Future Primitive/the Vines | Surf’s-Up

Surf’s-Up

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 The Vinesの5作目。デビューしてから、かれこれ10年近く経つんだけど、不思議とそんなに経っている気がしない。それこそ、来日ライブでクレイグが観客に悪態付いていたこともそんなに昔だと思えない。


 デビュー当時はNirvana meets Beatlesなんて身も蓋もない言われ方をされていたけど、僕自身は案外的を得ている表現だと思う。というのは、両バンドとも天性のソングライティング能力を持つメンバーがいるからだ。ギミックに頼らない、自然な形のメロディーが書ける。そういうものにはなかなか出会えるものではない。


 クレイグ・ニコルズは、天然のメロディーセンスの持ち主だ、僕はそう断言できる。彼らの曲を初めて聴いたのは1st「Highly Evolved」のGet Freeだったが、その時からもうとにかく音楽性よりもメロディーが耳に残るバンドだった。率直に言うと、2nd以降は苦戦している感は否めない。これだけ光り輝く楽曲がそろっているのに、どうしてもテンションのばらつきがあるのだ。クレイグの状態が安定しないということもあるのかもしれないけど、傑作を作れそうで作れない。ファンとしてはそういうもどかしさが常にあった。


 果たして、この新作はどうか。のっけからのクレイグのシャウトがたまらないロックチューンGimme Love、そしてこれまたクレイグ十八番の流麗なアコースティックナンバーLeave Me In The Dark。冒頭のこの2曲だけでも、自分は聴けて良かったと思う。人それぞれの感じ方はあるだろうが、自分にとっては奇跡のような野性味と美しさを持った2曲である。バンドにとっても新たなアンセムの誕生だと言っていいと思う。


 佳曲揃いなのは彼らの場合当たり前であるが、ただ、今作は少々この後が辛い。ラーガなイントロから、サイケなロックを聴かせるCandy Flippin' Girlやドラミングの激しさで圧倒するBlack Dragon、シーケンス音が飛び交う中ドライブするロックンロールFuture Primitive、いかにもジョン・レノン・ライクなサイケで甘いメロディーのAll That You Do、アコギ1本で歌われるGoodbyeあたりは光っているものの、それ以外の楽曲はやや弱さが目立ってしまう。


 そして、これもずっと続く悪い癖なのだけど、サイケデリックなテイストを出そうとすると、必ずといっていいほどやりすぎてしまう。残念ながら今作でもその癖が出てしまっている。どの曲かはあえて触れないが、どうしてもアルバムの世界観にそぐわないものになっているように感じる。


 ただ、やっぱりクレイグのメロディーセンスだけは未だ失われていないことは十分に証明されている。次作は曲のクオリティーを揃えて、プロデューサーを付けて、良い状態で制作に望んで欲しいと思う。


 ★★★☆(4/11/11)