、嵐圭史、姉は寺田路恵という芸能一家だったのである。誠は中学は劇団の方針で普通の学生生活を送っているが、中学卒業後の61年に前述の俳優教室に入団したのである。ゆえに、高校生役だが実際は高校には行っていないという。64年には正式に民藝に入団するので、歌舞伎界からは離れたようである。60年代後半からは声優活動も開始するのだが、次第にこちらの方がメインとなっていくのである。
当初は洋画の吹き替えだったが、70年代後半からはアニメの仕事が増えていく。ちなみにこの頃は「大前田伝」を名乗っている。80年代に一度「寺田誠」に戻しているが、やがて「天地麦人」となり、80年代後半からは「麦人」を名乗るようになり、そのまま現在も定着している。一際、有名なのは「新スタートレック」のピカード艦長(パトリック・スチュワート)ではないだろうか。
淳と仲の良い吉井努を演じているのは坂下文夫。60年代の前半に10数本の映画に出演しているようだが、その後のことは不明である。坂下は出番もセリフも多いが、カンニングをする生徒・吉野清役の金川隆や名もなき同級生役の小沢直好よりクレジット順は後になっており、扱いが悪い。
あと刑事役でチラッと竜崎勝が出ている。当時は本名の高島史旭名義である。日活時代の彼が見ることができる少ない作品の一つだ。髙橋英樹、中尾彬はニューフェイスの同期という関係なのだが、竜崎は短期間で日活を去り、俳優座養成所入りしているので、日活の同期と言う感覚はなさそうである。ちなみにそれぞれの娘、高橋真麻、高島彩は共にフジテレビのアナウンサーになっている。
ところで、映画の大筋であるが、淳(寺田)は差別的な学校や情けない父親(大森)に不満を抱いていたが、偶然知り合ったタイピストの陽子(吉行)には心を開いていた。その上司(信)が彼女に迫ろうとするのを淳が防ぐのだった。彼女の為、淳は家を出て、港で働くことになるのだった。とまあ、よくわからん展開で終わるので、これはハッピーエンドなのかよくわからん作品であった。
その壁を砕け
今回も日活のサスペンス映画から「その壁を砕け」(59年)である。
本作は実際の事件である丸正事件(55年)を基にしているという。冤罪ではないかと言われている事件で、二人の容疑者は犯行を否認し続けたが、結局20年近くを刑務所で過ごすことになったのである。目撃証言以外に確たる証拠はなかったのだが、警察も一度逮捕したものを翻すことはできなかったという一面もあったようだ。
脚本が新藤兼人なので、もれなく乙羽信子が出演しているかと思いきや本作には出演していない。監督は中平康なので、新藤が監督の時とは違うようだ。
冒頭で、中古のマスターライン(初代クラウンのライトバン型)を買った三郎(小高雄二)が、東京からひたすら車を走らせるところから始まる。途中で恋人であるとし江(芦川いずみ)が勤務する「新潟病院」というわかりやすい名の病院が登場するので、新潟へ向かっていることがわかる。結構な尺で車が走り続けるので、小高が主役だと思っていたら、クレジットのトップは長門裕之、芦川いずみで、続いて小高雄二、渡辺美佐子となっている。
夜になり、新潟の鉢木村に差し掛かったところで、道の真ん中で手を振る若い男を助手席に乗せたのだった。これが悲劇の始まりだったのである。男は公園あたりですぐに降ろしたが、その直後車を警官に止められ、突然取り押さえられてしまう。実は郵便局で強盗殺人が発生しており、局長が死亡。その妻である婆さん(岸輝子)も額を殴られていた。あろうことか婆さんは三郎を見て「こいつが犯人だ」と叫ぶ始末。こうして三郎はほぼ目撃証言だけで犯人にされてしまったのである。車を買って、これから恋人に会いに行くウキウキ気分の男が強盗などするはずはないのだが、当時は動機などあまり考えなかったのだろうか。60年以上前とはいえ、正常な状態ではなかった被害者が「犯人だ」と言ったから立ち寄ってもいないのに第一容疑者になってしまうのだから怖いものである。
もちろん恋人のとし江は黙っていない。「三郎さんは人殺しなどしません」の一点ばりで、警察署長(清水将夫)や鮫島弁護士(芦田伸介)の心を動かしたのである。この逮捕劇の功績で駐在巡査だった森山(長門裕之)は、刑事へと昇格していた。鮫島は病院を辞め、裁判の行われる長岡のうどん屋で働くとし江の姿を森山に見せるのだった。森山もどこか納得のいかないものを感じ、休暇を取り独自に捜査を開始する。そして、三郎の証言にあった車に乗せた若い男らしき人物を見かけ尾行を開始する。しかし、その男富永(沢井杏介)は金を借りていたチンピラ三人組(梅野泰靖、野呂圭介など)に殺されてしまった。三人はすぐに逮捕され、富永の遺品から強盗の被害金額と同じ15万円が発見されたのだった。
森山からの報告で誤認逮捕は決定的になり、刑事部長(西村晃)は「私も君もみんな降格だぞ」と憤るが署長は再捜査を決定するのだった。ここで面子を守るためにこの話を聞かなかったことにすると冤罪が生まれるわけである。郵便局の長男(死去)の嫁である咲子(渡辺美佐子)は実は犯行直後の富永を目撃していたのだが、石工の男(神山繫)と乳繰り合っていたので言い出せなかったのである。
本作には上記以外にも、後に有名となる俳優が結構出演している。信欣三、下條正己、佐野浅夫、垂水悟郎、浜村純、鈴木瑞穂、大滝秀治などである。
本作は三郎の冤罪も晴れて、めでたしめでたしとなるのだが、実際の丸正事件はドロドロな展開になるのである。被告弁護士が三人の親族を犯人として告発するのだが、逆に彼等から名誉棄損で訴えられてしまうのだ。結局、被告は収監され「無実」が証明されることはなかったのである。
死の十字路
前回と同じく56年の日活サスペンスから「死の十字路」を取り上げてみたい。原作は江戸川乱歩の「十字路」で、おそらく日活では初の乱歩作品の映画化であろう。54年に松竹が「怪人二十面相」の三部作を制作し、この56年に東映でも「少年探偵団」シリーズが制作されているが、日活ではこの後も乱歩作品の映画化はほとんどなかったようである。
本作には二十面相も明智小五郎も少年探偵団も登場しない。あらすじだが、伊勢省吾(三國連太郎)は愛人の沖晴美(新珠三千代)との密会を妻の友子(山岡久乃)に発見された。晴美を殺そうとする友子を省吾は誤って殺してしまう。省吾は死体を車のトランクに乗せて藤瀬ダムに行く途中、トラックと接触事故を起こし、交番で事故の聴取を受けるため車から離れてしまう。一方、真下幸彦(三島耕)は恋人の相馬芳江(芦川いづみ)の兄良介(大坂志郎)に、芳江との結婚の承諾を求めたことから争いとなり、良介ははずみで頭を打ってしまう。バーを出た良介はふらつきながら歩いていき、たまたま止まっていた省吾の車の後部座席に乗り込むが、直後に息絶える。戻って来た省吾は見知らぬ男の死体があるのに驚くが、二人の死体を同時に処分することにするのであった。というような展開だ。
三國は五社協定違反第1号と言われているが、この時期は日活と専属契約を結んでいた。と言っても丸一年くらいで、フリーとなっている(その後東映と専属契約)。当時33歳だが、役柄上50近くに見えるようなメイクをしている。新珠三千代はあまりイメージにないが、宝塚卒業後は日活に入社していたのである。まあ、57年には東宝に移籍するのだけれども。三島耕も太泉映画を皮切りに短期間に松竹、日活、東宝と渡り歩いている。この頃は確かに二枚目感があるが、「特別機動捜査隊」の初期(63年)に数回刑事役で登場するのだが、髪の毛が薄くなり多少太っていたイメージがある。本作にはよく似た名の三島謙も出演している(トラック運転手役)。それらに比べて芦川いづみはまさしく日活の人であったが、本作では出番は多くない。
本作に登場する探偵は南重吉というが、大坂志郎の二役である。何故二役かと言えば、原作でも良介と南は似ているという設定があり、芳江が偶然、兄に似た南を見かけたことから知り合い調査に乗り出してくることになるのだ。しかし、南は小悪党で真相に辿り着くと省吾を強請ったりするのである。そして彼に殺されるので、本作で大坂志郎は二度死ぬのである。警察関係者は花田警部(安部徹)や田辺刑事(小林重四郎)が登場。安部も小林も悪役のイメージが強いが、安部は元々は二枚目役であった。小林は戦前の日活で「雲井竜雄」の名で、デビューしている。
本作の脚本は渡辺剣次が担当。渡辺は当時探偵作家クラブの会員で、原作の原案を書いた人なのである。わかりづらい日本語だが、要するに第一稿を書いたのは渡辺だということである。着想やトリックも彼で、乱歩がそれを自分になりに書き直したのだという。渡辺はNHKに勤務し、「私だけが知っている」の台本なども手掛けていたという。映画脚本は本作以外には「夜の牙」(58年)、「危うしGメン暗黒街の野獣」(60年)がある。
悪魔の街
今回も50年代の作品となるが、日活の「悪魔の街」(56年)である。監督は鈴木清太郎つまり後の鈴木清順で、本作は3作目の作品となる。清順を名乗るのはのは58年からで、ちなみに鈴木健二(元NHKアナウンサー)は実の弟だ。主演は河津清三郎で、戦前からのスターだが、この時期の日活ではまだ主演を張っていた。ずんぐりした50代の男という感じだが、調べたらまだ48歳であった。
本作はジャンルで言えば、アクションということになるだろうか。冒頭検察庁から護送される容疑者たちの中に大庭(菅井一郎)がいる。彼はギャングのボスなのである。しかし護送車から降りる際に共に護送されていた若いチンピラの手助けで大庭は逃走に成功するのである。この背の高いチンピラは誰かと思ったら深江章喜であった。まだ頭角を表す前だ。
大庭は中国人ボス(久松晃)の屋敷に構われるが、この大庭の一の子分が河津演じる早崎なのである。菅井は当時49歳で河津とは同世代で親分子分という感じには見えないが恩義があるという設定。共に新興キネマ出身で、フリーランスの俳優集団「第一協団」を清水将夫らと結成している。
この早崎の弟分が赤木だが、これも最初誰が演じているのかわからなかった。実は芦田伸介で、思わず「嘘」と思ってしまった。トレードマークとも言える黒縁メガネをかけていないこともあるが、河津を「兄貴」などと呼び、若々しく見えるので想像がつかなかったのである。ちなみに当時39歳で「七人の刑事」はこの5年後にスタートするのである。
話を戻すと、早崎は大庭の逃走資金のため競馬の八百長で稼ごうとするが、騎手の萩原(中川晴彦)に裏切られる。高跳びできない大庭は久保刑事(宮崎準)を殺したり、かつて自分を捕まえた戸川巡査(高野誠二郎)に重傷を負わせる。実は早崎と戸川は幼馴染であり、妹の貴美子(由美あづさ)と早崎は恋愛関係にあったのである。佐々木部長刑事(河野秋武)の説得もあり、早崎は警察に協力することを決意するのだった。
中川晴彦はこの後、新東宝に移籍し中村龍三郎という歌舞伎役者のような芸名で活動して行くことになる。社長の大蔵貢に無理矢理改名させられたのだが、新東宝倒産後も現代劇が中心でありながらそのまま名前を変えることはなかった。逆に新東宝から移籍してきたのが貴美子の同僚役の郷絢子である。次回作でヒロインに抜擢され、監督の小杉勇の勧めで左京未知子と改名するのである。
今回ヒロイン役となるのが貴美子役の由美あづさで(入社第一作)の但し書きが付いていた。しかし、第二作はなかったようである。引退とかではなく映画に出演することが以降なかったようなのである。関西の人ならこの「由美あづさ」という名に聞き覚えのある人もいるかもしれない。彼女はこの後劇作家・花登筺と結婚するのである。58年、花登は由美、大村崑、芦屋雁之助、芦屋小雁らと劇団「笑いの王国」を結成し人気を博す。しかし、雁之助は二番手扱いに不満を抱くようになり、由美は看板女優として君臨し横暴な振る舞いも目立つようになったという。64年に「笑いの王国」は解散し、花登と由美の関係も修復不能となり、74年に花登の不倫が発覚。ちなみに相手は星由里子であった。二人は離婚し、花登は星と再婚したのである。
話が横に逸れたが、萩原や赤木も大庭に殺され、最終的には早崎との直接対決となるのだ。内容はさておき、別の意味で楽しめた作品であった。