ニュー・ポルノグラファーズのダニエル・ベイジャーのソロ・プロジェクト、Destroyerの通算9作目。ラジオあたまさんに教えてもらったアーティストで、今作が初体験となる。調べてみると、アルバムによって作風がかなり変わるようで、初期の音楽性はローファイに近いものだったとのこと。
今作では打ち込みサウンドに温度の低いビート、そこにメロウな歌と、かなり80'sのテイストが強いものになっている。そしてかなり大人の雰囲気が高い。キッズがこれを聴いて狂喜乱舞するっていうことはなさそうだが、40代50代の洋楽世代には広く指示されそうなほど、ポピュラリティーのある音楽になっている。
1曲目chinatownからヨーロピアンなメロディーライン、艶っぽいサックスソロの響きに心奪われる。と同時にとても懐かしい気分になる。個人的ベストトラックはPoor In Love。アルバムの中で一番エモーションを感じる曲で、時折入るギターのスクラッチ音がたまらない。圧巻はラストのBay Of Pigs (Detail)だろう。4分以上の地を這うような低音の後、徐々にメロディーが形成されていき、最後は軽やかにダンスしていく。
サウンドの醸し出す雰囲気がとてもムーディーで、ピッチフォークではスティーリー・ダンやロキシー・ミュージックなどの名前が挙げられていたが、ロキシーには確かに共通するものを感じる。おそらくだけど、まずアルバム・コンセプトがあって、その世界観を詳細に描くようなサウンド・プロダクションがなされているような気がする。そのため、アルバムのトータル性が優れている。ドリーミーで隙がないというか、虚構であってもそこに「美学」が貫かれており、映画を見ているような気分になる。
でも、その徹底的に作り込まれた世界観を強く感じてしまうと入り込めなくなるだろう。そういう意味では適度な距離感で聴くのが良いかもしれない。上手く言えないけど、どこかつかみ所のなさもあったりする。
★★★★(13/11/11)