Maurice Ravel: String Quartet in F major
ベートーヴェンの弦楽四重奏が非常に完成度の高い作品が多かったことや、形式的には古い音楽スタイルと思われていたせいもあり、ラヴェルが生きた時代の弦楽四重奏はあまり多くは書かれていません。数だけで言えば何といってもハイドンの68曲に叶うものはいません。そう教えられたのですが、意外に伏兵がいてボッケリーニが102(91という説も)、カンビーニが149、モーツアルトでも、23曲と言った具合です。そうそう肝心のベートーヴェンは16曲です。
数だけ書けばいいと言うものではなく、時代を経ればなお中身の充実が求めらます。モーリス・ラヴェルの「弦楽四重奏曲 ヘ長調」は、1902年12月から1903年4月にかけて作曲した室内楽曲です。1904年3月5日にエマン四重奏団(Le Quatuor Heyman)によって初演されています。のちに多少手を入れた上で、1910年に出版されましたが、この作品は敬愛する師ガブリエル・フォーレに献呈されています。
お決まり文句を言い忘れていました。今日は、ラヴェルの弦楽四重奏曲ヘ長調を聴きます。この作品は、大変に優れた作品だと私は思います。一言で言うとすると、知的で洗練されていてかっこいいです。
生前に未出版だった遺作のヴァイオリン・ソナタ(1897年)から数えると、ラヴェル2作目の室内楽である。しばしば録音や演奏で組み合わされることの多いドビュッシーの「弦楽四重奏曲 ト短調」作品10(1893年完成、1894年発表)からはちょうど10年後の作品であり、先輩のその作品からラヴェルは啓発を受けていた。
ドビュッシーはラヴェルのこの作品に熱狂的な賛辞を送って、ラヴェルに終楽章を改訂せぬように説得し、次のように進言した。
「音楽の神々の名とわが名にかけて、あなたの四重奏曲を一音符たりともいじってはいけません。」
しかしながらラヴェルは、出版にあたって作品全体を改訂して、より構築感が高まるようにした。
弦楽四重奏曲はこの時代には難しいとされたジャンルであり、作曲家が成熟期を迎えるまでにこれを手懸けることは、まず滅多にないほどである。だが、当時まだ27歳のラヴェルはその作曲に挑んで、この楽種の傑作を示したのであった。ウィキペディア
構造的な内容は以下のようですが、いわゆる循環形式を取っています。主題をそのまま使う訳ではありませんが、統一感を与えるために工夫された形で使用されますので効果的な方法です。フランクが得意とした手法ですが、比較的短いテーマを使用することによって明快な作風になることもあり、濃淡はあれ弟子たちの傾向は繋がっています。優れた転調も特徴です。
- Allegro moderato (アレグロ・モデラート、ヘ長調)
- きわめて穏やかに。ソナタ形式。第1主題は、第3、第4楽章にもさまざまな形で現れる。第2主題は、ピアニシモで第1ヴァイオリンとヴィオラのユニゾンで提示されるが、この第2主題も第4楽章で再び現れる。最後は静かに終わる。
- Assez vif. Très rythmé (十分に活き活きと。きわめてリズミカルに。イ短調)
- スケルツォ。複合3部形式。スケルツォ第1部はイ短調、ピッツィカートで提示される。 3/4拍子と6/8拍子が併せて使用されるポリリズムが特徴的である。スケルツォ第2部はピアニシモになり、嬰ハ短調で主題が歌われる。中間部のトリオは、テンポを落とし、弱音器を付けて演奏される。
- Très lent (きわめて緩やかに、主部は変ト長調)
- 3部形式。主部では弱音器が使われる。主部の主題の一部に、第1楽章第1主題が使われている。
- Vif et agité (活き活きと、激しく、ヘ長調)
- ロンド。全楽器のユニゾンによって、8分の5拍子の半音階的な激しい主題から始まる。この後、4分の5拍子の部分を経て、4分の3拍子で第1楽章第1主題を変形させて主題がヴァイオリンに現れ、さらに第1楽章第2主題も再び現れる。
第1楽章の第1主題がフリギア旋法に、第2主題がヒポフリギア旋法に基づいています。機能和声の概念ではなく、異なる教会旋法の対比で、上品でいながらと憂愁とモダンを醸成させています。これはドビュッシーの弦楽四重奏曲を分析し意識しると思われます。ラヴェル自身は「音楽の構成意志にこたえるために書いた」と述べているようです。
この作品の演奏は注意深く繊細に演奏される必要があります。大げさな表現は避けて高潔でなおかつエレガントに弾くことで、彫りが深く知的でモダンな表現を楽しむべきです。
NO.265 ラヴェル 弦楽四重奏曲 ヘ長調 (Kleine Partitur)
楽譜 – 2011/4/9 モ-リス・ラヴェル (著)
ジュリアード弦楽四重奏団 (アーティスト) 形式: CD