トランプ政権の「リベラル狩り」・・その背景と問題点 | 舛添要一オフィシャルブログ Powered by Ameba

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 トランプ大統領の思想統制が大きな衝撃をもたらしている。

 トランプは、バイデン政権の政策を捨て去り、LGBTを認めない、DEI(多様性、公平性、包摂性)施策を見直す、反ユダヤ・親パレスチナ活動を取り締まる、反アメリカ的価値観を持つ留学生を入国させないといった政策を次々と打ち出している。

 

 トランプ政権は、「リベラルな偏向」の大学を狙い撃ちしている。たとえば、ハーバード大学、コロンビア大学、プリンストン大学、コーネル大学、ノースウェスタン大学などである。

 トランプは反アメリカ的価値観を持つ学生や研究者は入国させない。アメリカは、これでも民主主義の国と言えるのか。マッカーシズムに逆戻りである。

 

 アメリカのキリスト教を背景にして生まれているのが、反知性主義である。

 Post-truth(「ポスト真実」)の背景にあるのが、アメリカのキリスト教である。聖書こそ科学の権威の源泉であり、聖書を科学の上に置く態度は、「聖書的世界観(biblical worldview)」を欠いている既存の大手マスコミや知識人への異議申し立てにつながる。

 そのような知性主義こそ「リベラル」とい呼ばれる風潮であり、ハーバード、イエール、プリンストンといった大学こそ、その典型なのである。

 

 アメリカのようにキリスト教が人々の生活の中に根付いている「新世界」は、信教の自由をはじめとする個人の自由が最大限に尊重される民主主義社会である。

 ところが、トランプは憲法で保障された言論の自由を弾圧している。それをどう説明するのか。

 アメリカは、「機会の平等」に重きを置く社会である。

 「機会の平等」がアメリカ建国の理念であり、努力をすれば誰でも成功できるというアメリカンドリームをアメリカ人は信じてきたのである。しかし、1970年代からは、それが事実ではなくなっていく。経済のグローバリゼーションによって、安価な外国商品が流入し、アメリカの製造業が衰退していったからである。トランプ大統領を支持する白人労働者の住むラストベルト(錆び付いた工業地帯)が、その典型である。貧富の格差が拡大し、家族や地域社会が崩壊し、薬物中毒が蔓延する状況である。

 格差の拡大とともに、「機会の平等」をうたうアメリカ建国の理念は揺るぎ、それを支えてきたキリスト教も凋落の兆しが見え、人々の信仰心も衰え、ヨーロッパやカナダのように世俗化が進んでいる。

 

 アメリカの平等主義は、知性と権力が結合すること、つまり知的エリートが権力を独占することに反感を抱かせるのである。

 したがって、それが反知性主義となり、平等の名の下にエリートの思想狩りをすることに繋がるわけである。ハーバード、イェール、プリンストン大学などがその典型である。

 まさに、極端な平等主義の前には、自由は生き残れないことになる。

 

 大学院時代のアメリカ人学友から「カキストクラシー(kakistocracy)」という新語を教わった。ギリシャ語のkakosは「悪い」という意味で、「最悪の者による政府」という意味である。無知な人々を支配する「ならず者」ということで、もちろん、トランプ政権のことである。

 トランプは権力基盤を大衆に置くポピュリストの扇動家であり、ヒトラーと同じである。今日の政治は左翼と右翼ではなく、高学歴で自立した層と低学歴で集団思考の層との「対立図式」(David Goodhart)である。後者は論理ではなく感情を優先する。このような世界では、ポピュリズムの克服は容易ではない。