フルートの出番です317 ケクラン「ディヴェルティスメント」OP.91 | 翡翠の千夜千曲

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Divertissement, Op. 91: I. Tres calme

Koechlin: Chamber Music With Flute 

℗ 2007 SWR 

Classic Released on: 2007-01-01 

Artist: Christina Singer 

Artist: Dirk Altmann 

Artist: Tatjana Ruhland 

Composer: Charles Koechlin

 

Divertissement, Op. 91: II. Allegretto quasi andante

 

Divertissement, Op. 91: III. Final: Allegro, bien decide

 

Divertissement, Op. 91: I. Tres calme IMSLP

 

 

 この人の音楽が面白いと感じるか、何じゃこりゃと思うかは分かれるかも知れましれません。結論から言えば私は好きなのですが(何回も書いているなあ)、きちんとした分析ができていませんので、いつもよりはケクランについて少し深堀りしてみたいと思います。

 地中海を望む南仏のカナデルという所でケクランは亡くなっています。そこに建てられたこの人物の墓には、「私の作品の精神と私の生涯を全うする精神は、何よりも自由の精神である」と書かれているそうです。その最後に「シャルル・ケクラン――作曲家」と墓碑銘が刻まれています。作曲家という肩書はもちろん自分で名乗れるのですが、人はケクランを作曲家としてどの程度認識していたのでしょうか。フランシス・プーランクなどを育て上げた教育者、「和声法」や「対位法」などの名著で知られる理論家であり、音楽評論家としての紙面を飾った執筆者という認識の下、音楽作品は評価されなかったのでしょうか。

 実はそうではなく、226という作品番からうかがえるように、膨大な作品を残しています。しかしながら、彼の作品は難解であること、同じ時代のどのような流派にも属さず、音楽史的な分類ができていないこと、むしろ作曲以外の業績で知られてしまい、作品が霞んでしまったことなど様々な要素が作品が表舞台に出てこなかった理由かもしれません。

 けれどもそれとは反対に、強烈な支持者もいるのです。ダリウス・ミヨーらの友人達、最近ではハインツ・ホリガーなどがいますし、彼の優れた管弦楽法は師であるフォーレにも認められ、「ペレアスとメリザンド」ではオーケストレーションを一任されているのです。私たちが今聴いている「シシリアンヌ」などは彼の手になるものがそのまま使用されています。

 更には、同時代の優秀な人物たちは彼の腕前を評価していました。ケクランの管弦楽編曲の手腕は、ドビュッシーのバレエ曲「カンマ」でも見ることができます。ドビュッシーのピアノ譜は出来上がっていましたが、オーケストレーションに手が付けられていなかったので、すでに編曲で名を上げていたケクランに、デュラン社が編曲を要請したのです。ケクランはこの時までドビュッシーの音楽については余り知らなかったようです。この機会にドビュッシーと何度か会っており、作曲者本人が満足するオーケストレーションができました。この時、感ずるものがあったようで、ドビュッシーはケクランに自分でバレエを書くことを勧めたと言います。ケクランは控え目な性格がこれを実現することはありませんでした。

 ラヴェルとは8歳違いでしたが、若い人物の高い能力をすぐに認めましたし、ラヴェルは「独立音楽協会」を設立するに当たって先ずはケクランに手紙を書いて誘ったと言いますから、互いの信頼関係が伺えます。今日聴く「ディヴェルティスメント OP.91」の楽譜を見てわかる通り小節線もなく、当時の作品としては異様な風体で書かれていると言っても良いかと思います。その前衛気質からケクランと意気投合していたのが、エリック・サティだったことを思えばなるほどと頷けるかもしれません。今日は、この辺までに致しましょう。

※ 以前の記事

○ フルートの出番です121  ケクラン「蜜槽の歌」

○ フルートの出番です244  ケクラン「ジーン・ハーロウの墓碑銘」作品164

○ フルートの出番です183  ケクラン「ピアノとフルートのためのソナタ」

○ ホルンの出番です⑲ シャルル・ケクラン「ホルン・ソナタop.70」

○ ホルンの出番です344 ケクラン「15の小品」op.180

 

演奏会

※ 演奏会のお知らせ⑯ ヴァイオリン二重奏演奏会

 

※ 演奏会のおしらせ⑮日高市吹奏楽団第22回定期演奏会

 

※ 演奏会のご案内⑬ ダンシングフルートVol2

 

※ 演奏会のお知らせ⑭ 翡翠トリオピアノ三重奏の夕べ

 

 

 

ケックラン、シャルル/ディヴェルティスメント OP.91、スコア

Koechlin, Charles DIVERTISSEMENT OP.91, SCORE  (パート譜はDL)

<解説>

シャルル・ケックランという名前は聞いたことがあっても曲をすぐに思い浮かべる人は意外と少ないのではないでしょうか。生涯に作品番号付きのものだけでも226もの曲を作っていますが、生前でもどちらかというとフォーレやドビュッシーの作品のオーケストレーションをした編曲家、和声法や対位法に関する著述家、教育者としての知名度のほうが高かったようです。
フォーレに師事し、パリ音楽院ではラヴェルと同級で、サティとは固い友情で結ばれ、フランス六人組とも交友があり特にプーランクは弟子であった…と、ケックランの交友関係を眺めるだけで19世紀末から20世紀中ごろまでのフランス音楽史をたどることができるでしょう。
作風は幅広く無調のものに挑戦したりしていますが、メロディの美しさが目立つ穏やかな曲が多いようです。カテゴリーもピアノ曲、歌曲、室内楽曲、管弦楽曲と多岐にわたります。ただ、上に名前が挙がったような綺羅星のごとき同時代の作曲家に比べ、強烈な個性という点で弱かったのが、作曲家として印象が薄かった原因かもしれません。しかし近年、2017年の生誕150年を機に見直されつつあり、楽譜やCDの発売が続いています。
ご紹介するディヴェルティスメントは1924年に作曲され、37年にマルセル・モイーズらにより初演されました。
3楽章からなり、小節線のない神秘的で幽玄な響きの第1楽章「Tres calme (静寂)」、一転して快活な第2楽章「Allegretto quasi Andante」、第3楽章「Final」は絡み合うメロディが面白く最後は第1楽章のメロディに戻って静かに幕となります。透明感のあるきれいなメロディが魅力的な隠れた名曲です。
これまできちんとした楽譜が出版されていませんでしたが、このたび全面的に校訂されたスコアが出版されました。(パート譜は出版社HPよりダウンロードできます。)
なお第3パートをクラリネットで演奏することもありますが、この楽譜ではアルト・フルートとなっています。
これを機会にケックランのほかのフルート作品にも触れてみてはいかがでしょうか。
【中・上級者向け】 演奏時間約8分(T)

 

Chamber Music With Flute: Ruland(Fl)Tal(P)Stuttgart Rso Members

Koechlin (1867-1950) 

01. Epitaphe de Jean Harlow, Op. 164    
02. Divertissement for 2 Flutes and Alto Flute/Clarinet, Op. 91    
03. Divertissement for 2 Flutes and Alto Flute/Clarinet, Op. 91    
04. Divertissement for 2 Flutes and Alto Flute/Clarinet, Op. 91    
05. Suite en quatuor for Flute, Viola, Violin and Piano, Op. 55    
06. Suite en quatuor for Flute, Viola, Violin and Piano, Op. 55    
07. Suite en quatuor for Flute, Viola, Violin and Piano, Op. 55    
08. Trio for Flute/Oboe, Clarinet and Bassoon in G major, Op. 92    
09. Trio for Flute/Oboe, Clarinet and Bassoon in G major, Op. 92    
10. Trio for Flute/Oboe, Clarinet and Bassoon in G major, Op. 92    
11. Sonata for 2 Flutes, Op. 75    
12. Sonata for 2 Flutes, Op. 75    
13. Sonata for 2 Flutes, Op. 75    
14. Nocturnes (2) for Flute, Horn and Piano/Harp, Op. 32bis    
15. Nocturnes (2) for Flute, Horn and Piano/Harp, Op. 32bis    
16. Sonatine modale for Flute and Clarinet, Op. 155a    
17. Sonatine modale for Flute and Clarinet, Op. 155a    
18. Sonatine modale for Flute and Clarinet, Op. 155a    
19. Sonatine modale for Flute and Clarinet, Op. 155a    
20. Sonatine modale for Flute and Clarinet, Op. 155a    
21. Piece de flute pour lecture a vue, Op. 218