Suck It And See! | Surf’s-Up

Surf’s-Up

音楽の話を中心に。時にノスタルジックに

僕が初めて付き合った人のことを最近よく思い出す。


マイブラとスロウダイヴ、ジザメリが好きな、まさにクリエイション・ガールだった。


彼女が大学1年生、僕が浪人生だった頃、僕らは別れた。

彼女が突然「イギリスに留学する」と言った。寝耳に水というやつだけど、

別におかしい話ではなかった。昔から外国志向が強かったから。


自分が札幌の大学に合格して、彼女を追って札幌に出ようとしていたときだった。

でも、そのことは悔しかったから伝えなかった。

これからのことを話し合ったときに、結論は一つしかなかった。


北海道を発つときに、空港まで送りに行った。

臆病だった僕は、友人を引き連れていった。迷惑なお願いをしたものである。

最後に握手をして、デッキで彼女を見送った。


札幌から旭川に向かう特急の中で聴いたThe Smiths。

Please, Please, Please Let Me Get What I Wantの時に

それまで気にしたこともなかった、歌詞が知りたくなった。

自宅に帰ってその訳詞を読んだとき、涙が止まらなくなった。

親が心配するほど泣いた。

そこでやっと、とてつもなく大事なものを失ってしまったことに気づいた。


僕はその後地元の大学に進学、それからまもなく友人から連絡が入った。

伝えたいことがあると。


彼女の留学はただの留学ではなく、パートナーを伴っての渡英だということ。

僕が傷つくから、そのことを絶対に隠して欲しいと、友人に頼んだこと。

友人は険しい顔をしながら、それらを僕に話した。


でも友人は、


そのことに腹が立ったんじゃなくて、彼女がそれを内緒にして僕の元を去ったことを

すごく後悔しているから、許してやって欲しい

彼女は僕を傷つけたくなくて嘘をついたんだ

それは優しさだよ


と言った。


本当は僕だってわかっていた。

それが優しさだって事も。


そのせいなのか、それからしばらく毎日彼女のことを考えていた。


迷ったあげく、僕は手紙を書いた。

彼女のことをずっと考えているのが苦しくなって、「声が聞きたい」と率直に書いた。


返事が来た。長い手紙だった。

もう彼女は察したようで、嘘をついた事への謝罪と、電話に出れる日時が書いてあった。


指定されたその日その時がやってきた。


でも僕はその指定された日に電話をかけることができなかった。

じっと電話機を見つめるだけだった。

あんなに声を聴きたかったのに。


それは、電話の向こうの彼女がきっと幸せだと思ったからだ。

幸せで楽しいから、彼女は僕の元を去ったんだと。

そんな彼女に何を言えばいいのか。


見たことのないパートナーと幸せそうな笑顔を浮かべる彼女が

電話をしようとすると目の前に現れる。

怖くて受話器を持つことも、ダイヤルすることもできなかった。


その後、僕の家に彼女から電話がかかってきた。

でも僕は、居留守を使って出なかった。


そして、それっきり。



自分にとって、その時の体験はすごく強いものとして残っている。



そして今


似たような状況が目の前にある。

どうして自分が本当に好きになった人ばかり、去っていくのだろうと思う。

今まさに、20年近く前の自分がフラッシュバックしてくる。


でも、今はもう優しい嘘やごまかしはいらない。


Arctic MonkeysのSuck It And Seeにこんな歌詞がある。


Be cruel to me cos I'm a fool for you

(俺につらく当たってくれ だって君に夢中だから)


そう、それくらいが良いんだ。「幸せだ」ってはっきり言って良いんだ。

でないと、痛々しくてやっていられない。


傷ついてボロボロになりかもしれない?

でも、やってみなくちゃわからないだろ。