>オリジナルフルアルバム

>タイトル:シフクノオト

>アーティスト:Mr.Children

>リリース日:2004年 4月 7日

>記事作成日:2022年 5月 3日

>1回目の感想はこちら






久しぶりに聴きました!


ミスチル30周年記念日間近。という事で、過去作品をアルバム単位で聴き直すのが最近の日課(こうまで長年好きでいると、普段は“特に好きな曲だけ集めたプレイリスト”とかしか聴かなくなっちゃうので…)。


ぼくが勝手に思っているのは、この『シフクノオト』という作品からが、“ミスチル第二章”という事。フツーはもっと分かりやすく、活動休止明けとか、ベスト盤以後とか、そういうところで区切るのが自然なんでしょうけども…ハッキリとは言えないんだけど、このアルバムから、作風がちょっとだけ変わったような印象なんです。

例えば、奔放に、偶然性に委ねながら作られた『Q』ですら、“ミスチルらしさの範囲内”というか、「自分らしさの檻の中」というか(笑) あくまでジェントルな、フォーマルな、スタイリッシュな雰囲気というのをキープしているように感じるんですよね。ファッションで言うなら、“カジュアル”な装いというのはまずお目にかかれず、あくまでも「ジャケットに、ダメージジーンズを合わせて遊び心を出してみました」「ネクタイを差し色にして、こなれ感を出してみました」的な、“フォーマルの中で遊んでみる”みたいな感じ。

それが、本作以降は、カジュアルな装いとか、何なら起き抜けのそのままの姿みたいなものも見せてくれるようになったと感じるんです(何の気なしにこういう例えを出したあとで「そういやアルバムタイトルには“私服の音”という意味もあったんだ!」と思い出して、その繋がりに今ひとりでニンマリしています 笑)。

そういう意味で、ぼくはここからを“第二章”と見ています。




『言わせてみてぇもんだ』

それこそ『IT'S A WONDERFUL WORLD』以前のミスチルなら、こんな曲タイトルは付けない気がするんですよね。もっと、横文字のスタイリッシュなものとか、ソツがなく耳馴染みの良いワードをチョイスするとか。それが、『言わせてみてぇもんだ』…なんか、下世話!(笑) いや、それが良いんですけどね。

ぼく、こんな感じの不穏な曲で始まるアルバムが好きみたいなんですよねぇ。『I』始まりの『I ❤︎ U』とか、『Dancing Shoes』始まりの『SOUKDTRACKS』とか、『Discovery』始まりの『Discovery』とか。


『PADDLE』

この曲、正式にリード曲と謳っているのかどうかは知りませんけど、『IT'S A WONDERFUL WORLD』でいうところの『蘇生』のような、『SENSE』でいうところの『擬態』のような、『SUPERMARKET FANTASY』でいうところの『エソラ』のような、そんな位置づけだと思うんですよね。でも、その割に、それらの曲よりも“隙”が多い気がする。それこそ『IT'Sー』までのような、フォーマルを優先したようなスタイルだったならば、もっともっと音を重ねて隙間を無くして、鉄壁なアレンジにしていた気がするんですよね。けれどもこの曲はアコギの柔らかな音が全体的に効いていて、爽やかで軽やかな分「ガツンと来るような聴き応え」とは違う。いや、これもまた、だからダメだっていう批判とかでは一切なくて、『シフクノオト』の“私服の音”感が出ているなぁというそういうお話。


『掌』

毒々しくも美しい曲。猥雑さと混沌とを湛えつつ、でも『フェイク』や『REM』などが放つような“狂気”というよりは、もっと理性的で知性的なものを感じるんだ。サウンドの歪みと歌詞の整い具合のギャップが、だけどケンカするのではなく見事に噛み合っていて、聴くたびに気持ち良くなるロックチューン。

当時のJENさんの進言のようですが、ベタな“Aメロ→Bメロ→サビ→2A…”みたいな構成ではないモノをというのが、この曲のポイントのようですね。確かにそうなっているし、それが良い異物感になっている。

ちなみに、ライブではラストの大サビがまるまるカットされている事が多いですね。その分ライブオリジナルの歌詞とメロディがくっつく訳ですが…ぼくは、総力戦とも言える濃厚な大サビが好きなので、ちょっと残念なんだ。でもライブオリジナルの歌詞とメロディはそれはそれで好きなので、いつの日か、ライブverのCメロから大サビに繋がる展開を見たいと期待しています(笑)


『くるみ』

一転して、“王道”なミスチル作品と言うべきこの曲。アコーディオンの柔らかくて感傷的なイントロから始まり、アコースティック主体の懐の深いサウンドが全編で響き渡る。

ぼくは、この歌詞が、本当に好き。大切なものを見つけて、そしてそれを喪った人にだけ分かる、このセンチメンタル。優しく温かいオケが、またこのセンチメンタルを余計に刺激するんだ…。

更には、ミュージックビデオね。何度泣かされた事か。思い出しただけでも泣きそう。生涯通算での“好きなMV”、ベスト10には入りますね(「ミスチルの中で」じゃないですよ。目にした事のある、全てのMVの中でです)。久しぶりに見直そう〜。


『花言葉』

これをシングルにしないって…ミスチル楽曲の選手層の厚さね。今年の阪神は見習うべきかもしれない(笑) 確かに華やかさは少ないし、大仰な展開がある訳でもない。でも、このコンパクトにまるっとまとまった世界観こそが、絶妙なんですよ。コスモスの花言葉が咲かなかった主人公の、戸惑い、悲哀、後悔、絶望、葛藤によって閉塞的で内向的になっている状態が、このコンパクトなアレンジによって強調されているんだ。

言葉(歌詞)だけでなく、アレンジだけでなく、全ての要素が同じ温度感で世界観を表現していて、だからその世界観にどっぷりハマって切ない気持ちになれる曲。

ちなみに、この曲と『ほころび』を並べて聴くのがぼくのこだわり(笑) なんか、音の質感にも曲の世界観にも、共通するものを感じるんですよねぇ。


『Pink〜奇妙な夢』

その名の通り、奇妙な夢の曲。起きた瞬間にじっとりと嫌な汗をかいているような、そんなタイプの奇妙な夢。

これはねぇ…。焼肉で言えばホルモンだろうし、炭酸飲料で言えばドクターペッパーだろうし、お笑い芸人で言えば永野さんあたりでしょうか(笑)…イメージとしてはそんな感じの、トリッキーな存在の曲。重厚なギターサウンドに、不穏な匂いのボーカルに、奇妙な歌詞に、なんかちょっと息苦しさすら感じる曲。でも今回久々に聴き直して思ったのは、メロディだけ聴けば凄くキャッチーでドラマチックで綺麗だという事。例えばこのメロディに一途な想いを歌った歌詞を乗せればメロウなラブソングになっただろうなーと。力強い言葉の並んだ歌詞を乗せればアツいロックバラードになっただろうなーと。でも、夢の話(笑) 発想が常人離れし過ぎだし、ある意味で曲を“もったいない”使い方してるし(この歌詞を否定したいんじゃないですよ! 「もっとフツーの歌詞を乗せればもっとフツーに好意的なリアクションを貰えただろうに、敢えて異物感の強い歌詞にしているな」という意味です)。ほんとすげーよ、桜井さん。


『血の管』

これもまた…異彩を放ちまくりな曲。ピアノとオーボエとボーカルだけという、異色過ぎる編成。“ロックバンド”の曲なのに演奏陣が参加していない…ミスチルには時々見られる、独特な位置付けの曲。ぼくは、“無理にでも演奏陣を参加させる前提”というよりも“その曲が最も映える編成”にこだわるミスチル&小林Pが、大好きです(そのせいで「桜井ワンマンバンド」「小林イラネ」等々言われるのも、多分分かってるだろうに)。

非常にしなやかで、儚げで、そしてエロティックとすら言える程に生々しいメロディ。そして、圧倒的に美しいのに何とも憂鬱で不穏なピアノ。そして、そこに重なるのは寂寞感というか孤独感というかを煽ってくる、ポツネンとした佇まいのオーボエ。歌詞は抽象的で、もはや畏れのようなものすら感じてしまう程にシリアス。一番軽く見積もっても、男女のお別れの曲…だけど多分、それよりももっともっと重たくて哀しい、死別とかそういうレベルの別れを歌っている気がしてならない。

聴いてると哀しくなるんだけど、でも聴き始めたら目と耳を逸らす事が出来なくなる程引き込まれるバラード。


『空風の帰り道』

前曲の、極限まで高まった緊張感の跡なので、この曲のイントロのあったかさとのんびり具合が、実際の8倍くらい強く効いてくる(笑) シングル『HERO』のカップリングとして聴いた時よりも、このアルバムで聴く時のほうが圧倒的にホッとする。

風が冷たい季節に、パートナーをバス停まで送って行って、そのあと1人で来た道を戻る(帰る)…それだけっちゃあそれだけの歌なんだけれども、一本の映画をみたみたいに感動してしまうのは、桜井さんの表現力がなせる技。ありきたりな風景をドラマにしてくれるし、しかもそのドラマを聴き手の一人一人が“自分のもの”に出来る。この曲は男女のお話だけど、ぼくはこの歌詞で奥さんだけじゃなく息子の事も思い浮かべるし、家族を当てはめながら聴いてもまったく違和感なく飲み込めるんだ。ほんと、凄いとしか言えない(語彙力)。

エレピの軽やかな音も、リズム隊の柔らかい音も、渋いギターの音も、全部好き。『HERO』のカップリングとして聴いた時には「ちょっと地味?」とか思っちゃったけど、この歳になって聴くと、刺さってくる部分が多過ぎて…。


『Any』

この曲、ホントに好きなんだ…。

そこまで派手な曲ではない。派手な曲ではないんだけれども、凄く洗練されている。メロディにしろ、アレンジにしろ、歌詞にしろ、歌声にしろ、全てのものが過不足なくそこにあって。メロディに似合った歌詞で、歌詞に似合ったアレンジで、アレンジに似合ったボーカルで、ボーカルに似合ったメロディ。

そして、とにかく歌詞が秀逸。例えば『終わりなき旅』は、「胸に抱え込んだ迷いがプラスの力に変わるように」という歌詞に象徴されるように、負の感情を燃料にして再度拳を振り上げるような力強さがある。対してこの曲には、そういう負のエネルギーすらもなくなっちゃった、無気力状態とか脱力状態とかからですらモチベーションを刺激してくれる、そういう魅力がある。腐ってる時には『終わりなき旅』を、灰になったら『Any』を聴くのがいい(笑)

今回改めて聴いて、「スタイリッシュな曲だなぁ」→「似たようにスタイリッシュな音楽を最近聴いたような…」→「あ!『IT'S A WONDERFUL WORLD』だ!」と気付く。そういやこの曲は『IT'Sー』制作期間の終盤に作られた曲らしいですならねぇ。“温度感”が似てるのも当然なのかも。


『天頂バス』

不思議な曲。冒頭からしばらくはどこかおちゃらけたようなラフでユーモラスな雰囲気で展開するのに、ラスサビあたりでは鬼気迫る程の緊張感と切迫感を放ちまくる。極端な例で言えば、ヘラヘラ笑ってた人がいつの間にか激怒してた感じ(笑)

ちょっと意外だったのは、この曲がアルバムのTVCMに選ばれていた事。上記のようにちょっと不思議な曲なので、“ザ・アルバム曲”ってイメージだったんだけど、アルバムの顔としてお茶の間に流れるなんて(そしてそのCM撮影で桜井さんが骨折するなんて)。


『タガタメ』

まぁ…一言で言っちゃえば「問題作」でしょうね(苦笑) およそヒットチャートミュージックとは思えないような、強い言葉と直接的な表現。でも、“桜井さんの個人的な主義・主張”にも感じられるけれども、一方で、聴き手の一人一人が自分に置き換えて自身の中での問題提起としてこの曲を受け止められる間口の広さも兼ね備えている。だから、ぼくは、この曲を“ギリギリポップミュージック”と認識しています(笑) リリシストの主義・思想を一方的に押し付ける曲ではないし、ましてや“布教活動”等では決してない。

…いやでも、それにしても、その時点で国内トップの位置を築いているアーティストが発表する曲としては、異色すぎるわな。色んなハレーションを起こす事なんか容易に想像出来たはずなのに、それでも発表する事を選んだこのバンドに、改めて凄味を感じる。『NEWS23』での生パフォーマンス、あれは今でも忘れられない。最後の桜井さんの“睨み”が特に。


『HERO』

ラストは、シングル曲。

ぼくは、家族(特に子ども)が出来て以降、この曲を聴きたくなる事が格段に増えました。やっぱりぼくも、「ヒーローになりたい/ただ一人 君にとっての」。この曲の父親観って、欧米のとは違う日本的なものだから良いんだよなぁ。多分、欧米の価値観であれば「君をこの世界のすべての悪から守り切る!」的な“強い父親”像が描かれる場合が多いと思うんだ。この歌詞に当てはめるなら、「誰か一人の命と引き換えに世界が救える」時に、名乗りを上げられる事こそが父親!みたいな。でも、この曲の主人公は、「誰かが名乗り出るのを待っているだけの男」なんですよね。そこに、凄く日本的な価値観を感じて。周囲から情けなく思われようとも、だけど真に大切な人との時間を大切にしたいというのは、虚勢で大きく見せてでも強くある事を美徳とする欧米の価値観ではなく、控えめで個が目立つ事を良しとしない日本的な価値観が光っていて、凄く共感出来るんだ。ぼくにとって大事な事は、「ヒーローになる事」ではなく「“君にとっての”ヒーローになる事」なので。華々しく散って写真立ての中で颯爽とした笑みを浮かべる自分を見せるよりも、ぼくは、生身の肉体を使って、カッコ悪いところも狡いところもだらしないところも見せながら「そこからもがいて這いあがろうとする様こそがヒーローなんだ」と言えるようになりたい。そっちのほうがよっぽど難しく、そして価値がある。

この曲もまた、メロディも歌詞もアレンジもプレイも、全てに過不足が無くて完璧なバランスで成り立っていると思います。『Any』と『HERO』を立て続けに生み出した桜井さん…この時期は特に神がかっていたように思う。この少し前に大病を患っておられましたが、そういうのが価値観や人生観に影響を与えたりしたんですかねぇ。




そんな、計12曲。


冒頭でも言ったように、ぼくはこの作品が“ミスチルの第2章”だと思っていて。今回改めて聴き直しても、やっぱりそう思った。歌詞にしろアレンジにしろ、グンと幅が広がってる。これまでは“綺麗なもの”を選んでいた部分があるような気がするけど、本作は汚いものや目を背けたいものにも真っ向から向き合って表現している。清濁併せ呑むようになった、最初の作品というイメージ。


聴き応えがある一枚です。

一方で、「ミスチルって言ったらやっぱり『抱きしめたい』だよねぇ〜」みたいな人にはあまり勧めない(笑)

ぼくは、ミスチルの数ある名盤の中でも、特にすきなほうのアルバムだけど。






お気に入りは、

#01 『言わせてみてぇもんだ』

#03 『掌』

#04 『くるみ』

#05 『花言葉』

#07 『血の管』

#08 『空風の帰り道』

#09 『Any』

#12 『HERO』






この作品が好きなら、

・『花鳥風月』/レミオロメン

・『ハヤブサ』/スピッツ

・『×と○と罰と』/RADWIMPS

などもいかがでしょうか。






CDで手元に置いておきたいレベル\(^o^)/

















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