自分や他人の配偶者をどのように呼ぶか―数年前まで、私自身も長年戸惑ってきた。
「家内」「奥さん」「嫁さん」「主人」などと呼ぶことは、戦中の家父長制や家制度の名残を感じて、私の中ではまったく良しとしていない。ただそれに代わるよい表現(単語)が見つからなかったために「家内」と言っていた。
「妻」が適切だとは思っていたが、どこかキザで非日常的、フラット感に欠け、座りが悪く長らく使えなかった。
ここ数年は意識して「妻」と呼ぶようにして、だいぶ私の中で定着してきた。ところが、事実婚や同性カップルなど、そのあり方が多様化している現在では、男性と女性のカップルを前提とした「夫」や「妻」さえもますます使いにくくなるのだろう。
下の記事にもあるとおり、何気なく使う言葉や言い回しにその人の価値観や意識が表れるし、そもそも私たちは時代の中で、人々の間で生きている以上、その流れや変化を鋭敏に察知することが前提となる。
今後は「妻」改め「パートナー」とするか。これも私の中で座りがよくなるまでにはちょっと時間がかかりそうだけど。
「妻と呼んで」6割 実際35% 中立的な表現、望む声多く2023年3月27日 日本経済新聞
自分や他人の配偶者を、あなたはどのように呼びますか――。男性は「夫」「旦那」「主人」、女性は「妻」「嫁」「奥さん」「家内」など日本語には配偶者に関する表現がいくつも存在するが、どのように呼ぶのがふさわしいのだろう。日経ウーマノミクス・プロジェクトが実施したアンケート調査から、配偶者の呼び方に関する悩みを探った。
調査は2月に実施、「配偶者の呼び方」について男女1584人から回答を得た。
自分の配偶者を誰かに説明するときの呼び方について、女性では「夫」が51.9%と最も多く、「旦那」(18.2%)「主人」(9.5%)を大きく離した。男性では「妻」が35.6%と最も多い。
文化庁が1999年に行った国語に関する世論調査では、自分の配偶者について既婚男性の51.1%が「家内」と呼んでいた。また既婚女性では74.6%が「主人」と呼んでいたことも踏まえれば、使われる呼称は大きく変化していると考えられる。
ただ、他人の前で配偶者に何と呼ばれたいかとの問いに、57.7%の女性が「妻」と答えており、実際の呼ばれ方との差もみられる。男性は31.1%が「夫」、27.6%は「主人」と答えている。
知人や同僚など他人の配偶者をどう呼ぶかについても悩みが多い。男性の配偶者についての呼び方では「旦那さん・旦那様」が53.5%、女性の配偶者では「奥さん・奥様」が84.7%と、自分の配偶者への呼び方とは異なる傾向が読み取れる。
配偶者の表現には、戦後に廃止された家父長制や家制度の影響が残るものがある。「日本国語大辞典」(小学館)によると、「旦那」は「施し」や「世話をしてくれる男性」といった意味がある。「嫁」は「息子と結婚してその家の一員となった女性」を意味し、「夜の殿に仕える若い女性」を指すという説もある。
「主人」や「家内」といった呼び方も「一家のあるじは男性」「女性が家事をする」という意味もにじむ。「家内と呼んでいる男性を見ると性別役割意識の強い人だと警戒感を持つ(30代女性)」といった声が寄せられた。
自分の配偶者や誰かの配偶者についてどう呼べばいいか悩んだ経験について、女性の51%が「ある」と回答している一方、男性は26.3%と男女差が見られた。
関東学院大の中村桃子教授(言語学)によると、「主人」という呼称は戦後になって使われ始めたという。専業主婦がいる家庭が一般的だった高度経済成長期にかけて広がっていったと見る。一方で実態は大きく変わっている。総務省の統計によると、2018年には共働き世帯が専業主婦世帯の倍以上になった。
アンケートでは呼称について「中立的な呼び方をすべきだ」との回答は55%にのぼるなど、平等を重視したいとの意識がうかがえる。
中立的な呼称を広げようとする動きは、実はおよそ70年も前から始まっていたという。中村教授によると、55年に開かれた第1回日本母親大会では「主人を夫と呼ぼう」と提唱された。75年には「国際婦人年をきっかけとして行動を起こす女たちの会」が「主人」という呼び方を「夫」「つれあい」などと変えるようNHKに要望していた。
問題提起は戦後間もない頃から続いてきたが「主人」や「奥さん」といった呼称は今だ根強く残っている。
配偶者を巡る適切な呼び方を模索する動きもある。光文社が発行する働く女性や子育て中の女性向け雑誌「VERY」は、18年ごろから配偶者の表記を「主人」から「夫」へと切り替えた。編集長を務める今尾朝子さんは「働く女性が増えても、家事や育児の負担が男性よりも重いままであることに不満を抱く女性は多かった。世の中に発信する雑誌として中立的な表記が適切だと考えた」と話す。
クラウド会計ソフトのフリーは18年から入社時の研修でダイバーシティー(多様性)に関する講義を行い、配偶者について話す際に「パートナー」とすることを推奨している。「誰もが生きづらさを感じる当事者になり得る。中立的な表現にすることが大切だ」(広報担当者)という。
親子支援を行う認定NPO法人フローレンス(東京・千代田)は、組織内でのやりとりにおいて17年から「主人」という呼称を廃止し「夫」や「パートナー」に変えた。広報担当者は「普段使う言葉は個人や社会の価値観を表す。中立的な表現にすることで、誰もが自分らしく暮らせる社会につながる」と話す。
個人としては「パートナー」という言葉を使う事に対して『意識が高い人』のようになり使いにくい」「中立的な呼び名を使いたいが、相手の配偶者について適当な呼称がない」との声がまだ多い。中村教授は「他人の配偶者の呼称などについて、社会全体で議論していくべきだ」と指摘する。
「妻と呼んで」6割 実際35%――役割決めつけは不適切
2023年3月27日 日本経済新聞
事実婚や同性カップルなどパートナーを巡るあり方は多様化している。そもそもパートナーが異性だとは限らず、「夫」や「妻」という男女カップルを前提とした呼称を快く感じない人もいる。
配偶者の呼び方には「自分がその人とどういう関係でいたいか」という思いも表れるため、配偶者の呼称に「こう呼べばよい」という画一的な正解はない。
総務省の労働力調査によると、22年の15~64歳の女性の就業率は72.4%まで上昇。「男性は仕事」「女性は家事」という時代はとうの昔に終わっている。「言葉には力があり、無意識の偏見を植え付ける(50代女性)」との意見もあった。他人の配偶者について「ご主人」「お嫁さん」などと役割を決めつけて言及することはふさわしくないと感じた。
(前田健輔)