イレッサは失敗(最終回)
10月31日午後から息切れが激しくなった。翌日予約外診療で呼吸器内科を受診、CT検査を受けて主治医が言うには「右肺転移が進行している」とのこと。確かに一部だった白い点は全面的に広がっている。白い多数の点であり、一面真っ白ではない。主治医の宣告「即、入院してください。」主治医には当初から「私は死を恐れていない。」「それよりよくわからないまま死ぬのは嫌だ。」と伝えており、信頼関係はできている。主治医の見立ては「退院はおそらくできない。つまり、この入院中に死ぬだろう」ということだ。PCR検査(結果は陰性)を受けて入院病棟へ。炎症緩和のためのステロイド点滴開始。イレッサは当然中止だが、タグリッソ3度目の投与をお願いした。3度目も少しは効くのかという好奇心にすぎないが・・・好奇心こそが私の生命だから・・・引退間際のプロ野球選手はシーズン終盤の優勝には関係ない試合の8回裏1アウト代打の打席に向かった。1点差で負けてはいるが、野手は彼しか残っていない。彼の打球は中途半端に三遊間に転がった。彼は全力で一塁に走った。間一髪セーフ!おまけに一塁手が球を弾いてベンチ側に・・・彼は二塁上で土を払った。次打者の打球は前進守備のセンターの前に落ちた。三塁コーチはストップの合図を出したが、彼は三塁に止まるそぶりも見せなかったのでコーチはやむなく手をまわした。センターからの返球はワンバウンドでキャッチャーに向かう。誰もがアウトと思うタイミングだった。彼は体をくの字によじりながらベースに指を伸ばした・・・判定はセーフ・・・同点だ。それでも意味のある走塁だったのだろうか。結局は負けたし、来シーズンの出場予定はない。しかし彼には「チャレンジ」以外の選択肢はなかったのだ。そして「引退します。」