善徳女王 第51話 女王誕生 

閉じられている目と 息遣いの無い首筋 肘掛けを軽く握っている手
何ひとつとして もう動くことは無いと徳曼(トンマン)王女は理解した

(美室(ミシル)… あなたがいなければ
私は何ひとつ成し得なかったのかもしれない
美室(ミシル)…美室(ミシル)の時代よ安らかに…)

先に部屋から出て来た毗曇(ピダム)
庾信(ユシン)と閼川(アルチョン)が なぜここに?と驚く
泣き顔の毗曇(ピダム)は 答えようともせず去って行く
間もなく中から 徳曼(トンマン)王女が出て来た

『毗曇(ピダム)を捕まえて!』

庾信(ユシン)が毗曇(ピダム)を追いかけている間
徳曼(トンマン)王女は 薛原(ソルォン)を呼びつけ
武装解除は完全か再確認する

『チュジン公は城内の兵を 舒玄(ソヒョン)公は城周辺を
春秋(チュンチュ) そなたにはここを任せる』
『美室(ミシル)は?』
『自害した』
『えっ?!!!』

ここで初めて美室(ミシル)が自害したと知り

驚く春秋(チュンチュ)と閼川(アルチョン)

ようやく毗曇(ピダム)に追いついた庾信(ユシン)だったが
毗曇(ピダム)は 人が変わったようになっていた
振り払って行こうとする毗曇(ピダム)
止めようとする庾信(ユシン)の手を払おうとした毗曇(ピダム)だったが…
どちらからともなく攻撃の姿勢になり 剣を抜く2人!
そこへ 徳曼(トンマン)王女が駆け付けた

『お前は嘘をついた お前を信じたいと思って聞いたのに…
美室(ミシル)とはどんな関係なのだ』

答えることなく行ってしまう毗曇(ピダム)
その無礼さに憤る庾信(ユシン)を制し
徳曼(トンマン)王女が追いかける

その頃 ようやく母親の死を知らされた夏宗(ハジョン)の悲しみは深く
実弟である美生(ミセン)の驚きと悲しみもまた計り知れない
報告に来た春秋(チュンチュ)が 重々しく告げる

『ご遺体は ご遺族が引き取るようにとのことです』

徳曼(トンマン)王女は

何も答えず去ろうとする毗曇(ピダム)を追いかけていた

『毗曇(ピダム) 頼むから話してくれ
お前の答えが 今後の私達の土台になると言った筈
お前は何の関係も無いと言ったのに…
息絶えた美室(ミシル)の傍で泣いていたのは何故だ
このままでは私達の関係が終わってしまう 頼むから話して!』

毗曇(ピダム)はただ 話し続ける徳曼(トンマン)王女を悲し気に見つめている

『政変を起こした日 なぜ美室(ミシル)はお前を遊山に?
美室(ミシル)が自ら王になると決めた日 なぜお前が一緒にいたのだ!!!』

反応の無い毗曇(ピダム)の胸ぐらを掴み 徳曼(トンマン)王女は叫んだ

『母です』
『えっ?』

柒宿(チルスク)と石品(ソクプム)のもとへも
徳曼(トンマン)王女からの伝令が来ていた

“武装解除して投降せよ”

美室(ミシル)の死を知り その場に泣き崩れる兵士達
まるで我が王が崩御したかのように…

石品(ソクプム)は 自らの剣をその場に捨てる
しかし柒宿(チルスク)は…
じっと目を閉じると 次の瞬間 伝令を斬り殺した…!

『私は命令に従うつもりは無い!!!』

硬い意志を見せる柒宿(チルスク)を 兵士達が取り囲んでいく
その事態を知らない徳曼(トンマン)王女は
毗曇(ピダム)の答えに驚いていた

真智(チンジ)王と美室(ミシル)の間に生まれた子であり
実の父親が廃位された瞬間 “要らない子”になり捨てられたと
そしてその後は 文弩(ムンノ)に育てられたと…

『でも美室(ミシル)は 最期まで私を息子とは認めなかった
母親が息子と認めないのに どんな関係かと聞かれてどう答えれば?』

少年のように泣きながら 反対に聞き返す毗曇(ピダム)

『政変の時 なぜ殺されなかったか… 私こそ知りたいです
いっそ殺そうとしたなら… そうなってたら… その方が簡単で気が楽でした
こんなに苦しむこともなかったでしょう』

泣きじゃくる毗曇(ピダム)を ただじっとみつめる徳曼(トンマン)王女

伝令を殺した柒宿(チルスク)は 怒りの表情で兵士達に宣言する
今日初めて璽主(セジュ)の命令に背くと…!

『代わりに やり遂げられなかった唯一の命令を 本日決行する!
必ずや徳曼(トンマン)王女を討ち取る!!!』

柒宿(チルスク)の言葉に 石品(ソクプム)は言葉も無く突っ立っている
兵士達もまた 美室(ミシル)の死を知ったばかりの状況で動揺している

 

『石品(ソクプム) 兵を連れ戻るのだ
ここが私の死に場所であり 私はこの機会を逃がさない
独りで… この乱を決行する 柒宿(チルスク)の乱だ…!』

『いいえいけません 柒宿(チルスク)と…石品(ソクプム)の乱です!』

ようやく落ち着きを取り戻し
冷静に話し合う徳曼(トンマン)王女と毗曇(ピダム)

『どうして話してくれなかったのだ いや… 話せないな
捨てられたなんて言いたくない筈 でも私には話して欲しかった』
『でも 話したとして… 王女様にまで捨てられたら?』
 

悲し気に… 縋るように見つめる毗曇(ピダム)を
徳曼(トンマン)王女は 涙ぐみながら抱き寄せた

大耶(テヤ)城では 決起した柒宿(チルスク)と石品(ソクプム)の反乱に
月夜(ウォルヤ)と閼川(アルチョン)が苦戦していた
入り乱れる戦いの中で
石品(ソクプム)と閼川(アルチョン)の一騎打ちとなる

決死の闘いの末 閼川(アルチョン)の剣が石品(ソクプム)を捉えた
一気に士気が下がる兵士達
そこで閼川(アルチョン)は 柒宿(チルスク)の姿が無いことに気づく…!

『私の役目は… ここまでだ』

石品(ソクプム)は 自らの喉元を閼川(アルチョン)の剣に…!
慌てる閼川(アルチョン)と月夜(ウォルヤ)!
この戦いは自分達を足止めするためのもので
柒宿(チルスク)は間違いなく王女のもとへ向かっていると 確信する…!

庾信(ユシン)のもとへ戻ろうと
歩いている徳曼(トンマン)王女と毗曇(ピダム)
すると向こうから一頭の馬が…!

馬上の柒宿(チルスク)を見た瞬間
恐怖の表情になる徳曼(トンマン)王女
それを必死に庇う毗曇(ピダム)!

殺人鬼と化した柒宿(チルスク)の形相は
少女の頃に 砂漠の街で見たあの顔だった…!
当時の恐怖が蘇り 動けなくなる

そこへ庾信(ユシン)が駆け付け 馬上から柒宿(チルスク)を狙う!
迎え撃つ柒宿(チルスク)の剣で落馬する庾信(ユシン)!

徳曼(トンマン)王女を守り 庾信(ユシン)と毗曇(ピダム)が応戦するが
柒宿(チルスク)の武芸には敵わず 絶体絶命となる徳曼(トンマン)王女!

三つ巴の戦いの中 肩に 胸に 腹に…
2人の剣が 柒宿(チルスク)に傷を負わせるが 柒宿(チルスク)は怯まない
じわりじわりと距離を詰め 徳曼(トンマン)王女に迫って行く…!

次第に弱って行く柒宿(チルスク)に
庾信(ユシン)と毗曇(ピダム)の剣が向けられると
柒宿(チルスク)は その剣を自らの身に寄せ突き刺した…!

『これで… 終わりだ! 徳曼(トンマン)…
私は… 昭火(ソファ)…』

(本当に終わった 美室(ミシル)…)

すべての戦いが終わり 徳曼(トンマン)王女の前に忠臣が集まった
会議は 金舒玄(キム・ソヒョン)と春秋(チュンチュ)の報告から始まった
武装解除の命令により 全兵士が投降し
美室(ミシル)の全兵力を引き継いだと…!

続いて庾信(ユシン)が報告する
隣には毗曇(ピダム)が座っている

美室(ミシル)の一派を全員 徐羅伐(ソラボル)へ護送する と話していると
そこへ 真平(チンピョン)王が危篤との知らせが届く…!
徳曼(トンマン)王女は 急遽徐羅伐(ソラボル)へ!

今わの際に 美室(ミシル)が自害したことを報告することが出来た

『これからは… そなたの…世だ
あの世で…美室(ミシル)と… 決着を…!
天明(チョンミョン)も…いる』
『陛下… 父上!!!』
『三韓の… 主になるのだ…!』

新羅(シルラ)第26代国王 真平(チンピョン)王が その生涯を閉じた

思えば 美室(ミシル)に迫害され続けた一生であった
その結婚も 授かった我が娘も 王の座までもが
美室(ミシル)によって管理され 守られてもいた
奇しくも 美室(ミシル)の死から間もなく
自らの命も尽きることとなった

真平(チンピョン)王の葬儀と同じくして
美室(ミシル)の葬儀もまた しめやかに行われた

 

もう涙も枯れ果てたと思われた美生(ミセン)の目から 再び涙が溢れた
世宗(セジョン)は 我が身の行く末も分からず はらはらと泣いている
葬儀にも参列しないまま 夏宗(ハジョン)は 母親の部屋で泣き崩れていた

『陛下の国葬を終え 初七日に即位式を行います』
『王女様 その前に美室(ミシル)の残党を始末せねば…!』

龍春(ヨンチュン)公の言葉に加え 金舒玄(キム・ソヒョン)が進言する
金庾信(キム・ユシン) 閼川(アルチョン) 月夜(ウォルヤ)が
揃って徳曼(トンマン)王女の決定を見守っている

『残党は兵部(ピョンブ)に引き渡すべきです!』
『晒し首にして国の根本を立て直しましょう!』
『いいえ あの者達は処刑しないつもりです』

その席にいない毗曇(ピダム)は 夏宗(ハジョン)の前にいた
逆上する夏宗(ハジョン)と毗曇(ピダム)の間に割って入ったのは薛原(ソルォン)

薛原(ソルォン)は毗曇(ピダム)を
美室(ミシル)の祭壇の前に連れて行く

『璽主(セジュ)は あの勅書をお前に渡そうとしていたのだ』
『公開されたらすべて終わるのになぜ?』
『お前に大義を譲るため 功績を立てさせたかったのだ
政変を起こす前から決めていたことだ』

『つまり私に… 母親の失敗を尻拭いしろと?』

薛原(ソルォン)は 毗曇(ピダム)の前で胡坐を組む
その目には 涙が滲んでいる

『母親の志を侮辱するな…!
お前の母君は お前に大義を託して命を絶たれた!
屈辱に耐え…お前を王にせよと… 王にせよと言い遺された!』
『なぜだ… なぜ私を王に…!』
『お前が勅書を公開出来なかった理由!それと同じだ』

徳曼(トンマン)王女の決定に
摩耶(マヤ)王妃と万明(マンミョン)夫人は激怒する
なぜ逆賊を生かすのか!

『彼らを逆賊とすれば 数千人を処刑せねばなりません!』
『彼らの恨みを買っては前進出来ない!』
『生かしておいても味方にはなりません!!!』

『恨みを抑える努力より 味方にする努力の方が価値がある』

徳曼(トンマン)王女が 逆賊を殺さない理由とは…
側近たちの前で その意志を伝えた時間に遡る

「美室(ミシル)は合従に同意し 無条件で投降せよと全兵士に命じた
しかし命令に従わず 最期まで抵抗した者もいる」
「王女様 まさか…」
「ええ 今回のことは“柒宿(チルスク)と石品(ソクプム)の乱”として公表します
そうすれば 美室(ミシル)の配下を殺す理由が無くなる」

毗曇(ピダム)は 美室(ミシル)の祭壇の前に佇んでいた

徳曼(トンマン)王女の真意を聞いても尚
金舒玄(キム・ソヒョン)ら側近達は反対する

『歴史に偽りの記録を残すのですか!』
『残党は掃討すべきです!』
『王女様は…美室(ミシル)が憎くないのですか!!!』

感極まった春秋(チュンチュ)の叫びに
徳曼(トンマン)王女が声を荒げる!

『ここに!私より深い恨みを持つ者がいると?!
私は美室(ミシル)により人生を奪われた! 母を失い!姉を失った!
私だって恨みを晴らしたい! だがもう… 美室(ミシル)はいない…!
残ったのは新羅(シルラ)… 新羅(シルラ)だけなのです!』

逆賊達は 徳曼(トンマン)王女の前に引き摺り出された

『お前達は新羅(シルラ)を! 王室を脅かした大罪人だ!
全ての私兵と武器!そして賜った土地も没収する!
今後10年間!兵部(ピョンブ)がお前達の屋敷を監視する!』

美室(ミシル)の配下 全員が息を飲み 徳曼(トンマン)王女の方を見た

『お前達を殺しはしない!
柒宿(チルスク)と石品(ソクプム)を晒し首にし 罪を着せる!
神国に命を捧げることで 罪を償いなさい!』

薛原(ソルォン)が跪き 倣って世宗(セジョン)が
続いて美生(ミセン) 夏宗(ハジョン) 宝宗(ポジョン)が跪いた

美室(ミシル)の勢力を裁いた後
金春秋(キム・チュンチュ)を訪ねた廉宗(ヨムジョン)は…

『今回の裁き 春秋(チュンチュ)公には残念でした
母上の恨みを晴らせないばかりか 地位も…』

フッと笑う春秋(チュンチュ)

一方 竹方(チュクパン)達 侍衛府(シウィブ)は
サンタクを取り囲み その手から位牌を奪い取っていた

『花祠堂(ファサダン)に石品(ソクプム)の位牌を置くなんて!』
『お前は逆賊だ!』

※花祠堂(ファサダン):大功を立てた花郎(ファラン)の位牌を納める所

『石品(ソクプム)郎は 花祠堂(ファサダン)に祀られることが夢だったんだ
俺はただ… 俺はただ夢を叶えてやりたかっただけだ!』

男泣きするサンタクを見て 皆の目にも光るものが…
竹方(チュクパン)もまた涙ぐみながら サンタクのおでこを叩く

『おい!しっかりしろ!だからってこんなことは許されないぞ!』

すると高島(コド)が 大風(テプン)と谷使欣(コクサフン)が
竹方(チュクパン)を促し 取り成そうとする

『見逃してやろうよ』
『罪を憎んで何とか…ってさ』
『人も憎いけどさ』

主亡き美室(ミシル)の執務室では
世宗(セジョン)達が 薛原(ソルォン)の報告に愕然としている

 

美室(ミシル)が 毗曇(ピダム)を次の王にと考えていたと知り
世宗(セジョン)は 徐羅伐(ソラボル)を離れると言い出す

『どういうことですか父上!』
『兄上!』
『璽主(セジュ)を失い 生きていてもいいのかと考えていた
そなたが遺志を継ぎやり遂げてくれ』

夜も更けて 徳曼(トンマン)王女は毗曇(ピダム)を呼び出し
美室(ミシル)に勅書を渡したのか?と聞く
答えない毗曇(ピダム)の様子で 全てを察する徳曼(トンマン)王女

『美室(ミシル)の心を変えたのは お前だったのだな
勅書があるのに 公表しない息子の気持ち
勅書を見せて 母親を脅す息子の気持ち それが美室(ミシル)の心を変えた』
『……』
『それで自分を責めているのだな
すべては私のためなのだろう? ありがとう』

徳曼(トンマン)王女は側近を招集し 更なる決定事項を発表する

 

『司量部(サリャンブ)を新設します
全ての組織を監視する部署で 私の直属機関です』
『美室(ミシル)の組織を掌握する為ですね』

春秋(チュンチュ)が 部署を新設するくらいで掌握出来るのか?と意見する

『ですから 良く知る者たちで構成します』
『王女様!まさか…』
『そうです 彼らを司量部(サリャンブ)に任命し
彼らをまとめられ 信用出来る長を立てるのです』

徳曼(トンマン)王女が寄せる信頼と 亡き母 美室(ミシル)の遺志との間で
毗曇(ピダム)の心は激しく揺れ動いていた
更には 生前の美室(ミシル)が言っていたことを思い返す

「“愛”とは 容赦なく奪い取るもの それが愛だ
徳曼(トンマン)を愛するならそうなさい」

司量部(サリャンブ)が新設され 不満顔の一同が揃った

『何でこんな商人と仕事せにゃならんのだ!』
『一体 司量部令(サリャンブリョン)は誰なのだろう』

※司量部令(サリャンブリョン):司量部(サリャンブ)の長

扉が開き 扇で顔を隠した人物が入って来る
長の席の前に立つと 扇をたたみ その顔を現した

『司量部令(サリャンブリョン) 毗曇(ピダム)がご挨拶を!』

言葉も無い一同を前に 毗曇(ピダム)はニヤリと笑う
徳曼(トンマン)王女の執務室でも
庾信(ユシン)をはじめとする配下から質問が乱れ飛ぶ!

『美室(ミシル)の息子を要職に就けるなどもってのほか!』
『毗曇(ピダム)に要職を任せるのは 象徴的に意味があることです』

第1の理由は 美室(ミシル)派の不安を一掃するため
第2の理由は 美室(ミシル)派を管理出来るのは毗曇(ピダム)だけだから

『毗曇(ピダム)には 私の味方となって美室(ミシル)を排除した功績があります
その忠誠心が信用出来ないと? そして最後の理由は… 何でもありません』

最後の理由を言いかけてやめた徳曼(トンマン)王女
その場の一同が 怪訝な表情になる
徳曼(トンマン)王女の真意は 全て明らかにされてはいないようだ

毗曇(ピダム)は 今後について皆に説明する
すると夏宗(ハジョン)が 最後まで話を聞かず口を挟む

『おい毗曇(ピダム)!
美室(ミシル)の一派をここに集め 王女が監視しろと言ったのか?』
『夏宗(ハジョン)公 私の前で美室(ミシル)の名を口にするな』
『何だと?!!!』

 

興奮する夏宗(ハジョン)を 美生(ミセン)が必死になだめる

『皆の前にいるのは 美室(ミシル)ではなく毗曇(ピダム)だ
今後は 美室(ミシル)ではなく毗曇(ピダム)に従え!』

異様な空気を感じ取り さすがに夏宗(ハジョン)も黙り込む
美室(ミシル)とは違うが 毗曇(ピダム)には周囲を威圧する雰囲気があった

夜風にあたりながら 庾信(ユシン)と春秋(チュンチュ)が語り合う

『王女様が言いかけてやめた最後の理由
お前と私と 閼川(アルチョン)を牽制するため…』

『わざと毗曇(ピダム)を要職に就かせたのですね
しかし毗曇(ピダム)は信用出来ますか?』

『以前は信頼しておられたのだろうが 今は信じておられぬ
今は毗曇(ピダム)どころか 誰も信じてはおらぬだろう 王の道を歩み始めた』

『…お気の毒です あんなにも人を信じて親しくするのがお好きだったのに…』

即位式を前日に控え 摩耶(マヤ)王妃が会いに来る
もう1人の娘 天明(チョンミョン)が見たらどんなにか喜ぶだろうと涙ぐむ

『即位式が済んだら 私はここを離れようと思う 仏門に帰依する』
『母上…!』
『徳曼(トンマン) もう誰もそなたを守ってやれぬ
そなたは1人で 新羅(シルラ)と民を… 愛する人々を守っていくのだ
人を信じ過ぎても 信じないことも許されない どうだ?頑張れるか?』
『母上 大丈夫です きっとやり遂げてみせます…!』

束の間の 母と娘の時間だった
それでも絆は 深く心に刻まれた

ふと 美室(ミシル)が言い放った言葉を思い出す

「この美室(ミシル)は 天を利用するがこれを恐れない!
世の非情を知るが これに頭を下げない!
民を治めるが これに頼らない!」

即位式 当日

花郎(ファラン)達の華麗な演舞が披露された後
龍春(ヨンチュン)公が 声高らかに言い放つ

『陛下の おなり!』

一同が立ち上がり 新しい陛下を迎える
王冠を被り 王の服に身を包み 徳曼(トンマン)が現れた…!

大歓声の中 徳曼(トンマン)が右手を挙げ
それを合図に 一斉に一同が跪き忠誠の意を表す

金庾信(キム・ユシン)が… 毗曇(ピダム)が…
心の中で徳曼(トンマン)に語りかける

(女王様 惜しみなく私のすべてを捧げます)
(女王様 容赦なくそのすべてを奪い取ります)


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