地政学でよくわかる! 世界の戦争・紛争・経済史 | 空想俳人日記

地政学でよくわかる! 世界の戦争・紛争・経済史

 以前『図解いちばんやさしい地政学の本』を読んだね。なので、「地政学、地政学」って意識しなくても、すんなり入ってくるよ。



 地政学は、よく国家の利権のための戦争戦略に利用されたりするので、日本が第二次大戦で敗戦した後、GHQが日本の戦争放棄と共に、この学問を封印したんだね。



 でも、地政学を学ぶと戦争をしたくなるわけじゃないんだよなあ。何故に戦争が絶えないのか、いや増えているのか、それを紐解き、平和利用にも使えると思う。
 ようは、学問は、学ぶ者のしっかりとした信念と判断で、どうにでも変わるのよね。




第1章 地政学で読み解く最新国際情勢

 ここでは、最新の世界情勢を地政学で紐解いている。
 イスラエルのガザ地区で今、何が起きているのか。そして、いつのまにかガザ地区を乗っ取ってしまっているハマスとは何者か。このハマスは何者については、飯山陽著『中東問題再考』を最近読んだので、とてもよく分かる。というか、『中東問題再考』は日本の政治家やマスコミが流している情報が嘘八百だということをたくさんのデータを駆使して教えてくれてるので、「あああ、テレビを見ない毎日で良かった」そう思ったくらいだよ。日本の政治家やマスコミは嘘つきだから。
 あと、中国の広域経済圏構想「一帯一路」について。そして、ロシアのウクライナ侵攻の真相。




第2章 国家の思惑を地理で読む地政学

 地政学の基本を教えてくれている章だよ。難しく考えない。地政学は、地球上の国家の動きを地図上で、地理のように学ぶと思えばいい。そういう意味で、この本はふんだんに地図が使われているのでよく分かる。
 大陸を支配するランドパワー国家と海洋を支配するシーパワー国家。そして、ハートランドを取り巻くリムランド。このリムランドで多くの争いが行われている。
 あのナチス・ドイツも地政学を用いた戦争を繰り広げた。




第3章 地政学で見るアメリカの派遣と衰退

 ここでは、建国当初は、世界各国には関りを持とうとしなかったアメリカが、いかに世界警察のように、世界の争いごとに絡み、あたかも正義の味方のように、敵を作って争いに入り込むようになったかが、とてもよく分かる。
 簡単に言えば(言い過ぎるかも知れないが)、アメリカは、敵の敵を味方として支援してきた。敵とは、これも簡単に言えば(言い過ぎるかも知れないが)、社会主義国であり共産主義国である。自ら民主主義のヒーローとして勧善懲悪で、敵を倒す。確かに、世界のどこにも社会主義や共産主義を達成した国はない。みな、社会共産面をした独裁国家である。最大の敵である、冷戦の時代のソ連や今のロシアも、そして中国も。いや、中国は経済分野ではアメリカと仲良しこよしの一面もある。しかし、ロシアや中国が後押しをする中東の最大の敵イランは、イスラエルVSパレスチナの巣窟でもある。
 そんな敵の敵を支援する場合、その敵の敵が必ずしも民主主義でなくてもいい、これが間違っている。敵の敵が極端、テロ組織でも、敵に対抗するために、その組織を支援してきた。これが、アメリカの中東への介入の仕方だ。ヒーローは、悪を倒すためにテロ組織とも手を組んできたということだ。
 もひとつ、中東の介入は、資源にあった。天然ガスや石油だね。でも、ここで、「あった」と書いたのは、シェル革命が起きているからだ。オバマが「アメリカはいつまでも世界の警察をやっているべきではない」と言っていたが、なんせ、他国に介入する軍事費は馬鹿にならない。しかも、天然ガスや石油が、シェル革命によって、輸入せず自給自足出来てきているから、アメリカは、もう口出ししなくなっているのだ。これも、先の飯山陽著『中東問題再考』で学んだことだが、今まで困難であったシェール層(より地球の中心に近いそうな)からの石油や天然ガスの抽出が可能になったことにより、アメリカは世界最大の原油生産国になり、中東産油国に依存する必要がなくなった。その米国に代わり世界最大の原油輸入国となったのが中国。なので中東諸国にとって、中国というお客様は神様、ということだよ。




第4章 地政学で見る日本とアジアの歴史と現在

 さて、この章は、重要である。日本人なら、この第4章から読むべきかもしれない。とはいえ、この本を日本人以外読むとは思えないが。
 ボクらの国、日本のことだ。日本が明治維新以降、西洋諸国のモノマネをし、自国で足りないものを手に入れようと、領土を大陸へと伸ばしていった。日清戦争・日露戦争・第一次大戦・日中戦争。
 以前、加藤陽子著『それでも、日本人は「戦争」を選んだ』高橋源一郎著『ぼくらの戦争なんだぜ』を読んだおかげで、この日本が自給自足を求めたことに納得は出来る。ただ納得できても、戦争賛成なんではない。いくらお手本の西洋がそうしてきたからと言って、武力で領土拡大はもってのほかなのだ。だいたい、ここにも書かれてるが、資源が豊富だからと言って、満州国という傀儡国を作ったって、その資源に対する需要がなくかかわった人々の失業と、その資源の代わりに提供する物資に対する生産能力がまだ日本にはなく、手をこまねいて頂けというではないか。
 日本は自給自足が難しいとはいえ、地政学的には、素晴らしいアメリカやイギリスに匹敵するシーパワー国家であり、しかも歴史上、一度も侵略されたことがない(蒙古襲来もあったが免れている)稀有な国なのだ。そして、もちろん、日本が真珠湾攻撃なんかするからいけないのだが、結果は悲しいながらも世界の中で唯一の被爆国となり、民主主義を手に入れ、これも世界にまれな戦争放棄をする平和憲法の持ち主なのだ。この過去の出来事を、多くの日本人、特にこれから未来を築いていく日本人は学ばなければならない。
 そして、ここにも書かれているが、自由主義・民主主義・基本的人権・法の支配・市場経済を根付かせる「自由と繁栄の弧」で協力し合っていくことが重要だと思う。但し、ここに書かれてる自由主義が、一部の富裕層と政治家だけが潤う多国籍企業による新自由主義なら、もってのほかだ。このことは『100分de名著ナオミ・クライン「ショック・ドクトリン」』や『堤未果のショック・ドクトリン』に書かれていることこそ最重要とする。




第5章 地政学で見るイスラム世界

 最後の章が「イスラム世界」なのは、おそらく、ボクたちがもっとも理解しがたい世界だからだ。
 そういえば、以前読んだ『民族でわかる世界史』を思い出したよ。ボクは学生の頃、世界史が苦手で日本史を選択したのだが、世界史と言えば、「ゲルマン民族大移動」くらいしか覚えがない。「すげえ、ゲルマン民族って大移動したんだ」とな。
 ここで、イスラム世界の始まりである大きな国、オスマン帝国から書かれている。おおお、オスマントルコ。強大な帝国の中にたくさんの民族があったそうだが、その統治能力故か、民族間の争いもなかったそうな。
 引用したい。
《ヨーロッパ諸国は甘言で支配下の民族と協定を結び、後ろ盾を手に入れた民族は独立を宣言した。
 その後、第一次大戦が勃発。反ロシアの立場からドイツ・オーストリア同盟国に付いて参戦したオスマン帝国だが、結果は惨敗。ロシア側についたイギリス・フランスとセーヴル条約を結ぶと、国土は切り刻まれ、オスマン帝国は消滅する。
 広大な領土に残ったのは、独立を約束するはずの協定を盾に、独立国家を主張する複数の民族と、約束を守る気のないヨーロッパ諸国による支配。これが今に続く中東問題の始まりであった。》
 へええ、そうなんだあ。
 あと、イギリスの三枚舌はあかん。
【フサイン=マクマホン協定(1915年)】アラブ諸民族の独立を密約。オスマン帝国への反乱をウ流した。
【バルフォア宣言(1917年)】ユダヤ人財閥ロスチャイルド家へ書簡で出された宣言。パレスチナにおけるユダヤ人のホーム樹立を賛同・協力する内容。
【サイクス=ピコ協定(1916年)】第一次大戦後のオスマン帝国にアラブ人民族地域に関する分割をロシア・フランスと密かに取り決める。ロシアは革命により脱落。
 1948年の第一次中東戦争には、こんな過去の歴史的事実があったんだ。
 そして、第二次中東戦争(1956年)は、スエズ運河の利権。無益でエジプトに作らせておいてイギリス・フランスが利権を握る。最終的にはエジプトの国営化で、あのアスワンハイダムが建設で来たんだよね。
 さらに。第三次中東戦争(1967年)で、イスラエルが領土を拡大。っていうか、ここでの紛争、みんな西欧諸国とアラブ系民族とのいざこざじゃん。さらに、そこにロシアが絡んでくる。ロシアは、冷戦時代のソ連の時から南下したがってる。つまり、不凍港が欲しいのだ。ロシアは、今のプーチンによるウクライナ侵攻に始まったばかりではない。ロシアの歴史はソ連時代も含めて、南下戦略で戦争も辞さない最低の国。
 思えば、日本は、第二次大戦で二度と戦争が出来ない国にさせられて、民主主義と戦争放棄を手に入れた。
 なのに、第二次大戦以降も、中東を中心にイギリスやフランス、そしてアメリカにロシア、正義の味方然とした軍事介入を続けている。ボクは、そんな戦後、日本が平和憲法のもとに、争いをしない国に生まれたことを誇りに思っている。
 どんなに強国だとしても、アメリカやロシアやイギリスの国民として生まれなくって良かったよ。
 インドを挟み撃ちするパキスタンと中国。国を持たないクルド人に国境を持たない国IS。アラブの春におけるチェニジアの先進性。サウジVSイラン、イランに近づく中国・インド。そして、トルコとインドネシアなど、最終章は情報盛りだくさんだ。




 ところで、気になったのが、この本のあちこちで、監修の神野正史氏がコメントされていること。「中国は近々滅ぶ」と。オスマン帝国のような滅び方をするのだろうか。



地政学でよくわかる! 世界の戦争・紛争・経済史
posted by (C)shisyun


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