憐哀 -レンアイ- / シド | 安眠妨害水族館

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憐哀 -レンアイ-/シド

 

1. 紫陽花

2. 隣人

3. 私は雨

4. バーチャル晩餐会

5. 青

6. 土曜日の女

7. 必要悪

8. 赤紙シャッフォー

9. 妄想日記

10. お別れの唄

11. 空の便箋、空への手紙

 

2004年にリリースされた、シドの1stフルアルバム。

レーベル所属後、第一弾の作品となりました。

 

初回限定版は10,000枚限定の紙ジャケット仕様。

通常初回盤は「紫陽花」のMVが収録されたエンハンスド仕様となっており、通常盤を含めて3種類が発表されています。

結成18周年となった現在では初期衝動が詰まった作品と言えますが、当時の感覚としては"喪服期"の集大成。

昭和歌謡ベースの音楽性に特化していた活動初期の総括と言える内容に仕上がっていました。

 

リードトラックとなる「紫陽花」は、ミディアムテンポの哀愁ロック。

1曲目から表現力を炸裂させた歌モノということで、デビュー作としては意外性を持たせることにもなりましたが、本作におけるシドのスタンスを端的に示しており、今となってはスタートはこの曲以外に考えられません。

じっくりと世界観に浸らせたところで、勢いをつけるのは「隣人」の役目。

レトロなサウンドと、ノリの良さを両立させるアプローチは、この辺りからシーンに定着した印象で、哀愁系、昭和歌謡系と呼ばれるサブジャンルの構築に大きく貢献していたのが伺えます。

 

シングルに収録されていた「私は雨」は、アルバムヴァージョンで。

勢いを加速させるのではなく、どっぷりの歌謡曲をここに持って来たことで、シドのイメージは決定づけられましたね。

スピード感のある「バーチャル晩餐会」と逆にした方が流れとしてはスムースだったのかと思われますが、あえて逆にしたことで、個が際立った。

前半のピークである「青」に向けてのお膳立てとしては、贅沢すぎるラインナップですよ。

 

この「青」については、再録されて、ワンコーラス目のAメロ、Bメロがアカペラとなっています。

楽曲単体で見れば、オリジナルのシンプルなアレンジのほうが好み。

衝動性が薄れてしまった感があり、素材は良いのにもったいないなと思っていたのですが、俯瞰的に捉えると、音楽性を徹底するあまりに似たアレンジが続いたり、飽きさせないようにするための工夫が必要だったのも事実でしょう。

1発勝負のアルバム曲ではなく、"帰るべき形"がある「青」に変化を求めたのは、英断だったのかもしれないな。

 

ムーディーな「土曜日の女」を経て、後半戦の肝は、ダークで狂気性の高い楽曲を並べたこと。

もっとも、狂気のタイプはバラけており、背筋がゾッとするような不気味さを帯びた「必要悪」、エフェクトヴォイスで激しさを求める「赤紙シャッフォー」、叙述トリック的に最後の最後で景色をひっくり返す歌詞が話題になった「妄想日記」と、手を変え品を変え、哀愁レトロとヴィジュアル系的世界観の共通項を提示していきます。

当初は、アルバム曲に過ぎなかった「妄想日記」が、代表曲になってしまうなんて想像していなかったのだけれど、確かに、口コミで広がるのも納得のインパクト。

前半と趣向を変えて、流れの良さを追求した中でも、捨て曲を作らない個の強さは維持されていました。

 

終盤は、80年代歌謡曲をロックテイストに昇華した「お別れの唄」、昭和レトロの響きを掘り下げたバラード「空の便箋、空への手紙」でクロージング。

最後まで貫かれたモノトーンの世界は、シーンに大きな爪痕を残していきます。

 

歌謡曲的なアプローチについて、シドは必ずしもパイオニアというわけではないのだろう。

しかしながら、ニッチな路線が商業ベースに引き上げられ、サブジャンルとして定着した背景に、間違いなく本作が与えた影響がある。

センセーショナルな作品となった引き換えに、フォロワーが多く発生し、やや陳腐化してしまった部分は否めませんが、言い換えれば、スタンダードを増やすための道筋を作った作品。

シドの歴史に留まらず、ヴィジュアル系の歴史を語るうえで外せない1枚です。

 

<過去のシドに関するレビュー>

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