トランプ大統領の関税攻勢に世界が翻弄されている。アメリカの同盟国であるヨーロッパや日本、とりわけアメリカのライバルの中国は、どう対応するのか。
私は、昨年末に訪中し、習近平政権の幹部(政治局員)たちと議論したが、彼らは、大統領選挙でのトランプ勝利を予想して、1年前から周到な準備を進めていたという。
第一に、対米輸出比率を引き下げる努力である。中国の輸出に占めるアメリカの比率は、2017年の16.4%をピークに、2024年には11.2%にまで低下している。このように、対米依存度を減らしている。2023年の対米輸出額は4272億ドルと、前年比で20.3%も減っている。
第二に、中国は、アメリカからの攻勢になれているし、耐えることも知っている。
スマホなどを製作する先端企業、ファーウェイ(華為)は、女性の副社長が身柄を拘束されたり、アメリカ市場から締め出されたりするなどの苦労をしたが、アメリカに頼らないという自立精神で巻き返しをはかり、見事に再生した。そして、スマホで世界最先端を行くのみならず、自動車分野にも進出している。
その同じ流れが、AIのディープシークである。中国の大学でのみ学んだ若者たちが、優れたAIを、しかも破格の安い開発費で完成させたのである。
アメリカに頼らずに、自立する、それこそが中国の方針となっている。中国は、2015年5月に「中国製造2025」という産業政策を発表した。それは、中国が2025年までに世界の製造強国となることを目標にしたもので、高速鉄道、EV、ドローン、リチウム電池など多くの分野での開発を掲げた。
この政府によるハイテク分野の振興計画は、目標をほぼ達成している。そして、関税や制裁は、中国を抑え込む効果が全くなかったことを示したものだと、中国は豪語している。
第三に、貿易品目を見ると、関税戦争は、中国よりもアメリカに影響が大きいことが分かる。
中国は、アメリカから大豆、トウモロコシ、飛行機、石油・天然ガス、集積回路、半導体、自動車などを輸入している。しかし、中国は国産航空機を量産し始めており、ボーイング社などへの依存を減らしている。また、石油の輸入は、ロシアからの輸入が第一位であり、アメリカからは10位にすぎない。さらに、中国の自動車は約6割が国産であり、アメリカ車は6.0%のみである。
一方、アメリカは、中国からパソコン、スマホなどの電子機器、リチウム電池、コンテナ、照明器具、玩具などを輸入している。スマホなどの相互関税を止めたように、アメリカへの打撃が大きい。また、玩具はほぼ中国製であり、関税によって価格が上昇すると、子どもたちの誕生日やクリスマスに際しての出費が嵩むことになり、アメリカ国民の不満が高まるであろう。
以上、三つの理由から、高率の対中関税は長続きするものではない。