平均寿命が伸びたのは日本だけではない。先進国、発展途上国を問わず、世界中で同じ傾向が見られる。その意味で、20世紀は素晴らしい世紀である。
とくに日本人の平均寿命の伸び方はすさまじい。平均寿命の世界ランキングで、日本は1950~1955年に男29位、女34位であった。それが、1970~1975年には男6位、女8位と躍進し、遂に1990~1995年には男女とも1位となったのである。
その背景には、戦後長く平和が続いたこと、そして、パックス・アメリカーナの下で、アメリカの軍事的庇護のおかげで国際紛争に軍事的に介入する必要がなかったことがある。世界の保安官の役割を果たしてきたアメリカの平均寿命は男72.5歳、女79.3歳(1990~1995年)である。女性は世界ランキング16位であるが、男性は20位以内に入っていない。
第二次世界大戦に勝った国々が世界の秩序を作り、日独伊などの敗戦国は武装解除され、当初は国連からも締め出された。この軽武装、世界への軍事的関与の禁止が、戦争で亡くなる国民の数を減らし、平均寿命の伸びにつながったのである。その点からは、「敗戦のすすめ」という皮肉がここでも有効である。
日本の長寿化は世界に誇るべきものであるが、長寿ということを素直に喜ばない社会的雰囲気がある。社会全体の観点からは、財政コストが大きくなるからであり、いまなお「姥捨て」的な発想も残っている。
高齢者も元気であるかぎり、仕事をして、年金や税金で養われる存在から所得を得て税金を支払う存在になるように社会を変えていかなければならない。賃金は減っても、体力に応じて仕事を継続できるようにすることが肝要である。
日本人の平均寿命は、女性87.26歳、男性81.09歳と延びているが、健康寿命については、女性が74.79歳、男性が72.14歳である。つまり、死去する前の約10年は、治療や介護が必要な身となるということであり、医療費・介護費もかさむ。2040年には社会保障費が190兆円に膨張すると予測されている。どうすれば、健康寿命を延ばすことができるか、真剣に検討すべきである。
健康寿命を伸ばすには、規則的な食事、適度の運動、趣味や仕事などで精神的健康と社会的交流を維持することが役に立つ。そして、生活習慣病の予防に心がけるべきである。