>オリジナルフルアルバム

>タイトル:I ❤︎ U

>アーティスト:Mr.Children

>リリース日:2005年 9月 21日

>記事作成日:2022年 5月 5日

>1回目の感想はこちら






久しぶりに聴きました!


5/10で、デビュー30周年! という事で、過去作をアルバム単位で聴き直し中。

今回は、『I ❤︎ U』。17年前の作品…17年前⁉︎   マジで? 感覚的にはせいぜい10年前くらいの感覚なんだけど…そらぁ、ぼくも歳をとってる訳だ。


前何作かに比べて、ダークでヘヴィでラウドな雰囲気の本作。そして、近年のライブでも披露され続けている曲も多いアルバム。でも、この時点では、『Monster』がそういう位置付けになるとは思ってなかったなぁ。結構コンスタントに披露されてますよね。




『Worlds end』

これがシングル曲じゃない不思議。もちろんタイミングとか、諸々のしがらみとか、戦略とか、色々あるんだろうけど。でも、素人からすると、ダウンタウンの番組をわざわざ関東ローカルでやるようなもの(笑)

冒頭から、バンドが総力戦で音を畳み掛けてくる感じ。雷鳴のようなドラムスに、装甲車のようなベースラインに、閃光のようなストリングス&鍵盤に。ボーカルとギターが、それらの調和を図るように小刻みに鳴る。田原さんらしいギター。

本編でもその勢いはそのままに、桜井さんの、幾何学的な美しさがあるのに同じくらい奔放でもあるボーカルが重なり圧倒的な熱量の曲になっている。冒頭の1秒目からラストの1秒に至るまで、テンションのメーターがずっっっと振り切れっ放し。

スタジオ音源の精密にまとまってる感じも好きだし、ライブで音を“浴びる”のも好き。終盤でのコールアンドレスポンスは、毎回ぼくを自由に“飛ばせてくれる”んだ。地平線が、水平線が、見えるような錯覚を与えてくれます。


『Monster』

「ミスチル?…『星になれたら』が好きでーす」という人にはあまり勧められない曲(笑) 毒々しさがはち切れて飛散する感じの曲です。アツさとか武骨さとかいうのともまた違う、ゲスで猥雑でグロテスクで歪みまくったロックンロール。その佇まいはさながら異形のモンスター。

こんなにトリッキーな曲ですが(だからこそか?)、ライブでは意外と常連なんですよねぇ。その都度色んな演出で、新たなモンスターを目撃出来る。ツアー『Against All Gravity』での舞台装置は圧巻だったなー。


『未来』

ぼくは、『everybody goes』よりも『マシンガンをぶっ放せ』よりも『光の射す方へ』よりも『フェイク』よりも、この曲のほうが余程トリッキーなシングルだと思う(笑) 最初は、ポカリスエットのCMでサビだけ聴いて、「爽やかで甘酸っぱい、“王道”ミスチル楽曲だなぁ」って思ったんですよ。そしたら、サビ以外の部分のこの雰囲気。もう、物凄い裏切られ感。幸福な裏切られ感。そうそう、ミスチルは予定調和よりも裏切りのほうが面白いんだよ!

全体的にザラついた質感で、それがなんとも言えない素敵な風合いになってるんですよねぇ。エフェクトをかけたブルースハープも、歪んだギターも、ラウドなリズム隊も、全部好きですわ。


『僕らの音』

昔、SNSか何かで「この曲タイトル、ダサい」って意見を見たんですよ。ぼくにはその理由が全く分からなかったんだけど、所詮誰かが軽く発した言葉でしかないので、それ以上に掘り下げる事も出来ず。でも、少し前に突然閃いたんです、「あぁ、“Mr.Childrenが奏でる演奏の音”っていう意味だと解釈してたんだ!」って。そう考えると確かにちょっとダサいというか野暮ったい感じがするけれども………そういう意味じゃねーし!!!(笑) その発言者は、ちゃんと歌詞まで追ってなかったんでしょうね。

閑話休題。

派手ではないけど、沁み入ってくる言葉と音。凄くセンチメンタルなんだけれども、テレビドラマのような大仰で非現実的なソレではなくて、日常の中で感じられるような自然な感傷。秋の空気とか、しとしと降る雨とか、夕暮れの茜色とか、大好きな人と会った後の独りの帰り道とか。そういう。


『and I love you』

先日感想を書いた『Q』収録の『Hallelujah』と、イントロのコード進行を共有しているそうな。どちらの曲にもある独特の緊張感は、そういう理由からなのかな。

桜井さんの歌声はしなやかで伸びやかなんだけど、曲全体の雰囲気としては硬質というか、緊張感がある感じ。色で言えば赤よりは青、季節で言ったら夏よりは冬、味で言ったら甘味よりは辛味。一方で、ネガティブorポジティブで言えば、決してネガティブというのでもない。「ポジティブ」って感じでもなく、「ネガティブではない」が正解。

「ロックバラードってこういうやつ」っていう理解をぼくはしております。


『靴ひも』

この曲もまた、派手さはないけど味わい深い…そういう意味で、このアルバムを体現しているような曲。

甘酸っぱくて瑞々しい、初期ミスチルのような歌詞世界。そしてそれを彩るのはアコギやグロッケン。それらの軽やかな音が、歌詞の世界観を補完している…と、それだけ言うとまんま『KIND OF LOVE』あたりのミスチルってイメージになるかと思うんだけど、決してそうでもないんですよねぇ。大人の渋みというか何というか…若者が無自覚に放つ瑞々しさではなくて、大の大人が周囲の目も気にせずに瑞々しく一途な行動を取っている感じがして、そこに深みを感じるんです。『KINDー』の頃がフルーツジュースだとしたら、この曲はフルーティな香りのブラックコーヒーって感じ(逆に分かりづらくなってるか 笑)。グアテマラ産とか。


『CANDY』

本作随一のバラード。サビも含めて、メロディは全体的にシンプル…に聴こえる。聴こえるんだけど、実際のところはかなり凝った作りになってる印象。「コード進行が〜」とかそういう専門的な話ではないんだけど。普通、サビに向かうにつれてテンションも音階も上がっていくのが常套手段だと思うんだけど、この曲は逆。サビに入ると、喋るような、呟くような音域になっている。それによって、Aメロ近辺がちょっと感情的に聴こえるし、サビでそこはかとない侘しさが漂うように聴こえる。「ごちゃごちゃ考えたりしてるけど、言いたい事なんてのはホントはシンプル」みたいな事を、歌詞じゃなくメロとアレンジで表現してる感じ。

そして、田原さんの渋いギターがまた良いんだよなぁ。


『ランニングハイ』

一気に雰囲気を変えて、アップテンポかつ荒々しく。

アルバム『シフクノオト』の感想記事で、「『シフクー』からミスチルの“第二章”になってる気がする」というような事を書いたんですが、そういう意味ではまさにその第二章感が強い曲だなぁと、ぼくは思っています。アレンジにしろプレイにしろ、勢いと荒々しさが優先されている気がして。『IT'S A WONDERFUL WORLD』以前のミスチルなら、この曲ももっと、整った音と整ったプレイで綺麗にトリミングしていた気がするんですよね。でも、この曲を聴いて感じるのは、まるで一発録りのような勢いと荒々しさ(いや、実際に一発録りしている訳ではないと思います。あくまでイメージの話)。それを“欠点”として無しにするのではなく個性として生かす辺りに、遊び心と柔軟性を兼ね備えて以降のミスチルを感じるわけです。


『Sign』

ゼロ年代のミスチルの代表曲と言って差し支えないでしょうね。レコ大も獲ってるし(そのレコ大を某体育会系グループが1億円で購入したというニュースを見て以降、ぶっちゃけぼくはこの曲のレコ大受賞を、この曲にとっての汚点としか見られなくなっちゃったんですが…)。

凄く洗練された音。ボーカル及びピアノ&ストリングスが効いていて、バンドはあくまでも優しく優しく鳴っている。非常に肩の力の抜けた、普段着の空気感が魅力のミドルバラード。


『Door』

前曲の“優等生的ミスチル”から、こちらの“ヤンチャミスチル”へ。そして、『ランニングハイ』は一発録り“的”曲でしたが、この曲は多分リアル一発録り。喋り散らすような、怒鳴り散らすような桜井さんのアカペラからスタートして、途中から小林Pのキーボードが重なるだけの、編成としては非常にミニマムな曲。ミニマムだし、思いつきで作ったようにすら聴こえる“乱暴”な曲なんだけれども、でもこのアルバムにはこの曲が絶対に必要な気がします。

まぁ、キーボードだけでなく、徐々にバンドが重なっていって最後には総力戦になるようなアレンジも聴いてみたいところではありますけどねぇ。ライブとかでやってくんないかな、『独り言』を4人でやったように。


『跳べ』

この曲も、“完成度”というよりは勢いやテンションを重視している気がします。全編を通じてテンションが高く、遊び心に溢れていて、ラフな雰囲気。ともすると、小林Pだけ真面目な音で気を吐いているようにすら聴こえる(笑) なんか、「バンドで音を出すのが楽しくて仕方なさそうだな」って感じの曲。そして、『深海』『BOLERO』の頃には間違っても産まれないであろう曲(笑)


『隔たり』

初めて聴いた時には、今ひとつ意味が分かんなかったなぁ(苦笑) 「怖いのは病気じゃない」に、この曲の全てが凝縮されている気がする(今なら痛い程よく分かる)。摂生するのも痛い思いをするのもあらゆるリスクを背負うのも、どうやったって女性ですからねぇ…男はみんな、羽虫みたいなもんだと思います(投げやりとか、相手任せとか、そういう意味では一切ないぞ!…念のため)。

ネット上には“意味が分かると怖い話”なんてのがありますが、この曲は言わば、“意味が分かると重たい曲”といったところか。

君は、本当に、美しきスパイダー。


『潜水』

何とも不思議な曲。ふわっとしてる。「音が」じゃなくて、「印象が」。

“水つながり”(?)で、アルバム『深海』を想起しない事もない(確か桜井さんも当時雑誌のインタビューで『深海』の名前を挙げてお話しされていたような…)。でも、ぼくはどちらかというと、死を意識した『深海』とは真逆の、生への意識みたいなものを感じるんですね。「苦しくたって」「潜水で泳」ぐのは、「死にゆくことにさえ憧れる」(『深海』の歌詞より)からではなくて生を実感するため。

でも、「じゃあそもそもこの曲は生死観を掘り下げて歌っているのか?」と問われると、そこまでシリアスなものでもない気がして。『深海』も思わせるし、“生”について歌っても居るんだけどシリアスさは薄い。程よく酔っ払って、取り止めもない事をつらつらと口にするような、なんとなくそんな感じのふわっと感を感じるんですよねぇ。

もしかしたら、歌詞を深読みすれば物凄く壮大な事や深淵な事を示唆しているのかもしれないけれども…今の時点では、ぼくには、ふわっとした曲という程度の解釈しか出来ていない(笑)

いやぁ、なんか、凄く濃厚でバリエーションに富んでいてどことなくイビツなイメージがある本作なので、このくらいふわっと終わってくれたほうがありがたいっちゃありがたいんですけどね。「まぁ、色々言ったけど、全部独り言だから気にしないで」って最後に言われるような。

言っときますが、この曲、嫌いじゃないですからね!




そんな、計13曲。


『潜水』のところで書いた事が、このアルバムに対するぼくの一番率直な印象なのかなぁ。

バリエーションが、豊か。それこそ、シングル級の『World's End』もあれば、「バンドとしてはそれで良いのか?」と言いたい気持ち(笑)も無くはない『Door』みたいな曲もあれば、“ザ・ミスチル”な『Sign』もあるし、“ザ・ミスチル”が好きな人には聴かせられない『Monster』もある。アルバムとしてのまとまりやコンセプトというよりは、短編集みたいな印象を受ける作品。いや、各曲の“濃ゆさ”を考えると、中編集くらいか(どっちでも良いわっ!)。


ジャケットが良いですよね。この作品のイメージを、端的に表している。普通「アイラブユー」なんて聞いたら(それこそ初期のミスチルのような)甘酸っぱいソレを想像してしまいがちだけれども、このジャケを見ると、そういう事じゃないのが一目瞭然。LOVEってものが、綺麗事じゃない(というかむしろ綺麗事とは反対のドロドロしたもの)という事が分かるし、そういう“綺麗事じゃないLOVE”がたくさん詰まっているアルバムだと思うので。

本作のジャケットを担当した丹下紘希さんをはじめ、信藤三雄さんやら佐藤可士和さんやら森本千絵さんやら薮田修身さんやら…ミスチルの作品には錚々たるクリエイターが関わってるんですよねぇ。上質なクリエイターを起用しているのか、はたまた、上質なアーティストは上質なクリエイターを呼び寄せるものなのか。






お気に入りは、

#01 『Worlds End』

#03 『未来』

#04 『僕らの音』

#06 『靴ひも』

#07 『CANDY』

#12 『隔たり』






この作品が好きなら、

・『8』/THE YELLOW MONKEY

・『STARTING OVER』/高橋優

・『Re:Union』/LEGO BIG MORL

















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