印刷技術 A君とB君の違い | 1級技能士・成田の印刷技術

1級技能士・成田の印刷技術

1級技能士・成田が、オフセット印刷技術を解説します~。

例えば、昼夜二交代で操業している印刷機が有ったとしましょう。

二交替ですから、二人の機長さんが、交互に1台の印刷機を使う事と成ります。

片方の機長さんを「A君」とし、もう一人の方を「B君」とした場合、同じ印刷機で、

ほぼ同じ内容の印刷物を刷っていたとしても、この二人に差が出てしまいます。

 

特に大きな差が出るのは、エッチ液を新しい物に替える時だったりするんですわ。

今まで使い慣れて来たエッチ液、これを新しい物に替える時には、こりゃもうねぇ、

非常に賛否両論なんですよ。A君は「是非、試したい!」と言い、その逆にB君は

「今の状態で調子がイイんだから、なんで替える必要が有るんだ!」と猛反発を

したりするんですよ。 ・・・あなたは、A君派、それともB君派?どっちですか?

 

私はね、完全にA君派であり、本物の技術者ってのは、絶対にA君流であるべき

だと思っています。だってね、極端な話をすれば、B君の様に保守的な考え方を

していたら、こりゃ、30年以上も前に造られた様な非常に設計の古いエッチ液を

延々と使い続ける事に成ってしまいますよね。

 

実際に日本全国の印刷会社さんに、お邪魔させて頂いていると、未だにアストロ

マーク3を使われている人に時々出会います。「こんな恥ずかしい様なエッチ液、

いい加減、やめましょうよ。これ30年前に私が作った様なエッチ液なんですよ~。

こんな物より、もっと優れたエッチ液が出てますから、そっちに替えて下さいな。」

 

「いや、ウチでは長年、これを使って来てるから、今更替える気はないけどなぁ」

『長年使って来ている』って、たったそれだけの理由で、こんな古いタイプの物を、

延々と使い続けてしまっている。もっと高性能な、最新のエッチ液に替えればね、

今より、もっと楽に、もっと良い物を刷る事が出来るんですわ。

 

正直な話ね、洗濯をする時に、今時なら普通に洗濯機を使いますよねぇ。それを、

「いやウチは長年、これでやってるから!」とか言って、タライと洗濯板を使ってさ、

手にアカギレを作りながら、ゴシゴシやってたら、そりゃ明らかに笑い者ですよね。

古いエッチ液を使い続けるってのはね、それと同じ事なんですよ。

 

まぁねぇ趣味でクラシックカーに乗る人も居ますから、それはそれで良いのですが

我々は趣味で印刷をやってる訳じゃないですよね。プロの技術者として、高価な

印刷機械を会社から預かり、生産性と品質を求められて仕事をしているんですわ。

それならばそれで、高生産性と高品質を求めるのが我々の使命ですよね。

 

それやこれやで、何とか説得して、ようやく新しいエッチ液に替えてテストした。

・・・性能がね、30年前の物とは圧倒的に違う訳なんですよ。だから30年前の

物を使っていた時とは、違うやり方をしなくちゃアカンのです。「乳化特性とかが、

全く違いますから、インキを2割位、少な目に出して、それに伴って、水目盛りも

5目盛り以上、絞った状態からスタートしてみましょうか」 なんて指導をします。

 

「ハイ!分かりました!」と、素直に受け入れて、指示通りにやれるのが、A君。

「これ凄いですねぇ、こんなに水を絞っても汚れないし、紙への着肉がイイから、

こんな薄盛りのインキなのに、今までよりも濃く刷る事が出来ちゃいますよッ!

汚れるギリギリまで水を絞ってみようかなぁ(ワクワク)」 なんて感じです。

 

それに対してB君は、長年やって来た自分の刷り方を変える事が出来ません。

インキも水も絞れと言っているのに、絞り切れない。明らかに濃過ぎる状態で

あるにも関わらず、汚れが出ているからと、水の目盛りを上げて行く。

 

いやいや、濃過ぎるんだからさ、まずインキを絞って、もっとインキの量を少なく

しないとアカンよねぇ。「でも汚れてるから」 だからさ、インキの量が多過ぎる

から汚れてるんだよ。汚れたら水を多くする、淡ければインキを盛るなんて言う

物理的な考え方じゃなく、汚れたらインキの量が多過ぎないかと考える。淡い

と思ったらインキを盛る前に、もっと水を絞ってみる。って科学的に考えようよ。

 

まぁ、私が横で指導してる時は何とかそれで刷れるのですが、長年やって来た

B君に染み付いたやり方は、そう簡単には直りません。次の日に確認に行って

みると、勝手にエッチ液の添加濃度が上げられちゃっています。何でエッチ液

濃度を上げたの?「どうしても汚れるから科学的に考えて、そうしました」

 

ハハハ、なるほど科学的にね。でもね、君自身の刷り方は、未だに超物理的な

やり方だよね。なぜインキの出し量を抑えられない?なぜもっと水を絞れない?

「インキを盛らなきゃ淡いし、水を多くしなきゃ汚れるから」・・・だからさ、それが

物理的だって言ってるんだよ。インキを盛れば汚れるし、水を多くすれば淡く成っ

てしまう。そう考えて制御するのが、科学的な考え方なんだよ。

 

A君は出来ているのに、君には出来ない。今までの古いやり方を捨て切る事が

出来ないから、いつまで経っても、昔の品質のままで、足踏みしたままだよね。

汚れるからエッチ液濃度を上げるなんて、自分の未熟さを物に頼ってしまって

いてはね、いつまで経っても技術力が上がらないよ。

 

今はね、印刷業にとっても非常に厳しい時代だ。品質が悪ければ検品!ではね、

済まされないんだよ。品質が悪ければ、他社に印刷物が取られてしまう時代だ。

品質と生産性を向上させなければ、生き残って行く道が無く成ってしまうんだよ。

 

その、とても重要な、品質と生産性ってヤツはね、そのほとんどが印刷機を扱う

オペレータの腕に掛っている。オペレータが精進して、成長して行かなくちゃね、

自分の会社そのものが危うく成ってしまう時代なんだよ。 昔はね、社長さんの

経営力や、営業さん達の営業力で仕事を取る事が出来た。でも今は、現場での

生産力や、どこにも負けない高品質な物を造り続ける力こそが、会社を支える、

最重要項目なんだよ。現場の力が印刷会社の命なんだ。一緒に頑張ろうよ!