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1級技能士・成田の印刷技術

1級技能士・成田が、オフセット印刷技術を解説します~。

どんな事でも、そうだと思うんですが、「これは絶対にやっちゃアカン事」ってのが

有ったりしますよね。例えば車の運転ならば、酒を飲んで運転するのは、絶対に

やっちゃアカン事だし、政府のお達しで時短営業をしている酒場に、国会議員が

夜遅くに複数人で飲みに行くなんてのも、絶対にやっちゃアカン事ですわね。

 

公の電波(テレビ)で、公然と女性蔑視の様な発言をする。しかもそれが日本を

代表する人物で、そのお詫び会見で逆ギレするなんてのは、やっちゃアカン事

の領域を通り過ぎ、呆れてものが言えん。って感じです。古き昭和の時代から

抜け出す事の出来ない年寄りは、公の場から消えるべきだと私は思っています。

その年寄りの実力が、まだ必要であるならば裏方に徹してもらうべきでしょう。

 

我々のオフセット印刷の技術の中にも、これらに匹敵するほど、絶対にやっちゃ

アカン事ってのがイッパイ有ります。凄く簡単な話、例えば二枚差ししてしまった

印刷物を製品に入れてしまうなんて、こりゃ絶対にやっちゃアカン事ですよね。

版傷の入った物、汚れが出た物、こんなのが製品に入るのもアカン事です。

そうした事を防ぐ為、各現場ごとに様々なチェック項目が作られていますよね。

 

でもね、私が思うに、これらと匹敵するか、もしくはこれら以上に、絶対にやっちゃ

アカン事ってのが有ります。それが「多過ぎるインキと、多過ぎる湿し水の状態を

作り出してしまうこと」 なんですよ。・・・インキを多く出し過ぎてしまった。これは、

汚れてくれ~!と言ってるのと同じだから、当然の様に汚れが発生する。汚れが

出れば湿し水を多くして対応する。

 

「なんで?そんなの当たり前だよ。汚れたら水を多くする。淡ければインキを盛る。

そんなの当たり前の話なのに、なんでそれが絶対にやっちゃアカン事なの?」

・・・全国のオペレータの、約半数くらいが真顔で、こう言います。

 

古き昭和時代の、しかもモルトン水棒での刷り方。そんな技法から抜け出す事が

出来ない人達。これね、半分は仕方の無い話だと思うんです。印刷技術は誰から

教わったのか?って考えた場合、多くは自社の先輩からなんですわ。その先輩も、

そのまた上の先輩から教わっている。印刷機のシステムは連続給水へと進化して

いるのに、それを扱う技法は諸先輩から教わったモルトン水棒での技法が延々と

受け継がれてしまっているんですわ。

 

これね、私に言わせれば、非常に滑稽な状態なんですよ。・・・男尊女卑ってまでは

行かないまでも、男女間で大きな給料格差、就業格差が有った昭和時代。そんな

昭和時代の常識から抜け出せていないから、公の場で、あんな発言を平気でして

しまう83歳の爺さん。しかも逆ギレ会見。これ、見てて非常に滑稽ですわ~。

 

あの爺さんは辞めるべきだ!なんて声も上がってますが、私に言わせれば昭和の

モルトン水棒の刷り方から進化出来ないオペレータも、さっさと身を引け!と言い

たく成ってしまうんですよ。「汚れたら水を多くする。淡ければインキを盛る」そんな

モルトン時代の刷り方から抜け出せないのなら、連続給水を正しく使う事は無理。

自分の頭を切り替える事が出来ないのであれば、黙って去れ!何よりも、そんな

古い頭の先輩から印刷技術を指導される後輩君達が可哀そうだ。

 

絶対に、多過ぎるインキと、多過ぎる水の状態を作るな!この状態を作れば今の

連続給水システムは簡単に破綻し、様々なトラブルを生む事と成る。とにかくまず、

インキを出す量を少なくせよ。「まだ淡いけど、少し汚れている」と言う状態を作れ。

それが、頭を切り替える為の、最初の原点だ。その原点から、少しづつ、インキも

水も多くして行って、最少量のインキと、最少量の湿し水をバランスさせて色調を

整えて行け。それが連続給水を使いこなす為の最低限の手法だと心得よ。

 

技術者が、古い技法から抜け出せなく成ってしまったら、こりゃ終わりなんですよ。

機械も資材も、紙等の材料も、どんどん変わって行きます。技術者ってのはね、

それらの変化に対し、愚痴を言ってる暇なんて無いんですわ。「これ絶対に前の

ヤツの方が良かったよなぁ。こんな改良するから、クレーム品を作っちまったよ」

 

変化に対し、柔軟に対応し続けること。それが技術者に求められる、最も重要な

要素の一つなんですよ。変化が受け入れられない者。柔軟性が無く過去に固執

してしまって成長が出来ない者。それらを技術者とは呼ばないどころか、邪魔者、

粗大ゴミ化して、掃いて消し去ってしまいたい存在なんですよ。どうか今一度、

自分自身の「技術」に対する姿勢を、初歩から見つめ直してみて欲しい。それが

出来れば、こんな厳しい時代でも印刷現場のパワーで、印刷会社を盛り上げる

事が出来るのだと、そう思っています。

ダバダ~♪ 「違いが分かる男のコーヒー」なんて感じのCMが有りましたね。

私は今でも、あのコーヒーの愛飲者です。いつまでも、「違いが分かる男」で

有りたいと思っていますので(笑)。 ダバダ~♪

 

例えば、自分が好きな物なら、その違いが分かりますよね。鉄道マニアなら、

「クハ」と「モハ」の違いが分かって当然でしょうし、写真マニアなら、レンズの

絞りを絞った状態と、開いた状態での違いが分かっているので、それを計算

して、作画して行きますよね。私の様なギターマニアは、メッチャ、コダワリが

多くて、弦はエリクサー・フォスファーブロンズ・カスタムライト以外は認めない

とか、ブリッジピンは、このギターなら、牛骨が最高!とかね(笑)。

 

必死に成って、その世界を深く追求して行くと、様々な違いが分かる様に成る

ものなんですわ。これはね、趣味の世界のみならず、仕事の世界でも同じです。

例えば私は、エッチ液が大好きですから、その匂いを嗅げば(って、素人さんが

これ読んだら、ヤバい人って思われちゃいますね。エッチ液の匂い嗅ぐってw)

匂いだけで、およそのエッチ液メーカーが分かったりします。

 

んでね、一番の問題は、いつものエッチ液を、他のエッチ液に替えた時にね、

それで実際に刷ってみて、刷り易さとか、印刷品質とかの違いが分かるか?

って部分なんですわ。ここで「違いが分かる男」かどうかの差が出るんですわ。

ダバダ~♪ (←分かる人にはオモシロいと思うんですが、分からん人には、

「成田のアホは、何をダバダ~とか言ってんだ?」って話ですよねwww)

 

違いが分かる人は、何種類ものエッチ液の中から、的確に、自分のベスト!を

選び抜く事が出来ます。でもね、違いが分からん人にとっては、たった2種類の

エッチ液の差すら、分からないんです。・・・これがこうだから、こんなところがさ、

メッチャ良く成ったでしょッ!   「・・・そうなんですか?」 ダバダ・・・

 

まぁねぇ鉄道ファンじゃない人は、クハとモハの違いなんか興味が無いでしょう

から、覚えても仕方の無い、ど~でもイイ事ですよね。 先日、鬼滅の刃を観て

来ましたが、イノスケ?と、ゼンイツ?とやらが出て来ると、もう観る気が無く

成ってしまうので、半分くらい寝てました。興味が無いって、そう言う事ですよね。

 

でもね、印刷は我々の仕事です。それで飯を食っているのだから、我々はね、

印刷のプロなんですよ。プロがね、マニアに負けるようではアカンのですわ~。

ですから、エッチ液Aと、エッチ液Bを実際に刷り比べてみた時、その違いをね、

的確に言えるように、技量と知識を磨かなきゃアカンのですよ。

 

「違いが分かる、男のエッチ液」 (←何か、いよいよヤバい感じだなぁ~)

ダバダ~♪ ダバダ~♪  ワ~♪

ずっと昔、自分の本に書いた内容なのですが、その当時、同じ会社に勤めていた

同僚が体調を崩しました。身体が怠い、微熱が続いている。本人は風邪だと思い、

市販の風邪薬を飲み続けていたのですが、一向に改善しないので、医者に行く

事にしました。が、その医者でも風邪だと言われ風邪薬を出されて終わりでした。

 

しかし、それでも一向に改善しないので、少し大きめの病院に行ったところ、何と、

急性のB型肝炎だったとの事。彼は即座に入院で、その後2ヵ月間、出社する事が

出来ませんでした。・・・ここで発見されたから、まだ良かったのですが、B型肝炎は

劇症肝炎とも成り得る可能性が有り、一つ間違えばヤバかったかも知れません。

 

これは、私が20歳代後半の頃の話なのですが、私もその頃、関節が腫れ上がる

と言う症状で悩んでいました。一番疑わしいのはリウマチなのですが、血液検査を

してもリウマチの判定に成らないし、リウマチならば2週間以上同じ部位が腫れる

のですが、私の場合は3~4日程度で腫れが治まってしまう。

 

ただの関節炎だと診断され、痛み止めと抗炎症剤を処方されて診察終了。でもね、

関節炎が、そんな頻繁に起こるってのも考え辛く、他の医者に行って相談をしたら、

白血球の数値が高いから、抗生物質を点滴しましょう。と言う事に成りました。

 

私自身も全く知らなかったんですが、私には抗生物質に対するアレルギーが有る

ようでして、点滴が始まって少しすると、全身に蕁麻疹(じんましん)が出てしまい、

顔は人相が分からないほど、ボコボコに腫れ上がってしまいました。蕁麻疹ってね

体内にも発生するんですよ。私の場合は気道が腫れ上がって呼吸困難状態に。

 

アナフラキシーショックってヤツですかね。自分自身、身体全体が痙攣している

のが分かりました。何とかナースコールのボタンを押して、看護師さんを呼んだん

ですが、それからは大騒ぎです。すぐに蕁麻疹を抑える薬を注射するのですが、

それが効くまでに、10分程度の時間が掛かります。

 

薬が効いて、蕁麻疹が治まり、呼吸が出来る様に成れば、それで問題は無いの

ですが、その前に私が窒息してしまう可能性も有る訳です。医者は私の喉元に

メスを入れる準備をしていました。挿管ってヤツですか?喉に管を入れて呼吸を

確保する準備をしていたって事ですよね。

 

何とか、それよりも先に薬が効き蕁麻疹が軽減したので、喉を切らずに済んだの

ですが、実は30歳代後半に、もう一度、この経験をする事と成ります。腎臓系の

病気で入院していた時、担当医が抗生物質を処方し、それを点滴の中に入れた

んですよ。「今、何を入れたんですか?」と看護師に訊くと「抗生物質です」と。

 

私は過去にアナフラキシーの経験が有るのでヤバいですよ。と言うと、慌てて、

看護師が担当医を呼んで来ました。「成田さん、大丈夫ですよ~。ここは病院で、

今、入院されてベッドに居るんですから、何が起こっても対応出来ますからね」

と、言ってる内に、凄まじい蕁麻疹が発生。私は再び呼吸困難です。

 

担当医は大慌てで、外科医を呼び、またまた挿管の準備。・・・私は二度目の

経験で、少し余裕も有ったし、前回よりは軽かったので「だから言ったじゃない

ですか~」と、少しオーバー目に身体を痙攣させていました。

 

その時も挿管せずに済んだのですが、アナフラキシーは本当に怖いです。

今回のコロナワクチン接種も、正直なところ、とても怖いなと感じています。

 

結局、リウマチに関しては、5軒の医者を10年掛けてハシゴして、ようやく、

「回帰リウマチ」と言うタイプのリウマチだと言う事が分かりました。その当時、

抗生物質でのアナフラキシーのせいか鎮痛剤や解熱剤にも拒否反応が出る

ように成ってしまっていたので、その点を医師に相談すると・・・。

「このリウマチは、腫れが3日で引きます。まぁ風邪を引いたと思って、3日間は

我慢して下さい。痛いって事はね、生きてる証拠ですから!(^^)v」

 

今現在、リウマチを根源治療する薬も医療手段も有りません。私はロキソニン

と言う痛み止めが飲める様に成ったので、楽をさせてもらってますが、本当に

ヒドい方は、もっと強いボルタレンと言う痛み止めを常用されているようです。

 

症状を抑えるだけの、対処療法。原因を見付け、それを治す、根源治療。

原因が分かっても、対処療法しか出来ない病気も有りますが、それでもね、

B型肝炎を、風邪だと決め付けてしまうようでは、アカンですよね。肝炎は、

血液検査で判断が出来ます。最初から、風邪だと決め付けたら血液検査を

しませんから、肝炎など、分かるはずも無いですよね。

 

私は、こうした経験が有るので、印刷トラブルに関しては、徹底的にその原因を

探ります。間違った対処療法で、一時的にトラブルを緩和させたとしても、その

本当の原因が分からなければ、もっともっと重症化したトラブルが、次から次に

襲って来るのを防ぎ切る事が出来ません。印刷トラブルこそ、根源治療が絶対

に必要なのです。対処療法ばかりしてると、痛い目に会いますよ。

オフセット印刷機の自動化は、本当に目覚ましい勢いで進みました。

私が知る限りでも、版替えの自動化はスゴいです。私が若い頃ってのは、

菊全の4色機クラスでも、完全に手動式の、版替えだったんですよ。

 

手動ですから、版胴を動かして行くのも、自分の手で、寸動ボタンを押して、

版替え位置を自分で考えて停止させるんですわ。そして版を咬える万力も

ワンタッチクランプではななく、万力に10個くらいのボルトが付いていてね、

それをボックスレンチで、一つ一つ自分の手で開け閉めして版を替えます。

 

このボルトの締め方や、版を張る時のボルトの張り具合で、見当精度が、

メッチャ変わってしまうので、ここは熟練工がやるのと、新米さんがやるの

では、大きな差が出る事が有りました。 繊細な力加減が有るんですわ。

 

そうした、熟練の版替え作業が自動化された事で、A君がやってもB君が

やっても、同じ結果が得られる様に成りました。この「個人差が出ない」って

言うのが、自動化の中の最大のメリットですよね。

 

でもね今の印刷機が、どれほど進化しようとも、湿し水の量は全く自動化が

為されていません。真っ新なインキローラーにインキを撒く量も、プログラム

しておけば、印刷機が勝手にやってくれたりしますが、極端な言い方をして

しまえば、それは、適当に撒いているだけの話なんですわ。

 

何が言いたいかっていうとね、「センサーが無い」って事が言いたいんですよ。

版面上の、湿し水の量を計測出来るセンサーが有りません。印刷機が回転

している時の、インキローラー上のインキ膜厚を計測出来るセンサーも有り

ませんよね。それらを計測し得るセンサー(計測器)が無い、だからただ単に

適当な量を、適当に出しているだけ。適当に撒いているだけなんです。

 

この「適当」を、「適正」にしようと努力しているのが、オペレータの手腕です。

では、このオペレータ諸氏には何か計測する方法が有るのか? こりゃねェ、

情けない事に、やっぱり計測方法が有りません。自らの経験と勘で決めて

いるだけです。「経験と勘」に頼ると成れば、A君とB君の差が出て当たり前

ですよね。経験値の差、知識量の差、取り組む姿勢の差。そんな個人差が

モロに、ここに出てしまうってワケなのです。

 

インキも湿し水も、オフセット印刷の根幹の部分です。ここの制御の仕方で、

品質の良し悪しが決まり、トラブルの発生状況が大きく変わってしまうんです。

 

それほど重要な部分である成らば、諸先輩方も徹底的に、その部分を指導

しなくては成らないのですが、諸先輩方の時代と、今の時代では、印刷機の

システムが違います。極端な話、油性しか使った事がない先輩さんに、UVで

印刷する方法を指導する事は出来ません。モルトン水棒しか知らない先輩が

連続給水の使い方を教えようとしても、こりゃ無理なんですわ。

 

だったら、これはね、同じ印刷機を使う、A君とB君が、徹底的にデスカッション

をしなくては成らないんですよ。一人の経験値よりも、二人の経験値を合わせ

た方が絶対に有効ですし、お互いに困っている事を洗い出し、その解決策を

二人で考えればいい。もしそれで結論が出ないのなら、私などに相談すれば

何らかの道が見えて来るはずです。

 

A君とB君のコミュニケーションを徹底的に良好にする。たったそれだけの事で、

二人が成長して行く道筋が出来上がるんですが、それが出来ていないのがね、

今の多くの印刷現場ですよね。モノを覚えよう、仕事を効率よく遂行して行こう

とする時にね、何の勉強もせずに、出来るワケがないじゃないですか。

 

A君とB君、二人のコミュニケーションが、勉強への第一歩なんですわ。お互いに

意見を戦わせるから、そこに疑問点が見えて来る。疑問点を解明しようとする為

には誰かに聞くなり、何かで調べるなりするしかないですよね。この、聞く調べる

って言うのが、もうすでに勉強なんですよ。他の誰のためでもない。自分自身の

ためだと思えば充分ですから、勉強の第一歩に、足を踏み入れて下さいな。

例えば、昼夜二交代で操業している印刷機が有ったとしましょう。

二交替ですから、二人の機長さんが、交互に1台の印刷機を使う事と成ります。

片方の機長さんを「A君」とし、もう一人の方を「B君」とした場合、同じ印刷機で、

ほぼ同じ内容の印刷物を刷っていたとしても、この二人に差が出てしまいます。

 

特に大きな差が出るのは、エッチ液を新しい物に替える時だったりするんですわ。

今まで使い慣れて来たエッチ液、これを新しい物に替える時には、こりゃもうねぇ、

非常に賛否両論なんですよ。A君は「是非、試したい!」と言い、その逆にB君は

「今の状態で調子がイイんだから、なんで替える必要が有るんだ!」と猛反発を

したりするんですよ。 ・・・あなたは、A君派、それともB君派?どっちですか?

 

私はね、完全にA君派であり、本物の技術者ってのは、絶対にA君流であるべき

だと思っています。だってね、極端な話をすれば、B君の様に保守的な考え方を

していたら、こりゃ、30年以上も前に造られた様な非常に設計の古いエッチ液を

延々と使い続ける事に成ってしまいますよね。

 

実際に日本全国の印刷会社さんに、お邪魔させて頂いていると、未だにアストロ

マーク3を使われている人に時々出会います。「こんな恥ずかしい様なエッチ液、

いい加減、やめましょうよ。これ30年前に私が作った様なエッチ液なんですよ~。

こんな物より、もっと優れたエッチ液が出てますから、そっちに替えて下さいな。」

 

「いや、ウチでは長年、これを使って来てるから、今更替える気はないけどなぁ」

『長年使って来ている』って、たったそれだけの理由で、こんな古いタイプの物を、

延々と使い続けてしまっている。もっと高性能な、最新のエッチ液に替えればね、

今より、もっと楽に、もっと良い物を刷る事が出来るんですわ。

 

正直な話ね、洗濯をする時に、今時なら普通に洗濯機を使いますよねぇ。それを、

「いやウチは長年、これでやってるから!」とか言って、タライと洗濯板を使ってさ、

手にアカギレを作りながら、ゴシゴシやってたら、そりゃ明らかに笑い者ですよね。

古いエッチ液を使い続けるってのはね、それと同じ事なんですよ。

 

まぁねぇ趣味でクラシックカーに乗る人も居ますから、それはそれで良いのですが

我々は趣味で印刷をやってる訳じゃないですよね。プロの技術者として、高価な

印刷機械を会社から預かり、生産性と品質を求められて仕事をしているんですわ。

それならばそれで、高生産性と高品質を求めるのが我々の使命ですよね。

 

それやこれやで、何とか説得して、ようやく新しいエッチ液に替えてテストした。

・・・性能がね、30年前の物とは圧倒的に違う訳なんですよ。だから30年前の

物を使っていた時とは、違うやり方をしなくちゃアカンのです。「乳化特性とかが、

全く違いますから、インキを2割位、少な目に出して、それに伴って、水目盛りも

5目盛り以上、絞った状態からスタートしてみましょうか」 なんて指導をします。

 

「ハイ!分かりました!」と、素直に受け入れて、指示通りにやれるのが、A君。

「これ凄いですねぇ、こんなに水を絞っても汚れないし、紙への着肉がイイから、

こんな薄盛りのインキなのに、今までよりも濃く刷る事が出来ちゃいますよッ!

汚れるギリギリまで水を絞ってみようかなぁ(ワクワク)」 なんて感じです。

 

それに対してB君は、長年やって来た自分の刷り方を変える事が出来ません。

インキも水も絞れと言っているのに、絞り切れない。明らかに濃過ぎる状態で

あるにも関わらず、汚れが出ているからと、水の目盛りを上げて行く。

 

いやいや、濃過ぎるんだからさ、まずインキを絞って、もっとインキの量を少なく

しないとアカンよねぇ。「でも汚れてるから」 だからさ、インキの量が多過ぎる

から汚れてるんだよ。汚れたら水を多くする、淡ければインキを盛るなんて言う

物理的な考え方じゃなく、汚れたらインキの量が多過ぎないかと考える。淡い

と思ったらインキを盛る前に、もっと水を絞ってみる。って科学的に考えようよ。

 

まぁ、私が横で指導してる時は何とかそれで刷れるのですが、長年やって来た

B君に染み付いたやり方は、そう簡単には直りません。次の日に確認に行って

みると、勝手にエッチ液の添加濃度が上げられちゃっています。何でエッチ液

濃度を上げたの?「どうしても汚れるから科学的に考えて、そうしました」

 

ハハハ、なるほど科学的にね。でもね、君自身の刷り方は、未だに超物理的な

やり方だよね。なぜインキの出し量を抑えられない?なぜもっと水を絞れない?

「インキを盛らなきゃ淡いし、水を多くしなきゃ汚れるから」・・・だからさ、それが

物理的だって言ってるんだよ。インキを盛れば汚れるし、水を多くすれば淡く成っ

てしまう。そう考えて制御するのが、科学的な考え方なんだよ。

 

A君は出来ているのに、君には出来ない。今までの古いやり方を捨て切る事が

出来ないから、いつまで経っても、昔の品質のままで、足踏みしたままだよね。

汚れるからエッチ液濃度を上げるなんて、自分の未熟さを物に頼ってしまって

いてはね、いつまで経っても技術力が上がらないよ。

 

今はね、印刷業にとっても非常に厳しい時代だ。品質が悪ければ検品!ではね、

済まされないんだよ。品質が悪ければ、他社に印刷物が取られてしまう時代だ。

品質と生産性を向上させなければ、生き残って行く道が無く成ってしまうんだよ。

 

その、とても重要な、品質と生産性ってヤツはね、そのほとんどが印刷機を扱う

オペレータの腕に掛っている。オペレータが精進して、成長して行かなくちゃね、

自分の会社そのものが危うく成ってしまう時代なんだよ。 昔はね、社長さんの

経営力や、営業さん達の営業力で仕事を取る事が出来た。でも今は、現場での

生産力や、どこにも負けない高品質な物を造り続ける力こそが、会社を支える、

最重要項目なんだよ。現場の力が印刷会社の命なんだ。一緒に頑張ろうよ!

例えば、観光で、どこかに行くとしましょう。

この時に「どこに行くか。いつ行くか。は、あまり大きな問題ではなく『誰と』行くか。

が最も重要な問題である。」 という言葉が有ります。つまり、温泉に遊びに行くと

して、顔も見たくない大嫌いな上司と一緒に行ったってねぇ、楽しくも何とも無い

ですよね。どちらかと言えば、出来れば一緒になんぞ行きたくないですわ~(笑)

 

しかし、大好きな彼女と行くのであれば行き先が温泉でなくても、近くの公園でも

一向に構わないし、来月でも来週でも何なら今すぐでもイイですわね。要するに、

どこに行くか。いつ行くか。よりも 「誰と」行くかが一番大きな問題なんですよ。

 

物を買う時も同じで「何を買うか。いつ買うか。よりも『誰から』買うかが最重要。」

なんだそうです。例えばロレックスの腕時計が有って、「これ、新品なら98万円よ。

これ中古だけど程度はスゴくイイね。普通なら中古で50万円だけど、今ならコレ、

20万円よ。おまえ、今、買わないとスゴく損ね。どうだ、おまえ買うか?」とかって、

中国の方から言われたとして、「ええっ、中国ってニセ物の国だよねぇ。これもさぁ

ニセ物でしょう」とか言う疑いを持ってしまって、なかなか手が出せないですよね。

 

でも、この売り手が有名時計店の店長さんで、「とても良い中古が手に入りました。

普通なら50万ですが、今なら25万で、お譲り出来るんですがいかがですか?」

って言われたら、心が動きますよね。何を買うか。いつ買うか。よりも誰から買うか。

が最重要って事なんですよ。・・・これね、教育や指導等でも同じなんですわ。

 

何を教わるか。いつ教わるか。よりも「誰から」教わるか。が、最重要なんですわ。

例えば、見るからに情けない様な、やる気が有るのか無いのか分からない様な、

そんな先輩から、仕事の手順について教わったとしても、まず信用出来ない!と

言うか、その真偽の程を、誰か他の人に確認したく成ってしまいますよね。

これが、常日頃から尊敬している上司からの教えであれば、即!納得ですわ~。

 

・・・私(成田)の仕事は、印刷の技術指導です。ほぼ、初対面の人達に印刷技術

を教える仕事をしています。そりゃ中には「えッ!あの成田さんですか!本を3冊

とも買って読んでます!ブログも毎日、見てますッ!」って言う方も、おられます。

こうした方にとって、私は、素晴らしい「誰か」に成り得るので、指導もスゴく簡単

なのですが、当然の様に、そうでは無い場合の方が多い訳なのですよ。

 

「・・・成田?誰じゃそれ。京都から来た?なんでそんなヤツの指導を受けなきゃ

成らんのだ。そんなヒマ無いぞッ!」って感じです。こうした方達にとって、私は、

偽物時計売りの外国人と同じなんですわ。その人の、間違ったやり方を正そうと

必死に説明を繰り返しても、疑いの白い眼を向けられるだけ。

 

そりゃそうですよね。私から見れば、メッチャ間違ったやり方で、もの凄く損をして

しまっているのに、彼にとっては、それこそが、長い年月を掛けて築き上げて来た、

自分自身の努力と苦労の結晶!の様な、最上級の「やり方」なワケですからねぇ。

こりゃね、チョッとやソッとでは、譲りませんわね。

 

でもね、こうした頑固な方の多くは、苦労を重ねただけの「作業者」である場合が

多いんですわ。それに対し、「技術者」って言うのは、何よりも向上心や好奇心が

強いので例えば、どこぞの馬の骨である私が言った、何だか分からんような理論

にも、取り合えず興味を示してくれます。

 

「ええ?何で、そんなやり方が正しいって言えるんですか?」・・・ですからね、御社

では伝統的に、こんなやり方をされてるじゃないですか。それって、ここで不安定な

要素が発生し、それを補う為に、こんな無駄な対応をされていますよね。であるなら

不安定要因を発生させてしまう、この作業を最初から削除してしまえばイイんです。

 

「ええッ!そんな事でウマく行きますか?」・・・ハハハ、実は、そんな不安定な作業を

しているのは、私が知る限り、日本中でも、この現場だけなんですよ。理論的に考え

ても、こうでこうでこうだから、この作業が無駄で、不必要な物だって分かりますよね。

「ああ、なるほど~」 ・・・私が、特別な「誰か」に、少しだけ近付けた瞬間ですね。

 

印刷現場の多くは本当に閉鎖的な場所で、各現場、各個人の中で独特な「やり方」が

出来上がってしまっていて、それが大間違いだとしても、それを誰も疑う事無く、長い

年月、それが「普通」だと思い込んで進行してしまっているケースが多々、有ります。

私自身が、もっと素晴らしい「誰か」に成り得れば、そうした現場を、すぐにでも楽にさ

せてあげる事が出来るのに。と、自責の念に堪えません。

 

日本全国の印刷現場の皆さんにとって素晴らしい「誰か」に成れる様、努力を積んで

行きますので、それが達成された折には、皆さんの現場で、是非ともお会いしたいと、

心の底から思っております~ッ!

何とかして、より良い刷り上がりにしようと、コテコテと試行錯誤を繰り返し、

あれこれ悩んで刷り上げてみた。・・・こう言うのってねぇ、後から見ても

決して良い仕上がりに成っていない場合が多かったりしますよね。

 

「コッテコテの作業をしてもアカン。サラ~ッと仕上げた物が綺麗だ」

ってのが、私の友人の口癖でした。ある日、彼が私の工場にやって来て

私の作業ぶりを見ていました。「成田さんってさ、何でもかんでもサラ~

っと、こなしてしまうよね。しかもオレに冗談言いながらだもんなぁ」

 

ええっ、そんな事、意識した事ないけど、これがオレにとっては普通だよ。

別に何も悩む事とか無いもんね。「えっ、でもさ、さっき印刷物を見ながら、

一瞬、悩んだ顔したじゃん」 あ、あれは、次にどんな冗談言おうか悩んで

たんだよ~(笑)。印刷自体で悩む様な事は、やっぱり無いかな。

 

印刷機のセッティングは完璧に調整済み。紙の状態も把握したしそれに

対する対応策も施しておいた。この印刷物に対する吟味も充分にしたし、

それを「成田ブランド」として、どう仕上げるかの構想も出来てる。そして、

それを実現させる為の方策も、すでに施してある。あとは黙っててもさぁ、

印刷機が再現してくれるから、この時点で悩む事なんて何も無いよね~。

 

「その『成田ブランド』ってナニ?」・・・オレさぁ、これでも1級技能士なんだよ。

国家資格を持った技能士が、他の人と同じ仕上がりの印刷物しか作れんと

したら、国家資格を持った意味が無いよね。ウチのお客さん達の中にはさ、

「成田さんに刷ってもらってくれ」と言って仕事を下さってる方もおられてね、

そのお客さんに「やっぱり成田さんが刷ると違うね!」って言って頂けないと

次から仕事が、もらえなく成ってしまうんだよ~。

 

「そこまで言われても、コッテコテに成らないのか~」・・・いや、だからさぁ、

印刷機に版をセットしてしまってから、コテコテやってたら、本当にそれこそ、

コッテコテの泥沼にハマってしまうんだよ~。版をセットする前に、印刷機の

コンディションを整えたり担当営業と相談して、どんな仕上がりを要望され

ているのかとかの相談って部分では、かなりコテコテとやってますよ(笑)。

 

「そっか~、版をセットして試し刷りが始まった時点では、もう既に理想の

印刷物の完成形が見えてるって事か~」・・・えッ?見えてないの?どんな

仕上がりにしたいのかが見えてなければ、そりゃ迷うばかりだよねぇ~。

「ハイ、その通りです。試し刷りを何度も繰り返しては、さっきの方が良かっ

たんじゃないのか?とか、3回前のヤツの方がいいかも?って悩んでます」

・・・ハハハ、そりゃ、コッテコテに成るよねぇ~。

 

実は先日、万年筆のペン先の修正を、職人さんにお願いしたんですよ。

万年筆のペン先には小さな「玉」の様な部分が有りまして、これを研磨して、

私が望む、文字の細さだとか、書き味なんてのを作り上げて行くワケです。

ルーペでペン先を見ながら、少しづつ削って行くと言う作業ですわ。

 

これって、どんな形に削り上げるかは、もう決まってるんですか?

「それが決まっていなければ、削る事なんて出来ませんよね。数万円や、

何十万円もする、お客さんの万年筆を預かって、そのペン先を削るわけ

ですから、『すいません。失敗しました。これ、もう書けません』なんて事、

絶対に通用しません。お客さんの要望を伺って、それを実現する為には、

こんな形に削り上げる!ってのを、まず決めないと話に成りませんよ。」

 

我々も同じだと思うんですよ。印刷は受注生産ですから、そこには必ず、

お客さんからの要望が有ります。「家電製品のパンフだからさぁ、商品の

写真が赤浮きするのは絶対にやめてくれって、おっしゃってたわ~。」

了解です。んでも、今のプルーフから見ると、紅網がケッコウ多いみたい

だから、刷版にお願いして紅版のゲインカーブを少し抑えておきますわ。

 

印刷が始まる前に、要望等が分かれば、その、理想の完成形を求めて、

事前にやっておける事が色々有ります。そうした準備を、万全に行って

おけば、印刷現場でドタバタする必要なんて、全く無いって事なんですわ。

 

印刷作業はサラ~ッとやる。まぁそれが正しい表現かどうかは別にして、

コッテコテの作業をしてたんでは、楽に良い物を仕上げる事は出来ません

よね。事前にシッカリと計算して、準備をキッチリしておく。これが出来る

ように成ると、楽に良い物が仕上がるので、印刷が楽しく成るんですよ~。

例えば、風邪の症状が出たとしましょう。鼻水が出る、喉が痛い、微熱が有る。

今時なら、PCR検査ですかね(まだ、なかなか受けれんのかな?)。 あとは、

インフルエンザの検査。その両方共が、陰性だったら、「こりゃ、風邪だね」って

言う話に成って、風邪薬をもらって診察終了ですわね。

 

この時にね、「どうして風邪をひいてしまったのか?」って、その原因ってのを、

お医者さんは、追究しないですよね。今時のコロナに関しては、規定が有る為

なのか、感染経路等、感染した原因を探りますが、インフルエンザの場合でも、

風邪と同じで、どこで、どうやって感染したかなんて、考えないですよね。

 

何か問題(病気やトラブル)が発生した時に、「その『原因』を追究するよりも、

今はそれより先に、『解決策』を求める時代である」・・・先日、ネット上の友人

から、教わった言葉です。これねぇ、本当に名言だと思うんですよ~。


例えば、印刷をしていて、ふいに予測不能な汚れが発生した。こんな時には、

私らの世代のオペレータなら、「ん?なんで汚れた?」と、その汚れの原因を

まず一番最初に考えます。ローラーニップは大丈夫なはず。インキの出方も

問題は無い。エッチ液の添加量もOK。となれば、あとは何だ?

 

などと探し回ったあげく、何じゃこれ!湿し水の冷却が出来てないじゃんか。

こりゃアカンわ。コスモテックに電話して、すぐに修理に来てもらおう。なんて

話に成るワケなのですよ。「湿し水が冷えなく成ってしまったから、悪いけどさ、

大至急、見に来てもらえないかなぁ」 なんて感じですわね。

 

トラブルの原因を探し、冷却器の不具合だと判明したから、コスモッテクに

救援を求める事が出来る。これが、私らの世代のトラブル対処法なんですわ。

ところが今は、「原因」を考えるよりも先に「解決策」を求める時代なんですよ。

そう成ると予測不能な汚れが発生したら、例えば印刷機メーカーさんへ電話を

して、「なんかワケの分からん汚れが出るんだけど、何とかしてよ」 って話に

成るって言う状態なんですわ。

 

現代は、ネットを中心とした情報過多な時代です。メチャメチャ大量な情報が

凄く簡単に入手出来てしまう時代なんですわ。例えば、料理が全く出来ない

私が、何とか野菜炒めを作りたいと思ったら、YouTubeで動画を見て、それを

真似すれば、それなりの野菜炒めが出来てしまう。こんな事、私らの時代には

有り得ん事です。料理の本を買って来るか、料理学校に通うかしか手が無い。

 

情報がメッチャクチャ飛び交ってて、簡単に入手出来てしまう。しかしながら、

その情報の中には、ウソが有るかも知れないし、詐欺が有るかも知れない。

大量な情報を適切に、スピーディに処理して行く為には、いちいち深く考える

よりも、「この情報はウソ?詐欺?」と、聞いてしまえばイイだけの事ですわね。

その答えも、ネットの中にイッパイ有るわけですから。

 

お医者さんも同じです。季節に成れば大量に発生する、インフルエンザ患者

とか、風邪の患者に、「どうしたの?どこでこんな病気を拾ったか分かる?」

なんて事を訊いてるような、手間を掛けてはいられないですわね。 原因を

追究するよりも、解決策を提示するのが優先ですわね。

 

情報過多な時代だから、原因を探るより先に、解決策を求める。・・・確かにね、

これはこれで、今の時代における、一つの正解なのだろうと思います。でもね、

解決方法だけを求めてばかりいたら、こりゃ、自分の実に成りませんよねぇ。

原因を考えると言うプロセスが有るから、自分の知識量が増えて行くのだし、

様々な応用が出来るように成って行く。そして、立派な技術者に成る!

 

・・・私の様な、古いオジサンは、どうしても、こうした考え方から

   抜け出す事が出来ませんわね(笑)。

一つの印刷物を刷り終えて、そこでストップウォッチでの計測開始。

次の印刷物の、本刷りが始まった時点でストップウォッチを停止させる。

この一つの仕事の終了時から、次の仕事の刷り出し開始までに掛かる

時間の事を、「インターバルタイム」なんて言う呼び方をしたりします。

 

細かく言うと、一つ目の仕事が終わって、ブラン洗浄して、版替えして、

見当合わせして、色合わせして、次の仕事がスタートって成るまでの、

いわゆる、準備時間とか言う部分ですよね。

 

この準備時間・インターバルタイムに関しては、印刷現場の中でも本当に

各社各様でしてね、速い所だとコンスタントに、15分以内でやってしまう

所も有れば、逆に1時間から1時間半くらい掛けている所も有ったりします。

 

「いや~、色替えや、紙サイズの変更とかが有れば長く成るよね~」とか

言う話も聞きますが、本当に速い所では、そうした作業が有ってもメッチャ

速いんですよ。まずね、1時間半も掛けるような事は有りません。

 

これね、それぞれの現場での風習の様なものが大きく影響している場合が

有ります。「そんなに慌てんでもイイ。とにかく間違いをしないように慎重に

慎重に、一つづつ確実に確認しながら進めて行け!」 なんていう風習が

昔から根付いている現場だと、平気で1時間半ほど掛けてしまっています。

 

ブラン洗浄とか、版替えなんてのは、自動や半自動で、機械がやってくれ

てしまいますから、ノンビリやっても、さほど大きな時間差が出る事は有り

ませんわね。問題は、試し刷りを何回やるか。1回目の試し刷りから次の

試し刷りに移るまでに、どれだけの時間を掛けるのか?って部分なんです。

 

速い所だと、試し刷りは2回で終了。その2回で、見当も色調もバッチリに

整えて、もう本刷り開始ですわ。私は、はぼ3回でした。色調に不安が有る

場合は、もう1回試し刷りする事も有りましたが、5回目は絶対に有りません。

 

しかも、1回目の試し刷りをして、見当調整と色調調整をして、2回目の試し

刷りを開始するまでに、2分以上も止める事は有りません。まぁそりゃねぇ、

版キズの修正とかが有れば、もう少しは掛かりますが、とにかく試し刷りって

のは、速い人の場合だと、1回目から2回目に移る時には、「停止」ではなく、

「ほんのささやかな一旦停止」って言う程度で進行して行くんですわ。

 

これがね、遅い人の場合だと、1回目の試し刷りから、いろんな調整をして、

次の試し刷りに入るまでに、10分程度の間隔が空きます。しかも、そんな

間隔の長さで、5回以上もの試し刷りをするので、こりゃ簡単に1時間半もの

インターバルタイムが発生してしまいますわね。

 

「いやそれでも、ミスが無いように慎重に進めた方がイイに決まってるでしょ」

・・・我々はね、印刷の「プロ」なんですよ。アマチュアのド素人じゃあるまいに、

「急いだからミスの発見が出来なかった」なんて言う、言い訳は通用しません。

 

と、そんな事よりも、我々が扱っているのは、「インキ」と「湿し水」って言う、

二つの液体。しかも、言い換えるならば、「油と水」って言う、反発し合う

二つの液体なんですわ。こいつらがね、ローラー上や、版面上、ブラン上で

グチャグチャに成って混ざり合った状態を、良好に制御して行くのが、我々の

オフセット印刷って言う技術なんですよ。

 

液体はね、長く放置してしまえば、重力によって流れて行きます。印刷機に

回転を掛けてローラー上で長い時間、グチャグチャと、こね回してしまったら、

反発し合う二つの液体の状態が、どんどん変化して行ってしまって、良好な

制御が不可能に成ってしまうんですわ。

 

流動性の有る、二つの液体が相手である以上、ノンビリしてるようなヒマは、

全く無いんですよ。変化の激しい、二つの液体が相手である以上、我々にも、

迅速な手際ってのが要求されているんですわ。

 

焦って速くやれ!とまでは言いません。でもね、1μの液体被膜と闘う技術に、

スピードと言う要素は、とても重要なんです。手際良く、スピーディに試し刷りが

行えるように成ると簡単に良好な状態を作り出す事が出来ます。そして何より

本刷りを開始してからの安定性に、大きな差が出るんですわ。

 

液体の変化が少ない内に、調整を進めた物は、連続印刷(本刷り)に入っても、

大きな変化が出ません。(色ムラ等を作りません) それに対してノンビリと時間を

掛け、液体が変化し切ってしまった状態ってのは、何度も何度も、仕切り直しを

繰り返しているようなものですから、本刷りに入ってから、大きな変化が出てしまう

場合が多く、色調ムラだとか、汚れだとか、様々なトラブルが発生してしまいます。

 

楽に、良い物を、安定して作ろうとした場合、インターバルタイムでの手際の良さ、

処理スピードって言うのは、非常に大切な物なのだと、理解しておいて下さいな。

印刷機の湿し水ってのは、冷却タンク(ウチのTOP-ONE 等)で冷やされ、

エッチ液等を混入されて、冷却タンク ⇒ 印刷機・水舟 ⇒ 冷却タンクって言う

具合に循環していますよね。(軽オフ機等、循環していない物も有りますが)

 

循環している物が、正常に循環しなく成ってしまえば、こりゃ色々な問題が

発生する事と成ってしまいます。人の血液循環が悪く成ってしまえば様々な

病気に掛りやすく成ってしまうってのと同じですわね。・・・循環のホース等が

汚れで詰まってしまえば水舟まで湿し水が行かなく成るか、どこかの箇所で

オーバーフロー(水が溢れる)してしまうって言う感じです。

 

そこでですねぇ、チョッとコダワリを持って、見て頂きたいのが、水舟の中の

水流の勢いなんでわ~。水舟ってのは、冷却タンクから送られた湿し水が

大きな受け皿に成って、そこに水ローラーが浸かっている部分ですよね。

 

この水舟って部分、印刷機メーカーによっても、機種によっても、湿し水の

送られ方が違います。印刷機の操作側に湿し水供給のホースが付いてて

そこから、水舟に湿し水が送り込まれ、駆動側の排水口から排出されて、

冷却タンクに戻って行くってのが一般的な構造なんですが、送り込まれて

排出されるって事は、水舟内にある程度の水流が出来上がるって事です。

 

実は、この「水流」ってのがケッコウ大切なんですよ。勢いが強過ぎたら、

湿し水が水舟から溢れてしまって大変な事に成ってしまうから、こりゃね、

絶対にアカンですよね。んじゃ、弱過ぎると何かアカン事が有るのか?

って話に成るんですが、これがね、いろいろアカン事が有るんですわ。

 

まずね、湿し水ってヤツは、冷却する温度ってのが、重要な要素の一つに

成りますよね。「水舟内で15℃」ってのが一つの基本で、その15℃を確保

するために、冷却タンク内の冷却温度を10℃に設定したり、9℃に設定し

たりと言う具合です。・・・この水舟内15℃って言うのはね、これもまた色々、

理屈が有るんですわ~。(って、この話を書くと長く成ってしまうんですが)

 

水ってのはね、冷却すると「粘度」が上がります。湿し水は、調量ローラーで

絞られて、出来るだけ薄くて均一な水膜を作りたいんですよ。この絞るって

言う工程の時に粘度が高い方が、より薄く均一な水膜を作る事が可能なん

です。だから湿し水の事だけを考えたら、水舟内15℃よりも、10℃の方が

より良いのかも知れませんが、これがまた、そう簡単な話じゃないワケで。

 

「温度」って言う要素で、メッチャ変化してしまうのが、インキでしたよね。

インキは25℃で使う事を基本に設計されています。温度変化に対し敏感な

インキを安定して25℃で使う為に良好なのが、水舟内15℃の湿し水温度

だったって言うワケなのです。つまり、むやみに冷やし過ぎちゃ、インキには

良くない状況に成ってしまうって事なんですわ。

 

でも、勿論その逆に、むやみに暖か過ぎてもアカンって事ですよね。

そこで問題に成るのが、水舟内の水流の量なんですわ。本当にチョロチョロ

としか出てないようでは、こりゃ夏場など、水舟内で湿し水が暖まってしまい

ますよね。せっかく冷却してるのに、暖まってしまうほどの、チョロチョロ水流

ではアカンです。出来れば暖まる前に排出してしまいたいんですよ。

 

と言うような状況から導き出された、基本的な水流の量って言うのがですねぇ

「水舟内で、波立たない程度に、出来るだけ多く!」って事に成ったんですわ。

これね、ケッコウ大切なんですよ。湿し水ってヤツは、油類など様々な汚れが

入って来ます。この汚れが長年、蓄積して行くと、湿し水を送るホースの内側

に溜まってしまって、送り込む量や、戻るスピードが変わってしまうんですわ。

 

例えば、半年に1回とか、専用の洗浄剤などを循環させて、ホース類の中とか

洗浄してやるとイイんですが、それでもやはり、新品の時と比べれば、水流は

徐々に悪く成って行く事と思います。この水流はね、印刷機の各ユニットごとに、

調整するバルブとかが付いていますから、簡単に調整する事が出来ます。

 

最近は、無処理版に成って来たでしょう。コイツね、乱暴な言い方をするとね、

湿し水の中へ、現像カスを排出する場合が有るんですよ。こんな時に水流が

弱くて水舟内に現像カスが蓄積してしまう様だと、汚れ等の原因に成る場合

も有りますから、そうした事のためにも、水舟内の水流チェックって言うのは、

こりゃケッコウ大切なんですわ。