私が、精神分析医である恩師の斎藤学氏から学んだ一番だいじなことは、「いいかげんに生きる」ということだった。
斎藤学氏と出会った20年以上も前。
私はまだまだ、ちゃんとしなきゃ、こうあるべきという、つまらねー枠組み、正しさという枠組みの中で生きている時だった。
それを、ことごとく、なぎ倒し、私の中にあった「正しさ」を根こそぎ引っこ抜いていったのが、斎藤学だった。
当時、私はまだ、精神科医や医者ってこう振る舞うべきでしょ、というくだらねー「べき」に取り囲まれて生きていたわけだが、
そのお約束がことごとく破られる。
患者の話なんて聞かないで自分のことばかり話しているし、その話してる内容もクリニックの経済事情だとかそんなこと言うのかよ？という内容ばかりで。
講演に呼ばれても、行く前に「やる気がまったくしない。口をパクパクしてりゃーいいんだけど」とか言ってるし。患者と本気でケンカばかりしてるし。
え？
これなに？
まじ？
これ、ありなの？
と思ったわけだ。
だが、同時にほっとした私がいた。
自分で勝手に作った、もしくは誰かに刷り込まれた、こうするべき、こうやるべき、こういうもの、これが正しいなんて乗り越えていいんだと。
そして、
なんだ、こんなふうでも、精神科医になれるのかと、自分の肩の力が抜けていくのがわかった。
後になって、
立派な人をやるより、
いいかげんな人をやる方がずっと難しいとわかるのだが。
しかも、いいかげんな人をやったほうが、人の力を引き出しうる。
これについては、ブログでも何度も書いているが、
再度きちんと書かねばと今思っている。
お金をもらっているから
プロだから
ちゃんとやらなきゃ、、
そう思うあまり一歩も踏み出せず、
自己否定と他者批判をし、
踏み出した後も
少しも楽しまずにやっている人たちが
いかに多いか。
ちゃんとやらなきゃ
まだだめだ
正しくあらねば
こうすべきだ
と
自他を追いつめていく。
私は、これこそが狂気だと思っている。
その狂気が世界中を覆い尽くしていることこそが、最大の問題だと思っている。
正しくあらねばならない、
もっとがんばらねばならない
と死ぬほど勉強して
死ぬほど努力して
まだだめだ
足りないと
一瞬たりとも心休まる時がない。
正しさを追い求めると、
正しくない他者と
正しくできない自分へのジャッジが始まる。
そうやってジャッジばかりしている人と
一緒にいても楽しいわけがない。
正しさではなく
優秀さではなく、
喜びを求めよう。
人はいつか老いて死ぬ。
その時には
いま求めている正しさも努力も
手放さなければならない時がくる。
このままの自分が他人が
いま、美しく完璧で
それを一人ひとりが見出せたとき
世界は変わる。
正しさに向かって自分を矯正するのは
収縮だけど、
喜びに向かって自分を開いていくのは
拡大だ。
そして自他を
不完全な自他を認め合い許し合うことで、
世界は
みずからの美しさを思い出す。
そんなビジョンを私は持っている。
＊いずれにしても、人の批判や悪口はいちいち私に個人的に言ってこないでほしい。時間の無駄だ。
それがいやなら、そうじゃない自分をただ生きればいいだけだし、腑に落ちないなら第三者に言うんじゃなく、本人にはっきり言おう。
精神科医の斎藤学氏と共著。
『ヘンでいい。』（大月書店）
アマゾンから購入できます。