ボラQ15:『みんなの日本語』の第1課に「あの」が出ていて、第2課に「あれ」が出てきますが、「あの」と「あれ」の違いを聞かれて困りました。どう違うのでしょうか。また、「これ」「それ」「あれ」は近いものが「これ」、遠いものが「あれ」、その中間が「それ」と説明したのですが、それでいいでしょうか。
ボラとも先生A15:例文を見ればすぐわかるように、「あの」は次に必ず「方」「人」のような名詞が続きますが、「あれ」は次に「は」のような助詞が続きます。英語のような言語ではこのような区別がないのでわからない人が出てくることがありますが、次に名詞が来るかどうかで使い分けると説明すればすぐにわかってくれます。文法的に言えば、「あの」は連体詞、「あれ」は代名詞ということになりますが、「連体詞」という品詞は日本語にしかないので特に説明する必要はないと思います。
また、「こそあど」の使い分けですが、距離の違いとして説明すると以下のような場合に説明できなくなってしまいます。
①A)背中かいてくれない?
➀B)どこ?ここ?
➀A)うん、そこそこ。
➀の会話で、かゆい場所はかゆがっているA自身の体ですから、当然BよりもAに近いわけですが、Bは「ここ」と言い、Aは「そこ」と言っています。
このような場合は、「こ」は話し手の勢力範囲(territory)、「そ」は聞き手の勢力範囲、「あ」は両者の勢力範囲の外と説明するのがいちばん正確なのですが、初級の最初のレベルでは、「こ」は話し手の近く、「そ」は聞き手の近く、「あ」は両者から遠いものと説明するほうがわかりやすいと思います。
また、上記の「勢力範囲」の説明は話し手と聞き手が向かい合って話している場合(対立型)ですが、次のようにタクシーに乗っているときの「同一方向」を見ながら話している運転手とお客の次のような会話(融合型)では、むしろ距離の違いとして説明したほうがわかりやすいでしょう。
②A)【お客】そこ/あそこの信号の角にコンビニが見えますか。
②B)【運転手】はい。
②A)【お客】そこ/あそこで降ろしてください。
上記のような「こそあど」は目に見える事物や場所の場合の用法で、会話の現場にある事物を指し示すため「現場指示」の用法と言います。それ以外に、「こそあ」には独り言や前後関係からわかる(目に見えない)事物を指し示す次の例文のような「文脈指示」という用法もあります。
③A)「あのひとのママに会うために今ひとり列車に乗ったの」
(「ルージュの伝言」歌:松任谷由美)
③B)「あの頃はふたり共なぜかしら世間にはすねたよな暮らし方」
(「古い日記」歌:和田アキ子)
日本語教育では「現場指示」は初級の最初の段階で必ず教えますが、教科書によっては「文脈指示」をきちんと教えないものもあるため、上級になっても次のような間違いをする人もいます。
④A)みんなでフィエスタに飲みに行こう。
④B)え?あの店、どこにある?
(注)この記事は2019年12月4日に一部変更したものです。