星野源のセカンド・アルバム。前作「ばかのうた」は,細野晴臣の名盤「Hosono House」をもじって「Hoshino House」と呼ばれたりもしたが,今作でも作風は大きく変わっていない。というか,この人の場合,作風が変わることはほとんどないだろうと思うのだ。ややマイナー調な曲が増えたような感じもするが,相変わらず、ほっこりしたアコースティックサウンドと「いい声」で、優しげな世界を作り出している。
テーマは、当然の如く、「日常」や「生活」だ。ただ、生活や日常を丁寧に描いているわけではない。日々の営みを,本人のフィルターを通して描かれているだけだ。
ただ、この「星野源」というフィルターが実にくせ者だ。そして、ここにある言葉、音は、僕の心にいちいち刺さってくる。
例えば「変わらないまま」。ここにある青春期の孤独な風景。それは決して全てが自分と重なるわけではない。だけど、これを聴いていると中学生の頃、土曜の午後にステレオと向かい合わせになって一人FMラジオを聴いていた自分が浮かんでくる。また、「営業」における、外回りの悲哀。それもまた、自分とは違った世界の話なのだが、理不尽な要求なのに半分訳もわからず頭を下げている自分が浮かんでくる。一番刺さったのは「予想」という歌。「予想もできない日々が/僕をただ運んでいく/無念にもさよならできる/ほどに高い漂う場所/ほんとは少し帰りたくもなるよ/誰かが来ないかな/見つけてくれるかな」。これを僕は最初自分の今年の状況に置き換えてしまったが、これはおそらく大震災で突然命を失った人たちのことを歌っているのだと思う。
暖かなサウンドと対称的な歌詞。でも、なぜか悲観的にならないのは、この歌達が決して下を向いていないからだろう。「布団」では「おはようが今日も言えなかったな/おかえりなさいはいつもの2倍よ」と歌われる。今がどうであっても、その先にあるものへ目を向けていけば、「日常」に押しつぶされることはない。そんな風にタフに生きている風景が全ての歌の中にある。
そしてそこには必ずと言っていいほど「生」と「死」が存在する。「ステップ」「喧嘩」「ストーブ」など、直接的に死に触れている曲もあるが、これは前作を通して彼の表現の大きなテーマとなっている。僕は「どんな風に死ぬか」ということを描きつつ、それが実は「どんな風に生きるか」ということにつながっているように感じる。でも当然このテーマには終わりがないだろう。
そんな風に生きることについての歌ばかりなのに、ちっとも説教臭さがない。そこが本当に素晴らしい。前作の「ばらばら」では「ぼくらはひとつになれない」と人と人との微妙な距離感を描いていたが、そんな彼の立ち位置が適度な距離を聴き手との間に作っているのだと思う。
と、歌詞の話ばかりになってしまったが、サウンド的なことを言うと、星野源のマリンバが好きなので,聴けるナンバーが欲しかった。高田漣、伊賀航、横山裕章など名プレーヤーがバックアップしているが、適度な温度で世界観の微妙な色づけに徹している。
今作も、自分の依存度の高さは半端ではない。この人の感性から発せられるものは、いちいち気になり、そしてはまる。
★★★★★(8/11/11)