「気楽な飯ですよ?あんま気負わないでYESって言ってくれれば。」
ジュンさんはそう言って、いつものキラキラした笑顔で首を傾げる。
まるで爽やかな風に正面からぶつかられたように、一瞬首から上が煽られる。
シパシパと瞬きしてから、口の中に入ったままになっていたいんげんの胡麻和えを飲み込む。
「い・・・えす。」
「ふはは。やった。」
低い声でそう言うと、ジュンさんは満足そうな顔で食事を続ける。
食べ物を頬張っていてもカッコいい人っているんだな、などと考える。
そうだ、やっぱりジュンさんは好みの顔なのだ。
「翔がね。」
「ん?」
「翔が、最近よく言ってるんですよ。智さんの専属のセラピストになって全国回っちゃったりしてね、ははは!とか。飲むたびに言うから多分本気。」
「・・・へえ。」
「それで俺が、じゃあ俺はマネージャーになって一緒に回るわって言って。プロデューサーでもいいけど。」
「ふふ。」
あまりに突飛な話で笑ってしまう。
それは楽しそうだけど、別に全国を回るようなアーティストを目指しているわけでも、ダンスでそんなことができるとも思っていない。
「智さんは、夢とかってあるんですか?」
「夢・・・あんまないかな。今くらい食えてたら満足だし。」
「へえ、もったいない。俺、智さんの振付すんげぇ好きです。しかもそれを一番うまく踊れるのが智さんだと思ってます。」
「ふふ。ニノと雅紀は・・・あ、俺の仲間の、 」
「動画一緒にやってる?」
「そう。あいつらは、もうちょっと真剣に考えてるんですけど。俺はどうしてもひとつのことにずっとは無理で。」
「そうなんだ。他になにやるんですか?」
「他は金にならない趣味です。釣りとかキャンプとか絵とか。けどやんなきゃ生きてけないから、あんま忙しくなりたくないんですよね。」
「・・・そっか。」
ジュンさんはなにかを真剣に考えるそぶりで、お弁当に箸を添えたまま黙り込む。
伏せたまつげが長い。
目をそらすために壁の時計を見る。
休憩はあと15分ほどで終わる。
半分ほど残っているお弁当に集中する。
ジュンさんはなにも言わない。
食べる様子もないけれど、とりあえず踊りの再開前に5分は欲しいと、話しかけることもせず食べ続ける。
銀鮭が旨い。
すごく気を使って選んでくれたのだと分かる。
ジュンさんを見る。
いつのまにか、また食べ始めていた。
「いいかげん俺に相談したらいいじゃん。」
ソファに片腕をのせて床に座るニノが突然言う。
また突然やってきて、お茶をいれろと言って和菓子を差し出してきたのだ。
「あ?」
「無理やり聞かないでいいやと思ってたのよ?けど、もう悩み過ぎてんじゃん。俺が大福食べながら聴いてやるって言ってんの。」
「・・・偉そうに。」
「こうでもしないと自分からは言わないでしょうが。」
「・・・・。」
その通りだし、そろそろ一人で悩むのにも限界がきていたのも事実だった。
ニノはいつもタイミングよくこうしてやってくる。
「言い出すのムズイなら質問形式にする?」
「・・・ん。」
「んじゃあ、それはあのマッサージセラピストのことですか?」
「・・・はい。」
「ん~、告白をしたいのですか?」
「・・・されました。」
「は?!じゃあなに悩んでんの?好きなんでしょ?」
「好きだね・・・。」
「あれ?」
ニノは頬に手をすべらせながら、優しくも鋭い目線を向けてくる。
今のこの気持ちをどう伝えていいのか分からない。
自分でも分かっていないのだから。
(つづく)