形容詞(イ形容詞)の否定形について | ボラとも先生のブログ

ボラとも先生のブログ

このブログは日本語ボランティアを始めた人、やっている人が疑問に感じたこと(特に文法など)について説明するために作りました。

ボラQ14:イ形容詞の過去形「かったです。」と過去の否定形「寒くなかったです。」を勉強したときに、「です」はなぜ「でした」にならないのかと聞かれました。どうしてですか。教えてください。

 

ボラとも先生A14:形容詞(イ形容詞)の丁寧体は、昭和27年(1952年)の「これからの敬語」(国語審議会)で、「形容詞+です」という形が正式に認められましたが、この言い方は明治時代に方言または書生言葉として東京で使われ始め、徐々に広がっていったものだそうです。

 

それまでは「(形容詞の)ウ音便+ございます」が正式なものとされていましたが、現在では「お寒うございます」などはあまりに丁寧過ぎると感じられるようになったため、「ありがとうございます」や「おはようございます」などの挨拶言葉に残っているだけで、普通の会話では使われなくなりました。

 

注意しなければならない点は、「これからの敬語」で認められた形容詞(イ形容詞)の丁寧体は現在形の肯定表現だけであり、過去形や否定形については触れられていませんでした。そして、形容動詞(ナ形容詞)の丁寧形は今までどおり「です」を次のように活用させました。

 

①A)【現在・肯定】「~です」

B)【現在・否定】「~では(じゃ)ありません」

C)【過去・肯定】「~でした」

D)【過去・否定】「~では(じゃ)ありませんでした」

 

これは形容動詞(ナ形容詞)がほとんど名詞と同じような性質を持っていたので、特に問題はありませんでしたが、形容詞(イ形容詞)は活用形があるので名詞よりも動詞に近いことから、形容動詞(ナ形容詞)と同じパターンで活用させて、たとえば、「高いでした」「高いじゃありません」などにするには心理的な抵抗が大きかったと思われます。

 

そこで、選ばれたのが、「です」を否定や時制とは無関係なものにして、完全に丁寧さだけを表す語尾にしてしまう方法です。つまり形容詞(イ形容詞)の普通体(丁寧体ではない文体)の活用形全体(以下の②の「…」で囲った部分)に「です」を付け加えることにしたわけです。

 

A)【現在・肯定】「~い」+です

B)【現在・否定】「~くない」+です

C)【過去・肯定】「~かった」+です

D)【過去・否定】「~くなかった」+です

 

この方式は非常に簡単で便利ですが、②B)の「~くない」という語形自体が、形容詞「~い」の連用形(動詞や形容詞に続く形)である「~く」に、否定の形容詞の「ない」が付いた形だと分析できますから、この否定の形容詞「ない」の代わりに、存在の動詞「ある」の丁寧な否定形「ありません」(現在形)と「ありませんでした」(過去形)を付けた~くありません」と「~くありませんでした」も実際はまだ使われていますから、次の③B)と③D)も少なくとも聞いてわかる必要があります。

 

③B)【現在・否定】「~く」+ありません

D)【過去・否定】「~く」+ありませんでした

 

以上、イ形容詞の否定形に付く「です」が「でした」にならない理由を説明してみましたが、学習者に説明するには少し難しいかもしれません。ただ、上記のような事情があるために、イ形容詞とナ形容詞の活用タイプが違っていることは学習者にとって難しくなっているとも言えます。

 

最近は「です」は名詞と形容詞に付け、「ます」は動詞に付けるという原則が揺れてきており、特に動詞の否定形は「~ません」と「~ないです」が使い分けられているという調査もありますから、将来はすべての丁寧形が「です」になって、「ます」が使われなくなる可能性も考えられます。

 

(注)この記事は2019年11月27日に一部変更したものです。