たんとんとん
前回の木下恵介アワー「二人の世界」の後番組となるのが「たんとんとん」(71年)である。脚本は山田太一が引き続き全26話を一人で担当している。出演者は前作とはガラリと変わり、主演は青春スター森田健作であり、その母親がミヤコ蝶々で、この母子を中心にドラマは展開する。タイトルの「たんとんとん」はわかると思うが、「母さんお肩をたたきましょう~」の「たんとんとん」を表している。
ただ大変失礼ながら、この二人だと婆ちゃんと孫という関係に見える。ミヤコ蝶々は当時51歳だが、既に60代くらいという感じに見えるのだ。蝶々と森光子が実は同い年と考えると森光子が若造りだったと言えようか。
逆に森田健作は当時22歳だが、高校生にも見え、今回も高校生の役だ。と言っても学園ドラマではない。
森田が演じる尾形健一(緒形拳ではない)は大工の棟梁の息子。しかし、その父親が急逝。大学進学を目指していた健一だったが、高校を辞め父の跡を継ぐ決意をするのだった。というのがあらすじ。
つまり主な舞台となるのは健一と母・もと子(蝶々)の住む「尾形工務店」である。工務店の関係者が棟梁・堀田(花沢徳衛)、父の弟子だった生島新次郎(杉浦直樹)で、堀田の妻・咲子(杉山とく子)、堀田の娘・ゆり子(丘ゆり子)、新次郎の妻・とし子(松岡きっこ)という顔ぶれ。丘ゆり子は馴染みがないと思うが、浅草の軽演劇出身で、ずんぐりした体形が特徴。20歳前の役だが、当時29歳。終盤重要な役割を演じる。松岡は杉浦と15歳離れた妻という設定だ。ここに腕のいい若い大工・江波竜作(近藤正臣)が加わる。設定では20歳だが、近藤も前述の丘と同じ29歳だった。彼と健一は馬が合わず、悉く対立する。
ヒロインとして登場するのが、蕎麦屋に務める石井文子(榊原るみ)。実は竜作とは同郷で、しかも同じ養護施設の出身ということで、おそらく顔見知り。竜作に好意を持つが、彼はあやふやな態度をとる。そのせいか、健一とデートしたりもする中々の小悪魔だったりする。終盤に竜作の父・竜造役で登場するのが由利徹だ。
建一の高校での友人として登場するのが磯田(岩上正宏)。演じる岩上は近藤も出演していた「柔道一直線」では丸井円太郎なる柔道選手を演じた。その名前の元になったであろう役者が丸井太郎で「図々しい奴」が有名。その少年時代を演じたのが岩上である。その彼が告白して振られるのが夏川雅子(岩崎和子)である。彼女も健一の元クラスメートで歯医者の娘。榊原るみと岩崎和子と言えば「帰ってきたウルトラマン」だ。実は本作は全く同時期に放送されていたので、榊原は掛持ちだったと思われる。さらに、彼女はこの後「気になる嫁さん」への出演が決まり、「帰って来たウルトラマン」を宇宙人に殺されるという形で降板する。そして、入れ替わるように登場したのが岩崎和子だったのである。「たんとんとん」においては榊原は結局は近藤とうまくいくようだ。
この他にも「尾形工務店」に家造りを依頼した夫婦(中野誠也、井口恭子)や健一の叔母親子(加藤治子、朝倉宏二)等も登場。朝倉はアニメ「キックの鬼」で、主人公の沢村忠を演じたり、声優活動の方で知られている。
そして終盤に長髪にヒゲのバンドマン園部(朝比奈尚之)が登場し、ゆり子と結婚することになる。最終話はこの二人の結婚がメインになるようで、竜作と文子ではないのだ。
竹脇・栗原コンビと違い、視聴者的には馴染みの薄い役者二人の結婚で盛り上がったかどうかは不明だが、山田ドラマで不評なコメントはあまり聞いたことがないので、悪くはなかったのだろう。
二人の世界
「3人家族」(68~69年)終了から約1年半が経過し、再び竹脇無我、栗原小巻のゴールデンコンビを復活させたのが「二人の世界」(70~71年)である。脚本も全26話全て山田太一が担当している。本作も結構CS等で放送されることが多いようで、つい最近はBSの方で放送されたようである。
「3人家族」では、そのプラトニックなじれったさを売りにしていたようなところがあったが、今回はその逆をやってみようという試みのようだ。竹脇演じる宮島二郎と栗原演じる榊原玲子は、海外有名アーティストのコンサート会場で入場を断られた同士として偶然知り合う。お互い惹かれあった二人は、毎日のように会ってわずか5日目に結婚を約束するまでになる。知り合って短すぎる、若すぎると言う反対にも抗して二人は3カ月で結婚へとこぎつけるのだった。というのがあらすじ。
昔は数年の交際期間を経て結婚までこぎつけるのが普通だったが、その時代にこのスピード婚。50年経った現在でも出会って3か月で結婚は中々ないと思われる。5話だか6話くらいで結婚して、じゃあ残りの回はどうすんのという話だが、脱サラ問題が起きるのだ。二郎は会社の派閥争いで左遷され、サラリーマン生活に前途を見いだせなくなっていた。結局退職し、夫婦でスナックを営んでいくという展開になるのだ。
スナックはスナックバーの略で、日本では一般に女性がカウンター越しに接客する飲酒店を指す。店の責任者は女性であることが多く、その女性は「ママ」とか「ママさん」と呼ばれる。現代の定義ではそんな感じだが、本作では夫婦でやってるし、軽食の提供がメインという感じにみえる。定義上存在しないが、アルコールを提供する喫茶店に近い。
二人以外の出演者だが、榊原家の面々はほぼレギュラーで、あおい輝彦(弟・恒雄)、山内明(父・遼一)、文野朋子(母・孝子)に対して、宮島家は田舎にあるので、二郎が帰省した13話に初登場。長浜藤夫(父・武治)、吉川雅恵(母・イク)、菅貫太郎(兄・一郎)、新田勝江(兄嫁・英子)とまあ馴染みの薄い名前が多い中でなんとスガカンが竹脇の兄役というのに驚く。無論、悪だくみなどしていない普通の兄である。それぞれ、全部で2、3回の登場なのでゲストという感じだ。
あと、登場回数が多いのが、三島雅夫(コック長・沖田)、水原英子(片桐弓子)、東野孝彦(関根)辺りはレギュラーと言っても良さそう。三島は「3人家族」では竹脇、あおいの父親役だった。水原はあおい演じる恒雄の片思い相手、東野孝彦(英心)は二郎の同僚である。
後はゲストだが、近藤洋介、村井国夫、長谷川哲夫、西田健、山本清、加藤嘉、佐山俊二、太宰久雄などで、小坂一也と内田朝雄は終盤の22~25話に連続して登場。ちなみに二人は親子の役だ。ストーリーには関わらないが、印象深いのは五十嵐じゅんで、まだ五十嵐淳子になる前だ。会社の屋上で退職する竹脇にプレゼントを渡すだけだが、すごく目立つ。一回だけの登場が勿体ない。スナックの客では小野寺昭。学生の役のようだが、一際爽やかに見える。もちろん「太陽にほえろ」の前である。三人連れで飯を食っていた木村豊幸、畠山麦、岩上正宏はその見た目だけで目立っていた。
演出は、ほとんどの回を川頭義郎が担当している。ちなみに、川津祐介の兄である。翌72年に46歳で急逝している。
3人家族
前回で、山田太一脚本を取り上げたので、水曜劇場を離れ、山田脚本ドラマを調べてみた。
山田太一は、早稲田大学教育学部の出身で、卒業後は教師になるつもりだったが、就職難で教師の口がなく、大学の就職課で松竹大船で助監督を募集していることを聞き、松竹を受験したという。
松竹入社後は木下惠介に師事。60年代前半から木下の映画をテレビドラマに脚色する仕事を始めている。65年に退社してフリーの脚本家となった。
そして68年、木下に「連続ドラマを書いてみろ」と言われ「木下惠介アワー」に参加することになる。それが「3人家族」であり、全26話を一人で出筆している。「絶対にあててやる」という意気込みで臨み、実際に高視聴率を上げることに成功したのである。実は「木下惠介アワー」って、脚本も全部木下が担当しているとずっと勘違いしていた。この枠においての木下は脚本を担当することもあるが、制作プロデューサーのような立ち位置だといえる。
この「3人家族」でも、木下は「制作」としてクレジットされている。「3人家族」は大人気だった「おやじ太鼓」と「おやじ太鼓2」の間に放送された番組で、頑固親父から一転、若い二人の純愛ドラマだったのだが、負けないくらい好評を得たという。それにしても「おやじ太鼓」にも山田は脚本で参加していたのだが、全然知らなかった。まあ担当話数が少なかったこともあるけれども。
「3人家族」だが、主演は竹脇無我と栗原小巻で、子供の頃に番組の合間に番宣が流れ、二人の名前を聞いて、そのインパクトに驚いた気がする。二人とも本名だし、唯一無二といえる。ただ、番組タイトルは記憶になくこの「3人家族」だったかもしれないし、他の二人の共演作かもしれない。
偶然、横浜駅発の朝の通勤電車で見かけた同世代の会社員の竹脇演じる柴田雄一と栗原演じる稲葉敬子。互いの名前も知らず、一目惚れをし合あうという、よくありそうでまずないシチュエーション。普通はどちらか(大体は男の方)が一方的に惹かれるのが普通な気がする。
実は柴田家も稲葉家も3人家族。柴田家は雄一の他、弟の健(あおい輝彦)と父親の耕作(三島雅夫)の男三人。稲葉家は敬子の他、妹の明子(沢田雅美)と母親のキク(賀原夏子)の女三人。柴田家は二枚目兄弟に対して、スキンヘッドで丸い顔の父親。稲葉家は全然似てない姉妹だったりするが、基本は木下のお気に入り役者がメインだろうから、不思議なキャスティングもあるだろう。
他の出演者だが、中谷一郎、近藤洋介、森幹太、菅井きん、川口恵子、鶴田忍、菅貫太郎、東野孝彦、武内亨、遠藤剛など。
本作は以前、CSで放送されていたりしたが、ちょっと覗いてみた程度なので見ていないのと一緒である。情報によると、とにかく主役二人の関係がじれったいのだそうだ。20話になっても手も握らない(と思われる)状態が続き、ラストの3~4回で一気に進展があり、めでたしめでたしとなるようだ。今なら、NHKの朝ドラとかを除けば、半年も放送される連続ドラマは中々ない。当時は大うけしたらしいが、早い展開に慣れた現代人には途中で飽きがくるかもしれない。にしても昔とはいえ、飽きさせなかった山田太一は凄腕といえるのだろう。
さくらの唄
水曜劇場と言えば、演出は久世光彦というようなイメージがあるが、その久世が山田太一と組んだ作品が「さくらの唄」(76年)である。あまりない組み合わせだと思ったが、実際この1作だけのようだ。久世と言えば、アドリブを含んだ演出が特色だが、山田はそれを好まず「アドリブは一切やめてくれ」と久世に抗議したという。意外にも久世はそれをあっさり受け入れたという。ゆえに、山田が怒って降板というような事態にはならず、全26話を一人で書きあげている。
山田はこの当時、鶴田浩二主演の「男たちの旅路」、田宮二郎主演の「高原へいらっしゃい」が共に好評で、それに続いたのが「さくらの唄」なのである。翌77年の「岸辺のアルバム」もヒットしたこともあり、その間に買かれた本作は今一つ影が薄い気がする。山田ドラマはある程度は見ている自分だが、タイトルを聞いてもピンと来なかったのが正直なところだ。実際見たことはないし。
同じタイトルの漫画がばかったっけと思い、調べると90年代に安達哲がヤングマガジンに連載していた「さくらの唄」があった。ドラマとこの漫画の内容に関連性はない(と思われる)。
さて、水曜劇場「さくらの唄」の舞台だが、東京・蔵前の小さな整骨院。その主人が若山富三郎演じる高松伝六である。その妻が加藤治子(高松泉)で、悠木千帆(高松麗子)、桃井かおり(高松加代)、高野浩幸(高松進)という三人の子供がいる。悠木千帆が芸名売却で樹木希林となるのは翌77年のことである。高野浩幸は当時15歳で、「超人バロム1」(71年)で主役の健太郎少年を演じてから、4年しか経っていないが、すっかり大人っぽくなっている(スチール写真より)。多分、高校生の役だろう。若山富三郎はイメージ通り、よく怒鳴る昭和の頑固親父といった感じの役のようだ。映画では極道シリーズとか極悪坊主シリーズとか主役だがしょうもない人間を演じることの多い若山だが、テレビドラマでは「悪魔のようなあいつ」の刑事とか「啞侍鬼一法眼」のような割合シリアスな役が多い気がする。
ドラマは主に二人の娘の恋愛エピソードが主軸となるようだ。失礼ながら麗子という役名が似合わない悠木だが、本作では中西という男の子供を妊娠する。しかし中々籍を入れようとはしない。その中西を演じたのが、なんと美輪明宏である。普通に男言葉でメイクもしていないという。丸山明宏時代のイメージに近いかも。普通に男の役なら別に美輪じゃなくてもいいだろうと思うが、彼の出演は目玉の一つなのだろう。方や桃井演じる加代は妻子ある男性・朝倉を密かに愛していた。その朝倉信也を演じるのが田村正和で、その妻を篠ひろ子(朝倉圭子)が演じる。あくまで桃井が一方的にという感じのようだ。
他の出演者だが、由利徹(小笠原秀太郎)、野村昭子(小笠原フミ)、前田真里(稲葉なおみ)、ロミ山田(ユミ)、清水めぐみ(岡部悦子)、立野弓子(芸者ぽん太)、初井言栄(管理人)、浦部粂子(人形屋の婆ちゃん)、岸部修三(田代章夫)など。
高松家のお手伝いなおみ役の前田真里は当時16歳の高校生。79年に宝塚音楽学校に入学し、葦川牧の名で舞台に立つ。87年に退団後は声優や脚本家として活動している。立野弓子は73年、高校を卒業したばかりで日活ロマンポルノ「ためいき」の主演女優に抜擢されて話題となった。74年からはテレビに転向し、グラビアモデルとしても活動した。岸部修三は改名前の岸部一徳。修三の読みは本名は「しゅうぞう」だが、タイガース時代は「おさみ」と読ませていた。
番組タイトルと同名の主題歌「さくらの唄」を美空ひばりが歌っている。久世がひばりに直談判して実現した。暗すぎたのかヒットとまではいかなかったようだ。番組自体も予定通り半年間放送はされたが、視聴率的には高いとは言えなかったようだ。
ここまでは他人
もう一本、水曜劇場と丹波哲郎絡みで「ここまでは他人」(81年)である。
星セント・ルイスという漫才コンビを覚えているだろうか。星セントは178㎝の長身で、ヒョロっとした田中邦衛といった感じの風貌で、対する星ルイスは153cmと競馬の騎手になれそうなくらい小柄という身長差が売りのコンビであった。共に48年生まれである。このドラマは当時人気だった彼らが主演(実質セント)なのである。
本作はそのキャスティングが特徴的な感じがする。星セント演じる鈴木秀樹は料亭に務める板前で、その弟を演じるのが宮内淳(鈴木薫)である。「太陽にほえろ」のボンボン刑事として知られる。ヒロインとなるのがマッハ文朱(河原節子)で、その父親が丹波哲郎(河原勘三郎)なのである。この時点でかなりクセの強い顔ぶれとなっている。では星ルイスは何役かと言えば、鈴木兄弟の亡き父(鈴木元年)の役で守護霊という形で登場するという。その妻つまり兄弟の生き別れた母スエを内海桂子師匠が演じたのだ。他の出演者は浅野真弓(朱実)、森田理恵(邦子)、野村昭子(千代子)、戸川純(丸子)、あと役名は不明だが、北村和夫、三谷昇などが出演していたようだ。
そのあらすじだが、鈴木秀樹と薫の兄弟は父と死別し、母と生き別れて以来二人きりで支え合って生きてきた。秀樹はある日、女性警察官の河原節子と知り合い、節子に恋をする。一方、弟・薫には縁談が持ち掛けられた。相手は秀樹が勤める料亭「一心亭」の一人娘で、薫に好意を寄せているという邦子である。しかし薫には婚約者がいると言う。後日その婚約者に会った秀樹はそこで驚き仰天。薫の相手は秀樹が恋した節子だった、というもの。マッハ文朱がモテモテな役だが、失礼ながら逆パターンな役の方がしっくりくる。
13歳の時「スター誕生」に出場し、決戦大会まで行ったのは有名な話だが、当時既に174cmくらいあったという。この時は山口百恵が準優勝したが、彼女とは同い年で向こうから話しかけられたのを覚えているという。マッハはスカウトされなかったが、スタ誕の池田プロデューサーからは「身長が高いからかわいい子路線では売りづらい。13歳だから和田アキ子のような迫力もまだ出せない。だから審査員の先生たちもどう評価したらいいかわからなかったのだと思う」と説明されたという。ならばこの身体を生かそうと女子プロレスラーの道を目指したのだという。76年頃からタレント活動を開始している。
宮内淳は一瞬、字面が宮内洋に見えるが、本名は宮内博史なので実は同じ「ミヤウチヒロシ」なのである。83年辺りからほとんどテレビ等で見かけなくなるが、これは児童演劇活動を中心にしたためであり、50歳を過ぎると芸能活動はほぼ停止し、環境問題の啓発活動に力を入れるようになったという。
さて、主演のセント・ルイスだがその後漫才ブームの仕掛人である横澤彪と相容れなかったことなどが要因となり、テレビ出演は減少してしまうのである。コンビ仲は悪く、お互いの住所すら明かさなかったらしいが、それでも32年間コンビを組み、03年に解消している。しかし、その翌04年7月にセントが56歳で逝去。悲しみのコメントを寄せたルイスだったが、九か月後の05年3月にルイスも56歳で逝去。しかも死因は共に肺癌であった。
話を戻すが、本作は予定通りか打ち切りかは不明だが全9話である。脚本は全話ジェームス三木が担当している。話数の少ないドラマはCSなどでも放送されない傾向にあるが、本作も今後見る機会はあまり訪れない気がする。
拳骨にくちづけ(ゲンコツにくちづけ)
水曜劇場を追って行くと気になる作品があった。「拳骨にくちづけ」(81年)である。主演が大原麗子で、共演が丹波哲郎なのである。
丹波が出演するテレビドラマって、「キイハンター」や「Gメン75」のようなアクションが「三匹の侍」や「鬼平犯科帳」のような時代劇かというイメージを持つ人が大半だろう。実際、その二本柱がほとんどなので、こういったホームドラマはこの時点では珍しいと言えるのである。年齢を重ねていくと、そういったドラマも増えていくのだけれども。
本作に関しても、全く未見であり、存在も初めて知ったくらいなので、丹波の出番がどの程度あるのか不明なのだが、設定的には、多く出番がありそうな気がするのだ。
ヒロイン大原麗子が演じる杉本薫は現代彫刻家である。子供たちに絵画を教える傍ら、鉄を使った彫刻にも励んでいた。薫は、間もなく細川俊之演じる吉川杜夫と結婚する予定であり、結婚前の最後の作品を作るべく荒船鉄工所の一角で製作に取り組んでいた。その鉄工所を営むのが丹波演じる荒船時次郎なのである。彼には3人の息子がおり、柄本明(金太)、本間優二(鉄平)、北詰友樹(鋼介)が演じている。薫が結婚式の仲人夫妻と初顔合わせする当日、薫の不注意が元で工場で爆発事故を起こしてしまう。結婚を控えていた薫だったが、工場の被害の弁済のため、荒船鉄工所で働くことを志願する。というのがあらすじである。
他のキャストだが、山岡久乃(吉川千津:杜夫の母)、橋爪功(吉川慎一:杜夫の兄)、笠智衆(薫の祖父)、島村佳江(八木沢悠子)、原保美(荘吉)、萩尾みどり(マミ子)、菅井きん(イノ)、野際陽子(妙子)といった顔ぶれ。あと役名は不明だが、榎木孝明、蜷川有紀、伊藤栄子など。
鉄工所の三兄弟だが柄本は当時33歳に対して、本間は23歳、北詰は22歳。年齢も離れているが、顔も全然似ていない。本間優二は79年に映画「十九歳の地図」で主演デビューしているが、実は76年のドキュメンタリー映画「ゴッド・スピード・ユー! BLACK EMPEROR」に現役暴走族として出演していた。ブラックエンペラーでは名誉総長にまでなったという。宇梶剛士の先輩にあたるわけである。個人的にも本間が主演の「狂った果実」(81年)を浪人生の時だったか映画館で見た記憶がある。確か三本立てだった。いつの間にか見かけなくなったと思ったら、89年で引退したそうである。役者志向でもなかったらしい。
北詰友樹も79年に「メガロマン」の主役としてデビュー。NHK連続テレビ小説「なっちゃんの写真館」(80年)で注目されるようになった。北詰も94年ころに芸能界から退いている。
細川俊之の兄役が橋爪功で、実際橋爪の方がずっと上に見えるのだが、実は細川が1歳上である。後、丹波と野際陽子の共演というのも「キイハンター」を思い出す。大原麗子は前年(80年)に森進一と再婚している。忘れているかもしれないが最初の相手は渡瀬恒彦だ。
ところで、番組タイトルだが5話より「ゲンコツにくちづけ」と変更になった。やはり漢字で「拳骨」と書いても馴染みが薄く読めない人も多かったのではないだろうか。、
なぜか初恋・南風
前回の「熱愛一家・LOVE」の後番組が「家路~ママ・ドント・クライ」「家路PART2」で、その次が近回の「なぜか初恋・南風」(80年)である。
主演は「熱愛一家」と同じ森光子である。彼女が演じる梶道子はパリに住んでいたが、夫を亡くし、18年ぶりに日本に帰国して生まれ育った東京・日本橋人形町でクレープ屋「南風堂」を開店するというお話。クレープって日本ではいつ頃から出てきたのか調べると、76年渋谷、77年原宿にクレープ店が開店したのがきっかけに流行り出し、定着したようである。
当時、森光子はちょうど還暦の60歳。その亡き夫駿介役はホームドラマのイメージが薄い中村敦夫で当時40歳。設定年齢は不明だが、森光子は若々しいかもしれないが、中村敦夫とだとやはり10歳は離れているように見える。まあ年の差夫婦という設定かもしれんが。
他の出演者だが、義理の父・梶大介が内田朝雄。実は森と同じ60歳である。この人がいるとサスペンスドラマのように感じてしまう。駿介の弟・恭介が広岡瞬で当時22歳。前年にデビューしたばかりで、石野真子の再婚相手だったのを覚えていいる人はいるだろうか。彼女と離婚したタイミング(96年)で広岡も芸能界を去っている。
これ以外のキャストはウィキペディアでは、下の名前だけ出ていて、その関係性が分からない。独自に調べてみた結果、大体は判明した。牛乳屋「桃乳舎」関係が杉浦直樹(桃乃井一彦)、緋多景子(桃乃井登美)、大場久美子(桃乃井めぐみ)。船宿「網忠」関係が荒井注(三杉忠八)、朝丘雪路(三杉英子)、池上季実子(三杉藍子)、比企理恵(三杉理恵)、新井康弘(泉玄太)。荒井と緋多は森とは「時間ですよ昭和元年」(74年)でも共演。荒井は森の亭主で、緋多は銭湯の客のおばさんといった感じの役だった。大場と池上と言えばホラー映画「HOUSE」(77年)を思い出す。池上は本作では家業ではなくスチュワーデス(現・CA)をやっている設定のようだ(当時のポスターより)。その妹役の比企理恵は当時15歳のアイドル歌手。ただ、歌手としてはヒットがなかったので、早々と見切りをつけ翌81年からは女優業一本にシフトしている。本作がドラマ初出演のようだが、今も活動中のようだ。新井康弘は当時は「ずうとるび」のメンバーでもあった。本作では舟宿の従業員の役だと思われる(当時のドラマ台本より)。
後は役柄は不明だが、左とん平(榊原六郎)、増田葉子(榊原洋子)、田中星児(藤巻青児)。とん平の娘が増田でその彼氏が田中のようだ。増田は当時人気のお天気キャスターで、後にセクシー路線へ。田中の「ビューティフル・サンデー」が大ヒットしたのは76年のこと。ドラマ出演は本作が初だったようである。森との会話シーンがあり、田中があまりにも手を動かすので「視聴者の人がどこを見ていいかわからなくなるでしょ」と怒られたという。松山英太郎(河原国夫)は先のポスターで「南風堂」のエプロンをしているので、その従業員ということなのだろう。松原智恵子(毬子)、谷隼人(研二)も先のポスターより、松原は芸者、谷はボクサーのようである。ちなみに、谷は本作では岩谷隆弘名義で出演しているが、数年で元の谷隼人に戻っている。
あと、恭介の家庭教師役で青木明子という人が出演しているが、直前までの芸名は岸田奈帆子だった。「特捜最前線」で二谷英明演じる神代警視正の娘・夏子を演じたのは彼女である(二代目であり、初代は志摩みずえ)。登場して二回目にして射殺されてしまうのだ。現在は青樹明子名義でノンフィクション作家として活動しているようだ。
本作は視聴率的には苦戦し、23話まで放送されたが、実は打ち切りであったという。おそらく3話分短縮されたのだろう。
熱愛一家・LOVE
順番が前後しているのだが、「家路~ママドントクライ」の前番組となるのが「熱愛一家・LOVE」(79年)である。個人的にタイトルだけは聞いたことがあったが、一度も見たことは無い。
主演は森光子で、当時59歳。彼女がいつも通り「日本のお母さん」を演じているコメディタッチのホームドラマである。彼女が演じる石本千代はスナック「ままや」のママ。二男二女の四人の子供を女手一つで育て挙げた。元歌手であり、「懐かしのメロディー」系の歌番組への出演依頼が絶えない。
石本家の四人の子供はそれぞれに恋愛中である。柴俊夫(長男・謙)‥牛丼店・吉田家の店長。生真面目な役の多い柴だが、本作では今日子と未来子を二股にかけて付き合っている。浅茅陽子(長女・茂子)‥妻子ある男性と不倫の末、その子を身ごもる。太川陽介(次男・彰)‥大学生だが、ほぼ行かずにタウン情報誌「ぴぴ」のアルバイト記者として働いている。高校時代の恩師である女性教師と恋に落ちる。太川は当時20歳。NHK「レッツゴーヤング」ではサンデーズ(他に川崎麻世、倉田まり子など)のメンバーだったが、ほぼ本作が始まったタイミングで司会に昇格した。石野真子(次女・みどり)‥15歳の高校生だが、16歳になったら和夫と結婚すると宣言する。石野は当時18歳で、本作がドラマデビューとなる。
水沢アキ(鈴木今日子)‥謙の恋人の一人だが、重い心臓病を患っている。岡崎友紀(中村未来子)‥もう一人の謙の恋人。今日子の友人でもあり、謙との関係にも気付いている。彼女の病気を気遣い身を引こうとしている。長谷川初範(長谷川和夫)‥長距離トラックの運転手でみどりと結婚することになる。長谷川は前年にデビューしたばかりで、本作きっかけで翌年「ウルトラマン80」の主演に抜擢されることになる。
とまあ、はっきりしているのは長谷川と石野のカップルだけで、最終話では一家全員がそれぞれ結ばれるらしいのだが、番組を見ていない自分には、その他のカップルについては不明である。ただ、YouTubeに本作の短い動画が挙がっており、柴は水沢との結婚を急ごうとするが、彼女は「私の身代わりなんかじゃない」と岡崎との結婚を薦めるのである。余命の短い自分と結婚しても…ということだろう。ちなみに、Wikiに柴の役名は「譲」となっているが、動画では「けん」と呼ばれているので字面の似ている「謙」が正解ではないかと推測した。
他のキャストだが、松山英太郎(中沢保)、西田敏行(大門孝太郎)、左とん平(信夫中)、泉ピン子(藍野いづみ)、輪島功一など。とん平とピン子は付き合っており、輪島は元ボクサーで近所の団子屋の店主という役なのでほぼ本人である。松山は役柄不明だが、浅茅の相手だろうか。西田は歌手時代の千代のファンという設定だが、これも動画で森光子のお相手は西田であると言ってよさそうに思えた。動画を挙げたのはどうやら、この場面で挿入歌を歌っているHe-Story(ヒストリー)というグループのメンバーのようだ。
ドラマの本来の脚本とは無関係に、たびたび国内外の大物芸能人がゲスト出演として登場し、自分の最新出演作品の宣伝などを寸劇スタイルで森光子と数分間やり取りした。ゲスト出演者には、海外からはキャサリン・ロス、ソフィア・ローレン、ホイ三兄弟(マイケル、リッキー、サミュエル)、国内では若山富三郎、沢田研二、おすぎとピーコ、タモリなど。ホイ三兄弟は当時流行った「Mr.Boo」がらみだろうが、キャサリン・ロスやソフィア・ローレンは何の作品かは不明だ。若山は「衝動殺人息子よ」絡みだったようだ。沢田は「太陽を盗んだ男」がこの年に公開されているが、番組放送時期とは半年ほどずれがある。アルフィー(THE ALFEE)の桜井賢が単独で出演し、サングラスを外したりもした(らしい)。
家路~ママ・ドント・クライ その2
前回の続きで「家路~ママ・ドント・クライ」(79年)である。
主題歌はクリエイションの「ママ・ユードン・クライ」という微妙に番組タイトルと違っているタイトルの曲である。81年に藤竜也、草刈正雄主演のドラマ「プロハンター」の主題歌「ロンリー・ハート」がヒットするのだが、その時のグループ名はクリエーションであり、ボーカルもGSのカーナビーツで活動していたアイ高野を迎えており、本作とは違った雰囲気を感じる。
本作で挿入歌として使われたのが郷ひろみの「マイレディー」である。こちらは大ヒットしたので、主題歌をこっちにしておけば、視聴率ももう少し上がったかも。作詞作曲が郷の役名である唐沢晴之介となっているが、実際は網倉一也の作詞作曲だという。
また、高見知佳の「セザンヌの絵」も挿入歌として使用されたという。歌手としてはあまりパッとしなかったイメージがあるが、この曲以外にも番組主題歌や挿入歌に使われた曲が数曲ある。最大のヒット曲は資生堂のCMソングとなった「くちびるヌード」である。アイドル歌手というよりは、バラドルのイメージだろう。22年には突然、参議院選挙に立候補して落選。翌23年には子宮がんが判明したが、かなり進行しており、入院した翌月に亡くなっている。60歳であった。
味楽苑の店員役の白石まるみは「ムー一族」(78年)で主演の郷ひろみの恋人役オーディションで2位に選ばれたのがきっかけで芸能界入り(1位は桂木文)。オーディション時はまだ中学生だった。芸名は顔も目も鼻も丸いから「まるみ」と番組スタッフらが名付けた。「白石」も全体的なイメージだというが、別に太っているわけではない。彼女の娘が守永真彩で、競馬番組以外ではあまり見かけない。
番組サブタイは5話までなく、6話になって「久米宏の満漢全席」というサブタイが付いている。勿論、ゲストは久米宏だったようだ。8話には岡田真澄が吸血鬼の役、さらにYMOの三人が出たという。気になるのが12話の「学習院OG奮闘す」というもの。レギュラー陣には学習院卒はいなさそうだが、誰をさしているのだろうか。ちなみに、この回の視聴率が4%を切っていたようで、低視聴率だったことがわかる。翌13話が最終話となったのである。
その翌週からスタートしたのが「家路PART2」(79年)である。出演者と役名はほぼそのままなのだが、設定は大きく変わったという。どう変わったのかはわからないのだが、中華屋ではなくなったようである。wikiやテレビドラマデータベースなどを見ると白石まるみや子役の安孫子里香の名は見当たらなくなっている。だから、出ていないとは限らないのだが。森マリアや小林アトムが新たに加わったようだ。小林アトムについてはよく知らないが、舞台中心の人で。テレビや映画出演は少ない。この15年後に劇団四季に入団したようだ。ちなみに、下條アトムは本名だが、こちらは芸名である。ゲストでは、篠ひろ子、はしだのりひこ辺りが目立つ程度で、最終話は何故か山本麟一のようだ。
要するにテコ入れを行ったわけだが、出演者も変わらない状況では、視聴率が伸びることもなく、PART2も13話にて終了したのである。
家路~ママ・ドント・クライ
郷ひろみでTBSの「水曜劇場」と言えば、「ムー」とか「ムー一族」とかは有名だと思うが、そのちょっと後に放送された「家路~ママ・ドント・クライ」(79年)を覚えている人はいるだろうか。まあ、自分も全く見たことはないのだけれども。
東京湯島にある傾きかけた中華屋「味楽苑」が舞台のホームドラマということだが、主演は京マチ子(唐沢雪子)で、その夫が佐野浅夫(唐沢鶴吉)である。当時のビジュアルを思い出すと、佐野の方がかなり爺さんっぽくて年長に見えるのだが、当時京は55歳、佐野は54歳だったのである。共に大正生まれの1歳違いだが、これは京が若々しかったというべきだろう。
その子供たちだが、長女が梶芽衣子(唐沢薫)、長男が郷ひろみ(唐沢晴之介)、次女が浅野温子(唐沢渚)、三女が安孫子里香(唐沢ヒカル)というキャスティングである。郷は「おやじ山脈」に続いて佐野の息子役となるが、梶と浅野は当時のイメージからいうとホームドラマのタイプではないと思う。梶はやはり「女囚さそり」のイメージが強かったと思うし、浅野は当時18歳。後には「あぶない刑事」やトレンディドラマで、コミカルな一面も見せたりするが、この時点では直前に公開された映画「高校大パニック」で、犯人の男子生徒(山本茂)の人質となる女生徒役のイメージではないだろうか。映画は見てなくとも結構テレビCMも流れていた記憶があるので、あのシリアスな顔の美少女という感じだったのではないだろうかと勝手に予想する。つまり、暗い影を背負ったニコリともしない姉妹を想像してしまうのだ。ちなみに郷は当時24歳だが、浅野とは二卵性双生児であるという設定になっている。設定年齢は不明だがどちらに合わせたのであろうか。そして、三女役の安孫子は本作がデビューとなる子役で当時6歳である。実年齢で言えば、梶とは26歳の差がある。まあ、京と佐野は50代なので、こういう構成もあり得はするけれども。ちなみに、安孫子は翌80年スタートの「池中玄太80キロ」の三女役でお茶の間に知られるようになる。
他のキャストだが、紺野美沙子(柳瀬美佐子)、伴淳三郎(鈴木大作)、李礼仙(鈴木美代子、鮫島リラ二役)、近田春夫(李斉足)、高見知佳(李梅子)、白石まるみ(生井米子)、小林亜星(唐両世)、タモリ(庚朱慶)、岡田英次(増沢)、池部良(立花宗一)などである。
梶、浅野に加え李礼仙(後に李麗仙)もホームドラマっぽくない役者である。伴淳の娘役だが、何故か踊り子リラとの二役である。その李礼仙が出演している中、近田春夫と高見知佳が李姓の兄妹を演じている。ちなみに近田はミュージシャン、高見はアイドル歌手である。タモリはまだお茶の間に浸透していない頃だと思われる。サングラスではなくアイパッチの時代だったかも。役名からして当時よく芸としてやっていた怪しい中国人なのかもしれない。ちなみに近田とタモリはオールナイトニッポンのパーソナリティでもあった。
そういえば、京と梶の共通点を思い出した。それは独身であること。京は大映のスター女優であったが、肉体派でもあり男を引き寄せそうなものだが、一度も結婚することは無く19年に95年の生涯を終えている。梶は現時点(25年)で、78歳だが未婚状態である。実はこのドラマの5年程前に結婚寸前まで行った相手がいたそうだが、結局破談となってしまう。その相手から「誰とも結婚するな。仕事は死ぬまで辞めるな」と言われたのを、いまだに義理堅く守っているのだと言われている。