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●簪(1941年) 監督:清水宏

主な出演:田中絹代 笠智衆 川崎弘子 斉藤達夫 日守新一 三村秀子 坂本武 爆弾小僧

 

 

「簪」はルビのとおり「かんざし」と読むが、漢字だけを見ても大抵の人は読めないし、書けもしないだろう。

この映画ではまさに簪がキーアイテムとなる。

 

舞台は人離れた温泉宿。気難し屋の学者先生(斎藤)、湯治療養中の納村(笠)、若い夫婦の夫・広安(日守)、老人ら、宿で打ち解けた客同士が露天風呂を楽しんでいたところ、湯の底に落ちていた簪が納村の足に刺さって大ケガを負う。

事故は不運なことなのだが、ケガを招いた原因が簪なのだから皆、穏やかではない。

つまり、簪の落とし主が女性であることは明白なわけだ。

 

「足に簪が刺さったのは情緒的である」と評価する学者先生の言葉に、皆一斉に色っぽい想像をする。

その様子に対し、さらに学者先生は「情緒的イリュージョン」とさえ付け加える。

ただし問題は、その簪の落とし主の女性が、美人か醜女か、妙齢かババアかである。

 

そんなこんなで、この一件を恰好の暇つぶしのネタとしていたところ、簪の落とし主である美恵(田中)から「そちらで簪を無くしたらしい。もしあれば引き取りに伺う」という旨の手紙が温泉宿に届く。

かくして、美人・美恵がやってきたことで、情緒的イリュージョンを抱く男性諸氏は一気に沸き立つ。

 

清水監督は、ひょんなことをきっかけとしたラブコメディが得意か? 田中絹代さんと笠智衆さんの共演作品は多いと思うが、笠さんが相手役となるのは珍しいのでは?

学者先生役の斉藤達夫さんも真骨頂のキャラを演じているし、田中さんと子供たちのやりとりが実に微笑ましい。

 

因みに念のため、田中絹代さんや川崎弘子さんの入浴シーンは一切ないので、期待してはいけない。

 

恵美の友人役として登場する川崎弘子さん。主演の田中さんに勝る美人のせいか、大映しのシーンは少ない。

●見世物王國(1937年) 監督:松井稔

主な出演:高峰秀子 小島洋々 清川虹子 岸井明 藤原釜足 古川緑波 

 


 

尋常小学校の卒業祝いに東京見物へとやって来た秀ちゃん御一行様(高峰、父ちゃん・小島、母ちゃん・清川)。はとバスに乗って、銀座、丸の内、桜田門、靖国神社、上野広小路と回るも、お祭り騒ぎの浅草を見た秀ちゃんは「ここで降りようよ!」とせがむ。

 

意気揚々と浅草見物に繰り出した御一行だが、父ちゃんがスリに財布をすられてしまい、さあ大変!そんなことはよそに、秀ちゃんは単独行動で好き勝手に見物しまくるし、スリの犯人(藤原)とは知らず見世物小屋や食べ物の代金を奢らせる始末。

 

亀さん(岸井)の活躍で財布を取り戻すことができ、なんだかんだのドタバタのなかで、下半身が魚の少女、ろくろ首、筑波山の怪獣、活動、剣劇、歌謡ショーなど、浅草の見世物を十二分に満喫する。

浅草と言ってもこの映画の舞台となるのは、かつての六区や伝法院あたりか。いまでもそれなりに人出はあるが、映画で見るような賑わいは見られない。

令和時代の浅草ならではの名物って何だろう?もちろん見世物小屋なんて全盛期の遺物だし、映画館も20年近く前になくなった。そうなると浅草演芸ホールとかロック座のストリップが名物か?どっちにしても1日ふんだんに遊んで食べて楽しめる行楽地とは言えない。

 

そこで、地元民の私としては、東京楽天地浅草ビルの1Fにある「まるごとにっぽん」をお勧めしたい。

 

ここは日本各地の物産(主に食品)を一堂に集めたアンテナショップで、珍しいものが手頃な値段で売られているので、物色がてらちょっと買っていくのに良い。

またこの施設の4Fにある「浅草横丁」というのが面白そうなのだが、地元民としては入るのにちょっと勇気が要る。

●花籠の歌(1937年) 監督:五所平之助

主な出演:田中絹代 佐野修二 徳大寺伸 河村黎吉 笠智衆 出雲八重子 高峰秀子 岡村文子 斉藤達夫 吉川満子

 


 

五所監督お得意のラブコメディで、舞台は銀座三原橋あたりのトンカツ屋。店の看板娘・洋子(田中)のことが好きでたまらないコックの李(徳大寺)だが、店主であり洋子の父親の敬造(河村)は、大学生の小野(佐野)と洋子が将来を誓い合っていることを知り2人の結婚を認める。これを機に小野はトンカツ屋を継ぐことに。そして、結果的にフラれた李は、店をやめてしまうのだが・・・・。

 

朝鮮人か中国人なのか、徳大寺伸さんが演じる李役がなかなか良い。詩人の西條八十を大尊敬するという設定で、洋子への別れの手紙に一編の詩を添える。

「みんな優しい町娘 泣けば誰か慰めて 帰らない夢かしら 

あの頃は良かったわ 歌にしぐれた花の影」

そう、この映画の主題歌『花籠の歌』の2番の歌詞なのだ。

 

小野の友人役の笠智衆さん
李さん役の徳大寺伸さん

 

ラストのほうで敬造が「4年後はトンカツをやめて、すき焼きにするか」と言うシーンがある。

4年後??? 幻に終わった1940年開催の東京オリンピックのことを言っているのだろう。

たしかに外国人にはトンカツよりもすき焼きのほうがウケが良いと思う。人間が考えることはいまも昔も変わらないものだ。

しかし1936、37年ころは、まさかオリンピックが中止になるなんて夢にも思わなかっただろう。

 


小野の友人役の笠智衆さん 仏教学生でお経をあげる。

 

洋子の妹・浜子役の高峰秀子さん

 

トンカツ屋と言えば、妻の祖父母が浅草でトンカツ屋を営んでいた。20年ほど前に閉業したが、いまになってもっと行ってやれば良かったとつくづく思う。

しかし私は、トンカツよりもエビフライのほうが好きだったから、爺さんはそのことをあまり良く思っていなかったようだ。

「トンカツ屋なんだから、トンカツを食え!」なんて言ってたかな。

 

●人妻椿 前編・後編(1936年) 監督:野村浩将

主な出演:川崎弘子 佐分利信 上原謙 三宅邦子 笠智衆 藤野秀夫 青木しのぶ 山内光 飯田蝶子 坂本武 野寺正一 上山草人 吉川満子 小島和子 河村黎吉 岡村文子 水戸光子

 

「矢野昭は孤児だったのを拾って営業部長にまでしてくれた有村社長の殺人罪容疑を、身代わりになって行方を眩ます。有村社長は矢野の妻子の面倒を見ると約束しながら急死してしまう。社長の息子・恒也は、本当は社長が犯人と訴えても取り合わず、残された妻・嘉子は、息子・準一を抱えて世間の荒波に翻弄されるのだった」というのがWikiに書かれているあらすじ。

 

さて、その後のストーリーは・・・

 

東京の生活を追われて故郷の父・勉蔵(野寺)に身を寄せる嘉子(川崎)だが、そこでも安住を許さなかった。頼りにしていた父の急死と網本・虎一(笠)の邪な恋。ふたたび東京に逃れた嘉子だが、職を探しに訪れた銀座のデパートで火災に見舞われた。炎のなかを逃げ惑う嘉子を発見したのが、追ってきた虎一と前々から純粋な恋心を寄せていた青年資産家の草間(上原)。2人は火災から嘉子を救おうとしながらも、互いに争い、大怪我をする羽目に。

 


※本当は女の子なのだが男の子役を演じた小島和子さん。

 

この物語が伝えたいメッセージは、「どんなにつらく、絶望の淵に立たされたときでも、かならず手を差し伸べてくれる人がいる」ということだろう。場面ヾでそんなエピソードがいくつかあった。
 

①「お給金なんて要りません。私が働いて奥様をお助けします」とい 

  う女中の千代。

②「まだご主人が死んだと決まったわけではない」と嘉子を励まし 

  つつ、虎一から逃げる手筈を整える多門寺和尚(上山)。
③虎一の不埒な振る舞いを咎める通りがかりの婦人・せん(吉川)。

  嘉子の慈悲に満ちた対応とともに虎一も改心する。

自身の貧しさを顧みず「これで終わったのでは、仏つくって魂入 

  れず」とまで言って嘉子のお世話に専念する千代とその兄(坂  

  本)。

総じて、「美人は常に神様が味方をしてくれる」ということかな?

 


※坂本武さんと飯田蝶子が出てくると安心する。

 

その後もいろいろな展開があるが、嘉子の身の上を知った草間は、支援の手を差し伸べるもきっぱりと諦めてアメリカへと旅立つ。

そして、偶然にも駅にいた息子の準一(小島)が海外逃亡から帰国した矢野(佐分利)の姿を見つけたことで、話は急変する。

矢野の無実が世間に公表され、矢野は恒也と協力して傾いた会社の立て直しを誓う。

最後は父・勉蔵の弔いの席で、全員勢ぞろいのハッピーエンド。

 

この映画では、笠智衆さんと三宅邦子さんが悪役を演じる。(2人の悪役は決して珍しいことではないが)

 

準一は男の子だが、演じているのは女の子の小島和子さんという子役俳優。前回紹介した『半處女』でも佐分利信さんの娘・マリ子役として登場した。田中絹代さん主演の『愛染かつら』(1939年)にも出ていたような。

 

Wikiの情報では芸者役として水戸光子さんの名前がある。芸者が3人出てくるシーンがあるが、誰が水戸光子さんなのか判別できないのが残念。

半處女(1938年) 監督:佐々木啓祐

主な出演:夏川大二郎 三宅邦子 佐分利信 川崎弘子 岡村文子

 

ハイヤー会社の一人娘の三鈴(三宅)は、免許を持って車を運転すれば外国語にも堪能なスーパー才女。そんな彼女を見初めた大前田(佐分利)は三鈴を自分の会社に採用するが、三鈴は代行作家の春太郎(夏川)という恋人?の独り立ちを支援している。

しかし、ここから先が困った展開に・・・ 春太郎は幼なじみのお糸(川崎)と死んだ弟の墓参りに行ったところを三鈴に目撃される・・・「春さん、あんな女と一緒にいるなんて怪しいぞ」

作家として大賞をとった春太郎だが、熱海の旅館でお糸に押しかけられ求婚される。しかも2人で熱海の海岸を歩いているところを、またもや三鈴に目撃され、「この女、何よ・・・」という感じで詰め寄られる。

三宅邦子さんと川崎弘子さんの2人から迫られ、ただただ「裏山C」のひと言に尽きる。

結局、春太郎はお糸にほだされて結婚するのだが、何か納得できないのか、三鈴への未練があるのか、酒浸りの日々から身体を壊し、臨終の間際に三鈴に大前田との結婚を勧める。

三鈴は大前田とその娘と共になんとなく幸せに。

独り残されたお糸は満州へと旅立つ。

 

ざっと、そんなストーリーなのだが、前回の『家庭日記』同様、題名の『半處女』の意味がさっぱり分からない。

しかし、「1人の男性への情熱を抱いたままでは、もはや完全な処女とは言えない」という見方もできる。

因みに1953年の新東宝映画に同名の作品があるが、こちらは女子高校生の性を描いた全く異なる内容。

●家庭日記(1938年) 監督:清水宏

主な出演:上原謙 桑野通子 佐分利信 高杉早苗 三宅邦子 三浦光子 藤野秀夫 吉川満子 トーチカ小僧

タイトルからは平凡な家庭を描いたファミリードラマのようだが、然にあらず。

修三(佐分利)は学費を出してもらうため、恋人の久枝(三宅)と別れて裕福な家の品子(高杉)と結婚する。

修三と親友の一郎は両親の反対を押し切り、女給上がりの卯女(桑野)と結婚し大連へ。

数年後、日本に帰国した一郎は修三と旧交を温めるが、両家のお嬢さんを嫁にもらった修三の生活を目の当たりにして自らの境遇を不憫に思う。

そうした修三と一郎との関係に久枝が絡んできて、もう話はごったごたの展開に・・・。

おまけに一郎の両親は卯女との別れを迫り、卯女から一人息子の鐘吉(トーチカ)を取りあげようとする。

「鐘吉を渡せ」、「いや、渡さぬ」のカメラ描写は迫力モノ。

「鐘吉はほかの男との間にできた子供」と嘘をついてまでも、我が子を取られまいとする卯女の顔力は恐怖すら感じる。

自殺を図った卯女の命が救われ、なんとなく元の鞘に収まりそうな雰囲気で物語は終わるが、題名の「家庭日記」が意味するところは最後まで理解できず。

この映画は、桑野通子さんと高杉早苗さんと三宅邦子さんの3人が洋装で登場するところが良い。

桑野通子さんの怖い笑顔。

をぢさん(1943年) 監督:渋谷実

主な出演:河村黎吉 飯田蝶子 桑野通子 大塚正義 坂本武 山路義人 河野敏子


「をぢさん」とは主人公の徳二郎(河村)のことだろう。たしかに、どこに出しても恥ずかしくない正真正銘のおじさんだ。勤め先の工場で現場を取り仕切る監督姿が、戦時下に求められた銃後の人間像を映し出す。その気質は町内でも同様だから当時の隣組の重要性をアピールした戦意高揚映画。

この頃の松竹映画には、冒頭に「1億の 誠で包め 兵の家」という字幕が出てくる。「心で感謝 身で援護」とか「撃ちて 止まむ」というのもあった。

戦時下でなくても、数十年前までは何にでもしゃしゃり出てくるおじさんが町内に1人くらいはいたような・・・。

 

この映画の面白いところは松竹・大船映画の常連、河村黎吉さんと飯田蝶子さんが夫婦役を演じているところ。2人のやり取りが実に愉快なのはもちろん、夫婦喧嘩のシーンでは、ハエトリ紙にぶら下げた上原謙と高峰三枝子の写真を見てお互いに機嫌を直すという漫才のような洒落を見せてくれる。こんなのを見せられた日には戦争の憂さも忘れる。

徳二郎が名古屋出張のお土産で買った饅頭を未亡人とし子(桑野)の息子(大塚)に与えたところ、それが元で重体に・・・。輸血や何だかんだ、自分の命に代えてでもの覚悟を見せるおじさん連。

母親が桑野通子さんのような美人だったら、そりゃあ、おじさんたちも頑張るわな。


 

月夜の傘(1955年) 監督:久松静児

主な出演:田中絹代 轟夕起子 坪内美詠子 新珠三千代 飯田蝶子 宇野重吉 三島雅夫 三島耕 伊藤雄之助 二木てるみ 宍戸錠 東山千栄子 高田敏江 大森暁美

『雑居家族』の前年、同じく壷井栄原作の小説を久松監督が映画化した作品。キャストも何人か重なるが、豪華な面々からも作品の面白さが期待できよう。

なんのことはない、近所の奥さんたち4人の井戸端会議の物語なのだが、それぞれの家庭の悲喜こもごもを実に巧みに描いている。久松監督は、この手の作品のつくりかたが本当に上手い。特に人情や人の優しさを描こうとすると、往々にして辛い・悲しい状況や悪い奴が登場するが、そうしたエピソードを一切使わないところが久松監督の極意だと思う

 


見どころ

坪内美詠子さんと伊藤雄之助さんのお見合いその後の展開

・人妻とは知らずに新珠三千代さんに熱をあげる宍戸錠さんの友人  

 ⇒失恋

・お手伝いさん役の飯田蝶子さんがピアノを買う代金を助ける

東山千栄子さん宅で新珠三千代さんが「エリーゼのために」と「乙

 女の祈り」を弾く場面は

・長男の女友達役を若い頃の高田敏江さんと大森暁美さんが演じて

 いるのが嬉しい

・卵1個が20円!? 夏みかん2個で20円!?

・宇野重吉さんのに対する執着

・さて、タイトルの『月夜の傘』とは・・・・

やはり何と言っても二木てるみさんが可愛らしい。『雑居家族』や『警察日記』でもそうだったから、久松監督のお気に入りなのだろう。

 

高田敏江さん(左)と大森暁美さん(右)

雑居家族(1956年) 監督:久松静児

主な出演:轟夕起子 織田政雄 新珠三千代 伊藤雄之助 左幸子 田中絹代 杉幸彦 片桐安芳 二木てるみ 宍戸錠 飯田蝶子 利根はる恵 安井昌二 青山恭二 福田トヨ 

 


 

壷井栄の同名小説を映画化。主人公の女流作家が小豆島の出身という設定だから、壷井氏の自叙伝的な作品なのだろう。安江(轟)と文吉(織田)夫婦の間には子供がいないが、次々と他所の子を引き取り、3人の子を養う。

そもそも安江と文吉は苗字が違うし、3人の子供たちもそれぞれ苗字がバラバラだから、文字どおりの雑居家族。そこに、うだつの上がらない義理の兄の兵六(伊藤)が出入りするだけでなく、郷里の小豆島から飛び出してきた浜ちゃん(左)と下宿学生の斉木(宍戸)が加わり、家庭はてんやわんやに。

 

久松監督は俳優一人ひとりの撮り方が良い。伊藤雄之助さんはとにかく存在感があるだけでなく演技を観ていて癒される。音江(新珠)の幼女時代を演じた二木てるみさんは涙が出るほどに可愛らしい。特別出演の田中絹代さんがちょっとだけ出てくるが、あくまでも田中絹代さん然としている。

 

台所に水を取りに行った文吉が階段から転げ落ちてしまうシーンがある。このとき文吉は「お前でなくて良かった」と言う。この台詞にこそ作品で表現したかった全ての優しさが込められていると思う。

 


花嫁日記(1934年) 監督:渡辺邦男

主な出演:杉狂児 市川春代 星玲子 松平晃 上村節子 北原夏江 大崎健児 神戸

 

 

以前紹介した五所監督の花嫁の寝言(1933年)や花婿の寝言(1935年)と似たような新婚ホヤホヤのバカップル映画。だからあえてストーリーの解説は必要ない。杉狂児さん、市川春代さんともに全くのおとぼけ天然系を演じる。

こちらは日活映画だが、初ではないもののごく初期のトーキー作品。当時人気歌手だった松平晃さんが声楽家の役で出演し、主題歌の『いつも陽気で』をはじめ、『あなたのあたし』、『急げ幌馬車』などを劇中で歌い、トーキーの良さを存分に生かしている。