満面に笑みをたたえた潤が両腕を後ろにして僕の前に立っている。

 

 

「智、今日はなんの日でしょう。」

 

なんで毎年、潤の方が嬉しそうなんだろう。

もちろん僕は潤に今年も祝ってもらえることを喜んでいた。

 

 

「ふふふ。さー、俺にはちょっと。」

 

「はあ?ふざけんな。ちゃんと答えて。」

 

「んー。ああ、もしかすると、俺が14年前に生まれた日?」

 

 

「大正解!!ハッピーバースデー!!」

 

 

潤は更に笑顔を大きくすると、不器用に包まれたプレゼントを僕に押し付けるようにしてくる。

僕はそのところどころクシャクシャした包みを受け取ると、努めて冷静にお礼を言う。

 

 

「毎年ありがとうございます。今年はなにかな。」

 

「まあ、落ち着いていられるのも今だけだぞ。開けたら俺に抱きついてくるかんな?」

 

「ホントかよ?」

 

 

いい考えだな。

なんて考えながら、ニヤつくのを我慢して家の前の道路に座り込む。

 

 

「あ、中入る?」

 

リボンに手をかけてからふと思いついて言う。

 

 

「ん?どっちでも。今日そんなに寒くないし。」

 

「や、部屋行こうぜ。万が一抱きつきたくなったら恥ずいから。」

 

「万が一じゃねーし。もう100パー抱きついてくるし。」

 

「じゃあ、恥ずいから中行こうぜ。」

 

 

僕は立ち上がると、先に立って玄関のドアを開ける。

 

中では僕の誕生日だからと休みを取った母が僕の好物を作る匂いがしている。

ホワイトシチューだ。

他にもいろいろあるらしい。

「今日は張り切るよ」って今朝言っていた。

 

 

「めっちゃいい匂い!」

 

潤が大きな声を出すと、母がキッチンから声をかける。

 

 

「今日、潤も一緒に食べるよねえ?」

 

「うん。食べる。後で母ちゃんが飲み物買ってきてくれるから、持ってくる。」

 

潤が応えながらキッチンを覗く。

 

 

「ああ、そんなのいいよ。連絡しとこ。」

 

「いつものサラダは作るって言ってたけど。」

 

「ああ、それは大歓迎。」

 

 

母はニッコリ笑顔になると、僕の手の中の包みに気づいて、潤に聞く。

 

 

「また奮発したの?」

 

「まあまあね。でも毎年怒られるから、そんなにはかけてない。」

 

「ははは。智が潤のときにお金かけたくないからでしょ。」 

 

「そんなわけあるか!ほら潤、部屋行こうぜ。」

 

「おう。」

 

僕は潤の腕を引っ張ると2階にある僕の部屋を目指す。

 

 

「智、ケーキは何選んだの?」

 

引っ張られるままに後ろを歩く潤が聞く。

 

「今年はチョコレート。どこのかは知らないけど。」

 

「へえ、チョコケーキか。」

 

 

部屋に入ると、僕は早速床に座り込む。

 

 

「開けるよ?」

 

「どーぞ。」

 

「なんか柔らかい?」

 

「だね。」

 

潤は僕の正面にあぐらをかいて座る。

 

 

包みを開くと、マフラーと手袋、それにマフラーに包まれた魚のぬいぐるみが出てくる。

 

 

「なにこれ!?サバ?すげえ!」

 

「ふはは!やっぱりそれが一番テンション高いかー。」

 

「サバ!」

 

「そっちはチャリの時寒くなってきたからいるかなーって。」

 

「うん!いる!サイコー!ありがと、潤!」

 

「うん。おめでと、智。」

 

 

「ハグ!ハグするわ!」

 

僕は立ち上がると潤の手を取って引っ張りあげる。

そして、そのままガッシリとハグをする。

 

 

「ほらね、言ったじゃん。」

 

「知らねー。」

 

「ふははは!」

 

潤がギュッと抱き締め返してくれたのを合図に、僕は潤から離れる。

 

 

「サバ見つけた時の俺のテンションも相当なもんだったかんね。」

 

「ふふふ。」

 

「父ちゃんがビビってたもん。え、サバ?って。」

 

「ふふふ。」

 

「手袋とマフラーは必須だったけど、もう1個なんかって思ってたらさ。」

 

「うん。まじサンキュー。今日から一緒に寝るわ。」

 

 

僕はサバを拾い上げて抱きしめる。

 

潤はそれを見て一瞬黙ると、すぐに破顔して言う。

 

 

「ふは。ちょっと俺にも。」

 

「なんでよ。」

 

「いいじゃん、ちょっとだけ。」

 

僕が潤にサバを渡すと、潤はすかさずギュッと抱きしめる。

 

「きもちー。俺も買おうかな。」

 

そう言いながら頬ずりまでしているのを見ると、なんだかちょっと嫉妬してしまう。

 

 

「返せって。」

 

僕は潤からサバを奪い取ると、ベッドの上にポイと放り投げる。

そして座り込むと、マフラーと手袋をそれぞれ身に着ける。

 

 

「似合う。」

 

「そう?」

 

「うん。いつもよりカッコいい。」

 

「ふふ。」

 

「その青が似合いそうだと思ったんだよね。」

 

「うん。いい青だね。」

 

 

それは、いつも二人乗りしている自転車と同じ、鮮やかだけど派手すぎない、僕のお気に入りの青だった。

 

 

 

 

(つづく)