§ (最終話) 我が道 §

『私を信じてください

今まで信じて下さったように もう一度信じて下さい』

『何の話だ』

『殿下の病は 腸閉塞と老患によって腸が塞がったものです』

『知っておる』

『なので いかなる湯薬も施鍼も効かないのです

ですが ひとつだけ方法があります』

『何だと?方法があるだと?何だ?』

『塞がった腸の部分を切り取るのです』

『何だと?切り取るだと?どうやって切り取るのだ』

『…刃物でお腹を開くのです』

『何だと?!!!!!』

あまりに突拍子もない方法に 一同が言葉を失う

医女であるチャングムが 王の脈診をするだけでも前代未聞なのに

その玉体を刃物で切り開くなど あり得ないことだった

猛反対するシン・イクピルとチョ・ウンベクの2人に

チャングムとチャンドクは 手術によって命を助けた兎を見せる

『大長今(テジャングム)様が お腹を開き 腸を通じさせたのです』

『動物ならまだ分かりますが 人間がその苦痛に耐えられません』

チャングムは 鍼による麻酔の技術を 実際にやってみせる

『どういうことですか?死んだのですか?』

『麻痺したのです

倭人が出入りする海沿いの村人が 魚を保存するために麻酔をします

倭人はこうして刺身を食べます

その方法を 人にも使うことができたのです』

どんなにチャングムが説明しようとも 誰もが反対するばかりだった

文定(ムンジョン)王后といえども とても賛成できるものではなかった

家臣たちは ここぞとばかりにチャングムを弾劾する

『殿下の玉体は 殿下だけのものではありません

玉体は すべての民であり 朝鮮そのものです』

『殿下 医官の診脈をお受けください』

『余の病気は 医女チャングムが知っておる

大長今(テジャングム)が寿命だと言えば 余はもう寿命であり

助かると言うなら助かる

だからそなたたちは心配せずに みな下がれ!』

湯薬を持ち 大殿(テジョン)の外で待っていたチャングムは

王の言葉をすべて聞き 感謝の気持ちでいっぱいになる

 

衰弱しきった中宗(チュンジョン)王は 笑顔でチャングムを迎え入れた

『お前の湯薬を飲んで 良くなった気がする』

『殿下…』

涙ぐむチャングムを 優しく見つめる中宗(チュンジョン)王

『殿下 今まで私の微力な医術を信じて下さり 身に余る聖恩をいただきました

不敬は承知です ですが私は必ず 殿下をお助けしたいのです

一度だけ… どうか一度だけ 私に従ってください』

中宗(チュンジョン)王は チャングムから視線を外す

『最後に外出してから 半月も過ぎてしまった』

『殿下』

『裏庭に 花は咲いたか? お前と歩いたあそこが懐かしい』

『殿下 また歩けます ですから…』

『そうは出来ん 出来ぬのだ

医術では死人を生き返らせることは出来ん

王だとはいえ 時間を逆戻りさせることは出来ん

長い旅路だった…』

『殿下 病は医員が治すのではなく…』

『患者が治すものか?耳にタコが出来るほど聞かされた言葉だな

寝てる時も その言葉が響いて ひとりで導人術をしたりもした

このくらいなら… いい患者ではないか?』

『殿下…』

『恐怖も寂しさも 悲しさも… 長き歳月だった

お前のおかげで それに耐え抜くことができた

お前は 実に優れた医員で 実に愛らしい…』

『殿下 私も… 多くの恐怖や寂しさ

悲しさを 殿下のおかげで耐え抜けました

医官として… 女として… 殿下

お願い申し上げます どうか… どうか… 私の施療を受けてください』

チャングムがいる間 中宗(チュンジョン)王はじっと耐えて座っていた

ひとりになると 内侍府(ネシブ)長が横になることを促すが…

『チャングムに従えば 生き延びられるかもしれん』

『はい殿下 ですが…』

『大臣たちが一斉に立ち上がって反対し

儒生たちは 読み切れぬほど上訴するであろう』

『殿下 お休みになる時間です』

『さっき会ったのに… またチャングムに会いたい』

『殿下 また呼んでまいりましょうか』

そこへ チャングムがふたたび現れ…

『なぜお体を起こしていらっしゃるのですか!』

叱られて嬉しそうに 中宗(チュンジョン)王は横になった

言われるままに施療を受ける

その目元 口元 手のしぐさまで すべてを心に焼きつけるのだった

施療を終え 医女部屋にいると 内侍府(ネシブ)長がチャングムを呼ぶ

『御命だ

今すぐ北門へ行き 尚冊(サンチェク)の言葉に従いなさい』

『え?』

『早くしなさい!殿下の命令だ!』

何事だろうと 言われるままに北門へ行くチャングム

すると突然 布を被せられ抱えられ連れ去られてしまう…!!!

明け方 解放されると そこは川を流れる舟の上だった

『どういうことですか!私は殿下の主治医官です!

一体どこへ向かっているのですか!領議政(ヨンイジョン)の命令ですか!』

何者かに陥れられたとしか思えないチャングムだった

しかし尚冊(サンチェク)たちは うつむくだけで何も答えようとしない

昼になり 夜が来ても 舟は港に着かなかった

中宗(チュンジョン)王は 内侍府(ネシブ)長に尋ねる

『内密に伝えたか?』

『はい 殿下 起き上がっておられると

また大長今(テジャングム)に叱られます 横におなり下さい』

『そうだな それは困る』

姿を消したチャングムが 責任を逃れるため逃亡したとして

領議政(ヨンイジョン)は義禁府(ウイグンブ)を動員し 追跡する

とある島に降ろされ 歩いていると そこには畑仕事をするミン・ジョンホが…!
尚冊(サンチェク)は御命をミン・ジョンホに手渡す

『前承旨(スンジ)ミン・ジョンホは 御命を奉れ


“余の過汚をすべて背負ったミン・ジョンホに 最後に告げる言葉である

医女大長今(テジャングム)と共に 明国へ行け

そして 医女大長今(テジャングム)に伝えよ

病弱な余を強健にしてくれ ありがとうと

愛する人を配流した余を恨まず 悲しみを見せまいとしたことも 感謝しておる

また 済まないとも伝えてほしい

大長今(テジャングム)を害そうとする者から 守ってやれぬことを

済まぬと伝えてほしい

広い明国へ行き 害する者がいないところで

より大きな医術を施しながら生きるよう 伝えてほしい”

明国への船が出る船着場まで来ると 突然チャングムが行けないと言う

衰弱した殿下を置いては行けないと…

その夜 最後の船をやり過ごし チャングムは町へ行く

町では民衆が泣き崩れて 王の崩御を悲しんでいた

血相を変えて走り出そうとするチャングムを 尚冊(サンチェク)が止める

『命令に従ってください 手遅れです』

それでも走り出すチャングムを ミン・ジョンホが追いかける

義禁府(ウイグンブ)の捜索が間近に迫っていた

尚冊(サンチェク)は 明らかにチャングムを捜索している兵士を足止めする

 

取り乱すチャングムを ミン・ジョンホは必死に止める

『行かなければ!』

『殿下はもう亡くなられた!』

『違います!そんなはずありません!』

 

尚冊(サンチェク)が追いかけてきて 兵士が持っていた人相書きを見せる

『殿下はこれを按じて私を送ったのです!早くここを離れてください!早く!

前承旨(スンジ)ミン・ジョンホは最後の命令を遂行せよ!!!

最後の御命だ!今すぐ御命を遂行せよ!!!』


8年後 明宗(ミンジョン)6年(1550年)3月


とある白丁(ペクチョン)村

靴職人として暮らすミン・ジョンホの姿があった


『お父様!』

幼い女の子が小さな壺を持って帰宅する

『捕まえたか?』

『お母様は?』

娘の問いには答えず ジョンホは慌てて下を向く

怒った表情で現れたのは 母親となったチャングムだ

気配に振り返り驚いているのは 2人の間に授かった娘ソウォンだ

『ついて来なさい!何してるの?早く来なさい!』

家の中に入ると チャングムは娘のすねをムチで打つ

『お父様の側で勉強をしなさい』

『今日の勉強はしました』

『水辺には行くなと言ったでしょ!』

『他の子たちはみんな遊びに行ってます…

チャンゴンが鯉を捕まえてくれとねだるから… あっ!』

言ってはいけないことを口走り ソウォンは慌てて手で口をおさえる

『刑房(ヒョンパン)様宅のご子息じゃない!

私たちは官衙には近づいてはならないの!』

『そう言われました』

『ならなぜ一緒に遊ぶの!!!』


泣きじゃくりながらも ソウォンは懸命に言い返す

『お…お母様は病人がいたら行くでしょ』

『まだ懲りないの!』

『なぜだめなんですか バレない自信あるのに…』

『これでも言うことを聞かないの!』

『あぁ!!!』

ジョンホが飛び込んできて 幼い娘を抱き上げ ムチからかばう

『あなた!』

『この子も分かったはずだ』

厳しすぎるほどに容赦ないチャングムから守るように

ジョンホは娘を裏庭へ連れて行く

『ひどいぞ なぜ言うことを聞かないんだ』

『いつも逃げ回っているのは お母様のせいです』

『ん?』

『病人が出ると治しに行くから

官衙に呼ばれて両班(ヤンバン)の方も捜します』

『ハハ… 嫌か?』

『嫌じゃありません 私は行けないから…』

『心配だからだ お母様は 昔しゃべってしまって…』

『おじいさまとおばあさまが亡くなりました

でも私は しゃべらない自信があります』

『だが言うことを聞け お母様は子供の頃に両親と死に別れたんだ

同じ目にあわせたくない』

『はい』

しばらくして ソウォンはチャングムの側に行く

そっと顔を覗き込むようにすると 怒った顔のチャングムに笑みが…

待ってましたとばかりに ソウォンは質問をぶつける

『魚は目を閉じられないんですか?どうしてですか?

魚も水の中で寝るでしょ なのに目も閉じずに水の中で眠れるんですか?』

『そういえば おかしいわね』

『魚は水の中でも 目が痛くならないのですか』

『そうね なぜかしらね 私が目を閉じさせてみるわ』

そこへ 慌てふためいた近所の女性が飛び込んでくる

近所の嫁の陣痛が始まったが なかなか赤子が出て来ないという

心得たソウォンは 施療に使う風呂敷包みを家の中から持って来る

『準備できました!』

『行きましょう!』

2人が行ってしまい ひとりになったジョンホ

そこへ近所の子供たちがやって来て 字を習いたいという

『本当にただなんですか?』

『世の中 ただはないぞ ついて来い』

家の中に招き入れると ジョンホは子供たちに本を渡す

『その本を全て学ぶ もし全部覚えられずに一字でも間違えたら

私の革の手入れを手伝え やるか?』

お産の手伝いに行った先では いつものように騒ぎになっていた

慌てて父親のもとへ知らせに走るソウォンの前に 立ちはだかる男が!

それはカン・ドックだった

『どちら様?』

『私は 漢陽(ハニャン)のカン・ドック様だ』

『それで?』

『内密に娘を捜しているのだ 白丁(ペクチョン)の村はどこだ?

そこに医女がいるだろ?』

『私は知りません!!!急いでいますので!!!』

『待ちなさいこれ!何とこまっしゃくれた子だな どこの家の子だ?』

 

走り去ろうとして 戻って来るソウォン

『知りませんけど 白丁(ペクチョン)村は峠の向こうです!』

『俺はあっちだと聞いたが』

『向こうです!』

医女と聞き ソウォンは咄嗟に母親を捕まえに来た人物だと思ったのだ

『そして 両親は私をちゃんと教育してます!』

『賢そうな子だな まるで幼い頃のチャングムだ アハハ…』

ドックに呼び止められ時間を取られたソウォンは 急いで父親のもとへ!

『大変です!村人がお母様を官衙に引き渡すと…!』

『何だと?!』

『お母様を捜してる変な人も!』

手慣れた様子で荷物をまとめる父と娘

チャングムは 難産の嫁の腹を刃物で開いて 赤子を取り出すと言い

仰天した村人たちが騒ぎだし 官衙に突き出そうとしているのだった

麻酔をしての手術ということであるが この時代の民には恐ろしいことだった

『腹を斬り裂くとは正気じゃない!』

『化け物です!』

 

しかし チャングムを理解しようとしてくれる民もいた

『落ち着いてください おじいさんの膝を治してくれたでしょ?

その時も 蜂針なんてとんでもないと怒りました

でも出歩けるようになったじゃありませんか!』

『だが 生きた人間の腹を斬り開くとは…』

『それに奥さん!あんたが苦しんでたのを彼女が治してくれたじゃないかい!

お前さんの子供もだよ!お前さんもだ!』

『生きた人間の腹を斬り裂けと?!!!』

カン・ドックが見た光景は 逃げ回る親子3人の後を

村の男たちが追い回し その後ろを兵士が追いかけていくものだった

それでも チャングムがミン・ジョンホと共に生き 娘まで授かっていたのだ

逃亡の暮らしはさぞかし辛い日々に違いないと 皆に報告するドックだった

これを知った淑媛(スグォン)ヨンセンは 驚き喜ぶが

またしても口走り チャングムに危険が及ばないかと

ミン最高尚宮(チェゴサングン)とチャンイは 気が気ではなかった

明宗(ミンジョン)6年は 文定(ムンジョン)王后の垂簾聴政時代であった

中宗(チュンジョン)王亡き後 章敬(チャンギョン)王后の遺子である

世子(セジャ)が仁宗(インジョン)王となるものの 病弱であったため

即位から僅か8ヶ月で崩御してしまう


文定(ムンジョン)王后の息子である慶源大君(キョンウォンテグン)が即位し

明宗(ミンジョン)となるが 幼かったため文定(ムンジョン)王后が

すべての実験を握る垂簾聴政が行われたのである

中殿(チュンジョン)であった頃とは違い その威厳は尊大で

チャングムとミン・ジョンホに対して どう思っているのかも分からない

しかし 淑媛(スグォン)ヨンセンは…

『媽媽のご恩は忘れません 先代王が亡くなられ宮中を出るべきでしたが

媽媽が受け入れてくださいました』

『先代王も可愛がった淑媛(スグォン)ではありませんか

なぜか妹のように思えます それもあなたの福です』

『恐れ入ります』

文定(ムンジョン)王后付きの医女として常に側にいるシンビと

ミン最高尚宮(チェゴサングン)は ヨンセンが口走ろうとしているのを感じ

どんな展開になるのかと気が気ではない

『媽媽は 誰よりも先代王のお心をご存じのはずです

大臣の反対にあっても志を曲げませんでした』

『何の話ですか』

『先代王の深いお心をお察しください』

『何の話かと聞いておる!』

『医女チャングムと同副承旨(トンブスンジ)様の身分の回復を!』

とうとう言ってしまったと 同席の2人は血も凍る思いだった

『彼女は明国にいるのでしょう 朝鮮にいれば回復してやりたいが…』

『朝鮮におります!!!』

叫んだのは シンビとミン最高尚宮(チェゴサングン)の方だった

『それは本当か?!!!』

『はい!朝鮮で医術を施しているようです』

逃げるようにして白丁(ペクチョン)の村を出たミン・ジョンホの一家は

ふたたび別の村に住み ようやく慣れてきたところだった
相変わらず医術を続けるチャングムは ソウォンが寝てる間に

遠くの村に薬を買いに行こうとしている

『いつもすみません 稼いだお金を薬代に使ってしまって』

『首医女チャンドク様の言葉を実感した』

『何ですか?』

『“心にもないことを言うな!” アハハハ…』

しばらく歩いて すっかり日が昇った頃 後ろからソウォンが走ってくる

母親のいないことに気づき 追いかけて来たのだ

『どうして言うことを聞かないの』

『お母様も聞いてくれません エヘヘ…』

『私が嫌い?』

『いいえ お母様が世界で一番好きです』

薬を買うと 1人暮らしの老人の家により施療をするチャングム

食事を作り食べさせるまでを ソウォンも手伝う

帰りの道は 母と娘で楽しく語らいながら歩く

『大きくなったら何になりたいの?』

『お母様です お母様みたいに綺麗で

料理も上手で 人助けする人になります』

『ウフフ… お父様が悲しむわ』

『女の子だから お父様にはなれません』

楽しく歩いていたソウォンが 遠くを見て 慌ててチャングムの後ろに隠れる

血相を変えたジョンホが チャングムの姿を見つけ走ってくる

『大変だ!ソウォンがいなくなった!捜しても見当たらない!』

 

チャングムは微笑み ソウォンはチャングムの背中越しに頭を出す

『お父様』

『行くならそう言いなさい!』

『行かせてくれないのに…』

『口答えを… 来なさい!』

叱りながらも 愛おしそうに娘を抱き上げるジョンホ

チャングムは 幸せそうに2人を見つめる

『言うことを聞くように 鍼を打ってもらおう』

『本当ですか』

『そうだ 鍼を打ってやってくれ』

『もうしません お母様 鍼を打ちませんよね? ね?』

親子で睦まじく帰宅すると 家の周りを兵士が取り囲んでいる

とうとう捕らえられてしまうのかと ソウォンは泣きながら兵士にしがみつく

『助けてください! 助けてください! お父様とお母様は悪くありません!

お父様とお母様はいい人たちなんです! うわぁ…』

そこへ現れたのは かつてのミン・ジョンホの部下だった

ジョンホたちに槍を突きつける兵士を叱りつけ 下がらせる

『驚かせてしまいました 兵士が命令を誤解したのです』

部下の合図で輿が運び込まれた

突然の宮中からの呼び出しに ようやく逃亡生活が終わることを知り

ミン・ジョンホとチャングムの2人は 安堵の笑みを浮かべる

幼いソウォンは 不思議そうに輿を観察している

『お母様 輿に乗って捕まるので?』

『ウフフ…』

『アハハ…』

ミン・ジョンホは 同副承旨(トンブスンジ)の頃の正装をし

チャングムは“大長今(テジャングム)”の服に身を包み

ソウォンもまた絹の服を着せられた

 

『お母様 綺麗です 本当に宮中へ行くのですか?』

『もちろんよ』

『早く行きたいです!』

宮中を歩いていると 自分の同じ年頃の子たちを見てソウォンが聞く

『お母様 あの子たちは誰ですか?』

『女官になる子たちよ』

『宮中で暮らすのですか?』

『そうよ』

『ここで暮らせるんですか?

服の色がみんな違います 髪も変なもので縛っています

あ!あそこのお姉ちゃんは 頭の上に変の物を!

ここは人がたくさんいます 池もあります』

珍しい物ばかりで質問が止まらなくなってしまったソウォンを連れ

ジョンホとチャングムは 文定(ムンジョン)王后のもとへ…

王后のお出ましの前に 見知った顔が出迎える

シンビと先輩医女たち

チャンイ ミン最高尚宮(チェゴサングン)

淑媛(スグォン)ヨンセン

ミン・ジョンホの上司であった右議政(ウイジョン)

シン・イクピルとチョ・ウンベク

 

みな懐かしい顔ばかりであった

いよいよ文定(ムンジョン)王后が現れる

今では大妃(テビ)の地位となった王后であるが

懐かしいチャングムの前に 以前の笑みをこぼす

『チャングムか? 本当に… 本当に… 今まで苦労したろうに』

『恐れ入ります』

『なぜ連絡せずに逃げ回ったのだ』

『先代王の病を治せず 死に値する罪を犯しました』

『先代王は 助けようとしたお前の心を存じておる

そして 最後まで賛同したミン・ジョンホにも感謝を

次代まで復権させぬという大臣の意見を通して 胸を痛めていた

だが 仁宗(インジョン)大王が早世され 復権には問題がなくなった

よって お前たちの身分を回復させよう』

追われる身でなくなるだけでなく 身分をも回復できるとは…

2人は言葉もなく立ち尽くす

『ミン・ジョンホは 再び承政院(スンジョンウォン)の

同副承旨(トンブスンジ)に命じ

チャングムは 医女大長今(テジャングム)として復権を』

あらためて大妃(テビ)殿で語らう

『慶源大君(キョンウォンテグン)を救っていなければ 今の殿下はない』

『恐れ入ります』

『身分も回復したし 医術も精進したそうだから

今後は私を輔弼し 医女の教育をしなさい』

ミン・ジョンホもまた かつての上司たちと再会していた

『また出仕し 君の志を遂げねば

次代までの足枷だったが それも解決しただろう』

続いてチャングムは 淑媛(スグォン)ヨンセンの部屋へ

白丁(ペクチョン)として生きても幸せだったと言うチャングム

皆の関心は 娘のソウォンに

『不思議だわ やることがそっくり ウフフ…』

『どちら様ですか?』

『水辣間(スラッカン)の最高尚宮(チェゴサングン)よ』

『最高尚宮(チェゴサングン)様は 威厳と気品がある方だそうです』

笑顔でチャンイが…

『私も尚宮なのよ』

『毎日美味しい物ばかり召し上がる人でしょ』

『あら可愛い!』

ソウォンの答えが面白く 今度はシンビが話しかける

『私は内医女よ』

『お母様は 医女と女官を… そうですよね?お母様』

『本当に賢いわ』

『チャングムに似たからよ』

『お父様もそうおっしゃいます お母様と瓜二つだと』

最後に 師であるシン・イクピルとチョ・ウンベクのもとを訪れるチャングム

『宮外には 知らない病が多くて驚きました』

『幸いです 今後 医女だけでなく我々にもご教授願います』

『まだ 学ぶところが多いです』

夜は宮中を出て カン・ドック夫婦のもとへ行く3人

医術の師 チャンドクも一緒に迎える

娘夫婦として 親代わりである2人に拝礼しようとするが

両班(ヤンバン)であるミン・ジョンホに拝礼させるなどと

夫婦は恐縮してしまい 固辞する

『娘も同然なのでは?』

『でも身分が…』

『気楽に接してください お義父様 お義母様』

『そうしてください お父様 お母様』

感動の涙で拝礼を受ける2人

娘のソウォンも 孫として拝礼をする

すると… あの時会った子供だと知ったカン・ドックは驚き

ソウォンは苦笑する

すべての知人に挨拶をしたミン・ジョンホとチャングム

互いに身分を回復し 宮中に戻ることを望まれた2人

しかし 2人の思いは同じだった

翌日 チャングムは文定大妃(ムンジョンテビ)に謁見する

『媽媽の聖恩はいつまでも忘れません

ですが 宮中に戻れとの命令はお取り下げを

宮外で多くの患者を診ました

微力ながら 民のため役立つ所に行きたいのです

先代王の寵愛のもとで 身に余る暮らしをしました これ以上のことは罪です』

『そういうことなら仕方ない そうしなさい』

『恐れ入ります』

『だが 私が呼んだら いつでも来るのですよ』

『もちろんです 媽媽』

宮中の景色に 見慣れた風景に すべての人々に別れを告げるように

チャングムは万感の思いで そのすべてを眺めた

そして 我が夫ミン・ジョンホと 愛すべき娘ソウォンと共に旅立つ

『後悔していないか?』

『はい 宮中では料理をさせていただき

医術もさせていただき あなたに出会えました

ですが 母を失い ハン尚宮様を失い

志を失いかけました

宮中はそんなところです

すべてを得たようで 大切なものを奪われました

すべて出来るように見えて 何も出来ないところです

皆が華麗に見えますが 皆が悲しいところです』

 

『これから行くところは 悲しくないところか?』

『はい』

『人を奪われない道か?』

『はい』

『何でも出来る道か?』

『はい』

『私もそうだ だがひとつだけ約束してくれ』

『何ですか?』

『人の体に刃物を突きつけるのだけはだめだ

朝鮮では まだ受け入れられない』

『なぜですか?そうすれば助かります』

『もう逃げ回らなくていいが 大変なことになる 約束してくれ』

『出来ません』

『早く』

『出来ません』

『早く!』

『フフ… 嫌です』

海岸沿いに 語らいながら歩いていく2人

ふと気づくと ソウォンがいない

血相を変えて捜しまわっていると…

『お母様 大変です! 大変です!』

ソウォンに導かれて歩いていくと 洞窟の中で苦しんでいる妊婦がいる

難産の末 苦しみに耐えかね 妊婦は気絶してしまう

一刻も早く出産させなければ 母子ともに死んでしまう

『方法はひとつだけです』

『なら…』

『助けるべきです!』

『……』

『助けられます!』

チャングムの熱意に ジョンホはうなずくしかなかった

患者の生死と闘っている妻のために ミン・ジョンホは水を汲みに行く

付き添うソウォンは 動揺している父親をたしなめる

『お父様 そんなに急いでは水がこぼれてしまいます

いくら急いでいても 患者に与えるものは おろそかにしてはだめです』

『そうだな 行こう』

洞窟に着くと チャングムは無事に赤子を取り上げていた

元気になく赤子を抱き上げるチャングム

『子供が助かりました!産母も助かりました!

ほら 出来るじゃありませんか!母子ともに無事です

だから私は出来ると言ったでしょう?

なぜだめだと言ったのですか ウフフフ… ね?』

歓喜に満ちた妻を見て ミン・ジョンホはただうなずくしかなかった

(今後も彼女は 時代と相容れぬだろう

だが 時代に問いかけるはずだ

人を助けてはいけないのかと…)

- 完 -

☝ <ランキング参加中>

よろしければクリックお願いします