お宝映画・番組私的見聞録
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その壁を砕け

今回も日活のサスペンス映画から「その壁を砕け」(59年)である。
本作は実際の事件である丸正事件(55年)を基にしているという。冤罪ではないかと言われている事件で、二人の容疑者は犯行を否認し続けたが、結局20年近くを刑務所で過ごすことになったのである。目撃証言以外に確たる証拠はなかったのだが、警察も一度逮捕したものを翻すことはできなかったという一面もあったようだ。
脚本が新藤兼人なので、もれなく乙羽信子が出演しているかと思いきや本作には出演していない。監督は中平康なので、新藤が監督の時とは違うようだ。
冒頭で、中古のマスターライン(初代クラウンのライトバン型)を買った三郎小高雄二)が、東京からひたすら車を走らせるところから始まる。途中で恋人であるとし江芦川いずみ)が勤務する「新潟病院」というわかりやすい名の病院が登場するので、新潟へ向かっていることがわかる。結構な尺で車が走り続けるので、小高が主役だと思っていたら、クレジットのトップは長門裕之、芦川いずみで、続いて小高雄二、渡辺美佐子となっている。
夜になり、新潟の鉢木村に差し掛かったところで、道の真ん中で手を振る若い男を助手席に乗せたのだった。これが悲劇の始まりだったのである。男は公園あたりですぐに降ろしたが、その直後車を警官に止められ、突然取り押さえられてしまう。実は郵便局で強盗殺人が発生しており、局長が死亡。その妻である婆さん(岸輝子)も額を殴られていた。あろうことか婆さんは三郎を見て「こいつが犯人だ」と叫ぶ始末。こうして三郎はほぼ目撃証言だけで犯人にされてしまったのである。車を買って、これから恋人に会いに行くウキウキ気分の男が強盗などするはずはないのだが、当時は動機などあまり考えなかったのだろうか。60年以上前とはいえ、正常な状態ではなかった被害者が「犯人だ」と言ったから立ち寄ってもいないのに第一容疑者になってしまうのだから怖いものである。
もちろん恋人のとし江は黙っていない。「三郎さんは人殺しなどしません」の一点ばりで、警察署長清水将夫)や鮫島弁護士芦田伸介)の心を動かしたのである。この逮捕劇の功績で駐在巡査だった森山長門裕之)は、刑事へと昇格していた。鮫島は病院を辞め、裁判の行われる長岡のうどん屋で働くとし江の姿を森山に見せるのだった。森山もどこか納得のいかないものを感じ、休暇を取り独自に捜査を開始する。そして、三郎の証言にあった車に乗せた若い男らしき人物を見かけ尾行を開始する。しかし、その男富永沢井杏介)は金を借りていたチンピラ三人組梅野泰靖、野呂圭介など)に殺されてしまった。三人はすぐに逮捕され、富永の遺品から強盗の被害金額と同じ15万円が発見されたのだった。
森山からの報告で誤認逮捕は決定的になり、刑事部長西村晃)は「私も君もみんな降格だぞ」と憤るが署長は再捜査を決定するのだった。ここで面子を守るためにこの話を聞かなかったことにすると冤罪が生まれるわけである。郵便局の長男(死去)の嫁である咲子渡辺美佐子)は実は犯行直後の富永を目撃していたのだが、石工の男神山繫)と乳繰り合っていたので言い出せなかったのである。
本作には上記以外にも、後に有名となる俳優が結構出演している。信欣三、下條正己、佐野浅夫、垂水悟郎、浜村純、鈴木瑞穂、大滝秀治などである。
本作は三郎の冤罪も晴れて、めでたしめでたしとなるのだが、実際の丸正事件はドロドロな展開になるのである。被告弁護士が三人の親族を犯人として告発するのだが、逆に彼等から名誉棄損で訴えられてしまうのだ。結局、被告は収監され「無実」が証明されることはなかったのである。
 

死の十字路


前回と同じく56年の日活サスペンスから「死の十字路」を取り上げてみたい。原作は江戸川乱歩の「十字路」で、おそらく日活では初の乱歩作品の映画化であろう。54年に松竹が「怪人二十面相」の三部作を制作し、この56年に東映でも「少年探偵団」シリーズが制作されているが、日活ではこの後も乱歩作品の映画化はほとんどなかったようである。
本作には二十面相明智小五郎も少年探偵団も登場しない。あらすじだが、伊勢省吾三國連太郎)は愛人の沖晴美新珠三千代)との密会を妻の友子山岡久乃)に発見された。晴美を殺そうとする友子省吾は誤って殺してしまう。省吾は死体を車のトランクに乗せて藤瀬ダムに行く途中、トラックと接触事故を起こし、交番で事故の聴取を受けるため車から離れてしまう。一方、真下幸彦三島耕)は恋人の相馬芳江芦川いづみ)の兄良介大坂志郎)に、芳江との結婚の承諾を求めたことから争いとなり、良介ははずみで頭を打ってしまう。バーを出た良介はふらつきながら歩いていき、たまたま止まっていた省吾の車の後部座席に乗り込むが、直後に息絶える。戻って来た省吾は見知らぬ男の死体があるのに驚くが、二人の死体を同時に処分することにするのであった。というような展開だ。
三國は五社協定違反第1号と言われているが、この時期は日活と専属契約を結んでいた。と言っても丸一年くらいで、フリーとなっている(その後東映と専属契約)。当時33歳だが、役柄上50近くに見えるようなメイクをしている。新珠三千代はあまりイメージにないが、宝塚卒業後は日活に入社していたのである。まあ、57年には東宝に移籍するのだけれども。三島耕も太泉映画を皮切りに短期間に松竹、日活、東宝と渡り歩いている。この頃は確かに二枚目感があるが、「特別機動捜査隊」の初期(63年)に数回刑事役で登場するのだが、髪の毛が薄くなり多少太っていたイメージがある。本作にはよく似た名の三島謙も出演している(トラック運転手役)。それらに比べて芦川いづみはまさしく日活の人であったが、本作では出番は多くない。
本作に登場する探偵は南重吉というが、大坂志郎の二役である。何故二役かと言えば、原作でも良介と南は似ているという設定があり、芳江が偶然、兄に似たを見かけたことから知り合い調査に乗り出してくることになるのだ。しかし、は小悪党で真相に辿り着くと省吾を強請ったりするのである。そして彼に殺されるので、本作で大坂志郎は二度死ぬのである。警察関係者は花田警部安部徹)や田辺刑事小林重四郎)が登場。安部も小林も悪役のイメージが強いが、安部は元々は二枚目役であった。小林は戦前の日活で「雲井竜雄」の名で、デビューしている。
本作の脚本は渡辺剣次が担当。渡辺は当時探偵作家クラブの会員で、原作の原案を書いた人なのである。わかりづらい日本語だが、要するに第一稿を書いたのは渡辺だということである。着想やトリックも彼で、乱歩がそれを自分になりに書き直したのだという。渡辺はNHKに勤務し、「私だけが知っている」の台本なども手掛けていたという。映画脚本は本作以外には「夜の牙」(58年)、「危うしGメン暗黒街の野獣」(60年)がある。

悪魔の街

今回も50年代の作品となるが、日活の「悪魔の街」(56年)である。監督は鈴木清太郎つまり後の鈴木清順で、本作は3作目の作品となる。清順を名乗るのはのは58年からで、ちなみに鈴木健二(元NHKアナウンサー)は実の弟だ。主演は河津清三郎で、戦前からのスターだが、この時期の日活ではまだ主演を張っていた。ずんぐりした50代の男という感じだが、調べたらまだ48歳であった。
本作はジャンルで言えば、アクションということになるだろうか。冒頭検察庁から護送される容疑者たちの中に大庭菅井一郎)がいる。彼はギャングのボスなのである。しかし護送車から降りる際に共に護送されていた若いチンピラの手助けで大庭は逃走に成功するのである。この背の高いチンピラは誰かと思ったら深江章喜であった。まだ頭角を表す前だ。
大庭は中国人ボス(久松晃)の屋敷に構われるが、この大庭の一の子分が河津演じる早崎なのである。菅井は当時49歳で河津とは同世代で親分子分という感じには見えないが恩義があるという設定。共に新興キネマ出身で、フリーランスの俳優集団「第一協団」を清水将夫らと結成している。
この早崎の弟分が赤木だが、これも最初誰が演じているのかわからなかった。実は芦田伸介で、思わず「嘘」と思ってしまった。トレードマークとも言える黒縁メガネをかけていないこともあるが、河津を「兄貴」などと呼び、若々しく見えるので想像がつかなかったのである。ちなみに当時39歳で「七人の刑事」はこの5年後にスタートするのである。
話を戻すと、早崎は大庭の逃走資金のため競馬の八百長で稼ごうとするが、騎手の萩原中川晴彦)に裏切られる。高跳びできない大庭久保刑事宮崎準)を殺したり、かつて自分を捕まえた戸川巡査高野誠二郎)に重傷を負わせる。実は早崎と戸川は幼馴染であり、妹の貴美子由美あづさ)と早崎は恋愛関係にあったのである。佐々木部長刑事河野秋武)の説得もあり、早崎は警察に協力することを決意するのだった。
中川晴彦はこの後、新東宝に移籍し中村龍三郎という歌舞伎役者のような芸名で活動して行くことになる。社長の大蔵貢に無理矢理改名させられたのだが、新東宝倒産後も現代劇が中心でありながらそのまま名前を変えることはなかった。逆に新東宝から移籍してきたのが貴美子の同僚役の郷絢子である。次回作でヒロインに抜擢され、監督の小杉勇の勧めで左京未知子と改名するのである。
今回ヒロイン役となるのが貴美子役の由美あづさで(入社第一作)の但し書きが付いていた。しかし、第二作はなかったようである。引退とかではなく映画に出演することが以降なかったようなのである。関西の人ならこの「由美あづさ」という名に聞き覚えのある人もいるかもしれない。彼女はこの後劇作家・花登筺と結婚するのである。58年、花登由美、大村崑、芦屋雁之助、芦屋小雁らと劇団「笑いの王国」を結成し人気を博す。しかし、雁之助は二番手扱いに不満を抱くようになり、由美は看板女優として君臨し横暴な振る舞いも目立つようになったという。64年に「笑いの王国」は解散し、花登由美の関係も修復不能となり、74年に花登の不倫が発覚。ちなみに相手は星由里子であった。二人は離婚し、花登と再婚したのである。
話が横に逸れたが、萩原や赤木大庭に殺され、最終的には早崎との直接対決となるのだ。内容はさておき、別の意味で楽しめた作品であった。
 

悪の愉しさ

前回とは全く関係ないのだが、時代は遡り54年となる。日活が映画製作を再開した年ではあるが、今回は日活ではない。ネット上でたまたま見かけた「悪の愉しさ」である。最初これは東宝の作品かと思った。何故なら、企画に藤本真澄の名があり、監督も当時は東宝所属の千葉泰樹。何よりメインキャストに、久我美子、杉葉子、伊豆肇と東宝ニューフェイスが並んでいたからである。
しかし、よく出演者クレジットを見ていると岩城力(力也)、片山滉、大東良一(良)、牧野狂介、関山耕司、菅沼正、沢彰謙、豊野弥八郎など明らかに東映の大部屋メンバーが並んでいる。結論からいうと本作は東映の作品であった。
冒頭に東映の三角マークが出るだろうと言う人もいるだろうが、その部分は(おそらく)カットされていたので判断がつかなかったのである。東宝と言えば、戦後まもなく大規模なストライキ(東宝争議)があり、映画製作が出来なくなり、新東宝が誕生したり、他社へ出向いて撮影が行われたりしていた。黒澤明で言えば「羅生門」は大映で、「醜聞」や「白痴」は松竹で三船敏郎を連れて行って撮られたりしている。しかし、本作が公開された54年といえば「七人の侍」や「ゴジラ」も公開されており、東宝も通常体制に戻っていたはである。、
藤本真澄も東宝争議における48年の警官隊導入の責任を取って東宝を退社し、49年に藤本プロダクションを設立して各社の製作を請け負ったりしていた。しかし、51年には東宝に復帰している。
五社協定は53年に発足しており、他社の俳優は簡単には出演できないようになっていた。ゆえに、本作に多くの東宝関係者が関わっているのは謎なのだが、おそらく前述の藤本プロが東映との共同制作といった形になっているのではないだろうか。監督の千葉も53~54年にかけては他社で指揮を執っていたのはその関係かもしれない。
本作のトップクレジットは森雅之(大映)になっており、久我美子伊藤久哉(新人)が並んでいる。には(大映)と付いているが、久我、杉、伊豆には(東宝)とは付いていない。まだ東宝所属のはずだが(はっきりとは不明)、当時久我は松竹、伊豆は日活などにも出演していた。前述の五社協定の話とは矛盾するけれども。
さて、本作の主演は三番手扱いとなっているが、伊藤久哉なのである。30歳ではあったが、(新人)とあるように俳優座養成所を出たばかりで、この54年に東映と専属契約を結んでいる。伊藤も東宝のイメージが強いと思うが、スタートは東映であり、57年に東宝に移籍しているのだ。
さて、ようやく本編の内容だが、原作は石川達三。伊藤演じる中根は平凡なサラリーマン。有貴子杉葉子)という妻がいるが、秘書課の康代久我美子)と浮気していた。しかし、康代はエリート社員の池田船山汎)と結婚することになり、中根は未練タラタラ。さらに有貴子が浮気していることが発覚。相手は脇坂森雅之)という知り合いのブローカーだった。一方で、結婚した康代池田が会社の金を横領していることを知りその穴埋めを考え中根に相談。中根は脇坂に目をつけ、彼を絞殺して金を奪うのだった。完全犯罪を目論んだ中根だったが、あっさりと逮捕されるのだった。絶望した中根は検察庁の窓から…。というような話である。
トップクレジットのは殺される役なのである。他の出演者だが、加藤嘉、星美智子、東郷晴子、千石規子など。伊藤久哉はこの後、主役をやるようなことはなかったのではないだろうか。ちゃんと調べたわけではないけれども。

大当たり百発百中

また、ガラリと話題は変わり日活に戻るのだが、今回は「大当り百発百中」(61年)である。
主演は小沢昭一である。小沢が主演の映画なんてあるんだと思って調べたら十数本もあるようだ。俳優以外の活動でよく見かけた気がするし、テレビドラマではほぼ見かけたことがないので主演俳優のイメージが個人的には全くなかったのである。
彼が扮する及川太郎はレコード会社の文芸部員。要するに作詞担当なのだが、そちらの才能は今ひとつ。しかし、競馬の予想に関しては百発百中という特技を持っている。その特技のせいで、愚連隊のボスである白井加藤武)に目をつけられ、監禁されたりしてしまうというのが大雑把な筋である。
当時の中央競馬の券種は単勝、複勝、枠連が主流で枠は6枠までしかなかった(8枠制は63年から)。現在よりも当てやすいことは確かだろうが、百発百中はムリだろう。当てるだけなら全部買えばいいというツッコミは現実的ではない。
小沢昭一だが、旧制麻布中学の出身で同級生にフランキー堺、仲谷昇、そして前述の加藤武らがいた。中でも加藤とはこの後、早稲田大学にも共に進学し、共に演劇活動をしていくことになる。29年生まれなので、当時31歳ということになるが、小沢加藤も40代という感じに見える。まあ当時の成人は総じて老けて見えるのだけれども。
彼の日活初出演は川島雄三監督の「愛のお荷物」(55年)。そして川島作品を中心に出演するようになり、やがて年六本の出演契約を日活と結んだという。しかし、年六本どころではなく二十本に及んだこともあったという。今回の「大当り百発百中」では主題歌を歌っているのだが、これは小沢本人の希望だという。裕次郎や旭のように自分も歌ってみたかったからだそうだ。
小沢の新婚の奥さん役が松原智恵子。実は最初見た時、松原智恵子だとわからなかった。彼女はデビューしてまだ三カ月くらいで、当時16歳の高校生でもあった。しかし、そんなに幼くは見えないし、20代の若手女優かと勘違いしたのである。そういえば、クレジットの二番手は(新人)付の彼女だったので、そこで初めて気づいたくらいだ。まあ彼女もいきなり若奥さんの役をやるとは思ってなかったのではないだろうか。ちなみに彼女の両親役が武智豊子とジョージ・ルイカーなので、ハーフということになるのだろうか。
この61年デビューで、その年から十数本の作品に出演。デビュー作こそ端役だったようだが、すぐにメインヒロインとなり、相手役も川地民夫だったり長門裕之だったり宍戸錠だったりと当初特定のコンビはなかった。誰が合うか適正を見極めていたのかもしれない。後に小林旭や渡哲也との共演が多くなるけれども。
名古屋出身の彼女は高校も東京に転校しようとしたが、「芸能人はダメ」とか中々受け入れてくれるところがなかったという。そこを浅丘ルリ子が「菊華高校(現・杉並学院)なら」と紹介してくれたそうである。浅丘本人は中退しているのだが、松原は5年かけて卒業したという。
他の出演者だが、田代みどり、由利徹、南利明、高原駿雄、神戸瓢介、千代侑子などである。

黒い河

今回は仲代達矢繋がりで「黒い河」(57年)である。前回の「青い野獣」(60年)や「野獣死すべし」(59年)などもそうだが、初期の仲代は主演で悪党というかワルを演じることが多かった。彼の本格的な映画デビューは日活の「火の鳥」(56)だが、悪党役は今回の「黒い河」が初めてではないだろうか。
人呼んで「人斬りジョー」というのが今回の仲代の役どころで、ヤクザというか愚連隊のリーダー的な存在である。明らかに年上な富田仲次郎山口)や佐野浅夫坂崎)がその仲間だったりする。
舞台は厚木基地の周辺で、そこに存在する当時でもオンボロな長屋「月光荘」である。そこに苦学生である渡辺文雄演じる西田が入居するところから始まる。彼が駅で道を尋ねたのが本作の主演である有馬稲子(静子)だったのである。その辺には似合わない日傘をいつもさして優雅に歩いている一見どこかの令嬢風である。実は喫茶でウェイトレスとして働いているのだが、とにかく目立つ。そんな彼女にジョーは目をつけるのであった。西田も彼女に一目惚れ状態で、次第に仲良くなっていく。それを目撃したジョーは強行手段に出て静子を仲間に襲わせ助けるふりをして彼女を抱いたのだった。後に彼女がその事を知るとジョーへの殺意が芽生えたのだった。ジョーの誕生日という名目で、静子と西田は招待される。ほろ酔い気分で外へ連れ立って出るジョーと静子。その数メートル後を西田桂木洋子演じるジョーの情婦である幸子が歩いていた。彼等の後方から米軍のトラックが走って来た。静子の計画を聞いていた西田は止めようと走り出すのだが、彼女はジョーを迫りくるトラックに向かって突き飛ばした…。というのが大雑把なあらすじだ。
何と言っても有馬稲子が美しい。本作で清楚な(感じの)美女として登場するのは彼女だけなので、余計に引き立つ。淡路恵子桂木洋子も出ているが、あばずれた役なのである。いつも清純な役のイメージである桂木のこういう役は珍しい気がする。本作は企画が「にんじんくらぶ」だ。知ってる人も多いだろうが、にんじんくらぶとは有馬岸惠子、久我美子によって54年に結成された映画制作プロダクションである。桂木も後に加入している。
有馬稲子に関して調べたことがなかったのだが、仲代と同じ32年生まれで、本名は中西盛子(みつこ)。実の両親は労働運動を行い隠れて暮らすような日々を送っていた為、見かねた祖母が伯母の下へ連れて行ったのである。伯母夫婦には子供がおらず、盛子はそこで養女となったのである。実はこの伯母が宝塚歌劇団出身で、有馬稲子の芸名で活動していた過去があったのだ。そのことを盛子は自分が宝塚に合格するまで知らなかったという。宝塚も伯母の勧めだったわけではない。とにかく彼女には(二代目)有馬稲子の名が与えられることになったのである。
渡辺文雄は当時28歳。まだ、ほっそりとした二枚目だが学生には見えない感じだ。やはり本作は「月光荘」の住民の顔ぶれが凄い。前述の佐野、富田、淡路に加えて宮口精二、東野英治郎、永井智雄、小笠原章二郎、そして高橋とよ、三戸部スエ、賀原夏子、菅井きんなど。三戸部、賀原、菅井は当時30代だが、とてもそうは見えない。若い頃も後のイメージとあまり変わらない。菅井(当時31歳)など、年齢相応の役なのか当時から老け役なのかはっきりしない。そして、「月光荘」の家主役である山田五十鈴。出っ歯に見える入れ歯(付け歯?)を装着しての登場である。当時の役者は役のために歯を抜いたりすることもあったと話には聞くので、自己判断か不明だが、そのくらいやっても不思議ではない。
当時のポスターは、よく見ると前述のラストシーンを表している。半分はトラックだし、その横で有馬とのけぞっている仲代の姿。「私がジョーを殺す!」の文字もあるし、普通にネタバレであろう。

青い野獣

フランキー堺の喜劇映画が4回続いたが、今回はガラリと変わって東宝の「青い野獣」(60年)である。ジャンルはピカレスクロマンということになろうか。
主演は仲代達矢で、この前年である59年には「人間の條件」や「野獣死すべし」で主演俳優となっていた。ただ本作はあまり語られることがない作品である。仲代演じる黒木は学生時代は左翼運動に身を投じていたが、半ばで抜けあっさりと出版社「婦人春秋」就職していた。数年で組合の副委員長に就任し、小川社長田崎潤)を相手に賃上げ交渉を行っていたりしていた。しかし、裏では組合の情報を社長に流したりして出世を目論んでいたのである。そもそも入社のきっかけも学生運動の同志だった良重淡路恵子)がアルバイトに家庭教師をしていた先の小川社長夫人・頼子(丹阿弥谷津子)と関係を結びその口ききだった。黒木は組合を分裂させ、財界の大物江藤千田是也)に近づく。その娘である文子司葉子)を脅迫し、暴力で肉体関係を持った。黒木の虜になった文子は婚約を解消し黒木と結婚すると言い出した。全てが黒木の思い通りにいったと思われたのだが…。
本作で注目した俳優が二人いる。まずは西條康彦西條と言えば「ウルトラQ」での戸川一平役が有名。というか他に思いつかない人も多いのでは。映画では基本的にはチョイ役がほとんどだが、本作では黒木の後輩の大学生・西秀夫を演じており、結構出番もセリフも多いのである。これは同じ堀川弘通監督の前作「黒い画集 あるサラリーマンの証言」で果物屋の店員役の西條が割合長いセリフを一発OKしたことがきっかけだったようだ。彼の演じた西は、一見黒木に尻尾を振っているが裏では冷ややかに見ているという役だ。本人も「映画論叢」のインタビューで、一番思い入れのある出演映画は「青い野獣」だと語っている。
もう一人は組合員の一人井本役の鈴木和夫である。正直名前はよく見かけていたが顔は把握していなかったところ、初めて認識できた。それにしても当時なら全国に同姓同名の人が百人はそうな名前である。この人も基本的にはチョイ役がほとんどだが、本作では社長に「文句あるか」と突っかかていったりするのである。そしてネタバレになるが、ラストで黒木を刺すのが彼なのである。普通に東宝の大部屋役者と思っていたが、俳優座養成所の出身で、60年に俳協入りし、61年に東宝と契約したとwikiにはある。これが正しいとすれば、本作の時点では東宝所属する前だったことになる。東宝大部屋の佐田豊が黒澤映画「天国と地獄」で誘拐される子供の父親という大役を演じたが、鈴木にとっては本作が一番の大役のような気がする。ただ、テレビの出演作を調べると前述の「ウルトラQ」では第2話「五郎とゴロー」の五郎役だったり、「仮面ライダースーパー1」(80年)では、悪の組織「ジンドグマ」の幹部幽霊博士を演じたりしていた。自分は「スーパー1」をほぼ見たことがないので、全く知らなかった。東宝特撮にも結構出演しており、特撮界隈では知られた存在なのかもしれない。
大怪獣バラン」(58年)ではヒロインだった園田あゆみが社長の若い愛人役で出演している。他に中谷一郎、児玉清(小玉清とクレジット)西村晃、滝田裕介、石川進、稲葉義男、小栗一也など。
 

喜劇 誘惑旅行

すっかり週一ペースになってしまったが、せっかくGWなので、もう1本くらい書くことにする。
というわけで、旅行シリーズからもう一作くらいということで第9作となる「喜劇 誘惑旅行」(72年)を取り上げたいと思う。こちらはタイトルに「喜劇」がつく。
今回、フランキー堺演じる大沢泰三はひかり号の専務車掌である。しかし、本作においてはそれはあまり関係がない。今回の舞台はほぼフィリピンだからである。最初、音声もつけず部分的に流し見したのだが、夫婦交換プレイの話かと思ってしまった。後からあらすじを見ると全然違っていた。
泰三は妻の弘子倍賞千恵子)とクイズ番組に出演。ほとんど彼女の力で優勝し、賞品であるフィリピン旅行を勝ち取ったのである。しかし、スポンサーの都合で招待されるのは弘子一人となってしまう。そこへ、フィリピン航空のスチュワーデス・マリ川口まさみ)が訪れ、弘子が羽田~マニララインの開設十万人目の客となるので、夫婦を一週間のフィリピンツアーの招待すると言う。マニラ空港へつくと番組スポンサーの駐在員三宅(佐藤允)が待っており、招待は一人だけだからと弘子のみを連れた行く。泰三は機内で知り合った清美尾崎奈々)を弘子の身代わりにして、マリの案内で市内観光へという流れである。
冒頭のクイズ番組で司会役は何故か森次浩司(後に康嗣)で、ゲスト歌手が安倍律子(後に理津子)である。当時子供ながらに安倍律子は結構好きだった。小野ヤスシと噂になったような記憶があるが間違いかもしれない。現在も歌手活動は続けているようで、今年に入ってからもシングルが発売されているようだ。芸名は本名の熊木からベアちゃんと呼ぶ友人がおり、それをひっくり返して安倍になったという。
川口まさみは「ビーバー」と言ったほうがわかる人もいるだろう。ハーフっぽい顔立ちだが、両親とも日本人だという。当初はモデルで、後にラジオパーソナリティーに抜擢。その3人で「モコ・ビーバー・オリーブ」としてシングルも出している。モコは高橋基子、オリーブはシリア・ポールである。ビーバーというのは中学時代のあだ名だったそうで、本作が映画初出演だったようだ。
逆に最後の映画出演となったのが尾崎奈々である。当時の松竹の若手看板女優だが、個人的にはあまり馴染みがなくパッと見て尾崎奈々と判別ができない。彼女が出ていた松竹青春映画を見るような年齢ではなかったし、ドラマもレギュラーで出演していたものを見たことがなかった。見たことは無いが「娘たちはいま」(67~68年)というドラマでは八千草薫、吉永小百合、前回取り上げた野添ひとみと四姉妹を演じている。翌73年に松竹のカメラマン(後に監督)だった石原興と結婚して引退してしまうが(77年に一時復帰)、出会いは石原を有名にした必殺シリーズ(必殺仕掛人)ではなく、浜畑賢吉主演の「紫頭巾」(72年)だったようだ。
ちなみに、安倍律子、ビーバー、尾崎奈々はいずれも48年生まれである。
佐藤允のほか二瓶正也など東宝出身者の顔が見えるが、大映は潰れ、日活はロマンポルノへ、東宝は今も存続しているが俳優の専属制を辞めた頃である。他の出演者は森田健作、左とん平、丹下キヨ子など。
協力フィリピン航空、マニラヒルトンとあるようにフィリピン観光を促進する映画である。

縁結び旅行

今回もフランキー堺なのだが、時代は十数年経過する。日活から東宝に移り「社長シリーズ」などに出演。そして次は松竹へ移り、すぐにヒットシリーズとなったのが「旅行シリーズ」(68~72年)である。個人的にはフランキーと言えば、松竹のイメージが強い。全部で11作あるようだが、今回はその中から第5弾「縁結び旅行」(70年)をチョイスする。理由はとりあえず見たからである。タイトルの頭に「喜劇」が付くものと付かないものがあり、本作は付かないようである。勿論、本作も普通に喜劇なのでその基準は不明である。
主演のフランキーが鉄道員であることは共通だが、役名も設定も毎回違う。本作の舞台は播州赤穂駅ということで、フランキーが演じる主人公も赤穂浪士の一人である赤垣源蔵の子孫らしい赤垣源太といい、同駅の旅客係である。ちなみに赤垣源蔵の実際の名は赤埴重賢といい、源蔵は通称で、「忠臣蔵」の物語の中では赤垣源蔵と呼ばれているということらしい。「埴」と「垣」の字が似ているからだろうか。
このシリーズも寅さんではないが、毎回のようにマドンナが登場するが、今回は金井克子(当時25歳)である。当時は彼女単体の人気と言うよりは、西野バレエ団五人娘のリーダー(最年長)としての人気のような気がする。歌手デビューは62年だが、まだ大きなヒット曲はない。大ヒットとなる「他人の関係」は73年の話である。彼女は駅長長門勇)の娘で郵便局に勤めているという役柄だ。源太は彼女とデートに漕ぎつけるのだが、邪魔しに?現れるのが倍賞千恵子である。今回は特別出演扱いとなっている。
そして、もう一人。シリーズ2作目の「婚前旅行」(69年)ではメインヒロイン役だった野添ひとみ(当時33歳)である。追いかけられる側だったのが、今回は追いかける側に。つまり彼女の方がフランキーに夢中という設定だ。そば屋の店員で、ど近眼のため分厚いメガネをかけている。メガネを外したら超美人というのはよくあるパターンだが、彼女は登場して直ぐにメガネを外し、素顔を見せており美人であることは判明している。しかし、フランキー演じる源太金井演じるみち代に夢中の為、彼女は眼中にないのである。役名は「おかる」ちゃん。通称だと思われ、松竹のサイトにある解説には「かおる」となっているので、それが本名だと思われる。
ネタバレになってしまうが、最終的に源太おかるちゃんと結ばれるのである。と言うより結婚する羽目になってしまうという表現の方が正しいだろう。要するに夢の続きと勘違いした源太が「夢ならいいか」と彼女と一夜を共にしてしまうのである。
見ている人は本命じゃなくても、野添ひとみならいじゃないかと思ってしまったりする。これが、今回はフランキーの妹役で出演している悠木千帆(樹木希林)辺りだったら、また違う感覚だろうなと思った。
とまあ、準ヒロインと言える野添ひとみだが、本作での扱いは低めでクレジットも6番手だ。大映のイメージが強いであろう彼女だが、デビューは52年で松竹なのである。川口浩との交際が始まり、彼が親の力(川口松太郎は大映の重役)を使い、彼女を大映に移籍させたのである。そして、60年に二人は結婚する。彼女が松竹作品へ出演するのは前述の「婚前旅行」が十数年ぶりだったのではないだろうか。彼女には双子の姉がおり、それが野添和子で、彼女の付き人を長く勤めた後に大映テレビ室のプロヂューサーに転身するのである。ちなみに、ひとみの本名は元(もと)といい和子は本名なので字面では双子感を感じないと思ってしまった。
他の出演者だが、伴淳三郎、ミヤコ蝶々、大村崑、牧伸二、鶴岡雅義と東京ロマンチカなどである。
 

宇宙人フランキー

フランキー堺が続くのだが「宇宙人フランキー」(57年)である。
牛乳屋の次は宇宙人ということだが、監督も違うし出演者もほぼ違うので、特にシリーズというわけでもなさそうだ。フランキーが一人で何役もやるのだが、主には五役くらいであろうか。
主人公は境田栄という煙突掃除を仕事にする天体好きの男である。彼のみが地球人で、彼にそっくり顔かたちをしているのが全て宇宙人という設定だ。その名もフランキー衛星国の人工衛星人。いやいや人工衛星は星じゃないだろうとツッコミを入れたくなるところだが、まあコメディだし、ちゃんとしたSF作家が書いているわけでもない。ちなみに、人工衛星の第1号、つまりスプートニク1号が打ち上げられたのが、この57年なのだが本作が公開された時点ではまだ打ち上げられていないので、誰もよくわかってなかったのかも。
その人工衛星人の中にドラマーのフランキー堺もいたりする。彼の本職でもあるドラムを披露する場面もあるのだ。
フランキー以外の出演者だが、菅井一郎木下博士)、高友子木下愛子)、安部徹安部記者)、藤代鮎子艶子)がメインどころで、他に清水将夫、浜村純、高品格、柳谷寛といったところ。あまり日活という感じの人が出ていない。高品格くらいであろうか。
ヒロイン役の高友子は新東宝のイメージが強いが、56~58年にかけては多数の日活作品に出演しており、本作のようなヒロイン役も何本か存在する。多分、日活に所属していたと思われるが59年に出演記録がない。詳しいことは不明だが、テレビドラマに多く出演していたため、映画からは干されたという記事もあった。それで新東宝に移籍ということになるのだろう。調べて見ると、新東宝への出演は実質60年のみで、それも本体ではなく富士映画のみである。富士映画も社長は大蔵貢だが、副社長は実弟の大蔵敏彦つまり近江俊郎、取締役に息子の大蔵満彦が就いている。知っている人も多いかもだが、高友子はこの満彦と62年に結婚して引退することになる。60年末で大蔵貢は新東宝社長を退任したので彼女も60年のみの出演となったのではないだろうか。
博士役の菅井一郎だが、実は本作の監督は彼なのである。当時50歳で、「泥だらけの青春」(54年)に続く2本目の監督作品だが、監督作はこの2本のみであった。
他に「ギャグ」担当として永六輔、神吉拓郎の名がクレジットされている。記者役の安部徹があの怖い顔で頑張ってコメディをしているのである。「解説」要するにナレーターが高橋圭三で、まだ局アナ時代のようで(N・H・K)付きでクレジットされている。
本作はノンクレジットの出演者も多く、前述のは記者役で出演しているが出演者としてはノンクレジット。上野山功一、筑波久子などもチョイ役ではあるがノンクレジットだ。
冒頭のおもちゃサイズのロケット打ち上げからショボい感じが満載なのだが、当時はあんなものだろう。ネタバレを一言で表現すると「夢オチ」である。

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