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Surf’s-Up

音楽の話を中心に。時にノスタルジックに

Surf’s-Up
 アトランタ出身のアーネスト・グリーンのプロジェクト、ウォッシュド・アウトのファースト。09年に宅録作品としてリリースされたEPが日本でも話題となったが、今回満を持してのアルバムリリースとなった。


 普段自分はチルウェイヴ、グローファイといった類のものはほとんど聴かない。決して嫌いなのではないのだが、正直なところ、どこかにあざとさを感じるものは自分には向いていないと感じるのだ。


 だから、このウォッシュド・アウトも最初はスルーするつもりでいた。しかし、視聴機から流れてきたものは、僕の想像するチルウェイヴとは違っていた。この音楽はあまりにも聞き流せない。


 基本的には流麗なメロディーに奥行きのあるシンセのレイヤーサウンド。そこにストリングスなど隠し味を効かせていくという形は特に目新しいものではない。80年代的音色のシンセでありながら、懐かしさを感じさせるものにはなっておらず、時代感にとらわれずに良いと思うものを使って音を紡いでいく、今の若い人らしい心地よい音だ。浮世離れしたドリーミーポップ、と簡単に言おうと思えば言えるだろう。


 しかしながら、このアルバムジャケットが示唆しているのかもしれないが、非常に生々しいというか、肉体的な質感を持ったシンセサウンドなのだ。ドリーミーなんだけど、どこか現実的な香りもするという、単に見かけがきれいな音楽に終わっていない。チルウェイヴの中には、大仰なアレンジで確信犯的な音作りをしているものが多いように感じているのだが、Washed Outにはそういうものを感じない。


 もちろん、見かけだけがきれいなもののことを「チルウェイヴ」と言うつもりはない。ただ、一般的にそう呼ばれているものと、Washed Outには、やはり何か違いがあるように感じる。その一つがその「肉体性」なのかと思ったのだ。あともう一つ考えられるのは、ポップ・ミュージックへの距離の取り方だ。


 ポップ・ミュージックは冗長であってはならない。与えられた数分間の中で持てるものを爆発させ、完結する。それこそがポップ・ミュージックの大原則だと自分は思っているのだけど、今作の各曲にも同じ雰囲気を感じるのだ。調べてみるとラストのA Dedicationは7分ほどあるが、ほかは皆4、5分の尺である。その制約の中でいかに爆発できるか、そんな意志の元に鳴っているように感じるのだ。


 と、いろいろ書いてみたけど、別にチルウェイヴがどうとかこうとか論ずることに興味があるわけではない。ただ、色濃いジャンル付けをされているだけで敬遠してしまうリスナーが世の中には結構いる。自分も含めてそうなんだけど、それが理由で聞かれないのは少々もったいないと思う。それくらい良くできたアルバムだと思う。


 ★★★★☆(3/11/11)





Surf’s-Up
 The Drumsのセカンド。割と短いスパンでのリリースはやや意外であったが、それは自分のように古いロックリスナーの固定観念なのかもしれない。自分のイメージとしては、シーンに影響を与えるようなファーストをリリースしたバンドは、「次なる一手」を打つのに十分に時間をかけるものなのでは、と。それこそThe Stone Rosesなんかまさにそう。でも、最近の若手はそうでもない。良い例がArctic Monkeys。彼らは未だにそれほど長いスパンをかけずに次々と良作をリリースし続けている。

 約1年ほどでこのセカンドが世に出たわけだけど、まずトーンの変化に気づく。1曲目Book Of Revelationはギターリフもビートも抑えめ。いたずらに高揚することなく淡々としている。2曲目Daysは、あのLet's Go Surfingを思わせるような心地よいイントロ、サビのメロディーも割と明るいが、無機質なドラムとベースがやや強めになっていて、それが郷愁感を誘う。4曲目Moneyはいち早く公開されていたトラックで、アルバムの中では割と1stのテイストに近いものであるが、独特のストイックさがあって、ポップ感は抑えめになっている。


 といった具合に、前作のあっけらかんとしたポップはやや影を潜め、内省的なトーンの曲が増えた。どの曲も軽快なテンポで進んでいくのに、聞き終えた後に残るものはかなりビター。ギターの音色もマイナーな感じで陰鬱な響きを持つ。それでも、やや捩れ気味に展開していくメロディーは今作でも健在。前作も僕が一番好きだったのはこの点だったので、そこが継承されていることはすごく嬉しい。ただ、リズム面ではまだまだ進化の余地がありそう。アルバムを通して、単調に感じられるところもあるので、もう少し緩急付けても良いような気がする。


 ほかに気になったのはHard To Love。シンセ中心のサウンドで、かなりエレポップ寄りに仕上がっている。何となくであるが今後はこういうタイプの曲が増えそうな気がする。あと、やや音響系的なサウンドデザインのIf He Likes It Let Him Do It。これはすごく好き。なんかSea And Cakeあたりと近いものを感じる。


 ★★★★(2/11/11)





Surf’s-Up
 Fleet Foxesの2nd。2008年にリリースされた1st「Fleet Foxes」が各雑誌やメディアで軒並み高い評価を得、バンドの存在がシーンの中で大きくなっていく中、アルバム制作は難航。当初2010年リリースだった予定は大幅に延び、やっと世に出ることとなった。

 「救いようのないブルース」と名付けられた今作。良いタイトルだなと思う。というのは、自分たちが無力であるということを嘆いているものなのではなくて、無力であるからこそ大いなる崇高なものへ身を委ねてみようという彼らのイデオロギーが感じられるからである。


 そしてそのイデオロギーの体現として音楽がある。実に自然体で音楽と向き合っているというか、無理や歪みの全くないサウンドは、ロック的なものを求める人にはひどく物足りないものだろう。しかしながら、このアルバムで鳴っている音は、今ここで鳴るべき理由を持っている。逆に言うと理由がなければここでは何も鳴らないのだ。


 美しいメロディーと、それを彩るコーラスワーク、オーガニックな響きを持つアコギやマンドリン達。サウンド面で前作から特に大きな変化はない。ただ、サウンドのレイヤーは前作よりもより洗練されたものとなっている。やや簡素になったように聞こえるかもしれないが、その分歌の強さが前面に出るようになった。


 シンプルでありながら、彼らの音楽は独特の神々しさを放っている。それは、教祖様や高い位置にいるような存在ではなく、僕らの日常に宿っていて、ふとした瞬間に、誰の前でも現れるようなものだ。まさに現代のゴスペルと言っていいかもしれないし、多くの人々にとって必要とされる音楽かもしれない。


★★★★(2/11/11)






Surf’s-Up
 米ウィスコンシン出身のシンガーソングライター、ジャスティン・ヴァーノンのソロ・プロジェクト、ボン・イヴェール。本作はセカンドに当たるが、日本盤のリリースは本作が初となる。08年にリリースされたファーストが雑誌やメディアで高評価を得、その存在が注目されるようになるが、日本での認知度はほとんどないだろう。

 まず、1曲目のPerthからして独特の世界観が広がるメランコリックなギター、はかなげなコーラス、そしてマーチングのようなドラミングに乗って、壮大かつ幽玄的な歌が展開する。荒々しさの中で、こともなげに美しいメロディーを紡いでいる姿は、まるで大海を涼しげに小舟で航海するような不思議なバランスを保っている。続くMinnesota, WIでは、ねっとりとしたシンセやホーンの中で、マンドリンをつま弾きながら歌っているのだが、これまた例えようのない味わいがあるのだ。


 途方もない美しさがあるかと思えば、その一方で説明の付かない不気味さがあったりと、曲の中で世界観が単一化されることがない。シンガーソングライターでありながら、圧倒的なサウンドスケープを描けるという点ではSufjan Stevensに近いものを感じる。スフィアンの場合は、どこまでも壊れていくアメリカを描くためにはどうしても混沌なるものを表現しなければならなかったわけだが、ジャスティンの場合は何がそうさせるのだろう?


 先ほど挙げたサウンドスケープであるが、過剰なドラムパターンやノイズがあるわけではないのに、曲によっては感情をたたきつけるような激しさが表現されている。これもまた見事だ。怒りや哀しみは人によって表現の仕方が違うことは重々承知であるが、静的なサウンドプロダクションで、ここまで激しい感情を表現している作品はなかなか無いと思う。


 そして、どの曲にも感じる凛とした佇まい。作風も幅広さがあって、ラストのBeth/Restなんて80年代のバラード・ロック(ChicagoとかTOTOとか)みたいだけど、一つのアルバムの中に、各曲のポジショニングがはっきりとしていて、流れも見事。中毒性も高く、2011年を振り返ったときに、必ず思い出される作品。大好きです。


 ★★★★★(1/11/11)




Surf’s-Up
 The Birthday,新メンバー、フジイケンジ加入後の初アルバム。通算5枚目に当たる。「日本語でかっこいいロックンロールをやるバンドは?」と聞かれると、まず彼らが思い浮かぶ自分だけど、率直にイマイアキノブというギタリストこそが、The Birthdayの肝だと思っていた。そのイマイが脱退した後にリリースされたシングル「なぜか今日は」は詞もメロディーもまさにThe Birthdayなのに、サウンド面では大きな変化があった。


 今までに比べると、切れの良いカッティングとソリッドな音色が楽曲の中でフィーチャーされており、なんだか新しいバンドのように聞こえる。ギタリスト一人変わるだけで、こんなにもロックンロールのテイストが変わるのかと驚いた。


 その変化はアルバム全体の感触にも大きな影響を与えている。1曲目Horoscopeでこれまでにないほどにタイトなロックンロールでアルバムは始まる。そしてそれ以降もテンポをあまり落とすことなく、ひたすら走り続けるように流れていく。


  その風通しの良さは、やっぱりこれまでにないもので、ある種の心地よさを感じる。また、Outlaw 2のようなリフはイマイのギターから鳴ることはなかっただろう。イマイの脱退が規定路線だったのか突然だったのかはわからない。しかしながら、それを絶対に肯定的に受け止めようという姿勢はこのアルバムからビンビン感じられる。今吹いている風に乗って、どこまでも行ってやろう、世界の終わりを見てきてやろう、というような迷いのなさは良い影響を与えていると思う。


 メロディーは今までのアルバムの中で一番ポップに仕上がっていると思う。Saturday Night Killer Kissなんかはアイドルが歌っていてもおかしくないくらいの歌謡曲の香りさえ感じる。BuddyやBaby You Canのような王道のロックンロールもサビの強烈なフックがすごく頭に残る。


 ただ、イマイアキノブの抜けた穴の大きさはやはり感じてしまう。イマイのねちっこくダーティーなギターがないと、どうにもThe Birthdayという感じがしないのだ。いいんです、すごくいいんだけど、この「えぐみ」の無さが・・・。


★★★★(1/11/11)




Surf’s-Up
 唐突ですが・・・

 いつも思うけど、Panda Bearってなかなかふざけた名前だと思う。なんか「エビ カニ」とか「サル チンパンジー」みたいな事ですよね。Pandaって、はっきり言ってBearじゃないですか。絶対強いですよ、人襲われたら死んじゃいますよ。なのに「かわいいかわいい」って、何かずるい感じが。


Panda Bear通算4作目になるソロアルバム。言わずとしれたAnimal Collectiveのメンバー。ソロ前作「Person Pitch」も高い評価(Pitchfork年間ベストアルバムで1位)を得た作品であった。


 アニコレとの差異性を考えると、まずは全体的な取っつきやすさがあると思う。もちろんアニコレにもポップ性は内包されているが、Panda Bearはサウンドスケープよりも、メロディーや歌ありきな面が見られる。朗々とした質感を持つメロディーはソロの方が明らかにクリアで親しみやすく感じられる。


 トラックの面では、サンプリングを減らし、生の楽器を多く導入しているそうだ。でも、さほど生の楽器のダイナミズムみたいなものはない。どの曲も巧みなコラージュが施されているように感じる。もちろん、それこそが大きな魅力の一つでもある。自分の場合、アニコレだとそのコラージュの質量だとかめまぐるしさに、聴き疲れてしまうことがあるのだが、今作はそれがない。


  ミックスを担当したのはソニック・ブーム。その影響なのか、どこか今作はMGMTと似た空気を感じる。アシッドがかったFreet Foxesみたいな独特の幽玄性のあるサウンドは、かなりクセになる。ラスト曲Benficaの美しさはめまいがしそうなほどだ。


 ★★★★☆(31/10/11)









Surf’s-Up
 Girls、待望の2nd。1st「Album」はおそらく自分にとって「生涯」の一枚となるであろう、最高の作品。奇跡的なほどピュアで瑞々しいメロディー、でもその源流をたどっていくと傷ついたクリストファーがポツンとギターを抱えている。そのコントラストの痛々しさがあってこそ、彼らの音楽はまばゆい輝きを放つ。このファーストはまさにそんな「奇跡」的な瞬間の「軌跡」であった。

 本作の前にリリースされた「Broken Social Club」から、録音環境がグッと向上し、音質がかなりクリアになった。また、音色の数も増えたことで、様々なタイプの曲を作ることができるようになったようだ。


 昔からのファンがまず驚いたのはDieだろう。Black Nightかというような骨太なハードロック調の曲を誰がやると想像しただろうか。歌詞は100%ネガティヴな、まさにクリスそのものなんだけど、さすがに面食らってしまった。でも後半の荒涼とした感じはすごく好き。Vomitも彼らにしてはかなりヘヴィーな部類かもしれない。ひたすら重いメロディー展開がGirlsっぽくないと思う人もいるようだ。2曲目のAlexもギターの音がずいぶんクリーンで、Girlsっぽくない、すごくまっとうなロック・チューンに聞こえる。


 もちろんGirls本来のロマンチシズムは健在。クリスの歌声は相変わらず頼りなげで今にも泣き出しそう。美しく60’sのポップソングを思わせるようなシンガロング・メロディーは1曲目Honey Bunnyから全開。個人的にはSaying I Love Youのシンプルさが最高。Hellohole Ratraceを思わせるMy Maの堂々っぷりもいい。


 ややファットになったサウンド面や冗長に感じられる曲展開に批判が結構あるようだが、個人的にはさほど違和感を感じなかった。確かに途中で曲調やテンポが良く変わる曲が、今作では多い。そういう曲が増えると、どうしてもトラックの完成度に注目しがちになる。お世辞にも洗練されているとはいえないサウンドプロダクションは確かに改善の余地があるかもしれない。


 しかし根本の魅力的な部分は変わっていないと思うし、どの曲にもクリスの癒えることのない傷の疼きがある。ざっくり言ってしまうと、愛する人にそばにいて欲しい、一貫してそれだけを歌っている。それは単なるワンパターンなのではなくて、クリスにとって音楽をやることだけが愛の渇望から来る痛みや苦しみを和らげてくれる手段なんだと思う。その疼きが消えない限り、Girlsは自身の音を鳴らすことができるだろう。


★★★★☆(30/10/11)






Surf’s-Up
 Kurt Vileを知ったのは、Mayさんのブログ
から。自分もKurt Vileの事はあんまり知らないのだが、元War On Drugsのメンバーで、今はソロ活動をしているとのこと。米・マタドールからのリリース。おそらく日本盤はリリースされていないと思う。


 アコギを抱えるモノクロの写真から、地味目のストイックな弾き語り作品なのかと思ったが、思ったよりも歌メロの立った、かっちりとした作りのアルバムになっている。

 1曲目Baby's Armsはアコギをつま弾きながらの歌にさりげない味付けが施された、心地よいアシッド・フォーク。真っ昼間から酩酊しているような白昼夢的世界が広がる。ドリーミーというよりは、妄想的な感じだろうか、ドラッギーでやや不健康な空気感がそこにはある。


でも2曲目キラキラとしたアコギの音色が眩しいJesus Feverは一転清涼感さえ感じさせる風通しの良いナンバー。まさにキラー・チューンとしても申し分のない曲になっている。意外とバラエティーに富んだ楽曲を作れる人だなということがわかる。


 実際Puppet To The Manのように渋くブルージーなロックもあれば、Society Is My Friendのように重々しいビートに乗せて歌われるスケール感の大きいナンバーもある。でも基本線はRunner UpsやPeeping Tomboyのようにアコギでぶっきらぼうな歌を聴かせるところにあると思う。実際自分もそういうシンプルな歌のほうにより魅力を感じる。


 ただ、バラエティー豊かな作品といわれるものの中にはどうにもトータルで見ると散漫に思えるものもあるが、このアルバムにはそれがない。むしろどんな曲をやっても必ずKurt Vileという人間の顔が見えてくるのだ。おそらくそれは、アコギの音からカートの歌声まで、独特の雰囲気があるからだと思う。親交のあるサーストン・ムーアに近い雰囲気を感じるのだが、どうだろう?人間の感情の深部に鋭く刺さってくるような音のように自分には感じられる。それはどちらかいうと痛みや哀しみを幾度も経験して生まれてくるような音のようでもある。


 そして、この人の書くメロディーも非常に好みだ。天然でシンプルな美しさがあると思う。これもまた辛い時期によく聴いたアルバム。ちなみにプロデュースにジョン・アグネロが参加している。オルタナ・グランジ好きな人に是非聴いて欲しいです。これ、ノイズのないグランジです。


 ★★★★☆(29/10/11)




















Surf’s-Up
 andymoriの3rdアルバム。前作「ファンファーレと熱狂」が素晴らしくて、僕自身andymoriを聴くきっかけになった1枚でもある。なんでも、CDショップ大賞も取ってしまったらしい、とは最近知りました。というわけで、今若手のロックバンドとしてはかなりの存在になりつつあるのだが、今作でもその歩みを止めることなく成長している様子がわかる。


 ロックンロールの熱情の赴くままに、駆け抜けるような11曲。1曲目の「革命」は1分半ほどの短い曲であるが、この曲が強烈なインパクトを持っている。というか、この1曲がアルバムで伝えたいことを体現している。


 「100回 1000回 10000回叫んだって 伝わらない 届かない思いは/100日 1000日 10000日たった後で きっと誰かの心に風を吹かせるんだ」(革命)


 今ある何かを、抑圧するものを破壊して、新たなものを、価値観を作り上げること。そんな一般的な革命の定義と、彼らの掲げる「革命」は少々意味合いが異なると思う。途方もないこと、無理かもしれないことでも、思いをぶつけ続けることで誰かに届くかもしれない。気の遠くなるようなことかもしれないけど、そんな事の繰り返しがやがて大きな風になる。その風こそが革命なのではないだろうか。


 このアルバムの各曲の中に、そんな「革命マインド」がかいま見える。愛する人の言葉を聞くたびに「死ねる」って思えるようになったり(楽園)、心のままにダンスし続けたり(ダンス)、はかない世界の中でも人や歌を信じようとする(Peace)。それらは全て、本当に小さいことなのかもしれない。でも結局、日々の中にある人々の祈りや営みだけが、「世界」を変える力を持っている。きっとそういうことなんだと思う。


 少々サウンド面から離れてしまったが、軽快なギターサウンドと親しみやすいメロディーは今作でも健在。わかりやすいサビを中心に据え、そこにシンプルなビートと3ピースらしい緊張感のあるアンサンブルを見せている。


★★★★(29/10/11)



Surf’s-Up
 Rockin' On 2011年2月号に「今こそUKロックが聴きたい」という特集で新人バンド7組が紹介されていた。で、そのテキストを元にネットなどで視聴したのだが、その中で1番興味を引いたのがこのWu Lyfであった。白い布で顔を覆い、メンバーに関する情報もほとんど無し。最初の印象は「Polyphonic Spreeみたいな感じかな」。マンチェスター出身とはいえ、同じ地元出身の偉大な先達たちとは似ても似つかぬスタイルのバンドだということだけはわかったが。

もちろん興味を引いたのは、その謎めいた素性だけではない。荘厳なオルガンにメランコリックなギター、なんともあくの強い濁声のヴォーカル、と音源もまた強烈であった。良いとか悪いとか判断する前の段階で「なんだこれは?」という思いで止まってしまうのだ。


 それから若干の時間を挟んで、ファーストアルバムがリリースされた。ここでは、自らの音楽性を「ヘヴィ・ポップ」と例え、幾分輪郭のはっきりした10曲が収録されている。しかし、あくまで「幾分」であって、相変わらず「?」が幾つも浮かんできそうなスタイルに変わりはない。スケールの大きい世界観をゴシック的に描いていくのかと思ったが、そうではなくてどちらかいうとコミュニティー的なレベルの世界観をアルバムから感じる。ざっくり言うとミステリアスなフーリガンのユナイト・ソングみたいな。

 ここでもやっぱり圧倒的な存在感を放っているのがオルガンとヴォーカルである。この二つはWu Lyfの世界観を体現するのに必要不可欠なものとなっている。つまりはそれだけ、この二つの描写力がすごいと言うことなのだが、裏を返すとギターやリズムがやや弱いとも言える。


 個人的にはいかにもUK的な薄いリヴァーヴのかかったギターは好きだし、良い味を出していると思うのだが、ここではサウンドスケープの一部として何とか存在している程度にとどまっている。リズムもそうで、もう少しインパクトのある何かが欲しいところだ。


 トラックのテイストやメロディーは結構光るものがあると思う。また、個性的な武器も持っているのだから、これよりもまだまだすごいものを作る力はある。もう一伸び、「聴かせる」何かを。


 ★★★☆(29/10/11)