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Surf’s-Up

音楽の話を中心に。時にノスタルジックに

Surf’s-Up
 Coldplay、3年ぶりのニューアルバム。通算5作目となる。前作同様、ブライアン・イーノが全面的にバックアップしているが、プロデュースと言うよりも、コラボレートに近いような形で参加している。アルバム制作は各地のフェスを回りながら行われたようである。


 前作のViva La Vidaから盛んにサウンド面での挑戦を続けている彼らであるが、今作でもその勢いはとどまるところを知らない。


 まず、耳を引くのは、まばゆいシンセ音だろう。シングルとなったEvery Teadrop Is A Waterfallでその予感はあったが、Paradise、Princess Of China、Don't Let It Break Your Heartなど極彩色に彩られたポップナンバーが増えた。でも、確かにきらびやかな印象はあるけれど、決して下世話に感じることはない。派手ながらも非常に丁寧にレイアウトしていて、またさらに曲のスケール感が増したような気がする。ただでさえ、破格のスケール感を持ったバンドなのに、いったいどこまで行くのだろう。


 そして、変わったと思うのがバックトラックと歌との「関係」だ。以前は歌メロありきなところがあって、クリスの歌が生えるためのサウンドプロダクションがなされていたように思う。それ故に、一番心に残るのは何よりもメロディーとクリスの歌声であった。しかし、今作ではクリスの歌と演奏の差異化があまり見られない。サウンドスケープの中にクリスの歌が見事に解け合っている印象を受ける。


 それ故に、以前に比べると、聴き手へのメロディーの浸透度はやや弱いかもしれない。自分も最初はややそこに物足りなさを感じた。しかし聞きこんでいくうちに、サウンドの奥行きや豊穣さがどんどん伝わってくるようになった。ある意味、今までの中で一番ナチュラルなアルバムかもしれない。


 印象に残った曲は、まず、軽快なノリのHurts Like Heaven。フジでも最初にやった新曲であるが、ややライトなサウンドでありながら、リスナーの手を引いて、彼らの世界に誘おうとするような吸引力がある。彼らの新機軸的な1曲になると思う。そして、シングルに収録されていたMajor Minus。ちょっとU2の影さえちらつきそうなギターリフの強い曲であるが、この骨太感も新鮮である。


 以前の彼らに近い曲はUp In Flamesだろうか。光の中で跪きながら歌うクリスの姿が浮かんできそうだが、この曲のことを考えると、今は胸がいっぱいになってしまう。そして、派手なサウンドプロダクションの裏側で、弾き語りに近い曲が良い味を出している。US Against The World、U.F.O、この2曲は素直に歌のメロディーに耳を傾けて頂きたい。


 結果的には、自分の不安を一蹴するような途方もないレベルのアルバムになったと思う。彼らの新作を楽しんでいくには、聴き手の物差しもどんどん更新していかなくてはならない。まだまだ、彼らとは長いつきあいが出来そうな気がする。そんな希望に満ちあふれたアルバムだと思う。


 ★★★★☆(7/11/11)






Surf’s-Up
 ハナレグミ、5作目のアルバム。 初回限定盤にはアルバム制作のドキュメンタリー映像が付いているが、これがなかなか面白い。まずプライベート・スタジオを永積タカシ自身が内装しながら作っていくシーンから始まるのだが、その過程がなんだかとてもリアルだったのだ。自分のイメージよりはずっとハンドメイドなもので、アナログのレコーディング機材を持ち運ぶなど、こだわりも随所に見られていた。


 完成したスタジオ「ちゃかちー」でほとんどのレコーディングが行われ、完成した11曲。オープニングは「あおい きれい」という素敵なギターインスト。そこから、ファンキーなシャウトで始まる「Crazy Love」はお得意のレゲエ調ナンバー。そこからはじけるラテン系「オアシス」でアルバムは最初のハイライトを迎える。陽気なホーン、高校生のコーラスも入って祝祭的なノリが心地よい。


 4曲目「Spark」からは少し落ち着いたナンバーが続く。5曲目「きみはぼくのともだち」は歌詞を原田郁子が書いているが、これが素晴らしい。永積タカシはこの曲について「大切なものを守ろうとするよりも、逆に捨ててしまう中で自分に残ったものが本物だと思う」という趣旨の発言をしていたが、今の自分があるがままの自分でいることを恐れなくなったのは、この歌の影響が大きいと思う。


 7曲目「ごっつあんです ~今夜はジュワイ欲中毒~」はこれまたバタ犬時代からお得意のパターン。スイートソウル調です。8曲目「か! た!! かたち!!!」はちょい下ネタが入ったファンクナンバー。意味のない言葉の響きが良い具合にはまっている。


 そして終わりの2曲は、非常に重い。10曲目「天国さん」は、永積タカシの祖父の葬儀の様子を歌っている。そこで見せる、自分の家族の見たことのない姿。息子でさえ知り得ない、父や母が「子どもになる」姿。そういうものが脈々と受け継がれていくという人間の環がふと浮かんでくるような感動がある。


 今作の中で一番自分の心に寄り添ってくれたナンバーは、ラストの「ちきしょー」。初めて聴いたときはボロボロに泣いてしまったが,「ちきしょー」という言葉に愛するものへの全ての感情が集約されていく,その瞬間何ともいえない気持ちになってしまう。この歌のように、本当に大切なものは形にならないのかもしれない。だからこそ愛おしい。それはわかる。でも、それ故に途方もない切なさもある。


 君が残した このおもいは


 教えた このおもいは


 いつも どまんなかにあるよ 忘れてなんかないよ




 今 生まれるものでいい 今 消えゆくものでいい


 形なんて残さないで 目を閉じて聴いていて




 こんなにも うれしい こんなにも かなしい


 こんなにも 愛しい 恋しいよ


 


 グッと くるよ ちきしょー


                     「ちきしょー」




 ★★★★☆(07/11/11)

Surf’s-Up
 最終日のフジ、ホワイトステージのトリとして圧巻のステージングを見せたWilco、2年ぶりの8作目。リリースに当たって、自分自身のレーベルを立ち上げた彼ら。新たな環境の中制作された今作は、そのどれもがウィルコらしくありながら、全体的には非常に新鮮な感覚をもたらしてくれる内容となっている。


 1曲目Art Of Almostはまさに、オルタナ・カントリーの王道のようなサウンド。不穏なノイズ、ループするリズムにアヴァンギャルドなシンセやストリングス、フリーキーなギターが絡んでいくという、Yankee hotel foxtrotが好きな人にはたまんない1曲。めちゃめちゃかっこいい。しかし、2曲目リードトラックとなっているI Mightはキャッチーなオルガンと四つ打ちビートの軽快なナンバー。と最初の2曲でこの振れ幅である。


 その後も、骨太で伝統的なアメリカン・ロックなもの、初期のシンプルなカントリーサウンド、あっけらかんとしたポップ調のものなど、実にバラエティーに富んだ内容となっている。


 優しげなメロディーにため息の出そうなSunloathe、ジェフのはねるようなヴォーカルがたまらなくポップに聞こえるDawned On Meこれぞギターロックと言わんばかりにわかりやすいリフを持ったBorn Aloneなど、めまぐるしく変わる曲調は、かつての彼らのアルバムと比較すると、落ち着いて聴けないかもしれない。でも、おそらく昔からのファンはそのどれもが、ウィルコであれば「あり」だと思うような気がする。


 というのが、彼らの歩みが伝統的なものの現代的あり方を探求する「旅」であるからだ。先人達の財産を受け継ぎながら単に守り通すだけではなく、可能性を探りながら、現代的なエッセンスを加えて鳴らすという一種の「冒険」でもある。ウィルコはその姿勢をかたくなに守り続けている。今作はその歩みの集大成のようなものだし、彼らの音楽的ポテンシャルの高さを改めて証明した作品でもある。


★★★★☆(6/11/11)





最近自分でも「えらい勢い」でレビューを更新してるなと思います。


ただ、これ、ずっと書きためていたものをまとめているんです。


ブログにアップしない間も、聴いたアルバムの感想はちょこちょこメモしていました。


昔は持ち歩いていたノートが主でしたが、今はそれだけでは追いつかなく


プリントの裏とか、ちょっとした余白にまで。


仕事中でもふと浮かんだらメモしています。


前は、これらが形にならなくても良いと思っていました。


形にする気分にもなれなかった。



でも、やっぱり形にしてみたらどうなんだろうと試しにやってみたら


これが面白かった。


やっぱりこれが好きなんだなと。



今は一人でいると、何かしていないと落ち着かない。


ボーッとすることができない、というかどうにも良くないことばかりを考えがち。


最近はいよいよ眠くならないと寝ることが出来なくて、寝る直前にお酒を飲むことが多くなりました。


タイミングが良いと眠れるのですが、ダメな日は本当に眠れない。


夜中の2時、3時は普通。


でも、昔貰った眠材に手を付ける気にもなれない。


そのせいもあるのだろうけど、自宅での大半の時間、パソコンに向かっています。


走ってるか、パソコンに向かっているか、ほぼどっちか。


そういう意味では、ちょっとした精神緊張の緩和にもレビュー書きはいいかもしれない。



今の状況は一つ良いことがあれば、二つ悪いことがある、そんな感じです。



それでも、ある程度、こともなげに社会で暮らせる自分は、強くなったなと思う。


涙をこらえ、前を向ける。笑い飛ばす。人のせいにしない。メールが来なくてもへこまない。


なかなかよくやっている。


今の自分は、そんなに嫌いじゃない。


大事な人がどんどん離れていくような状況でも、自分がある程度「自分」を認められるようになったのは


きっと良いことだと思う。





ずっとこの先も


よろしく!「自分」









Surf’s-Up
 Six. By SevenのChris Olleyのソロアルバム。とは言っても、純粋なソロアルバムとは少々違っていて、これまでリリースされた3枚のシングル、アルバムからクリス自身が曲をセレクトした編集盤である。Six. By Sevenについて知らない人もいると思うので簡単に紹介すると、英ノッティンガム出身で、ハードなガレージサウンドとサイケデリックなフィーリングを融合させた独創的なロックを鳴らしていたバンドである。1st,,2ndはセールス的には芳しくなかったものの、評論家やリスナーの間では高く評価された。その後ややメロディー重視のサウンドにシフトしたり、さらにハードにしてみたりと試行錯誤しながらも質の高い作品を作り続けていたが、全く売れず。一度解散し、復活したりもしたが今は詳しいことはわからない。


 自分は2nd,3rdあたりのサウンドが本当に好きで当時はかなり聴いた。ネットでは熱いファンがたくさんいたと記憶している。Chris Olleyはバンドのフロントマンで、ソロとしてコンスタントに作品を作り続けていたようである。Six. By Seven時代はアルバムによって作風の振れ幅が大きかったが、このソロではヘヴィなリズムとギターリフにダークなメロディー、エフェクトの入ったヴォーカルと後期Six. By Sevenのスタイルに近い楽曲が前半に収録されている。


 1曲目The Blackest Soulの重々しい展開はやや苦しいものの、非常に硬質で、サウンド面でのダイナミズムが強調された作りとなっており、ポストロック的なフィーリングが感じられる。重戦車のようなグルーヴは大音量で聴くとかなり気持ちはいい。


 6曲目Who Cares About Tomorrow Anywayからアルバムの様相は一変する。浮遊感のある美しいメロディーにアコギの流麗な音。まるでRuby Tuesdayを想起させるような1曲だ。Everything Disappears、If This Is Love That I'm Feelingとどんどんシンプルになっていき、Flyingでは前半のダークさが嘘のようにポジティヴな響きを持つようになる。Pissingなんて、ポール・マッカートニーが歌っていてもおかしくないくらい。


 やはり編集盤ということで、アルバムとしてもまとまりには欠けるし、曲によって出来に差があるのも否めない。しかしながら、間違いなく「原石」なるべきものがここには幾つもある。磨かないままでワイルドなままの光もなかなかいい。でも、しかるべき策を施して輝きを増した姿もやっぱり見てみたい。


 ★★★☆(6/11/11)




Surf’s-Up
 Clap Your Hands Say Yeahのサードアルバム。これまた前作から4年と、最近紹介するものはだいたい「4年ぶり」。オリンピックですか。まぁいいや。


 中心人物のアレックのソロ・プロジェクト、フラッシー・パイソンやほかのメンバーのバンド、アンインハビタブル・マンションズなど、ほかでの活動が盛んだった彼ら。これだけ、バラバラの活動が続いたにもかかわらず、今作は過去最高のバンド・サウンドになっているから面白い。

 まず1曲目Same Mistakeからぶっ飛んでしまう。ものすごくポジティヴなメロディーに疾走するシンセサウンド。アレックの歌も心なしか力が増したように聞こえる。ちらっとArcade Fireの影さえ見えそうだ。そしてその勢いは止まることなく2曲目Hystericalへとつながっていく。さらにハードエッジなサウンドになり、まるで別のバンドのようにも感じる。彼らの曲を聴いて、こんなに胸が熱くなったことはない。3曲目Misspent Youthになって、やや昔の面影を見せ始めるも、アレンジでここまでメランコリックに仕上げるとは思わなかった。


 といった感じで、まさにサウンド面での構造改革がなされたアルバムのようだ。これまでになくシンセが多用されていて、核的サウンドを担っている。そのせいか、彼ら本来のイメージに浮かんだ音をぶち込んでいくスタイルはやや様変わりし、1曲1曲のまとまりの良さが目立つ。それはある意味「らしくない」し、それによって彼らの独特なグルーヴ感があまり感じられないのも確か。


 でも逆に、彼ら本来の素晴らしいメロディーを素直に表現することに特化したアルバムだとも言える。そして、その結果非常に高揚感あふれるアルバムになった。なんか意味無くガッツポーズしたくなるような。また、まとまりは良くても、決して「お行儀の良い」アルバムではない。Into Your Alien Armsでの威狂うギターノイズが突き抜けていく感じは、リミッターを外さないとこうはならない。


 勢いのある曲が集まる中で、ソフト・サイケ・タッチのIn A Motelが良い味を出している。もう一つ二つこういうタイプの曲ああってもよかったかなと思った。しかし、インディーからメジャーになったかのような堂々ぶり。この辺は好みによって好き嫌いが別れそう。個人的には、今のスタイルは結構好きです。


 ★★★★☆(5/11/11)



Surf’s-Up
 Fowntains Of Wayne 約4年ぶり、通算5作目のアルバム。自分が彼らの存在を知ったのは2ndの「Utopia Parkway」。これは間違いなく、ギターポップの名盤。当時は彼らの音楽が嫌いな人は「心が石でできているに違いない」なんていうコピーもあった。どこまでも清冽な、パワーポップが実に心地よいアルバムであった。その後なぜがグラミーで最優秀新人賞(?)を取るなど、順調なのか何なのかというような感じではあるが、質の高いポップアルバムを作り続けてきた。

 なにせ、アダム・シュレシンジャーとクリス・コリングウッドという鉄壁のソングライター陣がいるというのが心強い。アダム・シュレシンジャーというと最近ではTinted Windowsで知られているかもしれないが、個人的には断然IVY。どのアルバムも本当に素晴らしい。女性ヴォーカルものをあまり得意としていない自分でも大好き。興味のある方はこちらも、


 相変わらず職人的ソングライティングはお見事。あとはそれを鳴らすアイディアなのだが、3rdや4rhあたりは、やや気負いが感じられるようなアレンジもあったが、今作では肩の力が良い具合に抜け、メロディーがふわっと空に広がっていくような、自然体のスタイルが揃っている。


  The Summer Place、Someone's Gonna Break Your Heartは両方ともシングルになっているだけあって、キャッチーかつエッジの効いた仕上がり。Cold Comfort Flowersのようなミディアムテンポの曲は過度に叙情的にならないようにあくまでギターを中心に据えたアレンジを施している。


 A Road Song、Workingman's Hands、Hate To See You Like Thisの3曲は彼らにしては正統派のロックアレンジ。カントリーテイストも漂わせる素朴な感じが逆に新鮮。今後こういうタイプの曲が増えてくるのも良いなと感じた。で、この3曲が続いた後にくるどキャッチーなRadio Barは、新たなアンセムとなりそうな予感。この後の曲がまた正統派なので、ちょっと浮いてしまってるところもあるが。


 どちらにせよ良質のギターポップアルバムであり、彼らの場合その基本線をこれからも貫いていくことだろう。それゆえのこの「打率」の高さには感服するほか無い。


 ★★★★(5/11/11)



Surf’s-Up
 The Vinesの5作目。デビューしてから、かれこれ10年近く経つんだけど、不思議とそんなに経っている気がしない。それこそ、来日ライブでクレイグが観客に悪態付いていたこともそんなに昔だと思えない。


 デビュー当時はNirvana meets Beatlesなんて身も蓋もない言われ方をされていたけど、僕自身は案外的を得ている表現だと思う。というのは、両バンドとも天性のソングライティング能力を持つメンバーがいるからだ。ギミックに頼らない、自然な形のメロディーが書ける。そういうものにはなかなか出会えるものではない。


 クレイグ・ニコルズは、天然のメロディーセンスの持ち主だ、僕はそう断言できる。彼らの曲を初めて聴いたのは1st「Highly Evolved」のGet Freeだったが、その時からもうとにかく音楽性よりもメロディーが耳に残るバンドだった。率直に言うと、2nd以降は苦戦している感は否めない。これだけ光り輝く楽曲がそろっているのに、どうしてもテンションのばらつきがあるのだ。クレイグの状態が安定しないということもあるのかもしれないけど、傑作を作れそうで作れない。ファンとしてはそういうもどかしさが常にあった。


 果たして、この新作はどうか。のっけからのクレイグのシャウトがたまらないロックチューンGimme Love、そしてこれまたクレイグ十八番の流麗なアコースティックナンバーLeave Me In The Dark。冒頭のこの2曲だけでも、自分は聴けて良かったと思う。人それぞれの感じ方はあるだろうが、自分にとっては奇跡のような野性味と美しさを持った2曲である。バンドにとっても新たなアンセムの誕生だと言っていいと思う。


 佳曲揃いなのは彼らの場合当たり前であるが、ただ、今作は少々この後が辛い。ラーガなイントロから、サイケなロックを聴かせるCandy Flippin' Girlやドラミングの激しさで圧倒するBlack Dragon、シーケンス音が飛び交う中ドライブするロックンロールFuture Primitive、いかにもジョン・レノン・ライクなサイケで甘いメロディーのAll That You Do、アコギ1本で歌われるGoodbyeあたりは光っているものの、それ以外の楽曲はやや弱さが目立ってしまう。


 そして、これもずっと続く悪い癖なのだけど、サイケデリックなテイストを出そうとすると、必ずといっていいほどやりすぎてしまう。残念ながら今作でもその癖が出てしまっている。どの曲かはあえて触れないが、どうしてもアルバムの世界観にそぐわないものになっているように感じる。


 ただ、やっぱりクレイグのメロディーセンスだけは未だ失われていないことは十分に証明されている。次作は曲のクオリティーを揃えて、プロデューサーを付けて、良い状態で制作に望んで欲しいと思う。


 ★★★☆(4/11/11)






Surf’s-Up
 カサビアン、通算4作目のニュー・アルバム。日本でも比較的人気のある彼らであるが、本国イギリスでは揺らがぬ人気で、このアルバムも当然のように全英1位になった。普段チャートなんてどうでも良い自分であるが、かつてBeady Eyeのファーストが全英1位になれなかったというニュースを聞いて、少し考えてしまった。あれだけザ・UKなロックアルバムが、しかもOasisファンなら間違いなく買い求めるであろうアルバムが1位になれない。本国ではそれだけ「ロック」に興味が無いのだろうかと、そんな事実を示唆していたような気がしたからだ。だから、このアルバムが1位になったことはいくらか僕を安心させた。


 アルバムの帯や宣伝文句にもやたらと「クラシック・アルバム」という言葉がある。これはインタビューでメンバーの口からも語られている言葉でもあるが、メロディーを基調としたアルバムを作りたいという考えが元にあったようだ。そして、その言葉通りのアルバムが完成した。


 元々抜群のメロディーセンスを持っているバンドだと思うのだが、彼らの場合それを凌駕するほどのグルーヴに耳が行きがちで、正面切ってメロディーについて語られることは無かったと思うし、むしろロック・グルーヴのカタルシスを追求するために、「グルーヴありき」のソングライティングがなされていたように思う。


 しかし、今作に収められている曲は、どこを切ってもあふれてくるのは憂いと哀愁を帯びた美しいメロディー。一発のドラで始まる、強烈なインパクトのLet's Roll Just Like We Used Toのサビのメロディーは彼らの書いた曲の中で最高のものの一つだと思う。メロディーにストーリーテリング能力があるというか、アルバムの世界にグッと引き込んでくれる1曲である。


 2曲目Days Are Forgotten はまさに彼らの王道的チューン。野蛮なグルーヴはより粗暴さを増しているものの、またそこにしっかりとしたメロディーがある。そして、3曲目。これだけを聴いたら、CD間違えたんじゃないかと思うくらい、スウィートなGoodbye Kiss。かつて無いほどの素直なメロディーがある。ほかにもエキゾチックな香りを漂わせるLa Fee Verte、Acid Turkish Bath (Shelter From The Storm)


 もちろん、Re-Wired、Switchblade Smilesのように「これぞカサビアン」というナンバーもある。ちょっとベクトルを変えただけで、ここまで素晴らしいものができることが驚きだし、「クラシック・アルバムを作る」という考え方は、今後のロックバンドの選択肢の一つとして大いにありだということを証明した傑作だと思う。


 ★★★★☆(3/11/11)






Surf’s-Up ハードファイ、4年ぶりのサード・アルバム。4年というのは最近の若いバンドの中ではスパンの長い方であり、その間にロックの潮流が変わってしまうこともあっただろう。バンドはその間活動休止状態にあったようだが、焦ることなく自分たちのタイミングでアルバムをリリースしてきた。


 制作に当たっては、スチュワート・プライス、グレッグ・カースティン、アラン・モウルダーの3人がプロデューサーとして関わっている。スチュアートはマドンナやザ・キラーズ、グレッグはリリー・アレンのプロデュースで有名。この辺の人選はよくわかる。しかし、マイブラやジザメリ、ナインインチネイルズなどノイジーでごついプロデュースというイメージのあるアランの登用は意外だった。しかしながら、彼らのポップ性やグルーヴをキープしつつ、エッジの効いたロックを作り上げたいという意図も感じられる人選である。


 元々は自分たちの音楽性を「ディスカ」なんていう名前を付けたりしていたが、今作ではいろいろなジャンルを消化してハード・ファイ流のビッグチューンに仕上げている。もうとにかく、どの曲もめちゃめちゃわかりやすい。


 1曲目Good For Nothingからもう全開。どこかファンク的なノリを感じさせる、意外とこれまでの彼らにないテイストであるが、サビで野郎どもが合唱するというスタイルはまさに彼らの王道。オリエンタルなシンセとブルースハープの絡んだ四つ打ちサウンドがたまらないGive It Up、the Crashの現代版的なStopなど前半はとにかく男気あふれるグルーヴで押していく。


 一転後半はやや様相が変わってくる。ビッグトラックに変わりはないものの、シンセがやや前面に出てくるようになる。ExcitementやLove Songなど最初はエレ・ポップかと思うくらい、きらびやかな音色のシンセが彩っている。個人的にはもう少しごつごつしている方が好きであるが、ラストのKiller Soundsは割と直球のギターロックで清々しく終わる。


 エレクトロな要素が増加しているが、ギターロックのダイナミズムとのマッチングを図ったサウンドは時々New Orderのようにも聞こえる。個人的には好みの音ではあるけれど、これが没個性につながらないようにじ今後に期待したい。これだけシンガロング必至のナンバーを並べてきたことで、バンドのポテンシャルの高さは十分証明されたのだから。


 ★★★★(3/11/11)