ちょっとしあわせ
「てんつくてん」(73~74年)のあと、司葉子と和田アキ子が再び共演したドラマが「ちょっとしあわせ」(74~75年)である。正直、調べてたらたまたま見つけたもので、全く聞いたこともないドラマである。というわけで、ウィキペディアにある概要では、都電荒川線沿いにある柚木家が経営する「太陽保育園」が主な舞台となっている。柚木家の三女鈴子(酒井和歌子)と弟の和久(郷ひろみ)には暗い出生の秘密があるという。だから、全く明るいドラマというわけではなさそうだ。
都民の人なら知っているだろうが荒川線は現在都内を走る唯一の都電(路面電車)。この放送時点で、他の路線はほぼ廃止され、唯一の存在になっていたようである。
酒井和歌子で「太陽」保育園だと「飛び出せ青春」を思い出してしまうが(舞台は太陽学園)、そのメインライターだった鎌田敏夫が本作でも脚本に関わっているし、校長役だった有島一郎もゲストで登場するようので、クレジット上にはないようだが東宝も関わっていたのだろうか。
出演者だが、鈴子と和久の母・綾子が司葉子、父・忠基が田中春男、祖父で保育園の園長・紋平がアラカンこと嵐寛寿郎である。アラカンこういうドラマに出ていたのは意外に思ったりする。田中春男は宇治みさ子の父としても知られるが、実年齢で言うとアラカンと10歳しか違わない。当時の田中のビジュアルはわからないが、入り婿という設定もありうる。ヒロインの鈴子は三女と書いたが、長女・ちどりは林美智子、次女・かな子が結城美栄子、四女・まゆみが野口みどりとなっている。野口の詳細がわからないが、おそらく郷(当時19歳)より年下ではないだろうか。
他の出演者については役柄は不明なので、名前だけ並べるが、和田アキ子、高沢順子、芹明香、内田あかり、丹阿弥弥津子、遠藤幸吉、森本レオ、高岡健二、今井和子、植木等、二谷英明など。和田アキ子の役名だが、野中小百合というらしい。似合わないな思いつつ、野中小百合というアイドル歌手がいたなあと確認すると、本作終了の数か月後に同名の歌手がデビューしているのである。野中は渡辺プロで、和田はホリプロだが、植木や高岡は渡辺プロだったので、偶然とも考えにくいので、この役名を拝借した可能性はある。そういえば、植木と高岡はこの後「二人の事件簿」(75年)でも共演することになる。
内田あかりは73年に大形久仁子から改名したタイミングで歌った「浮世絵の街」がヒットしたところであった。遠藤幸吉は元プロレスラーで、力道山とタッグを組んでいたことで知られる。当時は既に現役を引退しており、プロレス中継の解説などを務めていたようである。どんな役で出たのかは不明だ。
あと概要を見ると郷が演じる文久は、年上の女性に憧れて愛を知って傷付きながらも成長していくとある。キャストを見て対象になりそうなのが高沢順子くらいだろうか。芹明香がこういったドラマでメインどころになるのは考えにくいし。ただ、高沢は郷と同じ55年生まれで、年上って感じにも見えない気がするのだが。余談だが、芹は酒井和歌子について、「本当にいい人で、すごく好きだった」と証言しているらしい。
全15話で終了しているが、2月の2週目が最終話で中途半端なので、打ち切りだった可能性も高い。本作を知っている人は少ないだろうし、再び陽の目を見ることもない気がする。
てんつくてん
クレージーキャッツ関連の話題は前回までとして、そこで「うしろの正面だあれ」での犬塚弘の娘役が和田アキ子のドラマデビューのようであると書いたが、そこで思い出したドラマが「てんつくてん」(73~74年)である。ここでも、和田アキ子が主人公の長女を演じているからである。
舞台は天保時代創業の老舗佃煮屋「天佃天(てんつくてん)」。タイトルは店の屋号なのである。その店主が佃崑(三波伸介)である。妻は早くに亡くなったが4人の子供たちがいる。上から魚介(渡辺篤史)、アキ子(和田アキ子)、潮(吉田次昭)、淳子(桜田淳子)である。そこへ、山の手のお嬢様育ちである笑子(司葉子)が後妻としてやってくるところから物語は始まる。
子供の頃から、ほぼホームドラマの類を見て来なかった自分だが、何故かこの一家のキャスティングはよく覚えていた。ということは見ていたんだろうけれども、ストーリーに関しては一切覚えていない。本作は日曜20時から日テレ系での放送だったのだが、この前番組が「おこれ!男だ」(73年)であった。森田健作と石橋正次という二大青春スターの共演が話題になった青春ドラマである。これは毎週見ていたので、その流れでチャンネルを合わせていたのかもしれない。
それにしても、見事に似ていない親子・兄弟である。三波伸介は当時43歳で、戸塚睦夫、伊東四朗と組んだてんぷくトリオのメンバーだったが、本作の半年前に戸塚が急逝。トリオから「てんぷく集団」に改名したばかりの頃だった。こういった連続ドラマの主演は本作が初だったようである。司葉子は当時39歳。映画女優のイメージが強いがテレビドラマにも60年代から多く出演していた。恋愛系が多く、本作のようなホームドラマへの出演はは意外と主なかったように思われる。
渡辺篤史は当時26歳だったが、見た目の印象は10代の頃から50代くらいまでは全く変わらなかったイメージがある。和田アキ子は当時23歳、歌手として人気もあったが、当時は毎年のようにドラマにもレギュラー出演していた。ちなみに、本作の二日前にスタートしたのが「金曜10時うわさのチャンネル!!」であった。
吉田次昭は当時19歳。幼少期から子役として活躍しており、個人的にはやはり「マグマ大使」(66年)の17~20話のみガム(二宮秀樹)の代役を務めていたのが印象に深い。桜田淳子は当時15歳。歌手デビューから約7カ月くらいの頃で、これが孜のドラマ出演だったようである。山口百恵も淳子の直後にデビューしており、前年デビュー森昌子を含めて「花の中三トリオ」と既に言われていたと思う。
実は森昌子も本作に出演している。天佃天の近くにたいやき屋があり、その主人が鹿(杉山とく子)であり、その娘が洋子(岡崎友紀)と昌子(森昌子)なのである。淳子と昌子は中学のクラスメートであり、その担任が前川先生(前川清)である。
他の出演者だが、崑の妹が佐山蕗子(宮本信子)で、その夫は佐々木功、笑子の父・国男(松村達雄)、近所の自転車屋兄弟の一郎(新田昌玄)と敏夫(大石悟郎)、潮の予備校での友人・尾崎(中島久之)、春海和尚(菅原洋一)、後役柄はよくわからないが、ヒデとロザンナ、本郷直樹、渚まゆみ、水原麻紀なども出演していた。
本作が26話放送された後、再び青春ドラマ枠に戻り中村雅俊主演の「われら青春!」(74年)がスタートするのである。
ゆびきりげんまん/うしろの正面だあれ
次は犬塚弘である。本名は字面は同じだが「ひろむ」と読む。クレージーキャッツの前進である「ハナ肇とキューバンキャッツ」の創設メンバーでもある。そのクラリネット奏者だった萩原哲晶は作曲家に転向し、クレージーの曲の多くを手掛けることになる。
さて、犬塚だが調べてみると結構主演作があったりするのである。とは言っても詳細不明なものばかりで、紹介できる情報もほとんどないのだが、書き連ねてみたい。2作だけど。
「ゆびきりげんまん」(68~69年)は、土曜19:30からフジテレビ系で放送されていた30分ドラマ。鈴木家の人物を描いたドラマで、毎回さまざま動物が登場していたらしい。全6話予定が好評で27話に渡って放送されたという。
主人公は鈴木強少年で、思ったことを実行しないと気が済まない性格。演じたのは大山尚雄(ウィキペディアでは高雄となっているが、尚雄が正しいと思われる)で、当時10歳。役柄上の年齢もおそらく実年齢と同じくらいであろう。大山は後に声優としても活躍し、アニメ「機甲創世記モスピーダ」(86年)では主役を演じたりしている。
そのパパ役が犬塚で、国際線のパイロットをしているという設定。ママ役が小林千登勢で、おばあちゃんが飯田蝶子である。他には植田多華子(メグミ)、武田浩志(ユタカ)の名があるが、多分子役だろう。他にベテラン益田喜頓も出演していたようだ。益田と植田、武田は73年の「青春家族」というドラマでも共演しているようだ。主題歌はピンキーとキラーズの「ゆびきりげんまん」である。3枚目のシングルなのだが、聞いた記憶はない。この5カ月ほど前に出たのがデビューシングルで大ヒット曲の「恋の季節」である。
「うしろの正面だあれ」(69年)は日曜21時からTBS系で放送された30分ドラマ。「ゆびきりげんまん」とシリーズになっているようなタイトルだが、関連性はない。その内容だが、犬山家は部屋が二つの小さな家に留吉、スミ子の両親と9人の子供がひしめく大家庭。動物園のベテラン飼育員だった留吉が定年を迎え、代わってスミ子が務めに行くことになり、そのスミ子に代わって留吉が9人の子供の世話から家事一切に至るまで引き受けることになり、珍事、変事が続出する。というお話である。留吉役が犬塚で、スミ子役が春川ますみだ。犬塚は当時40歳だが、この時代の定年は55歳。なので、役柄上は55歳ということになろう。春川は当時34歳で、実年齢設定でも9人子供を産むのは可能。ただ、長女役は和田アキ子のようで当時19歳。本作が初のドラマ出演だったようだ。実年齢的には女子高生と変わりないが、まあ見えないので少なくとも19歳くらいの設定ではないだろうか。他に出演者として名が挙がっているのが、夏八木勲、中村春美、小松政夫、江戸屋猫八、悠木千帆(樹木希林)など。
夏八木(当時30歳)がその長男役ということさすがにないだろう。他もしかりだが、中村春美はおそらく子役だろう。77年に「もしもあの時」というシングルを同じ名前の中村春美という女子が出しているのだが、56年生まれとなっており、ドラマ当時は13歳ということになり、娘役にもぴったり。この「中村春美」は同一人物である可能性が高い。全13回の30分ドラマということで、映像が残っているかどうか不明だし、今後陽の目を見ることは難しい気もする。
男一番!タメゴロー
クレージーキャッツメンバーの主演ドラマ、今回はそのリーダーであるハナ肇である。
ハナのヒットギャグである「アッと驚く為五郎」は歌だけでなく映画にもなり、ハナが主演で五作作られているのだが、そのテレビドラマ版があるのを、ご存知だろうか。それが「男一番!タメゴロー」(70年)である。
始まりはバラエティ番組である『巨泉・前武ゲバゲバ90分!』(69~71年)のコントとコントの間をつなぐVTRとして登場するものとして誕生した。ハナがヒッピー姿で「アッと驚く為五郎」と言うのがウケたのである。この為五郎というのは、ハナがお気に入りの浪曲である『清水次郎長伝』の節回しで登場人物の「本座村の為五郎」を指しているという。
この人気を受けて、まず69年の年末にクレージーキャッツのシングル「アッと驚く為五郎」として発売された。メインボーカルは植木等で、他のメンバーはコーラスだが1コーラスごとにハナが「アッと驚くタメゴロー」と叫ぶ構成になっている。
当時は話題になると、まず映画化というような風潮もあり、70年2月には松竹で映画「アッと驚く為五郎」が公開された。主演はもちろんハナ肇でお馴染みのヒッピー姿だったようだ。共演が谷啓、なべおさみ、ヒロイン役が梓みちよ、尾崎奈々、佐藤友美、他にミヤコ蝶々、財津一郎、金子信雄、高松しげおなど。主人公のフルネームは大岩為五郎である。
そして4月にスタートしたのがドラマ「男一番!タメゴロー」なのである。こちらも、ハナが主演だが、ギャグやキャラクターとは無関係なストーリーとなっているらしい。制作も松竹ではなく東映である。その概要はハナ演じる若林為五郎は、海老問屋の従業員でダンプの運転手。単細胞だが正義感は強い。ある日、海老問屋を営む西尾家に娘の美加(八千草薫)が出戻って来た。為五郎は美加に夢中になってしまうという展開になっている。
全26話だが、脚本はその三分の一くらいを向田邦子が担当している。音楽も富田勲となっており、クレージーキャッツの歌う「為五郎」が流れることはなさそうだ。
他の出演者だが、金子信雄、なべおさみ、飯田蝶子、入川保則、田坂都、丹阿弥谷津子など。入川は八千草の夫役である。レギュラーかゲストかは不明だが、松木路子、小橋玲子、北あけみといったところも出演していたようだ。本作も映像に関しては不透明だが、少なくともCSなどで放送されたことはないはずである。ただ一般家庭にビデオが普及する前の81年頃に、東映芸能ビデオから第1話を収録したビデオが発売されていたことがあるというので、少なくとも第1話は現存しているのではないだろうか。ちなみに値段は4万円したそうな。
また98年に発売されたLD(レーザーディスク)『東映TVドラマ主題歌大全集 現代劇編』第2巻には、本作のオープニング映像が収録されているらしい。これは第1巻なら自分も所持していたが2巻は見た記憶がない。なので、この「男一番!タメゴロー」については、その映像を全く見たことがない気がする。今になって見ると、一時期LDを集めたのは失敗で、すぐに衰退してしまいハードもソフトも生産が中止。ハードが壊れてしまい再生できなくなってしまったのである。探せば中古のプレーヤーもあるだろうが、壊れるリスクの方が高い気がするので買おうとも思わない。
何故か『東映TVドラマ主題歌大全集 現代劇編』はDVD化されていないのである(アニメ編と特撮編はされている)。
あひるヶ丘77
ついでなので、クレージーキャッツのメンバーが主役を担ったドラマを取り上げてみたい。
クレージーと言えば、ハナ肇、植木等、谷啓が中心で、犬塚弘も第4の男として大映で主演作が撮られたりしたが、残る安田伸、石橋エータロー、桜井センリは基本的に脇役である。
しかし、その中で桜井センリが主役を演じたドラマが存在する。それが「あひるヶ丘77」(68~69年)である。桜井はメンバー中最年長(26年生まれ)なのだが、グループへの加入は七人目つまり最後である。石橋エータローが結核で休業を余儀なくされた為。代理として同じピアニストの桜井に白羽の矢が立ったのである。しかし、通常のバンドマンが月給4万程度の時代に、桜井は18万を得ていた高給取りだったので、植木や谷は反対したが、ハナが強く推すので本人に確認したところ「ああいうことを一度やってみたかったんですよ」と快諾したのである。前述のとおり26年生まれだが、メンバーバランスが考慮され公称は30年生まれということになった。その後、石橋が復帰してもそのまま残ることになったのである。
そんな桜井の恐らく唯一の主演作となったのが「あひるヶ丘77」だ。原作は「仙人部落」や「ヒゲとボイン」でお馴染みの小島功の漫画である。原作は61年から87年まで長きにわたって「週刊サンケイ」(現・SPA!)に連先されていた。都内の2DK団地・あひるヶ丘に住む、マロニエ商事勤務の係長の夫婦と子供というサラリーマン一家を中心に、その周囲・近所・会社などを舞台に繰り広げられる日常を描き、時にお色気も盛り込んでいたホームコメディである。
63年に藤田まこと、姫ゆり子でラジオドラマ化されていたが、ドラマ化は今回が初だった。制作はフジテレビ、東映で、主役の団野九平に桜井が抜擢され、妻・百合子に広瀬みさ、息子・太平に下沢広之というキャスティング。下沢は現在の真田広之である。役柄は不明だが、安田伸と石橋エータローも出演しており、クレージーのじゃない方が三人揃った形である。
奥さん役の広瀬みさだが、大映15期ニューフェイスに合格し、大映演技研究所で学んだようだが、大映作品に出演した記録はない。俳優より先に63年に歌手デビューしているのである(広瀬美砂名義)。女優デビューは日本初の刑事ドラマ「ダイヤル110番」(57~64年)の335話は「死のタイピング」となっている。映画出演はほぼ日活作品で、大映には入社しなかったということだろう。本作の直前には竜雷太主演の「でっかい青春」(67~68年)でヒロインとなる国語教師を演じていた。69年に結婚して引退しており、短い芸能生活であった。
他のキャストもレギュラーかゲストかは不明だが、清川虹子、大原麗子、山城新伍、桑原幸子、園佳也子、伊藤慶子、斉藤浩子、潮健児、春川ますみ等である。明らかにゲストとされているのが、小川宏、益田喜頓、楠トシエ、花園ひろみ、曽我町子、谷幹一、南利明、小林千登勢、松山英太郎などである。
桜井と広瀬がヂュエットしている主題歌入りのオープニング映像が『東映TVドラマ主題歌大全集1 現代劇篇』に収録され、自分もそれを見たことがあるが、逆に言うとそれ以外は見たことがない。タイトルバックも小島功の絵をベースにしたアニメであり、中の映像に関しては一切見たことは無い。実際、東映チャンネルでも一度も放送されたことはなく。フィルムが存在しているかどうかも不明である。、
天下の若者/天下の学園
もう一つ(というか二つ)、渡辺プロ関連のドラマから「天下の若者」(64~65年)である。
銀座に事務所を構える芸能プロ「希望プロ」を舞台に、その社員とタレント、同じビルの住人たちとの交流を描くドラマ。渡辺プロ所属のタレントが総出演した。NHKで放送中の「若い季節」に対抗して始まったというが、その「若い季節」にも渡辺プロが関わっており、そのタレントが大勢出ていたのである。
主演は谷啓で、5度のクビを経験して希望プロに入社してきた谷田啓太郎を演じる。ヒロインの原みよこ役が梓みちよで、とある会社の令嬢らしい。山内社長には三橋達也、男女で態度の違う花木興行部長にハナ肇、タレントとしては見込みのない木下専務に藤田まこと、といった面子が話の中心となるようだ。
三橋達也は東宝の所属で、ナベプロに所属したことはなかったと思うが、当時は黒澤映画「天国と地獄」や自身が主演の「国際秘密警察シリーズ」など映画スターとして好調な時期であった。
他はレギュラーか準レギュラーかは不明だが、クレージーの残りの五人(植木等、犬塚弘、桜井センリ、安田伸、石橋エータロー)を始め、人見きよし、南利明、左とん平、谷幹一、小野栄一、木の実ナナ、中尾ミエ、伊東ゆかり、園まり、田辺靖雄、ザ・ピ-ナッツなど。クレージーキャッツはもちろん、中尾、伊東、園の「スパーク三人娘」、藤田まこと辺りは「若い季節」にも出演していた。
丸一年放送されていた番組だが、ほとんど情報がないので書くこともない。ゆえに、その後番組である「天下の学園」(65年)にも触れておきたい。
幼稚園から大学まで有る「理想学園」という学園を舞台に、大学4年の啓太が様々な事件を巻き起こしながらも、楽しく明るい青春を出していく姿を描くというもの。主演は前作に引き続き谷啓で、彼が演じる谷山啓太は大学生活七年間、初等部から数えると、この学園に十九年間もいる、いわば、学園のヌシ。音楽部のマネジャーでもある谷山は、新入生の川村マリ(園まり)に会い、彼女が美人なのと、歌好きなのにつけこんで、さっそく学園内の案内役を買って出た、というのが第1話。ちなみにウィキペディアでは谷村、テレビドラマデータベースでは谷山となっている。ヒロインが川村なので、「村」がかぶらない谷山が正解な気がする。
その第1話のキネコが現存しているとのことで、とにかくキャストがやたらと多いらしく、タイトルバックだけで3分近くあるという。クレージーのメンバー全員に役名があるので、他の6名もレギュラーっぽい。ハナ肇(花田大和)、植木等(植松均)、犬塚弘(比留間弘)、桜井センリ(梅田)、安田伸(安原)、石橋エータロー(橋わたる)となっており、植木演じる植松はスペイン語の教授で、「いろいろ節」を歌いながら登場するという。他にも前作ヒロインの梓みちよは久世みちよ、中尾ミエは上尾ミエとなっている。
学園長役は伴淳三郎で、食堂の親父が柳家金語楼である。その金語楼とエノケンこと榎本健一がケンカするシーンがあるという(口ゲンカだろう)。お話はあってないようなもので、登場人物の出番が次々とあるだけだそうな。
他の出演者は淡路恵子、木の実ナナ、小山明子、芳村真理、上原ゆかり、スリーファンキーズ、ジャニーズ、藤村有弘、南都雄二など。
前作と違い、全18話と短いがサブタイなどは全て判明している。
おれの番だ! その3
「おれの番だ!」(64~67年)の続きである。
第17作は植木等主演の「大べらぼう」(全6回)。「ダイ」ではなく「オオべらぼう」である。この枠の植木主演作では初の時代劇。植木職人の源太(植木)は、義理人情いは厚いが、何かにつけてヤセ我慢をする男。ある日それが原因で熊五郎夫婦(安田伸、石井富子)が大喧嘩になってしまう。共演は横山道代、磯村みどり、木田三千雄、小島慶四郎、如月寛多、花沢徳衛、小林重四郎、小松政夫など。
第18作はハナ肇主演の「お山の大将」(全6回)。正社員になるために、一念発起して中学校に入学した労務者・軍平(ハナ)。その中学は東北縦貫道路工事のため廃校の危機にあった。共演は益田喜頓、北沢典子、桜井センリ、高松英郎など。橋田壽賀子が脚本に参加しているようだ。
第19作は谷啓主演の「亭主関白」(全6回)。原作は源氏鶏太「家庭との戦い」。熾烈な競争を経て、美人秘書・花子(姫ゆり子)を嫁にした太郎(谷)だったが、家庭と仕事の板挟みに悩むことになる。共演は大坂志郎、勝呂誉、角梨枝子、茅島成美、穂積隆信、夏川かほるなど。
第20作は藤田まこと主演の「まないたの恋」(全6回)。本作の途中から67年に突入する。大阪の老舗の料亭のぼんぼん(藤田)と東京のレストランの娘(池内淳子)の恋物語。館直志の喜劇「東西両家の系図」をテレビドラマ用に脚色したもの。共演は本郷秀雄、雪代敬子、森健二、江戸屋猫八、京塚昌子、小畠絹子、小池朝雄、待田京介など。
第21作は植木等主演の「その一言が多かった」(全6回)。風呂桶のセールスマン南太(植木)は成績はトップだが、余計な一言が多く出世ができない。植木が歌う「チョット一言多すぎる」をベースにしたドラマで作詞の中村メイコが共演している。ちなみに、作曲は夫の神津善行。66年の紅白歌合戦でクレージーキャッツはこの曲で出場している。他の共演者は渡辺文雄、高千穂ひづる、安田伸など。
第22作はハナ肇主演の「旅と共に去りぬ」(全6回)。大学出のインテリである洋平(ハナ)は、芝居熱が高じて大衆演劇の一座に飛び込み、旅回りを始める。共演は花沢徳衛、市川寿美礼、小林千登勢、曾我町子、犬塚弘など。
第23作は谷啓主演の「身の上相談」(全5回)。大学出たての剛(谷)は、怪しげな易者(多々良純)の示唆で人生相談所に勤務し始めるが、その経営者である優子(岸田今日子)の魅力に惹かれていく。他の共演者は川地民夫、犬塚弘など。
第24作は「おれの番だ!」最終作となる藤田まこと主演の「ああ漫才二等兵」(全6回)。42年から終戦の45年までを大阪と中国大陸を舞台に展開する異色兵隊ドラマ。漫才師の太郎(藤田)を通して軍隊生活を描くようだ。相方の次郎は三角八郎が演じる。共演は柳谷寛、藤岡重慶、三原葉子、小川知子など。最終話には植木、ハナ、谷も顔を見せて3年間のフィナーレを迎えた。
で話は前々回にループするのだが、本作終了から約1年後にクレージー、ドリフ、藤田まことを集めて「ドカンと一発!」が始まったのだが、1クールしか持たなかったのである。
おれの番だ! その2
「おれの番だ!」(64~67年)の続きである。
第9作は植木等主演の「口から出まかせ」(全6回)である。代議士の熊坂(進藤英太郎)の地元・出雲までスポーツカーの陸送を頼まれた小次郎(植木)。そこへ熊坂の汚職疑惑を調べようとする謎の女子大生(加賀まりこ)が近づいてくる。他の出演者は人見きよし、牟田悌三、七尾怜子、中原早苗、大屋満など。森繫久彌主演の映画「口から出まかせ」(58年)のドラマ化である。脚本は菊島隆三。
第10作はハナ肇主演の「花咲く港」(全6回)である。昭和16年の夏、九州の上甑島にやってきたペテン師修造(ハナ)と相棒の勝又(丸井太郎)。彼等はこの島での一儲けを企んでいた。共演は浪花千栄子、市村俊幸、藤岡琢也など。原作は菊田一夫で、木下恵介の監督デビュー作(43年)でもある。
第11作は藤田まこと主演の「夜明けだよ おっ母さん」(全6回)。共演は京塚昌子、小畠絹子、待田京介、小池朝雄など。ナレーションは一龍斎貞鳳。
ここから、66年に突入する。第12作は植木等主演の「男性No.1」(全6回)である。上杉(植木)は家政夫だが、ある日ホテルとは名ばかりの山小屋から仕事が舞い込んでくる。上原ゆかりがその娘役で出演。劇中歌をデュエットしている。共演は多々良純、黒柳徹子、芳村真理、三上真一郎、太刀川寛、有田双美子、岩上正宏、安田伸など。同タイトルの映画(54年)も存在するが、こちらは三船敏郎、鶴田浩二という二大スターの共演でカタギではない世界が描かれており、本作とは関係ないようだ。
第13作は谷啓主演の「喧嘩太郎」(全6回)。これは石原裕次郎主演の日活映画(60年)が有名で、同じく日活のテレビ版では杉良太郎が主人公を演じている。それを谷啓がやるという大胆不敵。実は源氏鶏太の原作は40ページほどの短編小説なので、映画やドラマはそれぞれ内容が大きく異なるのである。共演は横山道代、梓みちよ、曽我町子、桑山正一、十朱久雄、佐山俊二、左とん平、E・H・エリックなど。当時はアニメ「オバケのQ太郎」が人気で、初代オバQ役が曽我町子だった。谷に好意を持つ飲み屋の女として出演していた。あと、テレビドラマデータベースを見るとドリフターズの面々も出演していたもようだが、クレジットは改名前の名前だったようだ。つまり、いかりや長一、荒井やすお、高木智文、仲本こうじ、加藤英文というもの。正確な改名時期は不明だが、この直後くらいではないだろうか。
第14作はハナ肇主演の「一等賞」(全6回)。ハナ演じる良介はなんでも一等賞でなければ気のすまない男だが、将棋名人の工藤(中村伸郎)にしてやられる。共演は野川由美子、市川和子、なべおさみ、天野新士、三角八郎など。
第15作は藤田まこと主演の「骨までいただき」(全7回)。河内山宗俊の子孫と称するペテン師河内山宗吉(藤田)が、大阪では競争が激しすぎるので、東京で一旗揚げようと新幹線に乗り込むが、その車中で陽子(朝丘雪路)を見かける。共演は花沢徳衛、佐山俊二、三條美紀、北川町子など。脚本は藤本義一。
第16作は谷啓主演の「マヌケ人間」(全6回)。これは、今までの連作シリーズとは異なり谷が好きなSFやミステリーをコメディタッチで描く一話完結方式がとられているらしい。その第1話の原作は「火星人ゴーホーム」のフレデリック・ブラウン。共演は亀井光代、渡辺文雄、曽我町子、芳村真理、上原ゆかり、黒柳徹子、市川和子、弓恵子、北あけみ、長門裕之、犬塚弘など。2話分のVTRを谷啓自身が所持していたという。次回に続く。
おれの番だ!
前回に続き、クレージーキャッツ関連のテレビドラマから「おれの番だ!」である。
「ドカンと一発!」は13話で打ち切られたのだが、「おれの番だ!」は64年から67年の丸三年続いたのである。と言ってもロングランドラマというわけではなく、「おれの番だ!」というのは枠の名前なのである。植木等、ハナ肇、谷啓、藤田まことの四人が交替で主演を務める6~8話完結のドラマが同枠(月曜21:30~22:00)で続いていく形式なのである。
主題歌は四人で歌っているが、誰が主演かで歌う順番が変わるスタイル。たとえば、植木主演ならハナが歌い出しで、締めは植木の「おれの番だ!」というセリフだし、谷が主演なら藤田が歌い出しで、締めは谷になる。藤田バージョンのみ締めは「俺の番やでぇ!」になっている。
その第1作となるのが植木主演の「気まぐれ野郎」(全8回)である。原作は星新一で、共演は野川由美子、扇千景、三遊亭円生、中村是好、渡辺文雄、ハナ肇など。今回のハナのように主演以外の三人も時間が許せばゲストで出演したりしていた。本エピソードは大雑把に言うと植木と野川が偶然出会って、意気投合して…、という話だが、野川の役柄がテレビドラマデータベースではセールスレディ、前回も紹介した『植木等ショー!クレージーTV大全』という書籍では女子大生となっている。どっちが正解かは不明だ。
第2作はハナ主演の「馬鹿まるだし」(全8回)である。63年にハナの主演で映画化された同作のドラマ化である。その監督であった山田洋次が今回は脚本で参加しているらしい。共演は桜町弘子、永井秀和、犬塚弘、中尾ミエ、高野通子、森健二など。犬塚は映画版にも出演しているが、その時と同役かどうかは不明だ。
第3作は藤田主演の「元禄あだうち男」(全8回)。詳細は不明だが、タイトルから察するに時代劇であろうか。共演は葉山葉子、水島道太郎、高原駿雄、潮万太郎、瞳麗子、柳谷寛、舟橋元、そしてクレージーキャッツのメンバー七人全員が出演したようである。
65年になり、第4作は「鍵にご用心」(全8回)。ようやく谷が主演で、原作はフランク・グルーバー「走れ盗っ人」。谷が扮する天才的な錠前師が金庫破りの一味に目を付けられてしまう話だ。共演は芳村真理、待田京介、そしてハナ肇、犬塚弘、石橋エータローなど。
第5作は植木主演の「大穴」(全6回)。万年落第生の植木はカンニングペーパーを作って後輩たちに売りつけている。その手腕を就職試験に発揮するという「無責任男」をイメージさせる話。共演は清水まゆみ、安田伸、遠藤辰雄(太津朗)、藤原釜足、田中春男など。
第6作は藤田主演の「快男児浪花太郎」(全6回)。昭和の初め、藤田扮する太郎が借金の取り立てを命じられて旅回りの劇団に向かうが、芝居にのめり込んでしまい一行とともに地方巡業へ出てしまう。黒柳徹子が民放の連続ドラマに初出演するのが話題となった。共演は遠藤辰雄(太津朗)、南原宏治など。
第7作はハナ主演の「ボラ安の唄」(全6回)。山田洋次が落語「らくだ」をベースに脚本を担当。後に山田はハナや谷と組んで「喜劇一発大必勝」(69年)をやはり「らくだ」をベースに撮っている。共演は進藤英太郎、三ツ矢歌子、沢たまき、桜井センリ、なべおさみなど。
第8作は谷主演の「一匹野だいこ」(全6回)。舞台は大正時代の浅草。野だいことは俗に言う「たいこもち」のこと。実家の米問屋が潰れ、野だいことなった谷啓。昔その女中だったお花(賀原夏子)とばったり出くわす。共演は中尾ミエ、福田豊土、朝丘雪路、三遊亭円生、立川談志、オペラ歌手の田谷力三など。脚本は池田一朗(隆慶一郎)。次回に続く。
ドカンと一発!
前回の「S・Hは恋のイニシァル」(69年)が制作されるきっかけとなったのが「ドカンと一発!」(68~69年)である。
この番組については15年ほど前に発売された「植木等ショー!クレージーTV大全」という本に多少解説が載っていたので、そこから紹介したい。
本作はクレージーキャッツと人気上昇中だったドリフターズ、そして藤田まことを一堂に集めたというドラマなのである。全員が当時は渡辺プロの所属だったから可能だったわけだが、とにかく鳴り物入りで始まったことは間違いない。
当時は霞ヶ関ビルの36階建てというのが日本で一番高いビルだったが、本作の舞台は39階建てビルの最上階にあるという商事会社「日乃本物産」。その人員構成は、大塚社長(犬塚弘)、花山副社長兼総務部長(ハナ肇)、植田第一営業部長(植木等)、谷口第二営業部長(谷啓)、藤井第三営業部長(藤田まこと)、桜田総務課長(桜井センリ)、営業部員・安原(安田伸)、営業部員・石山(石橋エータロー)となっており、その仕事を一手に引き受けている「東西運送」の社員がザ・ドリフターズ(いかりや長介、荒井注、高木ブー、仲本工事、加藤茶)となっている。いかりや長介の役名は刈谷というらしい。
キャラ設定だが、大塚は富豪の娘・とみ子(春川ますみ)と結婚。彼女の親が39階ビルの持ち主だったので、大塚はビルのオーナーに収まった。その話を聞きつけた悪友たちが、大塚をおだてて「日乃本物産」を設立してしまったのである。
植田はアメリカから一文無しで帰国した猛者で、その信条は「何事もドカンと一発やれ」という大言壮語な人物という植木が映画でやっていたのと同じようなキャラである。花山は義理人情に厚く、会社の実権を握っている。谷口はインテリのお坊ちゃんで、母親(小桜葉子)や妹(山東昭子、佐々木愛)と暮らしている。藤井は関西出身で、元車のセールスマン。新入社員募集でやって来たのが桜田、安原、石山で、彼らはひやかしで面接を受けに来たつもりだったが、植田の口車に乗せられて入社する羽目になったのだった。役柄は不明だが、他にレギュラーとして挙がっていりのが、島かおり、中村メイコ、北林早苗、笠置シヅ子など。
映画のノリにかなり近いがシリーズ構成が、クレージー映画も手掛けた田波靖男で、田波と社長シリーズの笠原良三がメインライターである。エピソードごとに主人公は替わっている。
1話…植木等、2話…ザ・ドリフターズ、3話…クレイジー・キャッツ、4話…藤田まこと、5話…植木等、6話…谷啓、7話…ザ・ドリフターズ、8話…ハナ肇、9話…藤田まこと、10話…藤田まこと、11話…ザ・ドリフターズ、12話…谷啓、13話…ハナ肇。
これだけのメンバーが揃っていながら低視聴率にあえぎ、13話で終了することになった。これは、クレージー人気に既に翳りが見え始めていたことや、ドリフを超人気者に押し上げた「8時だヨ!全員集合」はまだ始まっていなかったこともあるだろう。テレビドラマデータベースの解説には12話で終了とあったが、ちゃんと13話放送されたようである。後番組の「こんにちは!そよ風さん」が12話で終わったので、「S・H~」が全14話ということになったのではないだろうか。