1. 2人の紳士
「イシダタミを知っていますかな」
とつぜん後ろから声をかけられました。
ふりかえると,
とてもやせたおじいさんと,
とてもこえたおじいさんの
二人のおじいさんが立っていました。
ぼくの名前はしょう太。
小学校5年生。
学校の自然教室で,海辺の村に野外活動に来ている。
今日は,引き潮の時間にあわせて海岸で磯の生物の観察をしているところだ。
晴れわたった真っ青な空とお日さまの光を受けてキラキラ光る海。
6月にしては梅雨のあい間のぜっこうのいい天気で,すずしげな浜風もふいている。
ごつごつした岩の間のしおだまりには,イソギンチャクやカメノテなどがいて,その間にカニやウニや小魚がいっぱいいる。
みんな「キャーキャー」言いながら観察している。
中には,半分海に入ってずぶぬれの者もいる。
そんな中,
ぼくと龍一はみんなからだいぶはなれた波しぶきのあまりとどかない磯に来ていた。
「イシダタミを知っていますかな」
今度はやせたおじいさんの少し高い声だ。
どうやらさっきは太っているおじいさんの声のようだ。
「えっ。道にしいてある石だたみですか」
「石の道のことですか」
さっき見つけたカニが岩かげにかくれてしまった。
ちょっと残念な気もしたが,おじいさんたちの話の方が気になっていた。
二人とも暑いのに長そでのコートを着ている。
やせているおじいさんは黒くて背の高いぼうしをかぶっている。
太っているおじいさんの方はまん丸の黒ぶちメガネをかけてしゃれたつえを持っている。
黒ぶちのメガネを上げつえでぼくの足もとの岩をさしながら,
「ちがうよ。ぼうやの足もとの小さな貝のことだよ」
「ほら,さっききみたちにふんづけられてこなごなになって,魚やカニのえじきになっている貝たちの
こぉとぉじゃぁぁああ」
2.毛むくじゃらの大男
とさけぶと,やせたおじいさんがこえているおじいさんの上に乗っかると,二人のおじいさんが一人の大きな男になりました。
天をつくような毛むくじゃらの大男です。
ふと気づくとぼくは小さな貝になっていたのです。
「りゅういち」とさけぼうとしましたが貝になっているので声も出ません。
その時です。大男はぼくたちをふんづけました。
「うわぁ。いたい・・・」
と思ったしゅんかん気をうしなってしました。
この大男は,実はテドゥウという妖怪のような生き物なのです。
ここにすんでいるテドゥウはふたごなのです。
このふたごのテドゥウが姿を消してこの浜で休んでいると,イシダタミの悲鳴が聞こえてきたので来てみると男の子にふまれて次々と貝がらをこわされイシダタミは「み」だけになって海にほうり出されていました。
中にはつぶされて死んだ貝もありました。
これを見たテドゥウはこの子どもたちをこらしめてやろうとおじいさんに化けて出てきたのです。
そして
テドゥウたちがしょう太と龍一に貝の気持ちをわからせようと夢を見させたのです。
3.やさしい海女さん
浜風に顔をなでられて目が覚めました。
「気がついたかえ」
「しょう太大じょうぶか」
龍一と知らないおばさんが立っています。
「あの大男は,どこ」
おそるおそる辺りを見回しながら言いました。
「しょう太も見たんだ。ね,おばさん本当でしょ。しょう太,大じょうぶ。もう大男はいないよ」
ぼくと龍一は,自分たちが貝になって大男にふみつぶされた話を何回もした。
しかし,おばさんは,
「きっと暑いから,くらくらして気ぜつしたんでしょ。どっちかが大男の夢を見て『大男だ』ってさけんだから同じ夢を見たんでしょ。で,その夢を見てどう思ったの」
おばさんは,この近くに住む海女さんだった。
毎日漁に来ているのでこのあたりにそんな大男を見たことがない。
それより,ぼくたちは今どんな気持ちなのか,と聞いてきた。
「どう思うって。こわいし気持ち悪かった」
とこたえると,この磯にいる生き物のことを話してくれた。
「それでね。これが夢の中に出てきたイシダタミという貝だよ」
おばさんが指さした岩に,無数の小さい貝がびっしりとついています。
「ふうん」
「この小さい貝がイシダタミなんだ」
「そうよ,よぉく見てごらん。貝に黒や白のたてよこのしまもようが入っているでしょう」
そう言うとおばさんはイシダタミをそっと岩からはがしてぼくたちの手のひらに乗せてくれた。
「近づけて見てごらんなさい。そのしまもようは石だたみに似てるでしょう」
よく見ると貝がらのもようは道にしいてある石だたみそっくりです。
「かわいいね」
「うん。でも,どうしてみんな同じところにたくさんかたまっているのかな」
「それはね・・・」
おばさんの言うには,波にさらわれないように,みち潮の時の波打ちぎわにいるそうだ。
そこで,引き潮になると人が歩いたり手をついたりする高さに群がっているという。
だから,気をつけてふまないようにしてあげてね,と。
ぼくは,おばさんの話を聞いて,この小さなイシダタミが好きになった。
この後,龍一もぼくも磯の生き物をいたわりながら観察してまわった。
「イシダタミ」 おしまい
カットはポックルさんです。












