「この物語は事実に基づいて書かれています」
168P
地域包括支援センターの職員の男子が、私にこう言った。
認知症はね、大好きな人を攻撃してしまう病なんですよ。すべて病がさせることなのです。
この言葉が今の私を動かしている。村井理子
認知症になった80代の女性の視点で描かれている。
当事者の不安と恐怖がダイレクトに伝わってきていろいろな感情が押し寄せられた。
強く感じたのは当事者たちの悲しみだった。
ただ記憶が薄れていくだけならどれほどよいだろうかと思う。
認知症の本人はもちろん、彼女を支える家族やケアマネジャー、介護士など、だれもがなにも悪い事をしていないのに「全員悪人」だと思わせる妄想を抱く。
本人の考えはしっかりとして昔のままのつもりでいるから人と話も噛み合わない。
途中にしっかりと頭をうごかしているかのようなところがある、いわゆるまだらのようだった。
脳梗塞で倒れて体に後遺症が残る夫が外でも家でも浮気をしているかのように猜疑心が高まったり、愛してやまなかった息子や息子の嫁などの家族をも憎んでしまったりと。ほんとうにやり切れない思いになった。
超高齢社会の状況下、これは対岸の火事ではまったくない。
いずれ来る他人事ではない現実を感じてしまい切なかった。
支援者側の視点で認知症を学ぶことはあったが、今回、当事者側の視点は、初めての新鮮な体験だった。
<目次>
プロローグ―陽春
第1章 あなたは悪人―翌年の爽秋
第2章 パパゴンは悪人―師走
第3章 白衣の女は悪人―新春
第4章 お父さんは悪人―晩冬
第5章 水道ポリスは悪人―早春
第6章 魚屋は悪人―初夏
第7章 私は悪人―盛夏
第8章 全員悪人―メモ
エピローグ―晩夏
あとがき
翻訳家/エッセイスト。1970年静岡県生まれ。琵琶湖のほとりで暮らしながら、雑誌、ウェブ、新聞などに寄稿。著書・訳書多数あり。









