沿線地図
今回も山田太一の原作・脚本ドラマから「沿線地図」(79年)である。
「岸辺のアルバム」で出演が予定されていたというが、実現に至らなかった岸惠子が出演したドラマである。パリに在住していた為、4カ月のスケジュールをとって来日した。加えて岸と同い年(当時47歳)である河内桃子も出演。共に大ベテランであるが、岸は松竹、河内は東宝→俳優座ということもあり、おそらくこれが初共演と思われる。「岸辺のアルバム」と同じ全15話だ。
本作には藤森家と松本家という二組の家族が登場する。藤森家は茂夫(河原崎長一郎)と妻の麻子(岸惠子)に娘の道子(真行寺君枝)の三人。松本家は誠治(児玉清)と妻の季子(河内桃子)に息子の志郎(広岡瞬)、そして送付の謹造(笠智衆)の四人である。藤森家は電気店を営んでいるが、松本家は田園都市線沿線に住むエリート銀行員の家庭だ。
志郎は東大合格確実と言われている優等生だが、内向的で根暗な高3生である。そんな彼を電車の中で見かけ興味を持ったというのが道子である。道子も優等生ではあったが、目標といえるものがなかった。二人はやがて恋に落ち、優等生の道を外れ始める。そして二人は家を出て同棲を始め、高校も中退してしまう。二組の夫婦は慌てて二人を捜し出すが、敷かれたレールからはみ出さない意味を問われても答えることができないのだった、というのがストーリー。映画スター出身の両親役の役者たちをしり目に若い二人が話の中心となるようだ。
広岡瞬は当時20歳で、本作がデビュー作であった。本名は山田だが「広岡」は前年にヤクルト・スワローズを優勝に導いた広岡監督に肖ってのものらしい。真行寺君枝は当時19歳。16歳で資生堂のキャンペーンモデルに抜擢されコピーの「ゆれる、まなざし」で話題となる。高校卒業後は女優に転身。78年の「必殺からくり人・富嶽百景殺し旅」で病気降板した高橋洋子の代役としてレギュラー出演。本作はその次の出演作となるようだ。
松本夫婦を演じる児玉清と河内桃子は共に東宝ニューフェイス出身だが、河内が東宝を退社した58年に入れ替わるような形で児玉が入社している。河内が退社したのは演技の勉強をし直すためで、俳優座養成所8期生として入所。同期に山崎努や水野久美がいた。児玉は同じ東宝女優の北川町子と結婚したが、河内と北川は57年の東宝サンパウロ支社開設の為、共にブラジル入りしたという縁がある。ちなみに、あまりイメージはなかったのだが、河内は170cmの長身である。児玉も178㎝あるので、バランスをとったということだろうか。
ネタバレを含むストーリー展開だが、道子は妊娠し、産むべきかどうかを悩む。季子は誠治への不満から茂夫と一度だけの関係を持ってしまう。それを知った麻子はショックを受けるが誠治は信じない。そして、最終話だが突然、謹造が自殺してしまう。とまあ、ドロドロな関係が繰り広げられるようだ。
他の出演者だが、岡本信人、新井康弘、三崎千恵子、野村昭子、風間杜夫、楠トシエなどで、ゲストとしては垂水悟郎、穂積隆信、茅島成美、矢崎滋、中野誠也、北村和夫、岸田森などである。
その後の広岡瞬だが、いつの間にかその名を聞かなくなったと思っていたが、90年に石野真子と結婚。石野真子と言えば、長渕剛との離婚歴もあるのだが、こちらも96年に破局。広岡はこれを機に芸能界を引退し、飲食店の経営などに携わっている。
岸辺のアルバム
今回は、「男たちの旅路」同様に山田太一ドラマではかなり有名であろう「岸辺のアルバム」(77年)である。
原作は本人の新聞小説で「東京新聞」や「北海道新聞」などで連載されていたそうだ。当時だとまだ実家にいて、「北海道新聞」を採っていたはずだが全く記憶にない。まあ新聞小説を読む習慣はなかったけれども。
「岸辺のアルバム」と言えば、最終話の堤防が決壊して家が流されて行くシーンが有名だと思うが、よく考えたら自分もそのクライマックス以外のストーリーをほとんど知らなかったことに気づいた。74年に起きた多摩川の水害で19軒の家が流されたが、家もそうだが家族のアルバムも流されたこともショックだという被災者の話を山田が聞き、そこから物語の発想が生まれたという。全15話と山田作品はこのくらいの話数が多い。
主人公となる田島一家は一見平凡な四人家族。父・謙作(杉浦直樹)は会社員、母・則子(八千草薫)は専業主婦、長女・律子(中田喜子)は大学生、長男・繁(国広富之)は高校生である。国広は当時24歳だが、これがデビュー作となるようだ。姉役の中田喜子は同い年である。
昼間、則子が一人でいる時に無言電話がかかってくるようになる。やがて会話をするようになり、二人で喫茶店で密会することになる。その男・北川(竹脇無我)は「易のホームで見かけて話がしたいと思っていた」という。密会を重ねるうち二人はホテルへ行き、一線を越えてしまうのだった。いかにも真面目そうで、浮気などしなさそうな八千草と竹脇というのが逆にインパクトがあるかも。
同時期に繁はハンバーガー店の篠崎雅江(風吹ジュン)に誘惑され、律子は帰国子女の丘敏子(山口いづみ)の家に入り浸り、謙作は部下の秋山絢子(沢田雅美)から告白され、家族全員が家に寄り付かなくなる。
繁は則子が北川とホテルに入るのを偶然目撃してしまい、学校から家に電話をかけるようになる。律子は敏子から紹介された留学生のチャーリーと付き合うが、騙されて他の留学生にレイプされてしまう。それを繁に打ち明ける。さらに繁は絢子から謙作が東南アジア女性の人身売買に関わっていることを聞かされる。つまり、家族全員の秘密を知ってしまったのである。苦悩した繁は大学受験にも失敗し浪人生となる。そして、雅江からは受験を失敗させるために近づいたと告白される。実は田島一家が住む家は篠崎家が入居する予定だったが、父親の工場が倒産して買えなくなったのだという。田島一家には何の責任もないが「復讐」のターゲットにされてしまったのだった。風吹ジュンは当時25歳。74年に歌手デビューしているが、ホステス時代を隠すために2歳サバ読んでいたことがバレてスキャンダルとなったりした。当時はこんなに息の長い女優になるとは想像もできなかった。そう言えば、八千草薫とは「阿修羅のごとく」(79年)では姉妹の役を演じている。
則子は北川と会うのを辞めたが、律子は37歳の堀(津川雅彦)を結婚相手と紹介し、謙作は激怒する。当初は竹脇と津川の役は逆だったという。津川が浮気相手で竹脇が結婚相手だと、とても普通なキャスティングだからなのかスケジュールの都合なのかは不明だけれども。則子役も当初は岸惠子が予定されていたというが、堀川プロデューサーの反対により八千草になったという。
男たちの旅路 その4
もう飽きたかもしれないが、「男たちの旅路」である。今回はあまりストーリーには触れないで行こうかと思っている。
79年に放送された第4部の2話「影の領域」からである。吉岡(鶴田浩二)は警備会社に復帰。ただし、本人の希望で司令補ではなく一般警備員としてである。そして、根室から共にやって来た尾島信次(清水健太郎)、信子(岸本加世子)兄妹も一緒の警備会社に就職した。信次は配属された港の倉庫警備で上司の磯田士長(梅宮辰夫)の不正を目撃してしまう。しかし、磯田は金を一切受け取っておらず、あくまでも会社の為だと主張する(契約を切られないようにする為)。それを知った吉岡は「悪いことは悪い」と対立する。
鶴田と梅宮は東映での任侠映画や戦記物で共演の経験はある。しかし、基本的には鶴田は硬派な男の世界を描いたものが中心。一方の梅宮は「夜の帝王シリーズ」だの「不良番長シリーズ」だの軟派で女を追いかけまわすような絶対に鶴田が出演しないような映画が中心だった。ただでさえ鶴田には敵も多く、二人の相性がいいわけはないのである。吉岡は磯田に殴られるのだが、「殴りたいだろうと思ってな」と信次や鮫島(柴俊夫)にニヤリ。復帰後どこか輝きを失なっていた吉岡だったが徐々に復活していく。
そして第3話「車輪の一歩」。当時もドラマでは扱いにくいテーマだったと思うが果敢に踏み込んでいく。尾島兄妹が警備しているビル入り口にいた数人の車椅子青年を移動させたことをきっかに毎日のように彼らが現れるようになる(全部で六人)。それを知った吉岡も彼等と関わっていき、導きだした彼等への助言は「迷惑をかけることを恐れてはいけない」というものであった。
車椅子の青年を演じるのが京本政樹、斎藤洋介、古尾谷雅人、水上功治などで、紅一点の車椅子女性が斉藤とも子、その母親が赤木春恵だ。京本正樹は当時20歳で、本作がドラマデビュー作とウィキペディアではなっている。ただ、放送時期では、レギュラーだった天知茂主演「江戸の牙」の方が早かったはずである。斎藤洋介は当時28歳だったが、こちらも本作がデビューとなっている。それまでは、三宅裕司率いる劇団SETの一員として活動していたようだ。小倉久寛、寺脇康文、岸谷五朗辺りはSETのメンバーだったのは知っているが、斎藤は知らなかった。SET(スーパーエキセントリックシアター)と名付けたのも斎藤だそうだ。
古尾谷雅人は当時22歳。デビュー作は日活ロマンポルノ「女教師」(77年)で、当時20歳だったが役は不良中学生。実はこの映画見たことがあるが、あんな中学生はいない(見た目)、と思ってしまった。デカいし(188cm)。「ヒポクラテスたち」(80年)では主役の医大生を演じ、前述の斎藤洋介とは本作でも共演している。ちなみにキャンディ-ズを解散した伊藤蘭の復帰作でもある。03年に自ら命を絶ったのが唐突に感じたが、身内からすれば思い当たることは多かったらしい。作品を選ぶようになりながら、出たい作品には出られない(過去の病気によりあまり長時間の撮影に耐えられない)などのジレンマがあったらしい。
水上功治はミスタースリムカンパニー出身で、山田作品である「ふぞろいの林檎たち」では主人公たちと敵対するチャラい大学生を演じた。いかにも嫌な奴そうだが、実際に現場での素行に悪評が高かったので、仕事が減り引退に追い込まれたらしい。斉藤とも子は87年に28歳上の芦屋小雁と結婚し、世間を驚かせた。この関係は長く続いたのかと思っていたが95年には離婚している。しかも小雁は翌年、30歳下の女性と結婚したそうだ。
とまあ、ドラマには関係ないことばかり書いたが、当時は無名だったが今見ると中々なメンバーが揃っていたのがわかるであろう。
男たちの旅路 その3
引き続き「男たちの旅路」である。今回は第3部(77年)の第3話「別離」から。
杉本(水谷豊)は悦子(桃井かおり)との結婚を考えるようになるが、彼女にはぐらかされてしまう。そこで、杉本は吉岡(鶴田浩二)に悦子の気持ちを確かめて欲しいと頼むのだった。吉岡は悦子と会食をするが、杉本のことは断ってくださいとそっけない。二人は吉岡の部屋へ。そして、悦子に自分が好きなのは吉岡であることや、自分が病気(再生不良性貧血)であることを告げられる。「泊めて」という彼女を追い返そうとする吉岡だったが、彼女がふらついているのを見て、そのまま泊めてやるのだった。そこから、一転し吉岡は悦子を一人で看病する生活に入って行くのだった。親子のような年齢差のある男に惚れるなど信じられなかった杉本は吉岡の不在を狙って悦子に会うが追い返されてしまう。悔し紛れに杉本は吉岡の悪い噂を流したりするが、鮫島(柴俊夫)に殴られたりする。
そうこうしているうちに悦子の容態は悪化。「良くなったら一緒になろう」という吉岡に「ついに言わせた」とほほ笑む悦子だったが…。思わず大号泣のシーンではないだろうか。悦子の葬儀が終わった後、吉岡のアパートはものけの殻であった。吉岡は誰にも告げず姿を消したのであった。
それから、丸二年。第4部は79年11月に放送された。その第1話は「流氷」。
相変わらず吉岡は行方不明のままだったが、小田社長(池部良)の下に吉岡からのハガキが届いていた。その消印は北海道の根室であった。小田はそれを頼りに杉本に吉岡を探しに行くように命じた。傷心時の一人旅は北へ向かうと相場が決っている。
第2部では釧路が登場したが、根室はさらにその先、日本最東端の街である。札幌以外の北海道の街は人口減少傾向にあり、根室も放送当時は4万人以上いたらしいが、現在は2万2千人程度らしい。
冒頭に水谷豊が乗っているのは根室本線だと思われるが、水谷自身も生まれはその根室本線沿いの芦別市なのである。と言っても根室までは400㎞以上あるのだが。
根室の街をあてもなく探しているうちに地元の青年・尾島信次(清水健太郎)、その妹信子(岸本加世子)と知り合う。やっとのことで吉岡と再会するが「俺は帰らんぞ」と言い張る。ずっと吉岡に説教され続けてきた杉本だったが、今回は逆に吉岡を説教(説得)するのである。「いいことばっかり言っていなくなっちゃっていいんですか。俺は50代の人間には責任があると思うね」名場面である。翌日、帰りの列車の中には吉岡の姿があった。信次も「ここにいてはだめだ」とそのまま家を飛び出してきた。それを見た信子も「私も行く」と尾島兄妹もくっついてきたのである。大家族らしく二人くらいいなくなっても平気なようだ。
苦労して吉岡を連れ戻した杉本だったが、出演はこの回まで。「これ以上、ベタネタするのも嫌だから」と書置き一つで姿を消してしまうのである。勿論、売れっ子になっていた水谷豊のスケジュールの都合もあったのだろう。でも吉岡と杉本のエピソードは決着がついたということで、新キャラの登場となったのだろう。
男たちの旅路 その2
前回に続き「男たちの旅路」である。今回はその第2部(77年)からである。多分リアルタイムで見たはずなのだが、2話などはほぼ記憶になかった。
第1話「廃車置場」から、柴俊夫演じる鮫島壮十郎が登場。鮫島は常識人ではあるが、当初はトラブルメーカーでもあった。「勤務地を選ばせてほしい。でなければ不採用で結構です」と要望してきたのである。鶴田浩二演じる吉岡は逆にそれが気に入り社長らに採用を進言する。しかし、それは他の社員の不満を招いてしまう。
第2話「冬の樹」では、本作の音楽を担当するゴダイゴが登場。と言ってもセリフとかがあるわけではなく警備されるロックグループとして出てくるのだ。出待ちをするファンが殺到し、警備員たちも抑えきれず、女子高生美子(竹井みどり)が脳震盪で倒れてしまう。彼女を家まで送り届ける吉岡だったが、その父親(滝田裕介)に娘が倒れたのは警備会社のせいだと非難される。後日。改めて謝罪に訪れる吉岡だったが、「私が親なら娘さんを叱る。甘やかしているのが悪い」と言い返し、先方の怒りを増幅させる結果となってしまう。会社は体裁のため、吉岡を10日間の停職とするが、美子が彼の許を訪れる。他のゲストは川口敦子、草野大悟など。池部良演じる小田社長の吉岡への信頼は厚く、停職処分も厳正なものではない。
第3話「釧路まで」では、美術展で展示されるクメール王朝の石像に爆破予告が届く。警備会社は開催地である北海道にはフェリーでの輸送を選択し、吉岡、鮫島、杉本(水谷豊)が、警備にあたる。同僚の悦子(桃井かおり)と聖子(五十嵐淳子)は、杉本に誘われ一般客として乗船していた。怪しい人物は見当たらなかったが、爆破予告犯(長塚京三)は聖子を人質にして悦子を脅し、彼女らの部屋に潜んでいた。個人的にこのエピソードから、はっきりと見ていた記憶がある。ちなみに現在は釧路までのフェリーはなく、関東から北海道だと大洗→苫小牧のみだそうだ。犯人役の長塚京三は74年デビューということで、当時はあまり知られていない存在だったと思われる。パリ大学に6年間留学していたという経歴がある。船長役は田崎潤だが、田崎がやると軍艦のように思えてしまう。
続く第3部は約1年後だと思っていたのだが、約9カ月後の77年11月に放送されていた。その第1話が77年度の芸術祭大賞を受賞した「シルバーシート」である。
ゲストではそれほど大物が登場していなかった本作だが、今回の顔ぶれが凄い。志村喬、笠智衆、加藤嘉、藤原釜足、殿山泰司という大ベテラン揃い。殿山は当時62歳だが、他の四人は72~73歳である。鶴田浩二が「まだ若い」などと言われてしまうのだ。彼等は老人ホーム仲間だが、その院長役は佐々木孝丸。設定上は彼等より若いということになりそうだが、佐々木は当時79歳で、19世紀の生まれだ。佐々木の娘婿は千秋実だ。
杉本と悦子が羽田空港の警備にあたっていると、そのロビーにいつも現れるのが志村演じる本木だった。警備員たちは彼を煙たがり避けていたが、ある日本木はその場で急死。後ろめたさを感じた杉本と悦子は本木が暮らしていた老人ホームに弔問に訪れるが、四人の同居人の酒盛りに巻き込まれる。後日、その四人の老人たちは倉庫にある都電の1両を占拠して立てこもるという事件を起こす。
警察に通報する前に吉岡が彼らの説得にあたってみるのだが…。「あなたの20年後ですよ」と言われる吉岡。実際に鶴田浩二としても志村、笠、加藤、藤原は約20歳上なのである。
この回だったか悦子が「体調が悪い」というようなことを言っていたが、これが次々回の伏線となる。他に村上不二夫、草薙幸二郎、金内喜久夫、鶴田忍なども出演している。
男たちの旅路
「高原へいらっしゃい」が始まる約1カ月前にNHKの土曜ドラマ枠で放送されたのが「男たちの旅路(第1部)」(76年)である。これは数年前に当ブログでも取り上げたことがあるドラマだ。
本作のタイトル前には「山田太一シリーズ」と銘打たれている。山田本人も「脚本家の名前が最初に出るということは後々みんなに影響すると思って、緊張してやった仕事」と回想している。自分もこの作品で山田太一という名を認識した気がする。(第1部)と書いたが、この時点ではシリーズ化するとは決まってなかったはずである。特殊な放送形式で、約70分のドラマが全3話というスタイルで、第2部の放送は約1年後になる。自分もリアルタイムで見ているのだが、確か第2部からで、第1部を見たのは随分後になってからだ。
本作も山田ドラマの中では、かなり有名な部類になると思うが、警備会社を舞台に戦中世代の主人公と若い警備員たちとの価値観の違い、対立などが中心に描かれている。
主人公の吉岡晋太郎司令補を演じるのは鶴田浩二。当時NHKと絶縁中ということもあってか、最初は出演依頼を断ったと言うが、プロデューサーに山田との面会を要求した。そして山田に特攻崩れとしての自分の経験・思いを脚本に投影するよう求めた。出来上がった脚本を見て、鶴田はこの仕事の依頼を快諾したという。
鶴田本人が自分は特攻隊の生き残りであるかのような言い方をするのだが、正確には違っており、特攻隊の整備士だったのである。勿論ドラマの中では隊員の一人ということになっている。
その吉岡と対立する若手警備士を演じるのが森田健作(柴田竜夫)や水谷豊(杉本陽平)だ。森田は青春ドラマ等で生真面目な若者というイメージだったが、水谷はちょっと軽い感じの若者というイメージだった。現在の姿しか知らない世代には意外かもしれない。
その第1話「非常階段」では、吉岡、柴田、杉本の三人が揃って高層ビルの夜間警備に配属されるが、そこは飛び降り自殺の名所と言われていたのである。実際それが目的で現れたのが桃井かおり演じる島津悦子であった。結局、吉岡によって阻止されるのだが、続く2話「路面電車」で彼女は彼らの会社に入社を希望してくる。「君には務まらない」という吉岡だが、研修を受けることは許可した。その結果、悦子は入社するのだが…。第3話「猟銃」で、柴田、杉本、悦子は揃って会社を辞めてしまう。そんな中で柴田は自分の母が吉岡と古い知り合いであることを知り、吉岡にその関係性を問いただす。母役は久我美子だ。結局、杉本と悦子は会社に復帰するのだが、柴田は戻らなかった。森田健作は1部のみで退場。他にも中条静夫(斉藤司令補)、前田吟(後藤士長)も1部のみの出演だ。1部のゲストでおまり目立つ人はいないが、庄司永健、結城美栄子、石田信之、丹古保鬼馬二、梅津栄、頭師佳孝といったところである。
第2部は前述のとおり約1年後の77年2月スタート。森田健作に変わって登場するのは柴俊夫(鮫島壮十郎)で、実は1部にも出ていたが出番が増えるのが五十嵐淳子(浜宮聖子)で、共に警備士の役だ。他にも橋爪功(大沢司令補)、そして池部良が小田社長役で登場する。映画界でも鶴田より先輩の池部クラスの役者じゃないと上司という感じが出ない気がする。
高原へいらっしゃい
今週は週1更新になってしまったが、これからもあるかもしれないので、そのつもりでお願いしたい。
で、今回も山田太一原作のドラマから「高原へいらっしゃい」(76年)である。今週から放送がBS-TBSで始まったようだが、それに合わせたわけではない。BS未加入だし、偶然の一致というやつだ。割合有名な作品だと思うが、実はまともに見たことはない。
大雑把なあらすじだが、八ヶ岳高原に、何度も人手に渡り経営の難しいとされた「八ヶ岳高原ホテル」があった。物語は冬の終わりから夏の観光シーズンまでに限られた予算内でホテル運営を軌道に乗せるべく奮闘する面川マネージャーと、彼が集めたメンバーそれぞれの人間模様が描かれる。
主人公の面川清次を演じるのは、山田ドラマは「知らない同志」(72年)以来となる田宮二郎だ。彼が演じる面川は、元は東京にある一流ホテルのフロントマネージャーだったという設定。副支配人兼経理が大貫徹夫(前田吟)で、面川のお目付け役として出向してきた男である。彼を送り込んだのは面川の義理の父である大場専造(岡田英次)だ。彼の娘つまり面川の妻が祐子(三田佳子)だが、離婚を考えていた。
前田吟は「知らない同志」でも田宮と共演しているが、他は山田ドラマは初という顔ぶれも多い。面川がスカウトてきたのがウエイトレスの北上冬子(由美かおる)、ボーイの高村靖雄(潮哲也)、ボーイ兼バーテンの小笠原史朗(古今亭八朝)、ウェイトレス兼設備管理の鳥居ミツ(池波志乃)、コック長の高間麟二郎(益田喜頓)、コック助手で高間の弟子である服部亥太郎(徳川龍峰)という面々。
他に地元町長の推薦でやって来た運転手兼雑務の杉山七郎(尾藤イサオ)、同じく町長推薦で来た雑役の有馬フク江(北林谷栄)、高間の推薦で材料の仕入れを行う村田日出男(常田富士男)がいる。
古今亭八朝は古今亭志ん朝の弟子で、当時25歳。この前年に二ツ目に昇進して志ん吉から八朝になったばかり。当時は無名の存在だったと思われるが抜擢の経緯は不明だ。その後はごくたまにドラマに出ることはあったようだが、自分はこの人自身一度も見た記憶はない。徳川龍峰はその字面だけで、高貴な家柄なのかと思ってしまう。芸名っぽいが詳細は不明だ。由美かおると池波志乃は同世代という設定だが、実年齢は池波が上というイメージの人が多いのではないだろうか。実は由美は当時25歳、池波20歳と由美の方が5歳上なのだ。まあ由美の変わらなさは有名だけれども。常田の役名である村田日出男はちょっとした遊び心か。関係ないが団次郎の本名は村田秀雄であり、歌手の村田英雄は芸名なのである(本名・梶山勇)。
ゲストとしては、金田龍之介、西田敏行、横光克彦、海老名みどり、矢崎滋、津島恵子、大滝秀治、平泉征などで「特捜最前線」のメンバーが三人いたりする。あと杉浦直樹が雑誌記者役で二度登場する。
全17話だが、全話山田が脚本を書いたわけではない。10~16話は折戸伸弘が担当、7話は山田と横堀幸司の連名となっている。連名で片方が有名作家だったりすると、もう一人は大体その弟子筋の人であることが多い。
本作だが、2003に年なって佐藤浩市主演でリメイクされている。山田は原作として名が出ているが、直接関わってはいないと思われる。役名は面川清次と妻・祐子(余貴美子)以外は全員変わっている。他の出演者は西村雅彦、井川遥、市川実和子、堀内健(ネプチューン)、大山のぶ代、純名りさ、平田満、八千草薫、菅原文太、竹脇無我などである。
江分利満氏の優雅な生活(ドラマ版)
山田太一は、基本オリジナル脚本が多いが、少し前にここでも取り上げた「俄・浪華遊侠伝」のような原作物もある。今回も原作物でNHKの銀河テレビ小説枠で放送された「江分利満氏の優雅な生活」(75年)である。江分利満は「えぶりまん」と読む。
原作は山口瞳の小説で、63年に東宝で小林桂樹の主演で映画化もされている作品だ。一応言っておくと、山口瞳は男性である。川島雄三が監督に決まっていたのだが、急死してしまったため、岡本喜八に変更されたのである。喜劇のはずが喜劇になっていないとプロデューサーの藤本真澄は激怒したと言う。実際にあまり客は入らず、公開1週間程度で打ち切られたらしい。ちなみに脚本は井出俊郎だ。
今回、この枠では「ドラマでつづる昭和シリーズ」として6作品が放送されている。原作を並べておくと広津和郎「風雨強かるべし」、山田風太郎「戦中派不戦日記」、坂口安吾「夜の王様」、太宰治「斜陽」、三島由紀夫「永すぎた春」、そしてトリを飾ったのが本作で、この6作品に対し、放送批評懇談会(ギャラクシー賞)第32回期間選奨が贈られている。
江分利は東西電機の宣伝部員である。本作は、戦中派の「昭和人」江分利満の生活を通して、昭和30年代の典型サラリーマンの日常を描写する。直木賞受賞作である。
主役の江分利を演じるのは杉浦直樹で、その一家は樫山文枝(妻・夏子)、佐藤宏之(長男・庄助)、佐野浅夫(父・盛助)、後はこのドラマはもちろん、映画の方も見ていないのでわからないが、ほぼ会社の人間ではないだろうか。渥美国泰(田沢)、遠藤剛(川村)、松崎ヤスコ(辺根弘子)、中条静夫、加藤武、水原英子(坂本昭子)、名古屋章(柳原)など。ナレーターは小沢昭一だ。NHKのアーカイブスで見られるのは会社での杉浦と水原のやり取り。両者とも70年代の山田(木下)ドラマの常連である。庄助役の佐藤宏之は当時14歳の子役。この後、市川海老蔵(現・12代市川團十郎)主演の「宮本武蔵」に伊織役で出演。翌76年は「忍者キャプター」に主演7人の中の一人「風忍」を演じている。81年を最後に出演記録はないので、その辺りで引退したようである。
名古屋章が演じる柳原とは、本作のタイトルイラストを担当している柳原良平がモデルだろう。山口、柳原、そして開高健はいずれもサントリー(当時・寿屋)の宣伝部出身。トリスウイスキーの制作するが、柳原の描いたCMキャラクター「アンクルトリス」が人気を呼んだ。
映画版では江分利が勤務するのはそのままサントリーとなり、彼が直木賞を受賞するというのも、山口の実際の経歴に沿っている。小林桂樹演じる江分利の容姿も山口に似せたものになっているようだ。こちらにも「柳原」は登場し、天本英世が演じている。
ドラマは全10回で、毎回サブタイトルがついている。原作の方は12の章に分かれているが、そのタイトルと一致しているのは「昭和の日本人」(4話)と「これからどうなる」(最終話)の2編のみである。
それぞれの秋
1年の長丁場であった「藍より青く」が終了した次に、山田太一が書いたのが「それぞれの秋」(73年)である。今までタイトルは知っていたが山田脚本であることは知らなかったドラマを挙げてきたが、本作は色々と賞も受賞しているようだし、山田脚本であることは元々知っている作品だ。まともに見たことはないのだけれども。
「木下恵介・人間の歌シリーズ」枠での放送で、全15回。木下からは好きに書いていいよと言われたらしい。当時は「暖かい大家族もののホームドラマ」が流行していたので、山田はそれとは逆のドラマを構想したという。
本作の舞台となる新島家は、見た目には平凡なサラリーマン家庭。父・清一(小林桂樹)、母・麗子(久我美子)、長男・茂(林隆三)、次男・稔(小倉一郎)、長女・陽子(高沢順子)の五人家族である。実年齢では小林は当時50歳、久我は42歳に対し、林は30歳だったが見てる方は気にならないだろう。当然、トップクレジットは小林で、トメは久我なのだが、物語は小倉の視線で進んでいく。つまりナレーションは小倉である。
シナリオ教室などでは、ナレーションの多用はタブーとされていたが、本作を見た倉本聰は「こんな手もありだ」と感じて、「前略おふくろ様」から使う様になったという。山田自身はアメリカのドラマ「逃亡者」の影響であるという。
他のキャストだが、稔の悪友・唐木(火野正平)、稔の彼女・信子(海野まさみ)、信子の兄(橋本功、小野川公三郎)、スケバンのリーダー津田末子(桃井かおり)、スケバン遠藤(四方正美)、茂の恋人・藤森園子(水原英子)、園子の娘・真理衣(伊藤司)、由利子(緑魔子)、江川医師(伊藤孝雄)、麗子の父(加藤嘉)、他に春川ますみ、夏桂子、三戸部スエ、金井大、樋浦勉、高岡健二、桜井センリ、岩上正広、藤沢陽二郎など。
伊藤司は伊藤つかさのこと。当時6歳、漢字表記なだけで、随分イメージが違う。藤沢陽二郎は1回だけ、茂の後輩役で出てくるのだが、後に菊容子殺人事件を起こすのである。
さて、第1話だが稔は信子とデートの待ち合わせ場所に行くのだが、そこに彼女の二人の兄が現れ、付き合いを辞めるように言われてしまう。気の弱い稔は了承してしまうが、実はその様子を信子も見ていた。しかも笑っており、彼女の希望だったようだ。信子役の海野まさみは、ドラマ版「愛と誠」で高原由紀役を演じることになり、それを芸名に変更している。この共演をきっかけに小倉と結婚するのだが、三カ月もたずに離婚している。劇中でも実生活でも彼女とはうまくいかなかったわけである。
話を戻すと稔は唐木にそそのかされて、電車で痴漢行為に及んでしまう。しかし、相手が悪くその女子高生はスケバングループの一員だったのである。とある喫茶店に連れていかれ、リーダーの津田が現れて、稔をビンタする。そこに新入りが現れるのだが、なんと妹の陽子だったのである。稔は妹からもビンタされる羽目になるのであった。というのが第1話。桃井かおりはこの当時はこんな役が多かったイメージ。稔は妹をグループから引き離さねばと、後に津田に直談判したりして、逆に彼女に気に入られるというような展開になるようだ。
もちろん、他の家族にもいろいろ事件がおきる。兄・茂の恋人(園子)には連れ子が。つまり、バツイチか未婚の母か詳しい設定まではわからない。
最大の事件は清一の身に起こる。言動がおかしくなっていく清一だったが、病院での診断は脳腫瘍というもの。しかも医師は手術が難しいからと中々踏み切らないという展開。また清一の奇行に関しては「脳腫瘍による様々な症状が表現されていますが作品上の演出です。ご了承ください」というテロップが表示されていた。ヘタすると抗議が来たりするので、その辺も考慮していたようだ。
藍より青く
前回の「知らない同志」(72年)において、山田太一が全話出筆じゃないのは、次回作の準備があっらからだろうと書いたのだが、その次回作が「藍より青く」(72~73年)である。NHK朝の連続テレビ小説だ。数回前に紹介したポーラテレビ小説「パンとあこがれ」は半年でモデルになる人物がいたのだが、今回は1年の長丁場で、しかも完全に山田のオリジナルなのである。75年からは、この枠も半年単位になったようだが、この時期はまだ1年単位の月~土放送で、全309話になる。
舞台は熊本県天草で、太平洋戦争末期から敗戦後にかけての43~66年辺りを描いているという。大雑把なあらすじは、太平洋戦争のさなかに結婚し、18歳で夫を失った田宮真紀。息子を夫の忘れ形見に終戦後を生きていく。上京した真紀は、同じく戦争で夫を亡くした女性を集めて商売の道へ。やがて中華料理店を開業し成功する姿を描いている。
ヒロインの真紀を演じたのが真木洋子である。年齢でわかると思うが、今活躍中の真木よう子とは別人である。真木洋子は当時24歳。高校卒業後に青年座に入団し、柚木れい子としてデビューしたが、本作のヒロインに抜擢されたことで、真木洋子と改名している。ちなみに「ようこ」ではなく「ひろこ」である。正直これは、今回自分も初めて知った事実である。番組終了後すぐに出演した東宝映画「日本侠花伝」(73年)では大胆なヌードを披露しているが、これは1カ月に渡り拒否し、撮影ボイコットまでに発展した末に承諾したものだという。今ならかなり問題になりそうな事案である。
話を戻すが、他のキャストであるが、高松英郎(真記の父・行義)、今出川西紀(真紀の妹・嘉恵)、大和田伸也(真紀の夫・村上周一)、原康義(村上夫婦の息子・周太郎)、佐野浅夫(周一の父・周造)、赤木春恵(周一の母・キク)、尾藤イサオ(周一の弟・孝治)ここまでが身内で、他に小坂一也、新村礼子、殿山泰司、寺田誠、北村晃一、三田村賢二、高山彰、井上昭文、友竹正則、樫山文枝、下條アトム、辻萬長、米倉斉加年、坂上忍、戸野広浩司、田村高廣などである。原康義は当時20歳の大学生で、おそらくデビュー作だと思われる。現在は専ら声優としての滑動が多い。坂上忍はもちろん子役時代(当時5歳)、戸野広浩司は特撮ファンなら知っている人も多いだろう。この72年に不慮の事故で亡くなってしまうのである。25歳の若さであった。また、当初ナレーターは中畑道子であったが約半年後に病気で降板、その直後に亡くなったのである。51歳の若さであった。後任は丹阿弥弥津子が務めた。
この時代だと、まだ映像を保存するという概念が薄く、NHKに映像は残っていなかったらしい。出演者の大和田伸也が第1話を保存、また本作のイメージソングを歌唱した本田路津子が最終話の1部を保存しており、それをNHKアーカイブスに提供したという。現在NHKのサイトで見れるのは、その一部であろう。個人的には本作の中身は全く覚えていないが、OPのタイトルバックである海の映像は記憶にあった。当時は小学生で、実家では朝はNHKにチャンネルを合わせていたので、それで目にしていたのだと思う。本田路津子は当時はフォークシンガーの肩書だったが、現在はゴスペルシンガーだそうだ。
また、本作は73年に松竹で映画化されている。しかもドラマはまだ放送中ということもあってか、一部のキャストは変更となっている。村上一家(大和田伸也、佐野浅夫、赤木春恵、尾藤イサオ)や殿山泰司、高山彰などはそのまま同役で出演しているが、ヒロインの真紀は松坂慶子、父・行義は三國連太郎、妹・嘉恵は千景みつるが演じている。他に田中邦衛、財津一郎など。監督と脚本は森崎東だ。
また、山田太一は脚本と並行して小説も書いており、ドラマ放送中に上下巻が発売されている。今で言うメディアミックスが行われる程、人気作だったのだろう。