多くの論述添削をこれまで行ってきたが、「自分の論述解答から、問題文(設問のリード文含め)が、どの程度、浮かび上がってくるか。この精度が、論述解答の善し悪しを決める基準の一つである」
ということを、どの生徒にも伝えている。
これを簡単に確かめる方法があって、問題文を全く読んだことのない相手に、己の論述解答だけを読ませてみて、問題文の内容を当てても
らえばよい。
そこで相手が、問題文の内容を見事当てれば、とりあえずは、「お題」に応えられていることになるし、逆に、問題文の内容を大きく外していれば、「お題」を無視しながら、解答作成をしている可能性が高いということが分かる。
どの論述問題にも、「お題」があって、その枠の中で文章を練り上げていくわけだが、「結局、彼は何を説明したいんだろう・・」という解答も少なくない。
どれだけ問題文を想起することが可能な論述解答なのか、今一度、確認してほしい「物差し」の一つである。
筑波大1996年 大問1
王政の廃止からペロポネソス戦争に敗れるまでの、アテネの政体の変遷について、次の語句を用いて、説明しなさい。
ソロン デマゴーゴス ヒッピアス ペリクレス
HN アンドロポフさんの解答
ニューカマーです。お便りありがとう。
王政の廃止後、重装騎兵として活躍していた貴族による貴族政が展開された。しかし、商工業の発展と鉄の低廉化で市民が武器を購入して重装歩兵として活躍し始めると、参政権を求める平民と貴族の間で対立が深まった。前594年にソロンが両者の対立を調停し、財産に応じて参政権を認める財産政治が導入されたが、なおも平民の不満は残った。そして、前6世紀半ばにはペイシストラトスが非合法に政権を奪って借主となり、平民に迎合した政策で支持を集めたが、後継者ヒッピアスが暴政を敷いたことで長続きせず、 のちにクレイステネスが、借主の出現を防ぐ陶片追放を定めた。ペルシア戦争後には、将軍ペリクレスの下で成年男子市民による民会が最高機関となったほか、役職が抽選制となり、日当の支払いも保障されるなどして古代民主政が完成した。しかし、ペロポネソス戦争中にペリクレスが死亡すると、デマゴーゴスが台頭して衆愚政に陥り、次第に衰退した。
【総評】
かなりレベル高い。ビビった。(笑)
貴族政→財産政治→僭主政→民主政というアテネの政体変遷は読み取れる。まず「お題」についてはクリア。
語句についても、
・財産政治の起点となった改革の具体例としてのソロン
・追放された僭主としての具体例であるヒッピアス
・民主政が完成された時代の象徴としてペリクレス
・民主政が腐敗した時代の象徴としてデマゴーゴス
それぞれ取り上げられているので、ここにおいてもミスは無かった。
【変化・変遷と問われたときの対処法】
「変遷」・「変化」・「変容」を問われる論述問題は珍しくない。
多くの受験生は、或る歴史的現象について、「どのよう」に変化していくのかを具体的に記載するのに傾注するあまり、「なぜ」変化していくのかを記載することは怠ってしまう場合がある。これは説明的文章においてかなりの欠陥と言える。すべての現象は、「原因」があってこそ、生じるのである。
この論述問題においては、
(現象)ソロンの調停
(原因)市民が重装歩兵として機能し始めた社会実態と貴族政(寡頭政)という社会基盤の間に矛盾が生じた
(結果)財産政治の提唱=軍政上の等級を国政参与の権利と関連付ける。(武器は個人の負担であるというポリスの原則があり、市民の財力は軍事的な貢献度に直結するという意味で、重装歩兵戦術の確立したアテネに適合していたと言える。)
(現象)ペイシストラトスの独裁
(原因)ソロンは貴族と市民の対立を調停したのであって、貴族政という社会基盤を覆したわけではなかった。ゆえに、貴族と市民の対立は続き、その政治的混乱の中から独裁者が生まれたと言える。
(結果)中小農民の保護に努めたことは、ソロンの「負債の帳消し・債務奴隷の禁止」と同じく、のちの民主政完成の基盤となったと言える。
(現象)クレイステネスの改革
(原因)ヒッピアスなどの悪政を働く僭主の出現・ペルシア戦争=ギリシア世界存亡の危機
(結果)僭主出現を防ぐために陶片追放を実施・10部族制に応じた10名の将軍職の設置(抽選ではなく民会における選挙で選定。ペルシア戦争で活躍したテミストクレス・ペリクレスなどを輩出)
(現象)ペリクレス時代の民主政の完成
(原因)ペルシア戦争=ギリシア世界存亡の危機・重装歩兵の活躍・海戦の中で生まれた新戦術によって無産市民も活躍・市民の発言力の増大
(結果)両親がアテネ生まれであれば市民権(参政権)を獲得できるようになる。「民会の完成」とも言われる。また公職の抽選の徹底。
(現象)デマゴーゴスの出現
(原因)予想されるペルシアの再攻に対して、戦争を継続するか否か、主戦派と和平派の対立。
(結果)この混乱を機に、政権掌握の手段として、大衆に迎合する政治家が出現。ペロポネソス戦争においては、アテネの弱体ぶりが発揮される。
要約してしまうと、
なぜアテネにおいて民主政が完成したかについては、
「重装歩兵戦術の確立したアテネにおいて、市民の財力と軍事的な貢献度に直結させることは、市民の発言力の向上と政治参加に大きな意味を持った。武具は自弁の原則という実態にも適合していた。」
「また、中小農民を没落させない継続的な施策は、民主政の完成の基盤になった。」
「結果的に、ペルシア戦争に際して、中小農民は活躍した。海戦戦後、彼らは市民権を得た。」
と、言える。
アテネ政体の変化の原因を述べる際には、アテネの「重装歩兵戦術」「海戦における戦術」と「歴代の中小農民の育成」を軸に考えるとよい。民主政の衰退についても、戦争継続問題によるところが大きく、やはりペルシア戦争と合わせた考察をすると、それ以前の文章とのまとまりが生まれるだろう。
その意味では、
「ペリクレス期に民主政が完成したのは何故なのか。」
「デマゴーゴスが出現したのは何故なのか。」
以上についての、説明が欲しかったところです。
これまで、全国の皆さんに解答を送っていただき、それを添削をするという形式で、世界史論述に関する記事を作成してきましたが、とて有難いことに、多くの解答を送っていただいております。本当にありがとうございます。これからも、ドシドシ解答を募集していきますが、可能な限り「記事化されていない大学・学部・年度」であると大変喜ばしいです!!(笑)
これからも、皆さんのお力をお借りして、今までの入試で扱われた、世界史論述問題をできるだけ網羅していきたいですね。受験生の解答例を大量に集めた参考書ってのは無いですから。
どの程度の精度で書ければ、ライバルより秀でるのか、受験生レベルの神解答ってどんなもんなのか、逆に、どういう解答が不合格判定をされるのか、そんなことが分かるコンテンツって、無いんですよね。
個人的にも受験世界史に対する知見を広げたい。だからこそ、受験生の解答をメインとしたコンテンツを完成させたいと思っています。
そして、一人でも多くの受験生の一助になれれば、うれしいです。
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授業内容
① 400字論述の添削を基本に授業を行います。1日2題が基本です。1問追加しているのが通例です。
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添削レポートのサンプルは別紙にて(添削例 解説の例)
よくある質問
Q 授業は全何回で完成しますか?
A 個人差があります。志望する大学の合格点に達するまでが受講数の目安です。
その意味で早めの受講をお勧めします。早めの受講であれば、授業でカバーできる範囲が必然的に多くなります。受験直前の受講になってしまうと志望校の過去問に準じた予想問題もしくは志望校の過去問の添削を行うのが限界になってしまいます。
例 4月〜受験直前までの期間の受講 50回程度の講義 古代史〜現代史を詳細にできます。おおよそ100テーマを徹底的に授業できます。
例 10月〜受験直前期までの受講 20回程度の講義 (大学別の傾向を踏まえながら)頻出事項の整理を中心
例 共通テスト〜受験直前期までの受講 8回程度 志望大学の過去問の添削と受験本番におけるアドバイス
Q 論述問題をある程度解ける状態にしたほうがよいでしょうか?
A どのレベルであっても問題ございません。受講生の大半は論述初心者から始まっています。むしろ手遅れになる前に早めのご相談を。
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