「格納容器内の水素爆発」について現場では精度良く見積もっていると思います。が、
絶対に教えてくれないのでどの程度の破損レベルになるか勝手に想像してみました。

①2号炉の経過(原子力安全保安院発表)
 耐圧が4気圧程度の場合、気密が破れてもフランジや導入部から漏れるだけで
 恐らく「爆発」はしないと思います。またその後の水漏れが多いことも疑問です。
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②格納容器内の水素爆発がどの程度の規模になるか(1号炉のパラメーターですが)
 超粗くですが見積もってみました。
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参考
・原子力安全保安院資料
・Wikipediaエネルギーの比較
・Wikipedia爆風
など。

以上、格納容器内の水素爆発について
私が想像していることをまとめると

・爆発の場所や規模によりますが水素爆発そのものは燃料を大きく拡散はしない感じ?
 (水素爆発による破損規模は「格納容器は壊すが圧力は生き残る」というレベル?)

・ただし冷却系を破損する事は致命傷になりかねないので絶対に爆発させてはいけない。


・2号炉は圧力抑制プールで局所的に水素爆発を起こした可能性がある。
 (不幸中の幸いだった様に思える)
まず1号炉から順番に何が起こってどうなっているのか?
私が見ているポイントと今後の予想を書きます。御意見などあれば御願いします。

参考
・元東芝設計グループ後藤さんの資料(図の多くはお借りしました)
・原子力工学者からの声明
・原子力安全保安院の資料など

①そもそもは原子炉の冷却水は閉じたループです。2次冷却系のループに熱だけを逃がします。
 それが今漏れています。恐らく本体(1号機は小さい?)も配管も漏れがあると思っています
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②地震をきっかけに炉内の温度・圧力が上昇し冷却水水位が低下。燃料の70%損傷と推定。
 翌12日に圧力を抜くためベントを行う。その後水蒸気爆発で建屋が損傷しました。
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③一号炉格納容器。人が出入りする穴や導入系があり高温・高圧になればリークします。
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④設計値(限界):圧力容器88気圧/300℃、格納容器4.3気圧/138℃を越えると保証できません。
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⑤炉心には安全弁があり、ある圧力を超えると自動的に格納容器に蒸気などを逃がすそうです。
 制御棒を動かす導入部や中性子を測る計測器を入れる穴も多数あります。
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⑥そういう駆動部はだいたい弱いです。高温、高圧で「抜ける」とリークします。
 ただそういうリークは圧力差が小さいと見えなくなったり「ややこしい」のが普通です。
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⑦建屋に水素が充満し爆発したことは圧力容器→格納容器→建屋に漏れる(破損)ルートが
 初日~2日目にできた事を示します。現在も水蒸気が放出されている様です。
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⑧データがない時期もありますが格納容器の圧力は当初設計圧力を遥かに上回ったようです。
 その後破損が進んだと思われます。今は大気圧に近いレベルになっています。
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⑨ただし圧力容器の方は6気圧程度は保持しています。ある程度のシールド性は残ってる様です。
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⑩スリーマイル島の事故後の炉心の様子。燃料は炉内でギリギリ止まっていたそうです。
 これで45%の損傷との事なので1号炉はさらに悪い状態になっていると考えられます。
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⑪恐らくは溶岩の様に溶け落ち、炉心の底に溜まっていると思われます。海水を入れたので
 「岩塩蒸し」状態になっていたかも知れません。(3月25日からは淡水に復旧しましたが)
 「溶岩」の性質なのか、あるいは断続的な臨界反応が起こるせいか
 判りませんが2号炉や3号炉にくらべ温度がなかなか下がらない
 のが非常に気になる点です。

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⑫格納容器内の放射線量率が高いことも「単に冷えにくいだけ」で済ませない理由の一つです。
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⑬格納容器内雰囲気モニター(CAMS)は2系統あり「水素・酸素濃度」と「放射線量」を
 独立の2系統の測定装置で計測しています。(図は浜岡原発の故障時の資料から転載)
 1号炉のCAMの値は4月8日の余震の際100Sv/hを越え故障とされましたが翌朝に68Sv/h
 程度を表示していたことは国会議員からの質問で判っています。
 「絶縁状態の不備」と発表されていますがこういう計測系が2系統同時に、しかも同様
 の壊れ方をすることは私の経験上からは滅多にありません。生データの開示がされるまで
 私は東電の発表は信じず判断を保留しています。

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以上1号炉についてまとめると

・炉心本体とタービン建屋側配管の両方にリークがありそうだが、まだシールド性はある。
 逆に言うと気密性がある事により水素爆発の可能性をはらんでいる。窒素は必要。

・格納容器はかなりリークが大きく水も空気も漏れていそう。

・再臨界の懸念は払拭できない。(再臨界については次の記事に記載予定)

・水素爆発、及び再臨界により燃料が炉心を抜け水蒸気爆発を起こる可能性は排除できない。
 が窒素封入もある程度進んでおり、臨界も微小かつ断続的であれば炉心を抜ける程の発熱
 に発展するとは考えにくい。
仮に爆発した場合の規模は米、仏は恐らくシミュレーションで
 知っていると想像する。が、一般に公表されているデータから推測するのは不可能。

 特に「格納容器の温度」は重要であるので公開して欲しい。
 優先度の最も高いデータの1つと考える。


・復旧への手順は
 タービン建屋の汚染水除去→循環系の復旧→(もしも可能であれば)本体側のリーク
 の修理もしくは漏水を回収する機構の追加。空中への漏れは回収不可能?

最低1年~2年程度の冷却継続が必須であるが大きな余震がくると全ての計画が崩れる。
という感じに考えています。
4月に入り文部科学省が福島県内の学校、幼稚園などについて放射線量率について
調査を行いました。発表データとそれを図面にプロットしたものを以下に転載します。

福島県による福島県内の学校等における空間線量率測定の実施結果
http://www.mext.go.jp/a_menu/saigaijohou/syousai/1304814.htm

福島県内 1,600 箇所の放射線量を可視化してみた(物理系など?有志まとめ:地上1cm?)
http://d.hatena.ne.jp/oxon/20110411/1302473302

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こちらは等高線プロットにして補完したもの(地上1m)。線量率の高い(赤い)部分は
データが少ないので比較的巾広めに描いてしまってると説明されてます。
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上の2つ画像は元データは同じです。先日の米国エネルギー省の測定まとめとも
だいたい同じ傾向です。事故後1ヶ月近く経過した時点のデータですので今後はあまり
減衰しないと予想されます。あとは雨や風でどれくらい流れて減るか?という感じ。

1つまえの記事で平均0.6μSv/h以上の場合は本来管理区域に設定されることを書きました。
仮に緊急時の「20mSv/年間」ルールを許容したとしても2.3μSv/hが続くと許容量に達します。
現在それらすら上回る線量が市街地の多くの学校、幼稚園で観測されています。

さらに私が最も気にするのは
同じ校内でも場所によりかなり濃度に違いが有る点です。
子供や幼児が吸い込むことによる体内被曝は現在の空間線量率の指標では考慮されてません。
図は福島大学が行った調査結果で場所により2~3倍かるく違うことを示唆しています。
 http://www.rb.sss.fukushima-u.ac.jp/user/taka/radiation/
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今後雨などでどの程度線量が下がるか判りませんが、
福島市~二本松~郡山の学校、幼稚園はあと1ヶ月程度は
様子をみて、GW開けの授業再開を目標にするべきと考えます。

というか、1ヶ月くらい自宅学習にするとか第二夏休みにして自由研究させるとか、
勉強のさせ方は色々あると思うんですが、、、。

線量の分布は基本的には放出時から数時間~数日の風向きや降雨により決まる様ですが、
別の要素も有り得るかもしれません。ウクライナの麦畑とは挙動が違う可能性も排除せず
福島市~郡山の児童、妊婦については今後も注意が必要と思います。
①公営住宅への応募のしかた

以下は官邸HPの公務員住宅等への申し込み先です。
【お問い合わせ先(被災者向け公営住宅等情報センター)】
  ・TEL  0120-297-722(フリーダイヤル)
  ・受付時間 9:00~18:00

http://www.kantei.go.jp/saigai/hisaisya/20110327syukusya.html

国土交通省被災者向け公営住宅等情報センター
○電話番号:0120-297-722(フリーダイヤル)
○受付時間:9:00~18:00

http://www.mlit.go.jp/report/press/house03_hh_000048.html

個人的には茨城、埼玉、千葉、東京を希望するのが得だと思います。
(私なら福岡か大分か高知にします。住み心地が良いので、、)

原発から10km以内や町全体が消失した地域の避難は年単位になることは確実です。
インフラの不充分な状態で長期に持ちこたえるのは絶対に無理だと思います。
子供のアパートや親戚の家を転々とするのも結局破綻すると思います。

帰宅への期待、人間関係、高齢者の面倒、仕事、行方不明者の捜索、、
事情は個々人で違うと思いますが避難所の人口を減らす事にも貢献するはずです。

現状では原発から半径20km以内でないとこれら住宅への斡旋は受けられません。
、、仮に私なら、、、ですが、、、。福島県内は震度5~6ではないでしょうか?
・住宅をよ~~く見ると微妙な傾きなどないでしょうか?
・配管をよ~~く嗅ぐと異臭などしませんでしょうか?
・夜中によ~~く聞くと「きしみ音」などして寝れなくないでしょうか?
これらの何かがあてはまれば「立派な地震被災者」だと思います。
仮に私なら「堂々と」電話しまくります。



②避難や生活にかかる費用の証拠保全

本来は支度金を赤十字や国が1週間後に配るべきでしたが、その能力はありませんでした。
私なら預金があれば預金、他に公的融資や義援金などとにかく100万円をかき集め
生活の拠点を別につくり、用が有るときだけ被災地に戻ります。

移動や生活に要した費用の領収書、友人や親戚に借金した借用書、原発事故により
休業した日数など、あらゆる証明書を保管しておくべきと考えます。

今回の原発事故と放射線管理は、来年以降大規模な国家賠償訴訟の対象になると予想します。
放射線管理区域-Wikipedia
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%94%BE%E5%B0%84%E7%B7%9A%E7%AE%A1%E7%90%86%E5%8C%BA%E5%9F%9F

・緊急時の措置として基準を上げ下げしておりますが医学・法的根拠には疑問があります。
・実効線量が3ヶ月で1.3mSvを越える区域は本来管理区域に設定せねばなりません。
 (1時間あたり0.6マイクロシーベルト以上)


政府内及び公示にどういう手続きを取ったのか良く判りませんが、避難などの措置を
とらないことの非合理性は1ヶ月を経過し容認されないレベルになったと考えます。

なにぶん先例も想定もない事なのでどう転ぶか判りませんが、福島県内の相当程度
の事業者、住民は東電とそれを監督する国に倍書を求めることになると思います。
恐らくは大部分は調停になると予想しますが、今被っている正当な被害の証拠を
保全することだけは強く勧めます。
もし私が癌ではなく半径(こちらは風向きではなく「距離」です)
10km以内だったら?という仮定で思うままに書きます。

結論的には移住します。

以下は東芝とスリーマイル島で事故処理をした米原発大手ウェスチング
ハウス・エレクトリック(WH)が共同で出した廃炉までの見積もりです。
恐らく最も事故を理解するグループの見解と思います。

工期10年半で更地にする。というものです。
http://www.asahi.com/special/10005/TKY201104070573.html


東芝のは最も上手くいった場合の見積もりですが、それ程外れてないと思います。
ただ私は炉心が100℃以下になる「冷温停止」という落ち着いた状態になるのに
1~2年ほどかかるかも知れないと思っています。また、

ある段階で汚染物が飛散しない覆いを作るのではないかと思います。結果として
東芝より2~3年長い12~13年かけ更地にする。さらに土地改良と確認に
2~3年を要するとすると元に近い状態になるのは15年後頃と想像します。

しかし、それも次回以降に書く水蒸気爆発や水素爆発を回避できた場合の話です。
また使用済み燃料プールが破損し冷却に失敗すれば計画の全ては破綻します。


・1年後:冷温状態になるまで何があるか判りません。10km以内での生活は無理です。
 (ホントは荷物を取りに行くのも数ヶ月は待って欲しいくらいだと思います)

・5年後:炉心のフタを開けるまで高レベルな汚染流出の可能性がずっと続きます。
 また溶岩の様になった燃料を取り出す作業が延々と続くそばで暮らすのも無理です。

・10年ぐらい経つと:3kmぐらい離れた場所で物理的に生活は可能になるかも
 しれません。が、10km圏内で農産や漁業、病院、学校、、といった社会生活を
 再構築するのは事実上不可能と思います。

 地元はただでさえ高齢化と過疎化の進む地域だったはずです。一方東電は
 大量の放射性廃棄物を保管する場所に苦慮すると思います。ここからが本題ですが、

 「一時的な保管」と称して原発周辺から10km圏内にプールを作り廃棄物を保管し、
 「地元の雇用」と称して廃棄物の処理や管理に従事する仕事を作る。
 と私が東電なら考えると思います。
 半径10km以内の住民はそれに従事するかどうかの選択を迫られると思います。


次の記事でどこで?どうやって?暮らすのがいいか。費用はどうするか?記載します。
本来は1~2週間前にブログにかくべきでしたが躊躇があったので
この図が出るまで決心が付きませんでした。福島市方向で50km以内の
地域について避難の目安について記載してみます。あくまでも個人的な見解です。

転移性肺癌の1寛解例に関する研究、のブログ-DOE


3月30日~4月3日にかけ米国が飛行機なども使い計測した線量率です。
100レム=1シーベルトなので図の値を100で割るとmSv/hになります。
濃い黄色の値は2~12ミリレムなので0.02~0.12mSv/hという事です。
重要なことは距離ではなくベント(炉心排気)したときの風向きです。

まだヨウ素131が主な時期のデータなので来週には半分くらいになりますが
その後はセシウムが居残るのであまり下がりません。

・仮に0.01mSv/h(1時間あたり10マイクロシーベルト)の外部被曝が続くと
・半年で0.01mSv/h×24時間×180日=43mSvとなります。
・長期の癌リスクは0.043Sv×5%=0.22%、10万人あたり220人となります。

これは40歳以下、特に小児や妊婦には許容できないと考えます。

もしも私が福島市から原発の間で暮らしており仕事上やむを得ないなら
自分だけ地域に残り、奥さんと子供は最低50km以遠に避難させます。


原発から福島市方向以外の20km~50km以内の方は「まだ」避難は必要ないかも
しれません。しかし次に「ベント(炉心排気)」が実施された時の風向きに
よっては50km以内のどこかの地域が同様の状態になる可能性がありますので
作業の進展に注意が必要と思います。

そもそも原発に関わりなく人はかなりの確率で癌になります。ですが、
その時に他の要因だったのか?この上乗せ分の220人だったのか?
判別する事はできません。

「もしも半年間移住すること」でこのリスクを低減できるなら私ならします。
もしも今5μSv/h(10万人に約100人)以上?の地域の方は子供の移住を検討すべきと思います。
本来なら1~2週間早くこのアナウンスは出せました。今は後悔しております。
イレッサ訴訟についてMRICで配信して頂けました。

御意見をお寄せ頂いた方、並びにイレッサに関して有益な知見をご教授頂いた
方々に感謝申し上げます。ありがとう御座いました。

「Vol.83 ある癌患者から診たイレッサ問題の教訓と今後の医療に望むこと」
http://medg.jp/mt/2011/03/vol83.html#more

医療ガバナンス学会 上編集長ならびに関係者の皆様に感謝申し上げます。


尚、本稿は3月13日配信予定でしたが地震等の為?掲載が遅れました。
その間に東京地裁でも判決が下り「国とアストラゼネカの責任を認定」しております。

私は、国とアストラゼネカには反省すべき点もあるものの、法的に罰せられるにたる
根拠は無いと判断しております。

御意見、ご批判など引き続きお寄せ頂けますと幸いです。

study2007




ーーーーーーーーーーーーーーーーー以下 本文ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
医療ガバナンス学会 (2011年3月24日 16:00)

癌患者 study2007 (http://ameblo.jp/study2007/)
2011年3月24日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

 イレッサ訴訟は国とアストラゼネカ社が東京・大阪両地裁の和解案を拒否し2月28日に大阪地裁で判決が下りました。和解案では国の責任も認定しながら判決では国家賠償は認められないなど疑問点もありますが、本稿ではイレッサ問題から得るべき教訓と今後の医療に望むことを私の理解の範囲で記載致します。皆様の広範な御意見・ご批判など伺えますと幸いです。

1.イレッサについて:

私は2007年3月に多発肺転移を有する進行癌と診断され国立がんセンター中央病院で化学療法を開始しました[1]。初回治療はカルボプラチン+パクリタキセルでした。その後放射線照射と抗癌剤を繰り返しながら治療を継続しております。残念ながらEGFR遺伝子変異は無く私自身はイレッサ適応はありません。治療を開始した2007年以降もイレッサは広く医療現場で使われており、適応患者さんの経過を聞く度に羨ましく感じております。

近年改善されてきたとはいえ白金系やタキサン系抗癌剤の副作用が強いのは事実です。二剤併用レジメンは4~6コースが治療の目安で半年以上の継続は通常困難です。それに比べればイレッサの副作用は非常に軽微だと言えます。効果の程度や耐性までの期間に個人差はあるものの年単位の処方も可能です。2010年にはEGFR変異を有する手術不適応患者の化学療法として第一選択肢になりうることを示唆する治験結果も出ています[2,3]。イレッサは進行肺癌治療の現場にリスクを上回るメリットをもたらしました。その事実は現在も市販開始当時も同じだと思います[4,5]。大阪地裁の判決もイレッサの効能そのものは否定しておりません。

2.裁判の争点について:

判決では製造物責任法2条2項「指示・警告上の欠陥」が問われました。添付文書の記載が不充分で間質性肺炎の注意喚起が不充分だったという判断です。重要な項目は前の方に書くとの「通達」が根拠になった様です。もちろん原告が訴えたのは「文書だけ」ではありません。臨床試験や臨床試験以外で発生した副作用をアストラゼネカ社が軽視したこと。販売を急ぐあまり積極的な注意喚起を怠ったこと。また国がそれら副作用情報を得ていたにも関わらず承認時に深く考慮しなかった事、などの責任を追及しています[6,7]。

私も原告の指摘は方向性として正しいと思います。アストラゼネカ社も国も自らの判断と行動に反省すべき点がなかったか正直に振り返り今後の教訓とせねばならないと思います。その一方で、いくつかの抗癌剤を経験した癌患者としてイレッサの添付文書(初版2002年7月)に違法と言える程の不備があったとはやはり私には思えません。間質性肺炎の記述が2ページ目、重大な副作用の4番目に記載されているからといって、軽んじたり見落としたりすることは有り得ないと思うからです。

化学療法中に肺炎を併発することの恐ろしさは患者も医療者も文字通り骨髄に染みて感じています。間質性肺炎は一般には馴染みのない病名かもしれませんが、記述そのものが最大限の注意喚起です。レントゲンを頻回に撮り、また咳や熱に注意し主治医と相談しながら治療を行います。イレッサは一般の消費者が薬局で自由に買える薬剤とは違います。医師による処方と指示に従いながら投与をすれば他の抗癌剤に比べ決して危険とは言えません。確かに数万人が服用を経験した現在に比べ販売開始当時の知見が乏しかった事は事実だと思います。しかしながら間質性肺炎の恐れを隠したわけでは無く「頻度が不明」である事も含め添付文書に明記したアストラゼネカ社と、販売を承認した国に法的責任まで認定するのは行き過ぎだと感じます。

3.真の問題はなにか?:

販売後わずか2年半に500人以上が死亡した事実は甚大です。全症例を解析しないと明確なことは言えませんがイレッサ関連死が一定の割合で起こったであろう事は私も疑いません。ですが、その原因の全てが「添付文書の記載が目立たなかった」事だけに拠るとは恐らく誰も考えていないはずです。

○原告に限らず「夢の新薬」や「神の手技」を追い求める信仰が我々癌患者には無いでしょうか? 週刊誌やインターネットの情報は信じても腫瘍内科医の提案には耳を貸さない。内容を理解せず手術の同意書にサインをし「先生にお任せします」。日常的にそういった患者・家族を見かけないでしょうか。

○マスコミもプレスリリースを吟味せず無責任な報道をしなかったでしょうか? 例えば現在も「抗癌剤は効かない」とか「がんもどき」など証拠レベルの極めて低い情報が週刊誌に大々的に報じられ治療判断に悪影響を与え続けていないでしょうか。そういった出版社の過失責任はアストラゼネカの無過失責任とは比較にならないくらい重大だと思えます。

○また販売当時の医療現場に慢心は無かったでしょうか? ある原告の方の治療経過では間質性肺炎が明記されている新薬の、それも初回治療にもかかわらず「30日分処方して退院させ」前縦隔への放射線治療から僅か2週間後に服用を開始させています。こういったケースに見られるように医療者側にも経口抗癌剤に対する油断があったと疑わざるを得ません。

イレッサ訴訟は医療問題に対する裁判の限界をも示していると感じます。今回も癌治療の背景と土壌に横たわり続ける本当の問題を考え直す機会を逸しました。また癌患者の抗癌剤へのアクセスを更に悪くしたとも懸念します。「ドラッグラグを人質に取るのは卑怯」との意見もありますが、もしも今回の司法判断を受け入れるのなら今後は副作用の頻度とグレードを第III相試験で統計的に見極め、法令か通達に基づく字体、大きさ、字色、順番、などを忠実に守らねばなりません。承認までの期間と試験量が増大することはいわば数学的事実です。卑怯かどうかとは関連がありません。それは誰も望んでいないことでしょうし、とりわけ治療が必要な癌患者にとってはまさに死活問題です。

イレッサ問題を真に教訓とするならば、通常の裁判所の下位に医療問題を扱う調停機関として医師による医療裁判所を設けることを検討してはどうでしょうか? 第三者の医師・専門家が審理する合理的な判断の場をつくり、原則として責任追及よりも原因の解明、改善策の示唆、補償内容の提示を行う。希に起こる「故意」による医療事件などは通常の裁判所に廻し医師の職権の停止・剥奪なども行う。医療問題ではしばしば病院や医師の能力・資格についても国民の関心が集まります。これらの問題を国の管理・指導に頼らず医師の自治で解決できる様になれば国民はそれを受け入れると思います。医療裁判所は国民と医療の信頼関係を醸成する一助に成り得るのではないかと考えます。

4.患者が望むもの

患者が最も強く望むものは何でしょうか? それは「治癒すること」だと確信します。それは原告も同様だったと想像します。手術不適応進行癌における治癒とは癌に勝つ事ではなく、長期にわたる引き分けだと私は定義しています。例えば私は「診断から5年生存」をひとつの目標に設定しました。もしも世界中の抗癌剤や分子標的剤、ワクチン療法や高性能放射線装置など全ての武器を自由に使わせて貰えれば恐らく5年はクリアできると想像しています。さらに加速器駆動 BNCT(ホウ素中性子捕捉療法)などが開発費されれば10年生存も夢ではないと期待しています[8]。費用や治療待ち期間に制限されず全ての患者が個々に最適なルートを辿れば全生存期間は飛躍的に伸びると信じます。

仮に治らないとしても「望んだ延命・緩和治療がうけられる」ことは切実な要望だと思います。この部分が適切にフォローされない限り「夢の新薬」事件はいつでも起こり得ると思います。「がんもどき」騒動が沈静化しても繰り返し同様のスキャンダルや根拠のない代替療法が現れると思います。この状況を抜け出し科学的で負担に見合った医療を実現する為には何が必要でしょうか? 私は乗り越えなければならない壁が少なくとも2つはあると感じています。

第一の壁は医薬品・機器の承認制度です[9,10]。薬や機器の使用や保険適応を監督官庁が主催する会議や所管する独立行政法人(PMDA)で一元的に承認・審査するのは合理的ではないと考えます。薬事承認と保険適応とを切り分けることが最適な医療にアクセスする為の第一条件だと考えます。例えば科学的コンセンサスのあるコンペンディア(NCCN drugs & Biologics Compendium)に載った抗癌剤は自動的に保険適応するなどの制度導入を望みます[11]。ある患者に抗癌剤が有用かどうかは学術的研究を基に個々の治療現場で判断する以外にありません。私は4年にわたる治療の過程でその現実を学びました。また保険負担とすべきかどうかは、その医薬品や機器の必要性、費用対効果や地域性など考慮し県などの医療圏単位で医療費と医療現場の実状に合わせて調整すべきことがらだと考えます。

第二の壁は医療が分散している事です。進行癌の治療は通常何かひとつの特効薬や治療法では制御しきれない事も知りました。それぞれに高度な技量を持った複数の分野の医師に協力して貰う事が必須です。均てん化という政策は「分散化」の側面が強く、専門化と集約化が求められる現在の医療現場には対応できていないと思います。人口分布や疾病毎の統計を根拠とした効率的な医療施設の配置と専門医の育成が急務だと考えます[12]。

この二つの壁を乗り越える為に、患者(国民)も医療費や医師といった医療資源には限りがあることを思い直す必要があると思います。ランチバイキングに群がる様に医療に殺到し、全体のバランスを考えず「自分」達の薬や診療を声高に注文し続ける。こういった態度を改め「公」の医療を育てる自覚を持たない限り医療現場の疲弊は改善されず高度で合理的な医療の実現も程遠いはずです。

5.まとめ

イレッサ問題は「どこまで手を尽くしたのか?」がひとつの争点になったと思います。立場や考え方に差異があるのは当然ですが、少なくとも利益と不利益、目指すべき目標(容認できる事故発生率)などを定量的に話し合う必要があると思います。有限な医療資源(医療費、専門医、新薬開発に要する費用や時間)を度外視して究極の安全を求めるのは非科学的な幻想であることを国民は知るべきと考えます。「注意喚起が足りなかった」、「いや医学的には常識だ」という水掛け論でなく、癌治療における適切な合意点が発見されることを一人の癌患者として願います。

また、現実には医療事故も副作用死もゼロにはならないと思います。しかしながら医療裁判所や無過失補償制度などを設けることで患者や医療者のリスクと不満を最小化することは目指せるはずです。「お上」がいて一部の団体が陳情する、難しいことは医者や企業に丸投げで、何かあれば訴訟を起こす。イレッサ問題がそういった従来型の発想ではなく権限と責任の一部を「民と地域」に移管・分散し、現場の事実の積み上げにより科学的に運用される、そういう効率的な医療の実現を目指すきっかけになる事を切に期待いたします。


参考文献:
[1] http://ameblo.jp/study2007/

[2] Maemondo M, Inoue A, Kobayashi K, et al. Gefitinib or chemotherapy for non-small-cell lung cancer with mutated EGFR. N Engl J Med. 2010;362:2380-8.

[3] Mitsudomi T, Morita S, Yatabe Y, et al. Gefitinib versus cisplatin plus docetaxel in patients with non-small-cell lung cancer harbouring mutations of the epidermal growth factor receptor (WJTOG3405): an open label, randomised phase 3 trial. Lancet Oncol. 2010;11:121-8. Epub 2009 Dec 18.

[4] ZD1839, a Selective Oral Epidermal Growth Factor Receptor-Tyrosine Kinase Inhibitor, Is Well Tolerated and Active in Patients With Solid, Malignant Tumors: Results of a Phase I Trial. Journal of Clinical Oncology, Vol 20, Issue 9 (May), 2002: 2240-2250.

[5] Selective Oral Epidermal Growth Factor Receptor Tyrosine Kinase Inhibitor ZD1839 Is Generally Well-Tolerated and Has Activity in Non-Small-Cell Lung Cancer and Other Solid Tumors: Results of a Phase I Trial. Journal of Clinical Oncology, Vol 20, Issue 18 (September), 2002: 3815-3825.

[6] イレッサ薬害被害者の会 (http://homepage3.nifty.com/i250-higainokai/)

[7] 薬事・食品衛生審議会薬事分科会(平成14年6月12日開催分)議事録 (http://www.mhlw.go.jp/shingi/2002/06/txt/s0612-2.txt)

[8] 京都大学原子炉研究所、医療照射について (http://www.rri.kyoto-u.ac.jp/index/iryo.html)

[9] MRIC by 医療ガバナンス学会 vol 87 適応外薬品を何とかしないとドラッグラグはなくならない!! 卵巣がんのジェム (http://medg.jp/mt/2010/03/vol-87.html)

[10] MRIC by 医療ガバナンス学会 Vol. 225 「未承認薬・適応外薬検討会議」をガス抜きに終わらせるな! (http://medg.jp/mt/2010/07/vol-225.html#more)

[11] http://www.nccn.org/professionals/drug_compendium/content/contents.asp

[12] ドイツの医療制度について~透明性の高い理想的な保健医療制度 (http://www.hi-ho.ne.jp/okajimamic/m401.htm)

(本稿は3月13日配信予定だったものです)
ややふざけていますが、重要なことですし分かりやすいので載っけます。
理系のアンポンタンは「直ちには影響のない牛乳を飲め」と言うのではなく、普通の牛乳が飲める様に努力すべきと考えます。

study2007

「シーベルトに関する総統の見解」


「買い占めするならカネ送れ!」総統閣下はお怒りです!


「自分達にできることをしろ!!」
やっと「シーベルト」に慣れたかと思ったらついに「ベクレル(Bq)」が出ました。
予想された事ですが、今後いろんな食品や水にこの単位が使われると思います。

物理の現場では時々使いますが、通常食品が放射化する心配はしないので、
この際調べておいても良さそうです。今回報道された「基準」はおそらく
「緊急時における食品の放射能測定マニュアル」に規定されたものと思います。
http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000001558e-img/2r98520000015cfn.pdf

食材の食べ方や年齢、核種の半減期、蓄積時間など考慮し場合分けされていますが、
結局いろんな食品について1年間標準的な量を食べても(比較的感度の高い)
甲状腺において「年間3mSvを越えないように」逆算されている様です。

通常の値はこちらを参照。ヨウ素はそもそも対象外ですし牛乳なら0.03Bq/L以下、
あるいは検出限界以下ぐらいですので300Bq/Lを越えるのは確かに高いとも言えます。
http://www.kankyo-hoshano.go.jp/kl_db/servlet/com_s_index

どうやら「1年分あれこれ食べても年間の内部被曝が50mSv以下になるように」
という基準の様です。厳しすぎると言われていますが内部被曝50mSvは私には
小さいとは思えないのですが、、、。汗
転移性肺癌の1寛解例に関する研究、のブログ-ベクレル改











































放射能測定マニュアルから飲食物の制限値のページを抜き出します。
野菜については今のところは表面の付着物だと思いますが今後は
土壌などにも蓄積し非常に長期間気を使うことになるだろうと思います。

転移性肺癌の1寛解例に関する研究、のブログ


「1年間食べ続けた場合CT一回、、、」という時の1日あたりの摂取量を載せます。
毎日こんなにバランス良く食べたら健康的だな~などと眺めてしまいます。
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「1ベクレルの食べ物を摂取すると、これくらい内部被曝するだろう」と計算する
場合の換算係数。今のところヨウ素。そのうちセシウムが検出されるでしょう。
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これまでブログにまとめた放射線と健康リスクのイメージをマンガにしました。
積算のメカニズムや「しきい値」は誰にも判らないと思っていますが、一応、
「自然放射能程度は処理できる」と仮定しています。

バケツの底にちょろっと貯まった放射線が発癌に寄与するのかどうか?は
議論がある所ですが「そもそも貯まらない地域」の方は安全と信じます。


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