Surf’s-Up -32ページ目

Surf’s-Up

音楽の話を中心に。時にノスタルジックに

タイトルは星野源「そして生活はつづく」から拝借しています。


1月にある披露宴で流すBGMの選曲を依頼された。

人の披露宴で選曲をするのは,数えたら,これで3度目である。


しかし今回のは重く,かつ難しい。


今までは,完全にこちらのセンスにお任せされていた。
つまりは入場から退場まで,全てが自分のセンスで統一することができた。


こういうケースは,一気に選曲リストが頭に浮かぶし,なかなか好評であった。
中には新郎新婦が全く聴いたことがないようなアーティストの曲もあった。
意外と当の本人達は聴いていないんですが(笑),参会者に
「あの曲良かったね,誰の曲?」などと言われるとうれしかったものだ。


しかし,今回は後半部分の選曲なのだ。
キャンドルサービス,手紙,花束,そして退場。
こうなると,前半の流れが非常に気になる。


わかりやすく言うと,「バタフライ」や「てんとう虫のサンバ(古いね)」が流れた後,後半になって急にColdplayなんかがきて良いのだろうかという。いや,何が流れるのかは知りませんが。でも,自分の選曲はおそらくあまりメジャーなものではない。


頼まれた新婦さんの思いを大切にした選曲をしようと思っているが,
自分の選曲で場の空気を壊しかねないだろうか?


そう考えると,今回はえらいものを引き受けてしまった。


そしてよくよく考えると,自分のしていることは,頼まれたこととはいえ,ひどく差し出がましいことなのではないか,という疑問が湧いてきた。


披露宴はお二人のものなのだから,自分にできることと言えば,「こんなの流したら」とアドバイスするくらいのことなんだよな。


とりあえず,アドバイス的な感じでリストを渡すことにしたいと思う。

自分の考えたプレイリストはめちゃめちゃロックでした。

それから大分練り直しましたが、どうなんだろう?


前半の流れを考えた上で、そこから選ぶのはお二人の自由,ということで。

それ以上のことはできないですよね。

でも、センスの良いもの流してほしい。


こぼれ落ちたものは,自分の時にでも流そうかな(笑)

痛々しいですね。


あと,先日ブログにも書いた「遺言」的プレイリストはあっさりと完成した。


これは自分にとって大事な曲,というよりも,今自分が気持ちよいと思う楽曲
そして深く感動する曲に落ち着いた。


その時にひらめいた,という自分の感性を優先させた。

だから,ちょっといびつであるが,ぜんぜん満足である。

だって、いびつだもん。

Winding Roadだもん。


これを聴いて自分を感じられたら,とてもうれしい。

というか,感じてもらえるような生き方をしたいと思う。





僕が初めて付き合った人のことを最近よく思い出す。


マイブラとスロウダイヴ、ジザメリが好きな、まさにクリエイション・ガールだった。


彼女が大学1年生、僕が浪人生だった頃、僕らは別れた。

彼女が突然「イギリスに留学する」と言った。寝耳に水というやつだけど、

別におかしい話ではなかった。昔から外国志向が強かったから。


自分が札幌の大学に合格して、彼女を追って札幌に出ようとしていたときだった。

でも、そのことは悔しかったから伝えなかった。

これからのことを話し合ったときに、結論は一つしかなかった。


北海道を発つときに、空港まで送りに行った。

臆病だった僕は、友人を引き連れていった。迷惑なお願いをしたものである。

最後に握手をして、デッキで彼女を見送った。


札幌から旭川に向かう特急の中で聴いたThe Smiths。

Please, Please, Please Let Me Get What I Wantの時に

それまで気にしたこともなかった、歌詞が知りたくなった。

自宅に帰ってその訳詞を読んだとき、涙が止まらなくなった。

親が心配するほど泣いた。

そこでやっと、とてつもなく大事なものを失ってしまったことに気づいた。


僕はその後地元の大学に進学、それからまもなく友人から連絡が入った。

伝えたいことがあると。


彼女の留学はただの留学ではなく、パートナーを伴っての渡英だということ。

僕が傷つくから、そのことを絶対に隠して欲しいと、友人に頼んだこと。

友人は険しい顔をしながら、それらを僕に話した。


でも友人は、


そのことに腹が立ったんじゃなくて、彼女がそれを内緒にして僕の元を去ったことを

すごく後悔しているから、許してやって欲しい

彼女は僕を傷つけたくなくて嘘をついたんだ

それは優しさだよ


と言った。


本当は僕だってわかっていた。

それが優しさだって事も。


そのせいなのか、それからしばらく毎日彼女のことを考えていた。


迷ったあげく、僕は手紙を書いた。

彼女のことをずっと考えているのが苦しくなって、「声が聞きたい」と率直に書いた。


返事が来た。長い手紙だった。

もう彼女は察したようで、嘘をついた事への謝罪と、電話に出れる日時が書いてあった。


指定されたその日その時がやってきた。


でも僕はその指定された日に電話をかけることができなかった。

じっと電話機を見つめるだけだった。

あんなに声を聴きたかったのに。


それは、電話の向こうの彼女がきっと幸せだと思ったからだ。

幸せで楽しいから、彼女は僕の元を去ったんだと。

そんな彼女に何を言えばいいのか。


見たことのないパートナーと幸せそうな笑顔を浮かべる彼女が

電話をしようとすると目の前に現れる。

怖くて受話器を持つことも、ダイヤルすることもできなかった。


その後、僕の家に彼女から電話がかかってきた。

でも僕は、居留守を使って出なかった。


そして、それっきり。



自分にとって、その時の体験はすごく強いものとして残っている。



そして今


似たような状況が目の前にある。

どうして自分が本当に好きになった人ばかり、去っていくのだろうと思う。

今まさに、20年近く前の自分がフラッシュバックしてくる。


でも、今はもう優しい嘘やごまかしはいらない。


Arctic MonkeysのSuck It And Seeにこんな歌詞がある。


Be cruel to me cos I'm a fool for you

(俺につらく当たってくれ だって君に夢中だから)


そう、それくらいが良いんだ。「幸せだ」ってはっきり言って良いんだ。

でないと、痛々しくてやっていられない。


傷ついてボロボロになりかもしれない?

でも、やってみなくちゃわからないだろ。





そんなに良い気分ではありませんが。



昨日は結婚式がありました。昔一緒に学年を組んでいた方でして


割と天然キャラで、のびのびな人だと思っていたんですが


披露宴では意外と細やかな気配りを見せていて、驚きでした。


衣装替えも少なくて、どうしてか訪ねたら「式場をあんまり空けたくない」からだと。


なるべくみんなと一緒にいたいということです。


ちょっとそれを聞いて感動してしまいました。


BGM以外(いつもここ、一番の注目ポイント)は素晴らしい披露宴でした(笑)。




文藝春秋に尾崎豊の遺書なるものが掲載されていました。


「自殺」だとかどうとか、もう昔のことなので今更騒ぐことにどんな意味があるのかと思いますが。


でも、どういう形にせよ人は死ぬわけで、その時に「遺書」または「遺言」って残した方が良いんだろうか?


自分にはできそうにない。何を書いても逆に嘘くさくなりそうなんですよね。


人をいたわるような事を書いておきながら、自分の死のことでいっぱいいっぱいのような気がする。




だから、自分の場合は「音楽」を残そうと思う。


つまりは「プレイリスト」を作り、CDにでもまとめておく。


これが「俺だ」という。


その時の気分によって選曲も違うでしょうが、どれでも「俺」であることに変わりはない。


たとえ目の前から消えゆくことになっても、


それを聴いて時々自分のことを思い出してくれたり、お葬式の時にでもかけてくれたらうれしい。





今日は家で静養していました。というか、ただのんびりしていただけですが。


久しぶりに真剣にゴルフ見ました。


自分も一時期やっていたことがあって、今になってみると「なんでやってたのかな」と


思うことがあります。だって難しいんだもの。


ドライバーなんていくら練習しても上手くならなかったなぁ。


小技でまとめる、いやらしいゴルフを当時はしていました。




今夜は日本シリーズをがっつり見ようかと思います。


やっぱり日本シリーズはおもしろいと思います。空気がビリビリしています。


普段もこれくらい緊張感持ってやったらおもしろいんじゃないだろうか。


でも、身体がもたないか。


個人的にはソフトバンクが勝ちそうな気がするんですけどね。




野球関連で、先日から映画「マネーボール」が封切りとなりました。


これ前から見たかった。実話だっていうから。


「ソーシャルネットワーク」も、これが本当にあった、という事実だけでおもしろかった。


やっぱり実話のディテールは強いですよね。


野球をわからない人でも十分楽しめる映画だそうです。


すんごく観たい。



Surf’s-Up
 ニュー・ポルノグラファーズのダニエル・ベイジャーのソロ・プロジェクト、Destroyerの通算9作目。ラジオあたまさんに教えてもらったアーティストで、今作が初体験となる。調べてみると、アルバムによって作風がかなり変わるようで、初期の音楽性はローファイに近いものだったとのこと。


 今作では打ち込みサウンドに温度の低いビート、そこにメロウな歌と、かなり80'sのテイストが強いものになっている。そしてかなり大人の雰囲気が高い。キッズがこれを聴いて狂喜乱舞するっていうことはなさそうだが、40代50代の洋楽世代には広く指示されそうなほど、ポピュラリティーのある音楽になっている。


 1曲目chinatownからヨーロピアンなメロディーライン、艶っぽいサックスソロの響きに心奪われる。と同時にとても懐かしい気分になる。個人的ベストトラックはPoor In Love。アルバムの中で一番エモーションを感じる曲で、時折入るギターのスクラッチ音がたまらない。圧巻はラストのBay Of Pigs (Detail)だろう。4分以上の地を這うような低音の後、徐々にメロディーが形成されていき、最後は軽やかにダンスしていく。


 サウンドの醸し出す雰囲気がとてもムーディーで、ピッチフォークではスティーリー・ダンやロキシー・ミュージックなどの名前が挙げられていたが、ロキシーには確かに共通するものを感じる。おそらくだけど、まずアルバム・コンセプトがあって、その世界観を詳細に描くようなサウンド・プロダクションがなされているような気がする。そのため、アルバムのトータル性が優れている。ドリーミーで隙がないというか、虚構であってもそこに「美学」が貫かれており、映画を見ているような気分になる。

 でも、その徹底的に作り込まれた世界観を強く感じてしまうと入り込めなくなるだろう。そういう意味では適度な距離感で聴くのが良いかもしれない。上手く言えないけど、どこかつかみ所のなさもあったりする。


 ★★★★(13/11/11)






Surf’s-Up
 宮内優里のニューアルバム「ワーキングホリデー」。このアルバムを聴くまで、僕は宮内優里という人を知らなかったのだが、エレクトロニカの世界ではかなり知られた存在だそうで、高橋幸宏、高野寛、権藤知彦とのバンドTYTYのメンバーでもある。ライブでは生楽器とエレクトロを一人で操りながら演奏するらしい。また、ライブではその場で音をサンプリングすることもあるらしい。以前、フジでトム・ヨークが自分のヴォーカルをその場でサンプリングしループさせていたが、こういうのは今では普通にあるんですね。


 特設ページでは、このアルバムのことを「メロディトロニカ・アルバム」と表現されていたが、なかなか的を得ていると思う。明らかに構造はエレクトロニカ・アルバムであるが、YMO的オリエンタル風味なそのメロディーはとても柔らかく、日差しのように降り注いでいる。また、アコースティック系の生楽器とのレイヤーがそうさせるのか、無機質な音のはずなのに、どこか肉体的な質感を感じる。その感触が何とも良いのだ。YMOにも同じようなテイストを感じるが、演奏者の指使い、息づかいが音から感じられるのだ。


 このアルバムでは、アーティストとコラボしたヴォーカルものがいくつかある。そのできばえがどれも素晴らしい。中でも高橋幸宏との「Sparkle」、星野源との「読書」が秀逸だ。幸宏さんのは、今作の中で一番歌メロが生えている曲だと思う。「読書」は歌詞が素晴らしい。


 強烈な世界観を持っているというタイプの音楽ではない。が、聞き手自身の世界に入り込んできて、ちょっとした彩りを与えてくれるようなところがある。何とも心地よいアルバムであるが、音のエゴの薄さだろうか、ついつい聞き流してしまうこともある。でも、個人的には「聞き流せるアルバム」というのもあっていいと思うし、聴き方を限定するような音楽よりは良いかなと思っている。アーティストとリスナーの関係はともに自分に主権があると思っているくらいで良いと思う。


 ちょっと話はそれてしまったが、こういうメロディアスなエレクトロ・アルバムは非常に好みです。もっともっと注目されても良いんじゃないかと思いますが。ちなみに今日札幌でライブがあり、行こうと思っていたんですが、自分は結婚式参加のため行けませんでした。蛇足でした。


 ★★★★(12/11/11)











昨日のブログがちょっと重くて、自分でも「よくないなぁ」と思い削除しました。


ちゃんと冷静に書くと、血液検査の結果、ある病気の疑いがあるとのことで、改めて再検査を受けるよう勧められました。


まだ、その病気と決まったわけではないのに、自分ではすっかりその気になってしまったようで、昨日は落ち込んでいました。でもあくまで「疑い」であるし、日常生活で気をつけることもほとんど無いらしいので、そんなに深刻に考えることはないんですよね。


ただ、入院だ通院だで、今の時間を奪われることがとても嫌で。「人生長いんだから、ちゃんと治して・・・」と思うのは普通だし、正論なんだけど、今の自分にはすごく「今」が大事なときなんです。だから、願わくば後数ヶ月はどうにか乗り越えたいと思っているんです。


今のところ、支障があるほどではありません。割と元気ですので。誤解を招くような書き方をしてすみませんでした。


冗談を言いながらいつものように過ごしています。


メッセージ頂いた方、後で返信しますので。ご心配をかけてすみませんでした。

Surf’s-Up
 Real Estate のセカンドアルバム。彼らのことを調べようとすると、バンド名が邪魔してなかなか情報が見つからないのだが、彼らは米ニュージャージー出身の3人組。一昨年にリリースされたファーストは優しいメロディーと、ゆるめのギターサウンドが高く評価されていたが、The Morning bendersやAvi Buffaloあたりのバンドと比べるとやや地味な印象があるかもしれない。


 しかしながら、このセカンドは彼らの代表作とも成り得るほどの、素晴らしい作品だと思う。ノスタルジックなサウンドとメロディー、リヴァーブのかかったギターなど、前作と比べてさほど変わったところはない。しかし、モデルチェンジはなくても、各パーツが改良されている。


 1曲目Easyから、ノスタルジアの洪水と言わんばかりに、郷愁的なギターリフと、ソフトタッチの歌が鳴り響く。フォーカスをやや甘めにして、リフレインの多いメロディーラインが彼らの楽曲の特徴だと思うのだが、小細工的なものが無くて、非常に朴訥とした深い味わいがある。3曲目It's Realはシンプルかつメランコリックなギターロックで、サーフ・エッセンスの堂々たる据わり具合にドラムスの陰もちらほら見える。


 特筆すべきはどの曲も天然的な魅力にあふれていることだ。ピュアで瑞々しい感性がにじみ出ているというか、


衒いのなさが良い方向に働いている。この手の音楽には、計算が見えてうんざりしてしまうバンドもいたりするのだが、彼らは素直に思うがままに音楽を作り上げているような感がある。それでいて、音的には絶妙なさじ加減ができている。この「天然さ」は大きな魅力だ。


 ★★★★☆(11/11/11)



Surf’s-Up The Mountain Goats、通算18作目のアルバム。かなりのベテランバンドなのかと思ったら、結成して20年とちょっとらしい。ということは、毎年のようにアルバムをリリースしている計算になるが、自分は今作が初体験。USインディ、最後の大物と言われるジョン・ダーニエルを中心としたバンドでドラムのジョン・ワースターはスーパーチャンクのメンバーでもある。4ADからマージに移籍後初のアルバムがこのAll Eternals Deckだ。


 シンプルで歌心のあるロックを聴かせるバンドだ。USインディといっても、ローファイなテイストや非コマーシャル的な音作りは見られない。素直に良いメロディーと歌があるだけだ。それはある意味地味にも写るのだが、目立たなくてもこういう素晴らしいロックをギミックなしに聴かせてくれるバンドが、まだまだいるのだろう。本当にUSインディの裾野の広さを感じる。


 1曲目Damn These Vampiresは歌心のあるミディアムナンバーだ。シンプルながら眼下に景色が広がるようなスケールの大きいナンバーとなっている。2曲目Birth Of Serpentsもキャッチなメロディーと朗々と歌うジョンのヴォーカルが気持ちいい。しゃがれていないブルース・スプリングスティーンのようにも聞こえる。3曲目Estate Sale Signは一転してタイトなロックンロールナンバー。4曲目Age Of Kingsはもの悲しげなストリングスが緊張感をあおる。


 と、このような調子で曲調はある程度のヴァリエーションがある。が、基本的なトーンはフォークをルーツにしたシンプルなロックサウンドであり、そこがしっかりしているのでブレを感じずに聴くことができる。あと、ジョンのヴォーカルにも不思議な味がある。エモーショナルな歌い回しなんだけど、曲によってはルー・リードのようなクールなかっこよさがある。


 また、ソングライティングの力も素晴らしい。流麗で渋みのあるメロディーラインは、さすがベテラン、いや天才ソングライターのなせる技といったところか。噛めば噛むほど・・・の典型的好例。個人的には素直にアメリカンロックの良さを引き出そうとしている姿勢に、Wilcoあたりと似たものを感じる。


 ★★★★☆(09/11/11)











Surf’s-Up
 星野源のセカンド・アルバム。前作「ばかのうた」は,細野晴臣の名盤「Hosono House」をもじって「Hoshino House」と呼ばれたりもしたが,今作でも作風は大きく変わっていない。というか,この人の場合,作風が変わることはほとんどないだろうと思うのだ。ややマイナー調な曲が増えたような感じもするが,相変わらず、ほっこりしたアコースティックサウンドと「いい声」で、優しげな世界を作り出している。


 テーマは、当然の如く、「日常」や「生活」だ。ただ、生活や日常を丁寧に描いているわけではない。日々の営みを,本人のフィルターを通して描かれているだけだ。


 ただ、この「星野源」というフィルターが実にくせ者だ。そして、ここにある言葉、音は、僕の心にいちいち刺さってくる。


 例えば「変わらないまま」。ここにある青春期の孤独な風景。それは決して全てが自分と重なるわけではない。だけど、これを聴いていると中学生の頃、土曜の午後にステレオと向かい合わせになって一人FMラジオを聴いていた自分が浮かんでくる。また、「営業」における、外回りの悲哀。それもまた、自分とは違った世界の話なのだが、理不尽な要求なのに半分訳もわからず頭を下げている自分が浮かんでくる。一番刺さったのは「予想」という歌。「予想もできない日々が/僕をただ運んでいく/無念にもさよならできる/ほどに高い漂う場所/ほんとは少し帰りたくもなるよ/誰かが来ないかな/見つけてくれるかな」。これを僕は最初自分の今年の状況に置き換えてしまったが、これはおそらく大震災で突然命を失った人たちのことを歌っているのだと思う。


 暖かなサウンドと対称的な歌詞。でも、なぜか悲観的にならないのは、この歌達が決して下を向いていないからだろう。「布団」では「おはようが今日も言えなかったな/おかえりなさいはいつもの2倍よ」と歌われる。今がどうであっても、その先にあるものへ目を向けていけば、「日常」に押しつぶされることはない。そんな風にタフに生きている風景が全ての歌の中にある。


 そしてそこには必ずと言っていいほど「生」と「死」が存在する。「ステップ」「喧嘩」「ストーブ」など、直接的に死に触れている曲もあるが、これは前作を通して彼の表現の大きなテーマとなっている。僕は「どんな風に死ぬか」ということを描きつつ、それが実は「どんな風に生きるか」ということにつながっているように感じる。でも当然このテーマには終わりがないだろう。

 そんな風に生きることについての歌ばかりなのに、ちっとも説教臭さがない。そこが本当に素晴らしい。前作の「ばらばら」では「ぼくらはひとつになれない」と人と人との微妙な距離感を描いていたが、そんな彼の立ち位置が適度な距離を聴き手との間に作っているのだと思う。


 と、歌詞の話ばかりになってしまったが、サウンド的なことを言うと、星野源のマリンバが好きなので,聴けるナンバーが欲しかった。高田漣、伊賀航、横山裕章など名プレーヤーがバックアップしているが、適度な温度で世界観の微妙な色づけに徹している。


 今作も、自分の依存度の高さは半端ではない。この人の感性から発せられるものは、いちいち気になり、そしてはまる。


 ★★★★★(8/11/11)