善徳女王 第50話 美室(ミシル)の最期
『息子です』
美室(ミシル)の告白に 美生(ミセン)と夏宗(ハジョン)は驚き
世宗(セジョン)は涙ぐみ 言葉も無い
同じ時 毗曇(ピダム)は徳曼(トンマン)王女に
『何の関係もありません』と答えていた
それ以上の言葉を遮りただ『信じる』とだけ…
徳曼(トンマン)王女は 1人になり考え込む
(毗曇(ピダム)… なぜ私に嘘を?)
大耶(テヤ)城では 世宗(セジョン)と薛原(ソルォン)が策を練っている
城内の兵糧米は2,500石あり 支援が無くても1年は持つ
これに1人でも太守が協力を申し出るなら 大幅に勢力は拡大すると…!
2人の話に 美室(ミシル)は無反応だった
徳曼(トンマン)王女の執務室でも…
もはや事実上の“内戦”だと主張する金舒玄(キム・ソヒョン)
圧倒的な兵力で一気に攻め込むべきだと…!
しかし庾信(ユシン)と閼川(アルチョン)は 消極的だった
一度も陥落したことが無い大耶(テヤ)城を攻め落とすなど不可能に近いと
そもそも その“圧倒的な兵力”がどこにあるのかと…!
ここで月夜(ウォルヤ)が 国境の兵を動員しては?と意見を挟む
一刻も早く事態を終結させるためにはその策しか無いと…!
『いいえ いけません!!!』
徳曼(トンマン)王女が厳しく否定する
国境を手薄にすることで百済(ペクチェ)との前線が崩れでもしたら
今よりもっと危険な事態になってしまうと…!
※百済(ペクチェ):三国時代に朝鮮半島南西部にあった国
『美室(ミシル)が先に国境の兵を動かすのでは』
『いいえ!有り得ません 美室(ミシル)の考えも同じ筈です』
徳曼(トンマン)王女の読み通り 美室(ミシル)は
手っ取り早い解決策を講じる配下に対し 前線の兵は動かさないと明言していた
前線の兵力の均衡が崩れることは 神国の崩壊を意味するのだと…!
※神国:新羅(シルラ)の別称
広く徐羅伐(ソラボル)が見渡せる見張り台の
以前は美室(ミシル)が座していたその場所で
徳曼(トンマン)王女は 深く考え込んでいる
そこへ毗曇(ピダム)が現れ『お悩みですか?』と声をかける
※徐羅伐(ソラボル):新羅(シルラ)の首都 現在の慶州(キョンジュ)
もはや内戦は避けられない
自らの国で自らの民と戦うことに…
しかも大耶(テヤ)城は難攻不落であり 長期戦になることは間違いない
そこへ 竹方(チュクパン)と高島(コド)がやって来る
自分達なりに思案し 策を練ったようだ
『あのですね 秦は魏を征服する時に大梁(テリャン)城を水攻めにしました
我々も 黄江(ファンガン)の水を利用してはどうでしょう』
※黄江(ファンガン):大耶(テヤ)城の水源となっている川
2人の意見に考え込む徳曼(トンマン)王女
すると毗曇(ピダム)が 梅雨でもない季節にどうやって?と聞く
水攻めしようにも水が足りないのでは攻めようが無い
『名案だと思ったのにな 水が足りないんじゃ話にならない
ほら三韓の河は東から西に流れるだろ?今俺たちは大耶(テヤ)城の東なんだ』
高島(コド)に説明しながら がっかりして帰って行く竹方(チュクパン)
この竹方(チュクパン)の呟きにハッとする毗曇(ピダム)!
うなだれて帰って行く2人を呼び止め 聞き返す
『今何て?』
『水が足りないと』
『その後!』
『我々は大耶(テヤ)城の東にいると…』
毗曇(ピダム)は笑みを浮かべ
2人を残し 徳曼(トンマン)王女を連れ去った
『おい 俺はまた何か良い事を言ったようだぞ!』
自分の名案の意味を 竹方(チュクパン)自身はまったく気づいていない
執務室に戻った毗曇(ピダム)は 思いついた策を皆に話す
大耶(テヤ)城周辺の川は皆 東から西へ流れている
梅雨ではないこの時期 水攻めではなく 水を枯渇させようというのだ
いくら兵糧米が足りていようと 水が無ければどうしようもない
さらに毗曇(ピダム)は その僅かに流す水に毒を混ぜると言い出す
“毒”と聞き 表情が強張る一同
毗曇(ピダム)の目の奥に 残忍な炎が燃え上がる
これを厳しい表情で否定する庾信(ユシン)!
そんなことをすれば大耶(テヤ)城一帯は数年間住めなくなり
大勢の流民が出て 民の恨みを買うことになると…!
『王女様!これでは美室(ミシル)と同じです!また恐怖で抑えるのですか!』
『よく分かっている 毗曇(ピダム)の策は採用しない
採用しないが… 別の意味で利用する』
『はい 毗曇(ピダム)の策をそのまま敵陣に流すのですね』
徳曼(トンマン)王女と庾信(ユシン)は 理解し合ったように笑顔になり
春秋(チュンチュ)と閼川(アルチョン)も納得した表情になる
会議が終わると 毗曇(ピダム)が徳曼(トンマン)王女を追いかける
今回の策で 美室(ミシル)を窮地に追い込んだ上で
あらためて会談すると言い出す徳曼(トンマン)王女
せっかく窮地に追い込みながら なぜ息の根を止めずに会談するのか
毗曇(ピダム)にはまったく理解出来ない
『そもそも 会談するために窮地に追い込むということだ
そして美室(ミシル)に 受け入れがたい“提案”をする これを美室(ミシル)に…』
徳曼(トンマン)王女は 美室(ミシル)への書状を毗曇(ピダム)に託した
その真意が分からないまま 毗曇(ピダム)は美室(ミシル)のもとへ
『今度は使者を装い私を殺しに?』
『王女様がこれを』
書状を読み 微かに微笑む美室(ミシル)
『そちらが降伏しない限り 合う理由は無い』
『怖いので?』
『怖いだと?』
『少しよろしいですか?』
深刻な表情の薛原(ソルォン)が現れ 会話は中断された
密偵の報告によれば 王女側が川をせき止め支流に毒を流すと…!
『大耶(テヤ)城はこれまで 東からの敵と戦ったことがありません
難攻不落と思っていたのですが こんな弱点があるとは…』
『これが恐怖心を煽るための策だとしたら…徳曼(トンマン)に戦う気は無い?』
美室(ミシル)は 毗曇(ピダム)のいる部屋に戻る
『水路を止めるなり毒を混ぜるなり!好きにするがいい!
この私がそんなことを怖がるとでも?!!!』
『怖くないなら会うべきでは?』
徳曼(トンマン)王女は 毗曇(ピダム)が美室(ミシル)に会っている間
庾信(ユシン)達の前で美室(ミシル)との会談の真意について話す
『美室(ミシル)と和解し 連合を組もうと考えています
大業を成すための“合従”です』
※合従(がっしょう):春秋戦国時代に 秦に対抗した六国の連合
反乱を起こした者と合従するなど有り得ないと
閼川(アルチョン) 月夜(ウォルヤ)が反対する
『たとえ戦って勝っても 美室(ミシル)側の残党を粛清するのに何年もかかる
さらに世の中を安定させるには 数十年かかるかもしれない』
すると春秋(チュンチュ)が
そもそも美室(ミシル)が合従に応じるでしょうか?と疑問を述べた
徳曼(トンマン)王女の意志は 万明(マンミョン)夫人の口から
真平(チンピョン)王と摩耶(マヤ)王妃にも伝えられた
会議が終わり 庾信(ユシン)は徳曼(トンマン)王女に
今回のことだけは何とも分からないと話す
『最も切実な問題は何だと言いましたか?』
庾信(ユシン)は 徳曼(トンマン)王女との過去の会話を思い返す
我々には 一度も国を治めた経験が無い
今我々に最も必要なのは“人材”だと…
ハッとして 徳曼(トンマン)王女に向き直る庾信(ユシン)
『まさか… まさか王女様は美室(ミシル)を人材とお考えに?!』
『この徐羅伐(ソラボル)に 美室(ミシル)を超える人材がいますか?』
会談の場所に 先に到着したのは徳曼(トンマン)王女だった
毗曇(ピダム)が同行している
少し離れた場所に庾信(ユシン)と閼川(アルチョン)が
1,000人の兵と待機している
美室(ミシル)が到着した
互いを見つめる徳曼(トンマン)王女と美室(ミシル)
美室(ミシル)を見つめる毗曇(ピダム)の胸中にも複雑な思いがあった
ここまで追い詰めたのなら ひと思いに殺せばいい と美室(ミシル)
殺すには惜しい と答える徳曼(トンマン)王女
『私のところの誰がお望み?
薛原(ソルォン)公? 美生(ミセン)公? それとも柒宿(チルスク)?』
『私が欲しい人材はあなた… 美室(ミシル)です』
お茶を飲む美室(ミシル)の動きが止まり
徳曼(トンマン)王女をギロリと睨む
『璽主(セジュ)はもう勝つことは出来ません 次を考えるべきです』
『王女様の側につくことが次の道だと?』
『気に障ったのなら 後継者を育てるとお考えになっては?
もう神国の主にはなれないのです ならば後継者を育ててはいかがでしょう』
耐え難い屈辱と怒りを秘め
もう神国の主にはなれない?と聞き返す美室(ミシル)
『璽主(セジュ)が この神国の主になるには建国するしかありあせん
しかしそれも失敗に終わりました もう他に道はないのです』
『大神国… 井泉(チョンチョン)郡 道薩(トサル)城
韓多沙(ハンダサ)郡 速含(ソッカム)城 この地がどんな場所だと?』
『神国の最南端と最北端 そして最西端の国境では?』
『いいえ!そうではない!!! この私が心血を注いだ地だ!
私の愛する戦友!郎徒(ナンド)や兵士達が眠る土地だ!
その遺体を回収出来ず… 埋めた土地だ!!!』
話すうち涙する美室(ミシル) いつしか徳曼(トンマン)王女も涙ぐむ
『それが神国だ!真興(チヌン)大帝と私が築き上げたのだ!お前に何が分かる!
斯多含(サダハム)を慕う心でこの神国に恋した
恋したから自分のものにしたかった!
合従?連合? 徳曼(トンマン)!お前は恋を分け合えるのか!!!』
美室(ミシル)が先に席を立ち 去って行った
徳曼(トンマン)王女は 茫然とした表情で毗曇(ピダム)のもとへ…
『王女様 私が美室(ミシル)と話します お許しを!』
毗曇(ピダム)は 去って行く輿の後を追った
剣を向けようとする兵士を柒宿(チルスク)が止める
2人は離れた場所へ…
『もう勝てません』
『勝てなくても 負けるつもりは無い』
『では… これならどうですか?』
毗曇(ピダム)は 赤い書状を取り出し美室(ミシル)に突きつけた
真興(チヌン)大帝が薛原(ソルォン)に託した勅書だ…!
徳曼(トンマン)王女にとっては切り札であり
美室(ミシル)にとっては致命的となるものだ
自分よりも背が高く 立派に成長した息子を見上げる美室(ミシル)
『王女様が持っていたものを 私が隠しました』
『なぜ? 時が経てば私の勢力は更に拡大する
それを公開したら滅ぼせるのに なぜ隠したりしたのだ?』
『あまりにも… 残酷なことだから』
『……』
『あなたは随分前に死ぬ筈だった人だ
どうか合従に応じてください さもなくば…公開します』
毗曇(ピダム)を抱き締めようとして 美室(ミシル)は寸前で留まった
そして苦渋に顔をしかめ 振り切るようにして立ち去った
残された毗曇(ピダム)の頬には 涙が…
徳曼(トンマン)王女は 待機していた兵の前に立ち
今これより内戦に突入する!と宣言した
『閼川(アルチョン)郎 黄江(ファンガン)の水をせき止め
その旨を敵陣に知らせるように!』
『はい!』
『廉宗(ヨムジョン)は 王女が川に毒を流したと噂を広めるように!』
『はい!』
『月夜(ウォルヤ)郎 雪地(ソルチ) 竹方(チュクパン)は
大耶(テヤ)城とその周辺を監視するように!』
『はい!』
大耶(テヤ)城では 会談の様子を薛原(ソルォン)が報告し 驚く一同
そして 合従の提案を美室(ミシル)が断ったと聞き
当然のことだ!と息巻く美生(ミセン)
『しかし 王女は本気だと璽主(セジュ)が言っておられました』
『何?本気だと?! 我々を…殺さないと?』
世宗(セジョン) 夏宗(ハジョン) 美生(ミセン)の表情が変わる
負けることは死を意味すると 覚悟を決めていたのだが…
そこへ宝宗(ポジョン)が 慌てた様子で駆け込んで来る
徳曼(トンマン)王女が川に毒を流したという噂が流れ
兵士達は明らかに動揺し 脱走兵も増えているというのだ
脱走して捕まり殺されるのも 毒に侵され死ぬのも
どの道 死ぬことには変わりないと嘆くサンタク
そこへ怒りの表情で石品(ソクプム)が現れ 皆の前で井戸の水を飲み干す!
『最期まで璽主(セジュ)に従い!
璽主(セジュ)と志を同じくする者だけ残れ!
私は命懸けで璽主(セジュ)をお守りする!!!』
徳曼(トンマン)王女は 部下たちに次々と命令を下す
風月主(プンウォルチュ)と侍衛府令(シウィブリョン)は東門を!
チュジン公は北門を!
毗曇(ピダム)と廉宗(ヨムジョン)は 部下と兵5,000人を率い
草八兮(チョパルヘ)県を掌握せよ!
月夜(ウォルヤ)と雪地(ソルチ)は 城の南方から遺民兵を潜入させ攪乱を!
大耶(テヤ)城では
城から脱出しようとする寸前で サンタクが迷い始める
最後まで決心がつかないサンタクだが…
俺は残る!と仲間に告げた
『やっぱり残って璽主(セジュ)をお守りする!』
『そんなの無理だ!』
『そうだけど…でも逃げない!自尊心だけでも守るよ』
独り 来た道を引き返すサンタクだった
薛原(ソルォン)は 美室(ミシル)の胸中を思いずっと傍にいた
そこへ夏宗(ハジョン)が 息せき切って飛び込んで来る!
速含(ソッカム)城軍営の幢主(タンジュ)ヨ・ギルチャンが
全兵力2万を率い 大耶(テヤ)城に向かっているとの報告だ
※幢主(タンジュ):郡に派遣された地方官
援軍が来ると 大喜びする夏宗(ハジョン)
しかし 美室(ミシル)と薛原(ソルォン)は顔を見合わせ考え込む
国境の兵を動かしてはいないのだ だとすれば…
しかしこれは ヨ・ギルチャン自らの決定だった
『恩知らずは獣にも劣る! 璽主(セジュ)を守らずして神国の武人は名乗れない!
大耶(テヤ)城に向かい璽主(セジュ)を守るのだーーーっ!!!』
この動きを察知した月夜(ウォルヤ)が 徳曼(トンマン)王女に報告する
これに動揺する徳曼(トンマン)王女
『すぐに百済(ペクチェ)軍の動きを把握してください!』
『そのような場合では!』
『いいえ!国境を守ることが最優先です!!!』
事態を把握出来ていない夏宗(ハジョン)は浮かれるばかり
薛原(ソルォン)もまた 一気に徐羅伐(ソラボル)を占領すべきだと進言する
夏宗(ハジョン)の軽率さにも 薛原(ソルォン)の見解にも反応しない美室(ミシル)
『百済(ペクチェ)軍はコンチュン率いる精鋭軍です 動向を探るように』
『なぜです?そんなに重要なことで?』
『重要ですっ!!!』
まったく…!という表情で夏宗(ハジョン)を睨むが
今は叱っている時ではない
徳曼(トンマン)王女の本陣でも 慌ただしい動きを見せていた
毗曇(ピダム)が 後退するか総攻撃か…と持ちかけると
『もしかして…の話だが ヨ・ギルチャンの兵は引き返すかもしれない』
『え?』
徳曼(トンマン)王女は 会談の時の美室(ミシル)の言葉を思い出していた
「大神国… 井泉(チョンチョン)郡 道薩(トサル)城
韓多沙(ハンダサ)郡 速含(ソッカム)城 この地がどんな場所だと?
この私が心血を注いだ地だ!
私の愛する戦友!郎徒(ナンド)や兵士達が眠る土地だ!
その遺体を回収出来ず… 埋めた土地だ!!!」
美室(ミシル)のもとへ
今度は宝宗(ポジョン)が飛び込んで来て報告する
既に百済(ペクチェ)軍が攻め込み 八良(パルリャン)峠に陣取っていると!
これを聞くなり 美室(ミシル)は伝令を!と叫ぶ
『すぐに引き返し速含(ソッカム)城を守れと
ヨ・ギルチャンに伝えるのです!!!』
『璽主(セジュ)!何を言っているのです!!!』
もはや夏宗(ハジョン)だけではない
薛原(ソルォン)にさえ理解し難い美室(ミシル)の思いだった
『もう…終わりにします』
毗曇(ピダム)もまた 徳曼(トンマン)王女の考えを理解出来ずにいた
なぜ ヨ・ギルチャンの兵が引き返すかもしれないと思うのか…
それは 徳曼(トンマン)王女だけが聞いた美室(ミシル)の思いがあるからだ
「斯多含(サダハム)を慕う心でこの神国に恋した
恋したから自分のものにしたかった!
合従?連合? 徳曼(トンマン)!お前は恋を分け合えるのか!!!」
『ほんの一瞬… 美室(ミシル)の中に“王”を見た 真の王の姿だった…』
『は…母上? 何を…終わりにするので?』
『何もかもすべてです』
『母上…!』
薛原(ソルォン)はじっと目を閉じ 美室(ミシル)は退室した
ヨ・ギルチャンのもとに 美室(ミシル)からの書状が届く
信じ難い“主君の命”に 言葉を失うヨ・ギルチャン
『璽主(セジュ)のお言葉によれば これが“最期の命令”とのことです』
『璽主(セジュ)…』
執務室を離れ 美室(ミシル)は大耶(テヤ)場内の玉座に座る
そこへ薛原(ソルォン)が なぜこのような命令を?と聞く
『私のせいで国境の前線が崩れたら 徳曼(トンマン)に完全敗北します
だからもう…終わりにするのです』
『璽主(セジュ) 花郎(ファラン)だった頃の歌を覚えていますか?』
〈戦える日は戦えばいい 戦えない日は守ればいい
守れない日は後退すればいい 後退出来ない日は降伏すればいい〉
その後の歌を美室(ミシル)が口ずさむ
『降伏出来ない日は… その日は死ねばいい
今日が“その日”です 後のことはお願いします』
『いいえ!ご一緒します』
『今からの命令は最期となります 従ってください
私に従った者達を守り 導いてください
薛原(ソルォン)公には… 申し訳ありません』
その昔 共に戦った戦友であり 側近であり 情夫でもある
美室(ミシル)との間に 宝宗(ポジョン)という息子もいる
真興(チヌン)大帝から“美室(ミシル)殺害”の勅書を受けてもいた
その薛原(ソルォン)が今 美室(ミシル)からの“最期の命令”を受け取った
その頃 徳曼(トンマン)王女の陣営では
ヨ・ギルチャンが なぜ寸前で引き返したのか…
何か計略が?と疑う者までいる
『いいえ違うでしょう 美室(ミシル)はおそらく…』
徳曼(トンマン)王女には その答えが分かっていた
毗曇(ピダム)もまた胸騒ぎがして その場から走り去る
玉座に座ったまま 美室(ミシル)は薛原(ソルォン)に 尚も命令を出し続けた
『私を助けに来た貴族は皆 返してください』
『はい』
『草八兮(チョパルヘ)県にいる柒宿(チルスク)にも撤収命令を』
『はい』
『そして… 次の準備をしてください』
毗曇(ピダム)は 大耶(テヤ)城の前に来ていた
すると突然 見張りの兵士が叫ぶ!
城門に掲げられていた旗が全て下ろされ 代わりに白旗が…!
草八兮(チョパルヘ)県で
美室(ミシル)の命令書を受け取った柒宿(チルスク)は茫然とし
石品(ソクプム)が 不可解な表情で『なぜ撤収を?』と聞く
『璽主(セジュ)は…終わらせようとしている』
『何を…終わらせるのですか?』
ヨ・ギルチャンが引き返したことで徳曼(トンマン)王女が考え込んでいると
金春秋(キム・チュンチュ)が 本来の作戦を実行すべきでは?と声をかける
そこへ月夜(ウォルヤ)が 動転した様子で駆け込んで来る!
『て…大耶(テヤ)城で! 大耶(テヤ)城で今!!!』
報告を受けた徳曼(トンマン)王女は
全ての側近を伴い 大耶(テヤ)城へ向かう
無数の白旗を前に 言葉を失う徳曼(トンマン)王女
城門が静かに開き 中から死に装束を身にまとった薛原(ソルォン)が現れ
徳曼(トンマン)王女の前に跪く
そして 無条件降伏するという意思表示と共に
全軍を武装解除したと報告する
『璽主(セジュ)はどちらに?』
『…お待ちです』
毗曇(ピダム)は既に 美室(ミシル)の前にいた
玉座の 美室(ミシル)の足元には 数個の小瓶が転がっている
それが毒の小瓶だと気づいた毗曇(ピダム)は動揺する
『こ…こういうことだったのか!だったらなぜ!!!』
『大きな声を出すな まだ時間はある』
『だったら… 母上と呼びましょうか?』
毗曇(ピダム)の 挑戦的な 噛みつくような物言いに
フッと笑みを浮かべる美室(ミシル)
『捨てて悪かったと…謝る気は? 心の奥底では愛してたと…』
『私の中に そのような感情は無い
だから母上と呼ぶ必要も無いし 謝るつもりも無い
“愛”とは 容赦なく奪い取るもの それが愛だ
徳曼(トンマン)を愛するならそうなさい
恋心 大義 そして新羅(シルラ) 何ひとつ分け合うことは出来ない』
薛原(ソルォン)に導かれ
徳曼(トンマン)王女は 庾信(ユシン)閼川(アルチョン)と共に
“待っている”という美室(ミシル)のもとへ向かっていた
『私は 人を得てこの国を得ようとした
だがお前は 国を得て人を得ようとしている
人を目的とすることは危険なことだ お前の夢はあまりに幼い』
突然 ぐらりと体勢を崩す美室(ミシル)だが
咄嗟に駆け寄る毗曇(ピダム)の手を拒む
『こちらです』
案内され 徳曼(トンマン)王女だけが中に入る
玉座に座り目を閉じている美室(ミシル)
毗曇(ピダム)は ポロポロと涙を流している
泣いている毗曇(ピダム)と 動かない美室(ミシル)
『璽主(セジュ)』
閉じられている目と 息遣いの無い首筋 肘掛けを軽く握っている手
何ひとつとして もう動くことは無いと徳曼(トンマン)王女は理解した
(美室(ミシル)… あなたがいなければ
私は何ひとつ成し得なかったのかもしれない
美室(ミシル)…美室(ミシル)の時代よ安らかに…)
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