オフセット印刷機の自動化は、本当に目覚ましい勢いで進みました。
私が知る限りでも、版替えの自動化はスゴいです。私が若い頃ってのは、
菊全の4色機クラスでも、完全に手動式の、版替えだったんですよ。
手動ですから、版胴を動かして行くのも、自分の手で、寸動ボタンを押して、
版替え位置を自分で考えて停止させるんですわ。そして版を咬える万力も
ワンタッチクランプではななく、万力に10個くらいのボルトが付いていてね、
それをボックスレンチで、一つ一つ自分の手で開け閉めして版を替えます。
このボルトの締め方や、版を張る時のボルトの張り具合で、見当精度が、
メッチャ変わってしまうので、ここは熟練工がやるのと、新米さんがやるの
では、大きな差が出る事が有りました。 繊細な力加減が有るんですわ。
そうした、熟練の版替え作業が自動化された事で、A君がやってもB君が
やっても、同じ結果が得られる様に成りました。この「個人差が出ない」って
言うのが、自動化の中の最大のメリットですよね。
でもね今の印刷機が、どれほど進化しようとも、湿し水の量は全く自動化が
為されていません。真っ新なインキローラーにインキを撒く量も、プログラム
しておけば、印刷機が勝手にやってくれたりしますが、極端な言い方をして
しまえば、それは、適当に撒いているだけの話なんですわ。
何が言いたいかっていうとね、「センサーが無い」って事が言いたいんですよ。
版面上の、湿し水の量を計測出来るセンサーが有りません。印刷機が回転
している時の、インキローラー上のインキ膜厚を計測出来るセンサーも有り
ませんよね。それらを計測し得るセンサー(計測器)が無い、だからただ単に
適当な量を、適当に出しているだけ。適当に撒いているだけなんです。
この「適当」を、「適正」にしようと努力しているのが、オペレータの手腕です。
では、このオペレータ諸氏には何か計測する方法が有るのか? こりゃねェ、
情けない事に、やっぱり計測方法が有りません。自らの経験と勘で決めて
いるだけです。「経験と勘」に頼ると成れば、A君とB君の差が出て当たり前
ですよね。経験値の差、知識量の差、取り組む姿勢の差。そんな個人差が
モロに、ここに出てしまうってワケなのです。
インキも湿し水も、オフセット印刷の根幹の部分です。ここの制御の仕方で、
品質の良し悪しが決まり、トラブルの発生状況が大きく変わってしまうんです。
それほど重要な部分である成らば、諸先輩方も徹底的に、その部分を指導
しなくては成らないのですが、諸先輩方の時代と、今の時代では、印刷機の
システムが違います。極端な話、油性しか使った事がない先輩さんに、UVで
印刷する方法を指導する事は出来ません。モルトン水棒しか知らない先輩が
連続給水の使い方を教えようとしても、こりゃ無理なんですわ。
だったら、これはね、同じ印刷機を使う、A君とB君が、徹底的にデスカッション
をしなくては成らないんですよ。一人の経験値よりも、二人の経験値を合わせ
た方が絶対に有効ですし、お互いに困っている事を洗い出し、その解決策を
二人で考えればいい。もしそれで結論が出ないのなら、私などに相談すれば
何らかの道が見えて来るはずです。
A君とB君のコミュニケーションを徹底的に良好にする。たったそれだけの事で、
二人が成長して行く道筋が出来上がるんですが、それが出来ていないのがね、
今の多くの印刷現場ですよね。モノを覚えよう、仕事を効率よく遂行して行こう
とする時にね、何の勉強もせずに、出来るワケがないじゃないですか。
A君とB君、二人のコミュニケーションが、勉強への第一歩なんですわ。お互いに
意見を戦わせるから、そこに疑問点が見えて来る。疑問点を解明しようとする為
には誰かに聞くなり、何かで調べるなりするしかないですよね。この、聞く調べる
って言うのが、もうすでに勉強なんですよ。他の誰のためでもない。自分自身の
ためだと思えば充分ですから、勉強の第一歩に、足を踏み入れて下さいな。