>オリジナルフルアルバム

>タイトル:HOME

>アーティスト:Mr.Children

>リリース日:2007年 3月 14日

>記事作成日:2022年 5月 9日

>1回目の感想はこちら






久しぶりに聴きました!


ミスチルのデビュー30周年記念日目前という事で、過去の作品をアルバム単位で聴き直している最中。


今回は『HOME』。ぼくの中で何回か(「何回“も”」か)ある“ミスチルのピーク”の中の一つ。この作品は、とりわけ完成度が高いと思う。

周年の節目に、シングルや代表曲をまとめたベストアルバムというカタチで活動を総括するアーティストは多く、正しくミスチルもその中のひと組ではあるんだけれども…ぼくの勝手な見方だけれども、この『HOME』という作品は、ベストでもなければ周年の節目に出した作品でもないけれども、“それまでのMr.Childrenを総括”した内容になっているように感じるのです。別に初期の音源が再録されていたりする事では一切無いんだけど、この作品に収録されているそれぞれの曲の端々に、過去の作品の片鱗が見え隠れする気がして。

そういう意味で、ぼくは本作が、過去のミスチルを総括するようなアルバムに感じるのです。




『叫び 祈り』

こんなにもアットホームで、ジャケットからしてあったかくて柔らかくて穏やかな雰囲気に満ちた本作にあって、なんかダークなオケに乗せて叫び声だけが聴こえてくるというこの(ほぼ)インスト曲から始まるというのは、狂気の沙汰じゃない(笑) でも好き。

どこまでいっても独創的なバンド。


『Wake me up!』

そして一気に爽快で爽やかな曲へ。星あかりすらない深夜のサバンナから、一気に抜けるような青空のリゾート地に転移したようなギャップ(笑)

Jenさんをはじめとする演奏陣が、とにかく軽快。手数は多いのに“重たさ”は皆無で、その辺のバランスがほんと凄いと思う。ブラス隊も、こんなにもギラつきが無く爽やかな音が出せるんだなぁという事に驚き。

例えば『シフクノオト』収録の『PADDLE』の爽やかさと勢い感とを更にブラッシュアップしたような雰囲気の曲。


『彩り』

仕事で挫折しかけた時、何度救ってもらっただろうか…。多分二桁では足りないな。

シンプルなサウンドなんですよねぇ。ボーカルすらも含めて、どのプレイヤーも一人として「前に出てやろう」と思ってる様子がない。とにかく「歌(歌詞)のメッセージが最大限に聴き手に届くように」というそれだけを目的として、全ての音符が配置されていて全てのプレイが為されている感じがする。そしてその姿勢自体が、この歌詞のメッセージ性を姿勢で表現している。

Mr.Childrenというバンドは、そして桜井和寿というリリシストは、日本でもっとも成功したバンドであるハズなのに、どうしてこんなにぼくみたいな“いち庶民”の気持ちを言葉や歌に出来るんだろうか。フツーは、もっと上からの目線でアレコレ言い始めるか、もしくはただただ耳馴染みが良いだけで実際のところはさっぱり意味の分からない薄っぺらい歌詞を書き始めるだろうに(笑) それこそミスチルの曲なんてのは待ってる人が何十万人何百万人と居ると思うけど、ぼくがやってる福祉の仕事なんか、目の前の数人のための働きでしかなく。しかも、本人や家族のために良かれと思ってやってる事も、大概は当人に煙たがられ、家族には「どうしてもっとこうしてくれないんだ」と文句を言われるばっかりで。今までに何千回何万回と心が折れかけて、でも何千回何万回とこの曲に“添え木”をしてもらったから、今も何とか続いてるんだよなぁ。きっと、「僕のした単純作業がこの世界を回り回ってまだ出会った事もない人の笑い声を作ってゆく」んだ。ミスチルがそう言ってるんだ、間違いない。正しいに違いない。だから明日も、煙たがられても文句言われても、それでも出勤するんだ。

ちなみに、爆笑問題の太田さんがこの曲を「俺の曲だ」と思ってるっていうエピソードが好き。


『箒星』

ポジティブに振り切ったような曲。歌詞的にも、アレンジ的にも、影を描く事で光の存在を強調するような表現が多いミスチルですが、この曲は、殆ど光だけで描かれている感じがする。「でもね」から始まるサビとか、出てくるワード類(「路頭に迷った祈り」「君の気持ちを曇らせた」「上手く開けないんだ、心が。」など)なんかはちょっと内向きなニュアンスがあるけど、でもそれらの言葉も眩い光の中でキラキラしてる感じすらするんだ。


『Another Story』

だいぶのちになって知ったんだけど、既存曲の中にバスの歌(『I ❤︎ U』収録の『靴ひも』)があるから、別のバスの歌って事で『Another Story』なんですね(笑) もちろん、“続編”でもなければ曲調が似通ってる訳でも一切ない。

決して忙しない曲ではなく、むしろちょっと落ち着きのある曲ではあるんだけれども…バース辺りの、音符の割に言葉数の多い感じが好き。言葉が流れていくようで、でもちゃんと音符の並びに噛み合った配置が為されていて、ラップを聴くのに近い気持ちよさがある。そして、そんなバースがあるからこそ、サビで急に言葉数が落ち着く辺りが効果的に響くというか、歌詞が描くそこはかとないセンチメンタルを絶妙に彩っている感じがする。

アルバム『IT'S A WONDERFUL WORLD』の頃の、完成度の高いポップミュージック感やストーリーテリング感を覚える曲。


『PIANO MAN』

渋みと遊び心が両方ある曲。ピアノマンなのにブラス隊の存在感のほうが強い曲(笑) 曲作りとプレイを心底楽しんでいるというか、曲をオモチャにしているというか、そんな感じが凄くするんですよねぇ。メロディにしてもアレンジにしても、派手ではないけど面白味の強い“小ネタ”的アイデアが随所に散りばめられている感じ。その辺は『Q』を彷彿とさせるような。マニアックを突き詰めたような“男の秘密基地”感には『Discovery』っぽさを感じたり。


『もっと』

優しく柔らかい雰囲気に、嫌味のないシニックが香る曲。ミドルテンポで凄く柔和な曲なんだけれども…そこで感じるのは“温かさ”ではなく“物悲しさ”なんですよねぇ。そこに、何となく既視感と親近感を持っていたんですが…直接的な表現はないけど、同時多発テロをきっかけにして出来た曲なんだそうですね。それを聞いて腑に落ちたというか。“一見すると穏やかなのに、薄皮を一枚挟んだ内側には悲しみや対立の火種が散りばめられている”という、現代(特に9.11以降)の空気感が、そのまま曲になっている感じがするんです。穏やかなリズムとフルートなども重なった柔らかいサウンドにも関わらず、雰囲気としては物悲しさを湛えているこの曲も、ちょうどそれに似た感じがあるなぁと。


『やわらかい風』

そのタイトルそのまんまのイメージの曲。さらりとしたそよ風のような心地よさ、そしてあっさり感(笑) 良い意味で、BGM的というか。肩肘張らずに聴けるし、「気がつくと流れてた」ってくらいに自然に耳に流れ込んでくる曲。ミスチルの曲は色んな意味で“こってり”した曲が多いので、このさらりとした感じは当時すごく新鮮に聴こえた記憶があります。


『フェイク』

さらりとした曲のあとは、特濃な曲へ。

本作でも随一の、猥雑なロックチューン。歪んだギターが先導するロックチューンなんだけど、雰囲気としてはダンスロックというかディスコファンクな雰囲気もあったりして。割と機械的に淡々と刻むビートの上で、ギターやボーカルは奔放に暴れまくる。ミスチルの中でも有数のロックチューンになってる気がします。

この曲もまた、ホント大好きで。アドレナリンを放出したい時に、『REM』と一緒に聴くのが好きです。最近のミスチルには、このテイストの作品が無いからなー。久々に、カマしてはくれまいだろうか。


『ポケット カスタネット』

アルバム冒頭の『叫び 祈り』と対を成す曲との事。でも、ぼくの印象的には、“対を成す”というよりも“こっちのが完全版”っていう印象。

もちろん、桜井さんの力強くも感傷的なボーカルも素敵なんだけど…なんと言っても、この曲はSalyuさんのコーラスの声が印象に残る。端的に言っちゃえば、“神々しさ”なんだと思う。海外の、少年少女の聖歌隊みたいな、そんな無垢さ。そして、無垢だからこそ、生々しい。子どもって、無自覚だからこそ残酷な事を言えたりやれたりしちゃうと思うんだけど、まさにそんな感じの緊張感があって。桜井さんの歌声に重なるSalyuさんの声が、あまりにも美しく、そしてあまりにも生々しい。

後半に向けて、楽器の音が増えて重なって、ビートも早くなって…決して“バンドのアンサンブルでガツンと”って雰囲気の曲ではないんだけど、回転が速くなるにつれて熱を帯びていくエンジンのような、そんなアツさを湛えていく。その過程が、何ともエモーショナルで何ともかっこいいんだ。


『SUNRISE』

洗練されたメロディに、洗練された歌詞が乗り。この曲、『HOME』引っ提げツアーでも選曲されなかったし、なんかちょっと控えめな立ち位置の印象があるんだけど…ぼくはかなり好きなんですよね(なので、『Against All GRAVITY』TOURで聴けた時には感激でした)。

前曲に引き続き、何だか神々しさすら感じる曲。でも、前曲がもはや讃美歌のような雰囲気すらあったのに比べ、こちらはもっとポップソング寄りというか。商業音楽の枠の中で、それでも清廉さと神々しさを放っている感じ。

圧倒的なキャッチーさと、示唆的、哲学的とも言える歌詞の組み合わせ…ぼくだけかもしれないけど、ぼくはこの曲に、『BOLERO』辺りの作風を思い出したりします。


『しるし』

この時期のMr.Childrenの代表曲と言うべき、壮大なバラード。小林武史Pの何とも切なく儚いピアノから静かに始まって、でも終盤には嵐のようにエモーショナルに展開していく。この時点でここまで(商業的に)成功しているバンドが、よもやこんなに無垢で静謐な曲を生み出せるなんて…ほんとに驚き。

こんなにも切なく響く「ダーリン」が、他にあるだろうか(いや無い)。


『通り雨』

ここ何曲か、凄く緊迫感があったり悲壮感にも近い空気があったりする曲が続いたところで、この軽快でフランクな雰囲気の曲。なんか、なんというか、この並びにある事で凄くホッとする感じがあるんですよね(笑) しかも、なんかキラッキラしていて。『エソラ』を聴いた時にも感じるけれども、雨が好きになりそうな曲。鬱陶しい雨自体ではなく、そのあとで空気が澄んで光り輝くその景色に、心が軽くなる。


『あんまり覚えてないや』

そして、ラストはこれ。凄く私服感というか、普段着感というか、“普通の人” の “普通の日々”が歌われている感じが。

この曲がラストに据えられている事で、この『HOME』というアルバムが『HOME』というタイトルである事が凄くしっくり来るようになんですよね。この曲のタイトルは『HOME』ではないけれども、ある意味でこのアルバムの“タイトルチューン”のような気がしています。

Jenさんの、バスドラ等のないスネアだけのドラムスが、柔らかくて優しくて肩肘張らない“普通感”を絶妙に演出している。そして、これまたフランクな、田原さんのギター。そして小林Pの鍵盤。で、桜井さんのボーカルと、そしてナカケーさんのベースが、凄くメロディアスで。ボーカルとベースが物凄く“歌っている”ので、肩肘張らないアレンジなんだけれども一方で凄く彫りが深く飽きのこない印象にもしてくれている。

ぼくはガキンチョの頃から家族(親、きょうだい)とあんまり仲良くないんだけど、この曲を初めて聴いた辺りから、親に対しての“壁”が薄くなっていった気がするなぁ。「怖さを感じていた父も、“おじいちゃん”になっていくんだな」っていう、ある意味で当たり前の事に気付いて。そこから、それまでに持っていた親やきょうだいに対する固定されたイメージの見直し作業を始めるようになって。なんか、そういう意味でも、思い入れの深い曲。




そんな、計14曲。


最初にも書いた通り、それまでのミスチルを総括するような作品だったと思います。今回聴き直して、改めてそう思った。

一方で、“次”を示唆するアルバムだなぁとも感じました。次作『SUPERMARKET FANTASY』は、数あるミスチル作品の中でもキラキラなポップに振り切れている作品だと思うんですが、その片鱗が本作に見てとれるというか。堆積した毒素が前作『I ❤︎ U』にてデトックスされて、本作は凄くナチュラルで自然体。凄くフラットな本作を経たからこそ、(『I ❤︎ U』とは真逆と言えるような)キラキラポップに振り切れた『SUPERMARKETー』が生まれたような気がするんです…よく考えたら、たった3作というスパンの中で『I ❤︎ U』から『SUPERMARKETー』まで振り切れるって、並のバンドには不可能ですよね。というか、殆ど別のバンドの作品(笑)


いやぁ、凄く良かった。






お気に入りは、

#03 『彩り』

#05 『Another Story』

#06 『PIANO MAN』

#07 『もっと』

#09 『フェイク』

#10 『ポケット カスタネット』

#11 『SUNRISE』

#12 『しるし』

#14 『あんまり覚えてないや』






この作品が好きなら、

・『リボン』/ゆず

・『musium』/スキマスイッチ

・『THUMP x』/ポルノグラフィティ

などもいかがでしょうか。






CDで手元に置いておきたいレベル\(^o^)/


















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