今回の衆院選の争点と言われた物価高対策ですが、争点にも何にもならないまま明日が投票日です。
選挙戦が始まるとき、物価高対策として各党が打ち出した消費減税は有効なのか、という疑問を持ちました。
食料品で言えば、ぼくが出荷している米(コシヒカリ)の価格は玄米30kgが長らく6000円だったのが(コロナ禍のときは5000円)、昨年は1万5000円と2.5倍(+150%)になりました。
スーパーで買うフルグラ(700g)は600円から800円に1.3倍(+30%)の上昇です。
食品の消費税8%をなくしたところで値下がりするのは7.4%(=1−100/108)。
高額商品である農業機械も消費税率の10%を大きく超えて値上がりしています。上昇率が消費税率以下の商品が大半を占めているのなら別ですが、消費税分を下げたところで物価の上昇にはとても追いつかないのではないかと思います。
値上がりの原因が需給関係にあるなら、需給関係を改善する(需要を減らすか供給を増やす)、原因がコスト高にあるならコストを抑えるしか、値上がりを抑える方法はありません。
そこでここ数年の世界のエネルギー、金属、農産物の価格推移を見てみました。Tradingviewで先物の価格をチャート表示しています。価格はいずれも米ドル(USD)。
<原油>
WTI(West Texas Intermediate Crude Oil cash)
世界の原油価格の代表的な指標
2022年3月をピークに下降
現在、ほぼ半値
<天然ガス>もほぼ同じ傾向
<鉄鉱石>
SGX IODEX Iron Ore Futures
シンガポール取引所(SGX)の鉄鉱石先物(つなぎ足)
2021年5月をピークに下降
現在、半値以下

<小麦>
Wheat Future
小麦先物
2022年3月をピークに下降
現在、40%(2.5分の1)
<大豆><トウモロコシ>もほぼ同じ傾向

つまり、これらの原材料価格は米ドルで見ると、2020年から急騰した後、ロシアがウクライナに侵攻した2022年ごろをピークとして、半値以下になっています。
原材料価格が下がっている間に円安が進みました。米ドル円(USD/JPY)は2020年3月の安値の1.5倍、ユーロ/円(EUR/JPY)は2020年3月の安値の1.6倍、中国人民元/円(CNY/JPY)は1.55倍です。
<米ドル/日本円>

<ユーロ/日本円>

<人民元/日本円>

過去6年間で円の価値が米ドルに対しても、ユーロに対しても、人民元に対しても、3分の2になったということです。ドルで買う価格が同じでも、日本円では1.5倍(+50%)の値上がりになります。
上に示した原材料価格のピーク時からの価格変化を米ドルと日本円で比較すると、日本円で買う場合の値下がり率が小さいことがわかります。
<原油>
米ドル −50%
日本円 −39%
<鉄鉱石>
米ドル −56%
日本円 −13%
<小麦>
米ドル −60%
日本円 −50%
上に示した原材料価格は値下がりしていますが、銅は値上がりを続けています。電気自動車(EV)、蓄電池の量産、送電網の整備など、DX(デジタルトランスフォーメーション)、GX(グリーントランスフォーメーション)に伴う需要が高まる一方、銅鉱山の新規開発による供給の増加が見込めないためです。
Tradingviewで銅CFD(COPPER)のチャートを見てみます。
米ドルでは2020年3月の最安値の2.99倍であるのに対し、日本円では4.34倍です。円安の影響で日本円での上昇率の方が大きくなっています(上昇率1.45倍)。
<銅CFD>(米ドル)

日本は金属・鉱物資源のほとんどを輸入に頼っています。総輸入量は中国に次いで世界第2位の規模です。米以外の穀物もほとんどが輸入です。円安が進めば進むほど世界市場の価格の高騰を上回るペースで日本国内の物価上昇が進みます。
円安が進んだのは、異次元の金融緩和を続けて金融市場に円を放出したことによって円の価値が下がったこと(円の供給過多による円の値下がり)、政府発行の国債残高が積み上がって財政不安が高まったこと(財政不健全化による信用低下)が原因です。
日本国債10年物(長期国債)の利回りは長期金利と言われ、住宅ローンなど長期返済の利率がそれに基づいて決まります。日々、市場で売買されている国債の値動きと連動して変化します。
長期金利が上昇すること自体はよいとも悪いとも言えません。問題は国債の価格が下がっていることです。
政府が新たに発行する国債の利率は、既に発行されて市場で売買されている国債の価格によって決まります。国債の市場価格が上がれば国債を買い求める人が多いということなので低い利率が設定されます。逆に値下がりしていれば、国債を買う人がいないということなので高い利率になります。
日々変動している長期金利は、その時点で売買されている国債の価格から次に発行される国債の利率を計算した予測値です。長期金利が上がるということはそれだけ国債の価値が低くなっているということです。
日本国債10年物(長期国債)の利回りのチャートに価格(長期国債先物の価格)を折れ線(青色)で重ねてみました。2019年8月から長期金利が急上昇しているのと逆に、価格は85%まで急落しています。

次に為替レートを折れ線で重ねてみました。(青が米ドル、緑がユーロ、オレンジが人民元)

長期金利の上昇と円に対する主要通貨の価格の上昇がほぼ同じ軌跡を描いているのがわかります。
同じことを逆に言うと、長期国債の価格の下落と円の下落が同じペースで進んでいるということです。
国債を発行しすぎて円の価値がなくなってしまっているのが現状です。
アベノミクスの異次元の金融緩和とコロナ対策で、日銀が国債を購入することによって金融市場にお金を流し込むと同時に政府の国債発行による財政出動を助けてきました。その結果が、今の国債安、円安であり、物価高だということです。
消費税の導入が日本経済の停滞を招いたことは間違いないと思いますが、財政の悪化は消費税の導入に伴う税制改革(法人税率の段階的引き下げ、高所得層の減税による税率の累進構造のフラット化)に大きな原因があります。そこに手をつけず、財政支出の見直しもせずに、消費税を引き下げても、さらなる財政悪化と信用低下、円安、物価高を招くだけであろうと考えられます。